破壊と集結の兄川誠   作:松代眼鏡

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第1章 無終と反転の兄川誠 その7

 兄川が一人で死闘を繰り広げていた頃、海底では、テスタやアヴェンタ達が騒ぎが収まるまで岩陰で退避していた。最初のほうと違って、奴らの攻撃はこっちには向かなくなった。

 

 セリカ「もう後は私達姉妹とテスタ様、アヴェンタ様だけです。捕虜の艦娘はアヴェンタ様の部下:ハーレーに託しました。」

 セレナ「何が起きているかは分かりませんが、避難するなら今の内です。」

 セリカ「このまま、海底を這えば海底洞窟があります。そこに行きましょう。」

 テスタ「待って!兄川の姿が見えないの!」

 アヴェンタ「アイツの事は放っておけ!所詮は人間だ。爆発に耐えられない身体なのは仕方の無いことだ。」

 テスタ「でも・・・。」

 

 あの時、テスタは見た。兄川の身体が突然に上へ上へと浮き上がり、水上で彼をガライヤたちが囲んだ瞬間に、彼の身体が激しく動き回り気がつけば水面の上を歩いていた事を。

 

 テスタは兄川が心配で仕方なかった。初めてその顔を見たとき、心にキュンとときめいたものがある。その男に会ったのは間違いなく今回が初めてだが、あの男の目はどういう訳か不思議とある種の安心感を感じさせるものだった。テスタもこの年になるまで色んな人間の男を見てきた。が、あんな安心感を感じさせる目は何処にも無かった。

 

 その正体を知りたい。あの男だけが持っているであろう、秘密の瞳の内側を。それが叶わぬ事だとしても、せめてあの男の骸が欲しい。命の危険とか意味無意味とか関係なく。

 

 テスタ「・・・セレナ、セリカ。アヴェたちをお願い。」

 アヴェ「馬鹿なことを考えるな!テスタ!」

 セレナ・セリカ「「お戻りください!テスタ様!」」

 

 テスタは海面の太陽を目指して上がっていく。

 

 太陽の下に出てきたテスタの目の前に広がるのは、

 

 すっかり弱りきり、その場から逃げだそうとするガライヤ海賊団の半数を追いかけようとする我らテスタ艦隊。残った海賊団の全ては、海の上で血を吐きながら意識も無く波に揉まれている。近くにやってきた一人の息を調べると、気絶させられただけで、斬られたり骨折や臓器破壊をされたわけではなさそうだと気がついた。そして、その先には、首筋に手刀を浴びせられ、跪いたRの姿。そして、

 

 髪と肌が色白で目が黄色く光る上半身裸の男:兄川誠の姿があった。

 

 テスタ「!・・・あの人・・・夢に出てきた・・・!」

 

 そう、テスタが昨日見た予知夢の中に現われた男だった。その男に一番夢中になっていたのは、テスタ本人。実際に彼を一番最初に見たとき、かっこいいと口をこぼす程に良い男だった。その輝きは、女の一人である自分をさらに釘付けにしている。

 

 確かに夢の中で、兄川は深海棲艦を全滅させた。でも、それは自分の艦隊ではなく、敵のガライヤ海賊団のことだったのだ。彼にどんな意図があって、こんな事をしたのかは分からないが、これでは、まるで悪者の手から私を守ってくれた白馬の王子様ではないか・・・。

 

 テスタ「(・・・こういう事だったのね。・・・あの夢が見せた未来は・・・。)」

 

 もう否定は出来ない。とにかく生きているか不安だった男が生きていた。早速、迎えに来ようとテスタは兄川に近づく。少しずつ近づくにつれ、兄川の皮膚や髪、目は元の黒色に戻っていくように見えた。

 

 

 

 

 ガライヤ「行かせねーよ!!」

 テスタ「きゃああ!!」

 

 兄川「!、テスタ!」

 

 ガライヤ海賊団は全滅していなかった。生きていけぬ程のトドメを刺そうとして刺し損なった海賊団一の外道、ガライヤが残っていた。そのガライヤは、ギギギと爪を伸ばし、テスタの首元に血の穴を開ける。

 

