破壊と集結の兄川誠   作:松代眼鏡

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 早くも事態は動き出します?

 それにしても、TVニュースの台詞、ちゃんと書けてるか不安です。


第1章 無終と反転の兄川誠 その3

  指宿鎮守府に着任してから一月が経った。

 

 これまで、一度も例の長身のきつい提督代理以外の艦娘には、遠くから眺めることはあっても会話をしたことは無く、当然、吹雪とも長らく会えていない。仕事については、書類関係については、持ち前の筆の速さと昼間の郵送でごまかしてきたが、それだけでは相手には適切に任務をこなしているとは言えなかった。

 

 中でも問題は電話による報告で、提督代理から許可が下りなければ自分から外には掛けられないし(プライベートでの使用は無論禁止)、たまに提督代理から回される佐世保の上官からの電話と言えば、

 

 「なぜ、君自身の声で現状を報告しない!」

 「合同会議への出席命令は最低限は受理しなければいかん!次は絶対に出席してもらう。こなかったら罰を与える!」

 「士官学校主席で皆からの期待があるからといって、何でもかんでも一人でやろうとするな!」

 「もう他の同期の中にはマニラで活躍している指揮官もいるぞ!なのに、いつまで台湾周辺にいるつもりだ!」

 

 などと、事情も知らぬお叱りの電話ばかり。たまに何かあったのかと、心配してくれる声もあったが、奴に殺されるかもしれないので、直接助けを求める事は不可能だった。手紙に暗号を忍ばせようとしても、必要書類以外の提出は許されず、憲兵の目もあるので、それも不可能であった。

幸いな事に部屋そのものには監視カメラはないので、黙って作業をするなら何をしているのか向こうからは分からない筈だ。加えて、部屋の中にはTVがあり局の番組はしっかり映る。つまり、盗聴器で盗聴しようとしても、TVの音量が大きければ、ハッキリと自分の声は聞こえにくい。だから、この部屋には盗聴器は無いと踏んだ。そして窓は意外にも普通に開く。鉄格子も掛ってない。部屋から地上までの高さはおよそ5メートル、下の階の窓には雨どいと隣に雨水を排水する細いパイプもある。最悪、ここから飛び降りれば上手く脱走できるかもしれない。

 

 が、ここまで隙だらけだと、却って連中の罠のような気がしてくる。それにただ逃げ出しただけでは、職務放棄と間違われて連れ戻される可能性がある。あいつらならそう印象操作してくるだろう

 

 とはいえど、チャンスが無ければこちらから動き出す事はできない。

 

 兄川には仕方なくTVでも見るしかやる事がなくなってしまったのだ。

 

 兄川「大した番組はやってないか・・・。ま、好きなドラマが見れるだけありがたいか。」

 

 今までよりも少し大きめの音でTVを見る。見ていたドラマも終わり、ニュース番組に代わった所で電源を消そうとしたが、一番最初に流れたニュースを見て気が変わった。

 

 キャスター「4年前の20XS年に発生したシュウゲイグループ乗っ取り事件の5人の主犯格の一部として25年の懲役を受け服役していた、兄の津和神堂受刑者:28歳と弟の津和魔義雄受刑者:26歳の、冤罪を認め懲役の取り下げを求める一連の裁判に、遂に決着がつきました。先々月24日から広島高等裁判所にて開かれた第2審の判決が先日言い渡され、広島高等裁判所は、当該事件における両受刑者を証拠不十分と検察官の不起訴によって釈放すると発表しました。」

 

 兄川「え・・・!?」

 

 TVのニュースに驚きを隠せず、そのまま画面を見つめていた兄川の耳に、コツン、コツンと何かで軽くガラスを叩く音が聞こえる。どうやら窓の方から聞こえてくるみたいだ。

 

 TVの音をそのままにして窓を開けると、

 

 兄川「!、吹雪・・・」

 吹雪「司令官!無事だったんですね!見張りが来るので手短に言います!」

 

 なんと吹雪がいた。彼女は下から石を投げて窓ガラスにぶつけ、兄川が反応するのを待っていたのだ。彼女はどうやら無事そうだ。

 

 兄川「どうしたんだ?」

 吹雪「近いうちに必ず大きい音を出します!その時に工廠へ!もう少しだけ頑張ってください。では!」

 

 そう言って、吹雪はダッシュで居住棟の方に戻っていった。

 

 兄川「ちょっと!それってどういう・・・行ってしまった。」

 

 それからしばらくして工廠(居住棟とは反対側)から憲兵隊が出てきた。憲兵の一人が顔を見上げ兄川に聞いてくる。

 

 憲兵「提督!ここに艦娘は来なかったか!」

 兄川「いや、来て無いけど?どうしたの?」

 憲兵「提督、誰も来ていないというなら、なぜ窓を開けて身を乗り出している!」

 兄川「外の空気が吸いたくなったんだ。しばらく換気もしてなかったからさ。で、艦娘がどうかしたんですか?」

 憲兵「は!提督代理の命令で警備をしていたところ、艦娘の声が聞こえたので飛んできた!」

 兄川「どんな感じの声だった?何を聞いたの?」

 憲兵「すまんが、内容までは分からなかった。では、私はこれで失礼する!」

 

 た憲兵は、それ以上聞いて来ること無く持ち場に戻っていった。

 

 兄川「(憲兵、やけに仕事が速いな。幸い話の内容までは聞かれなかったか。吹雪の奴、見つからなきゃ良いが・・・。)」

 

 やはり憲兵は味方になってくれそうもない。こうなれば、唯一の頼りは吹雪だけだ。

 

 それにしても、吹雪が言っていたことにはどんな意味があるのだろうか?そもそも何故、ここに閉じ込められていると気付いたのだろう?

