破壊と集結の兄川誠   作:松代眼鏡

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 今回は、兄川と吹雪が脱走に成功し、次の日の朝になった所から始まります。そして、いよいよ奴らの影が・・・。


第1章 無終と反転の兄川誠 その4

南へ南へ、だいぶ南のほうへ来ただろうか。詳しい場所は分からない。時間は既に日の出の時。空は昨日の夜が嘘の様に晴れている。奇跡的に吹雪と兄川は、はぐれる事は無かった。

 

 吹雪「どうにか、逃げのびましたね。」

 兄川「ああ。だが、これからどうする?自分の艤装はもうすぐ燃料が切れそうなんだが・・・」

 

 無理も無い事だった。もともと波が穏やかな港湾地区での作業を前提に作られた民間向け装置だ。サバイバル出来るようには作られていない。

 何よりも、完全な見切り発車での脱走だ。ここから先は更に強運が必要になるだろう。

 

 兄川「まずは、何でも良いから地上に上がりたい所だ。吹雪、島が無いか探すぞ。」

 吹雪「はい!」

 

 深海棲艦や他の艦隊に警戒しながら、身を隠せそうな陸地を探す。兄川とて人間だ。これ以上海水にまみれるのは肉体的にもしんどい。

 

 

 同じ頃、とある深海棲艦艦隊の本拠地の中心にある部屋では、ここの総指揮官とも言うべき深海海月姫のテスタが激しく荒い息を立てて目を醒ました。

 

 テスタ「ハァ・・・ハァ・・・、あれは・・・、あのハッキリと覚えているあの夢は・・・。」

 

 そこに今日の世話係ともいうべき、2人の戦艦タ級が現われた。双子の姉妹であり、姉はセレナ、妹はセリカという。

 

 セレナ「姫様、起床の時間でございます。・・・姫様、その汗は・・・。」

 セリカ「まさか、あの夢でございますか!?」

 テスタ「始めて見る夢だったけど、普通の夢じゃありえない、あの鮮明な記憶は・・・、アヴェを呼んできて。彼女の口から警告として全員に告げるわ。皆の所には、一人で行くから。」

 セレナ・セリカ「「か、かしこまりました!」」

 

 双子はそのままテスタの下から離れる。テスタもまた深海海月姫の象徴ともいえる、半分に割れた黒仮面を被り、身支度を整える。アヴェとはテスタと共に命を張って15年戦い続けてきた空母棲鬼:アヴェンタのことである。彼女の一声が艦隊全体の士気を高める事だってある。

 

 早速、アヴェンタはテスタや重鎮を集めて会議を行う。

 

 ル級flagship:コルベット「テスタ姫の様子を見る限り、今度の夢はとてつもなく大事な物という風に取れますが。」

 潜水棲姫:シルフィ「一体、どんな夢を見られたのですか?」

 

 

 テスタ「ええ。・・・遠い海の向こうからやって来た白い男が・・・」

 

 シルフィ「白い男ですって!?」

 装甲空母鬼:サンダーバード「我々が関与する男にそんな奴はいない!もし、いるとすればそいつは!」

 アヴェンタ「静かに!・・・テスタ、続けてくれ。」

 テスタ「えっと・・・、その白い男に深海棲艦たちは全滅して、でも私だけはその人を傷つけたくなくなるの。まるで初恋の人に出会ったような・・・。そこで夢は終わっていました。」

 リ級:ルーチェ「・・・それは深刻だ。我が総司令が敵に寝返るなどあってはならない話。それこそ今まで築き上げた我々にとっての平和が内側から崩壊するやもしれぬ。」

 テスタ「ちょっと待って!白いのは服じゃなくて・・・肌の色が白いって意味で言ったの・・・。」

 空母棲鬼:アストラム「そのような生きている人間の男がいるとは思えませんが・・・では、我々の仲間の誰かが、もしそれらしき男と接触した場合は如何致しますか?」

 テスタ「勿論、息の根を止めてください。男を受け入れたら最後と覚悟してください。」

 全員「「了解しました!」」

 