 テスタ「うぅ・・・!・・・カハッ・・・・!!」

 ガライヤ「驚いたぜ、テスタ。まさか、あんな切り札を持ってたなんてな・・・。おい!そこの男!」

 兄川「何だ・・・!!」

 ガライヤ「この女の命が惜しかったらな!テメェ、俺の道具になれ!」

 兄川「・・・何故?」

 ガライヤ「テメェを俺好みの戦闘奴隷に改造したいからに決まってんだろ!!テメェへの仕打ちも兼ねてな。後、単純にこいつの命が助かる。どうだ!悪い取引じゃないだろ!」

 テスタ「兄・・・か・・・、わたし・・・どうな・・も、かまわ・・・ない・・・。」

 ガライヤ「さあ、どうする!あと少し深く刺せば、この女は死ぬぞ?」

 

 兄川の目に映るガライヤの邪気とテスタの愛と誇りを失わない高潔な気。

 

 兄川「テスタ・・・・・・ウォオオオオ!!」

 

 兄川の目がまた黄色く光り、兄川の言葉がまた獣の雄たけびに変わりつつある。そして、今度は最初から全速力で、ガライヤからテスタを引き剥がそうと迫る。が、

 

 何かがこっちに飛んで来る音が聞こえる。それも物理法則のままに徐々に落下しながら高速で迫る音。

 兄川もガライヤもこの音に聞き覚えがあった。

 

 そして次の瞬間!

 

 3人の周りを取り囲むように、数珠繋ぎの如く、海が次々と水柱を上げる。これは砲撃だ。自分達をここに留め置くための威嚇だ。兄川は咄嗟に身体を伏せる。ガライヤもテスタを突き飛ばすように解放し、自分だけ身を屈めて戦闘態勢を崩さない。

 

 ガライヤ「何だよ、もう!?誰か知らねぇが、ブッ殺してやる!」

 兄川「・・・テスタ、しっかりしろ!テスタ!。」

 テスタ「・・・・・・兄川・・・?」

 

 

 2人の視線の先に現われたもの。それは、テスタ艦隊とは比べ物にならないぐらい強いオーラを放つ少数精鋭の深海棲艦艦隊。彼女らの手や腕に掘られた刺青は、「鬼をかみ殺すおぞましい姿のイ級」。その中心に立つのは、一人の戦艦棲姫。

 

 テスタ「あ、あれは・・・、富士首領・・・!」

 兄川「・・・フジ首領?」

 

 ガライヤ「・・・誰かと思えば、退役間際のオバさんじゃねーか。もう戦艦はお呼びじゃねぇんだ!時代は駆逐艦なんだよ!」

 テスタ「ガライヤ、ダメ!」

 

 ドドドドドンン!!

 

 オバさんと言われながら、青筋一つ立てず無情にガライヤに至近距離の砲撃をかます戦艦棲姫:富士。兄川によって既に中破にまで追い込まれていたガライヤの体力は一瞬で轟沈寸前までに堕ちた。その哀れな姿を晒すガライヤを見て兄川は富士に問う。

 

 兄川「なぜ、トドメを刺さない?」

 富士「ならず者は徹底的に教育する。それが我ら、トミヤマ海王会の方針だ。それより、」

 

 兄川・テスタ「「!!」」

 

 富士は、背後に連れた艤装という名の怪物を、兄川とテスタに向けさせた。

 

 兄川「・・・どういうつもりだ?」

 富士「話はアヴェンタから聞いている。我らの主目的は、貴様とそこのテスタの救出とガライヤ海賊団の捕獲にある。が、それを無視して貴様とテスタをここで沈めることも、時として厭わない。」

 兄川「理由は?」

 富士「まず貴様はただの人間ではない。我も鬼姫級と海の上で直接勝ち星を挙げた人間を幾らか知っている。が、貴様はそのどれにも当てはまらない。我らは貴様を恐れている。そんな人間にテスタは惚れている気を感じる。どういう理屈であれ、人間の味方になりかねない同胞を殺すのは、種族の持つ秩序に従うならば当然のこと。」

 兄川「・・・テスタは深海棲艦の敵である人間の俺を同伴した艦娘と共に守ろうとしてくれた。その」

 富士「勝手に喋れとは一言も!」

 

 富士がドスの効いた声で兄川を止めるが、兄川の口はなおも止まらない。

 