 

 それから4日後、鎮守府名義で日用品の箱買いのダンボールの中に、吹雪が頼んだ商品がやって来た。

 

 春雨「吹雪ちゃん・・・、何を買ったんですか?」

 吹雪「今の私に絶対必要なもの。」

 

 そう言って箱を開ける。中から出てきたのは、

 

 春雨「民間用の・・・脚部艤装?」

 

 脚部艤装とは、艦娘が靴代わりに使っている水上航行用のミニスクリュー付きの脚部推進装置を民間人男性向けに改良したもので、軍用技術の民間転用の一つである。そして、押入れにある予備の布団に隠していた防弾スーツを取り出し、それを先ほどのダンボールに押し込んだ。本来なら、こんな物を買い込まれれば不審がられても仕方ないが、ここは艦娘のプライベートには不干渉なので、自費さえ足りればこうした物も簡単に手に入るというわけだ。

 

 春雨「それを、どうするんですか?」

 吹雪「そのことは後で話すから。あと、このことは皆に内緒だからね。」

 

それからさらに2日が経った深夜2:00。今夜は大雨が降っていて外がよく見えない。この時間になると憲兵は見張り交代のために一度宿直室に帰ってくる。そんな事など知る由も無い兄川だったが、監視の目を欺くには、やはり闇が鎮守府を包み込み、日によっては仲間たちと共に吹雪が近海警備から帰ってくる夜しか逃げられるタイミングは無い。だから、この6日間、昼夜の睡眠時間を逆転させて準備を整えていた。

 

 だが、逃げた後をどうするのか考えていなかった。近くの鎮守府に匿ってもらおうか?もし、連中の味方だったら一巻の終わり。あの悪人共のしつこさは自分が一番知っているつもりだ。となったら、いっそのこと吹雪と無人島暮らしでもするか?・・・が、それは何と言うか極めて都合の良い妄想でしかない。

 

 もっと確実な方法があればと思っても、生きるか死ぬかの現状ではそうは言ってられない。とにかく、今は生き残らねばならない。何としてでも。

 

 執務室の椅子に座りながら、雨音のする窓を眺めてる。

 

 

 バーン!バーン!ドガガーン!

 

 兄川「なんだ?」

 

 工廠の方から大きな爆発音が聞こえた!雨にぬれるのも構わず、窓から身を乗り出してみると、工廠の隣にある燃料タンクが雨にも負けずに大きく燃え上がっているではないか!見張りの憲兵が慌てふためいたり、唖然と炎を見続けているのがよく分かる。 

 

 兄川「(これが吹雪の言ってた、大きい音か?何てオーバーな。)」

 

 人を引き付ける騒ぎとしてはあまりに過激すぎるが、兄川に注目している連中は誰もいない。すぐに、雨どいと排水パイプを伝って、一気に地上へ降りる。

 

 地上の茂みに一旦、身を隠しルートの計算をしていると、

 

 吹雪「司令官。こっちです。」

 

 吹雪が奥の桟橋から小さなライトを点滅させているのが見える。その光を目印に兄川は人目に触れぬよう、陰から陰を渡って吹雪の下へ急ぐ。

 

 兄川「あれ、君がやったのか?」

 吹雪「話は後です!とにかく、これを着て、これも履いてください!」

 

 そう言って、例の防弾スーツに着替えさせ、脚部艤装も履かせた。これで後は静かに海に出るだけ。

 

 だが、人間は決して勘の悪い生き物ではない。サーチライトが2人を白く照らし、憲兵や艦娘が光の先を目印にこちらに威嚇射撃してきた!

 

 陽炎「駆逐艦吹雪と、彼女に同行しているそこの男!すぐに停船して装備を解除しなさい!指示に従わない場合は、即座に発砲する!」

 

 兄川「全速力で行こう。但し、相手に武器を撃つな。」

 吹雪「はい。」

 

 兄川は、士官学校時代に脚部艤装による海の進み方は知っている。一言で言えば、水面でローラースケートをするような感覚だ。足を交互にしばらく歩いたり走ったりすれば、艤装のスクリューが回りだして勢いがつく。そこで両足を地面に押し付けるように固定すれば、燃料が続く限りどこまでもスクリューが回る。

 

 吹雪「!!、右に!」

 兄川「ああ!」

 

 砲撃の怒号が間近に迫る!

 

 右に左に回る時は、曲がりたい方向の足に力を入れて進み続ける。曲がった方向の足が軸になって回るという訳だ。民間用ゆえにスピードも耐久性も不安があるが、運動神経の良い兄川にとっては敵の砲撃を避けるには十分だった。むしろ、こっちの足裁きの方がしっくり来る気さえしていた。

 

 兄川「(思ったより順応できる!これなら何とかなる!)」

 

 激しく振る雨は兄川も吹雪も陸から放たれる砲弾もサーチライトも全て飲み込もうとする。それでも、兄川は進んでいく。この雨嵐の先に真の幸福があることを願って。だが、それとは別に、ただ逃げ延びただけでは、真の幸福は無いということも何処かで感じ取っていた。




今の所、2日おきの投稿を計画しておりますが、作者の都合により、間隔が空いたり、纏まったストーリーを一挙投稿する可能性があります。

 読者の皆様のご理解をお願いします。
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