 深海海月姫:テスタの見る夢。普段は決して夢など見ない彼女が極稀にみる夢。それも単なる夢ではない。一言で言えば、予知夢なのだ!彼女が見てきた夢は、全て近いうちに現実の物となった。予知夢のおかげで何度も最悪な展開を回避できたし、完全勝利とは言えなくとも、ここまで全滅を免れて生き残ってきた。最近では、テスタの夢に従って艦隊が動いていると言っても過言ではない。テスタの夢からアヴェンタを通じて伝えられる命令はテスタ艦隊にとって最高命令の一つなのだ。

 

 

 

 そんな事があってから3時間後。いよいよ兄川の艤装の燃料が底をつき、吹雪に引っ張ってもらいながら、まだ適当な隠れる場所を探し続けていた。島に限らないが、探している時に限って見つからない、というのは良くある話である。それでも、最後まで希望を捨てずにありとあらゆる方角に目を凝らしていると、

 

 吹雪「!、司令官!、右手に大きな無人島が!」

 兄川「おお!助かったぞ、吹雪!しばらくあそこで身を隠そう!」

 

 吹雪が見つけた島。そこには誰もいなく、人が住んでいる気配は無かった

 

 

 のなら幾分か安心できたかもしれないが、神様は何から何まで与えてくれる訳ではないと兄川は悟った。確かに周りに人はいないが、崖に挟まれた狭い海岸には足跡が幾つも残っている。その奥のほうに、ログハウスらしき物が1軒建っている。しかも、まだ誰かが使っている様子なのだ。それでも誰かの気配がしないのは、家の持ち主が留守にしているからだろうか。

 ふと、吹雪の頭に春雨が話していた「高度な文明を持つ深海棲艦」の事が離れなくなった。本には深海棲艦が建てた家は出てこなかったが、簡易的なものならそこまで造るのが難しい代物でも無いし、もし春雨の定説が正しいなら・・・。

 

 吹雪「・・・本当に大丈夫なんですか・・・。もし怖い人が出てきたら・・・」

 兄川「誰が出てきても、こっちの用件を伝えるしかないだろう・・・!」

 

 万が一、自分が襲われた時の為に、吹雪を遠くから連装砲を撃たせるように配置して、家のドアをノックする。

 

 兄川「ゴメンくださ~い。どなたかいらっしゃいませんか?自分達は悪い人じゃありません。ただ、少し助けて欲しいんです。」

 

 何度もノックして呼びかけているが、返事は全く無い。してはいけないと分かっているが、ドアノブを回しても鍵が掛っていて開かない。

 

 兄川「・・・誰もいないのか・・・。でも空き家には見えないし・・・仕方ない、家の人が帰ってくるまで近くで待とう。それでいいかな、吹雪。・・・・・・吹雪?」

 

 全然返事が無い。どうしたのかと思って振り返れば、何か恐怖に怯えながら、海の方角に腕を伸ばして連装砲を構えたまま完全に固まってしまっているではないか。

 

 吹雪「・・・あぁ・・・・・・・やっぱり・・・・・・もう、だめ・・・」

 兄川「 どうしたんだ、吹雪!・・・ハッ!」

 

 そこに居たのは、我らが海軍の敵、深海棲艦だった。それも、ル級2、ネ級1、ホ級3の1艦隊構成。その全てがこっちに主砲全てを向けている。一歩でも近づけば全弾発砲する勢いだ。が、それは兄川の知る深海棲艦の動きではないとすぐに気がついた。命を落とすかもしれないというのに、何故か兄川は冷静だった。

 

 吹雪「し・・・しれ・・・」ガクガクガクガク

 兄川「吹雪!主砲を下ろせ!・・・あのー!自分達は怪しい者じゃないです!」

 