 兄川「・・・その恩人は今回の騒動の被害者でもある。それなのに、お前は無理やり買わされた喧嘩にすらならない殺戮に巻き込まれた被害者=生き残りを殺し、逆に加害者を理屈をこねて生かしておくつもりか?それこそ、いずれは深海棲艦の持つ秩序を潰しかねない外道を希望的観測だけで生かすのか?」

 富士「・・・面白い事を言う。だが、我々は人間と違って、力あるものが正義という昔の慣習が心の底に根付いているのだ。その昔から続く本能に似た深層心理に従うなら、味方をするとまではいかなくとも、争いに負けた方が死んでいくのは当然だと、我は思っているが?」

 兄川「富士・・・。お前は一つ誤解している。人間だって昔は力を持った奴が絶対的正義と言う時代があった。いや、今でもそうだ。お前たちが主に敵対している国々の人々が、それぞれの愛の精神を持って平和に生活しているから、人間社会の本当の姿が見えにくいだけなんだ。それでも力を持つ者の中には、テスタたちのように愛と他者へのやさしさを誇りにして生きる人たちがいる。」

 富士「人間特有の妄想の綺麗事のつもりか?」

 兄川「経験での話だ。自分がテスタ達に捕らえられた時、テスタの仲間たちは自分を標的として、すぐには殺さなかった。自分を生かそうと決めた誰かに僅かでも他者を愛する心があったからだ!

 それに、自分には倒さなきゃいけない敵がいるが、その時一緒にいたテスタの友達は、自分の気持ちを理解してくれた上で、自分の代わりに倒してやると確かに言った。その言葉には多かれ少なかれ、見ず知らずの敵である自分に対して、過激ではあるが彼女なりの愛や優しさがあったから、影のあった自分の心に響いたんだ!だから自分は彼女を巻き込むような事をしたくなくて、彼女の好意を受け取れなかったんだ!」

 テスタ「アヴェンタ・・・。」

 富士「・・・・・・、それで・・・?」

 兄川「自分は、自分がテスタに会うずっと前から、自分から何も与えなかったのに無償の愛を与えてくれた人たちと、愛すら知らず己の力のままに大勢の人々を傷つけあざ笑う人たちを俺は何人も知っている。だから自分は愛を正義と信じる人を愛なき邪悪な外道から守るために「兄川誠」として海軍の提督になった!そして、その思いは深海棲艦に対しても同じと自分は信じる!」

 

 富士の瞳に映る男の目と言葉の奥にある何かを、富士自身が読み取れるかは、彼女をよく知る人物でないと分からないだろう。が、今まで命乞いのために屁理屈を並べてきた連中とは言葉の重みが違うような気が、富士の部下は感じ取っていた。が、心の別の所では、良く出来た芝居ではないか、やはり命乞いのための屁理屈だろうか、そう思ってしまう癖を捨てきれない。結局、誰がどう思うが、全ては富士首領に決定権がある。

 

 富士「テスタ。」

 テスタ「・・・はい。」

 兄川「・・・・・・。」

 

 

 富士「元はといえば、貴様が蒔いた種だ。見ろ。この男は大丈夫そうに見えるが、我々で言い換えれば中破にまで自分自身を傷つけている。貴様がこいつを生かしたいと願うなら、貴様自身の手で看病してやれ。・・・その前に・・・

 

 Xsxd・・・dessadffr・・・asdawfvs・・・」

 

兄川「ん?・・・な・・・!あ、頭が・・・に・・・ぶい・・・。」

 

 富士が何かを唱え始めたてから、兄川は自分の体を支えきれないぐらいの眠気に襲われ、そのまま海面に頭から倒れこんでしまった!

 

 テスタ「!!!」

 富士「安心しろ。貴様らが運びやすいように眠ってもらっただけだ。後のことは任せる。そして、その男の責任はお前が受け持つ。そのことを忘れるな。」

 

 富士のその言葉を最後に、彼女の直轄部隊:トミヤマ海王会はガライヤ海賊団の体を担いで水平線の向こうに消えた




 補足:トミヤマ海王会首領にして、太平洋と東アジアの海域で一番偉い戦艦棲姫:富士は少しだが魔法が使える。が、積極的に使おうとはしないらしい。何故なら、魔法の代価として何かが体から消えているような気がしているから・・・。

 次回は2日後の投稿となります。
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