 ホ級1「ナニ、イッテルンダ、アイツ。」

 ホ級2「アヤシイヤツ、ミンナ、オナジコト、イウ。」

 ル級1「私は人間の男については知っているつもりだが、お前のような格好は知らん。」

 ネ級「お前の帽子、カイグンのもの。だから、カイグンの男。連れの、女、艦娘、だから、おまえら、殺す。」

 

 兄川「待ってくれ!確かに、自分達は君達の敵の集団の一人だけど!訳があって、海軍から逃げてるんだ。もう一度あそこに戻ったら、本当に殺されてしまう!だから、ちょうど海軍以外の人に匿ってもらいたかったんだ!日本語が分かるなら、ちょっと話を聞いてくれ!」

 ル級1「その前に、質問に答えろ。お前、ここが何処か知っているか。答え次第では、ここで殺す。」

 

 吹雪「司令か~ん!」

 

 もう吹雪は泣き出しそうになっている。それに反して兄川の心は妙な安心感を覚えていた。

 

 兄川「分かりました。俺達は日本列島の九州から逃げてきました。コンパスも電探も持たずに二人で逃げてきたから、ここがどこかは本当にしらない。どっちの方向に日本があるかも、全然分からない。で、適当に陸に上がれる場所を探していたら、たまたまこの島のログハウスを見つけたんです。それで助けてもらおうと島に上がったんです。」

 

 深海棲艦一同「「・・・・・・」」

 

 ル級1「最後に聞く。助けを求めた先が我々だった事を後悔してるか?お前らにとって我々は、信用できぬ相手か?」

 

 吹雪「(どうするんですか、司令官!このままじゃ、どんな返事を返しても死ぬしかないじゃないですか!)」

 

 兄川「・・・正直言って、外道じゃなくて自分のことを知らない人なら、誰でも良いです。ただ、今、あなた達に恐怖を抱いているのは、あなた達が深海棲艦だからじゃなく、」

 ル級1「じゃないなら・・・何だ?」

 兄川「すぐに自分達が殺されそうだから、どうしようもなく怖いんです。どうかお願いします。どうしても「自分と言う人間」を殺す必要が無いなら、自分達を助けてください。それが無理なら、黙って帰らせてください。お願いします。」

 

 そう言って、兄川は必死になって土下座した。それに続いて吹雪も土下座する。兄川にとっては大げさなアピールのつもりは無かった。ただ言いたい事だけ言って、相手に任せるつもりだった。相手は深海棲艦、こっちの事情は詳しくは知らない筈。おまけに人の言語が分かるし、言動や行動から見ても、彼女らは人をおもちゃにしない真面目な性格だと思った。それだけでも助けてもらうには十分だ。

 

 かなり長く沈黙は続いた。

 

 ル級の一人が耳に手を当てて何かを喋り始めた。どうやら電話のように誰かと話をしているようだ。

 

 その後、ル級1は手を耳から離し、全ての手法を下ろさせて、兄川に告げる。

 

 ル級1「我らの総指揮官様からのお許しがでた。詳しいことは向こうで聞く、と言っていた。」

 兄川「それじゃ!」

 ル級1「ただし、あくまでお前らは捕虜して扱う。だから、今もっている武器や道具は全て没収する。」

 吹雪「・・・・・・仕方、ないですよね・・・。」

 兄川「分かりました。ただ、この防弾服だけは、海水避けと体温低下防止のために着させてください。それと、自分の脚部艤装は燃料が切れてますので、どなたか自分を引っ張ってください。」

 ル級「・・・それぐらいならいいだろう。けど、それ以上のわがままは聞かないからな。」

 兄川「・・・皆さんの思慮深い心に感謝します。」

 




 この後、どうなるのか。

 ちなみに、作品内の深海棲艦には、それぞれ固有の名前を持っています。
 名前は、それぞれ自動車や列車の名前をつけました。
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