破壊と集結の兄川誠   作:松代眼鏡

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 今回、また一つ、兄川の秘密が明かされる。


第1章 無終と反転の兄川誠 その8

 指宿から兄川と吹雪が脱走して4日が経った。提督代理艦たちは直ちに他の艦娘に知られないように、海軍全域に兄川を指名手配させるように申請。申請を受理した佐世保鎮守府を中心に手配書が各提督に配られた。その上で、指宿では独自に兄川を捕まえるための作戦会議が開かれた。

 メンバーは指宿憲兵隊のリーダー;葉中陽一小佐と、提督代理艦の5人達、それぞれピンク髪の陽炎、ロングヘアーに青つなぎの明石、男性用の黒スーツに茶髪染めのポニーテールの祥鳳、眼帯の代わりにサングラスを掛け防弾チョッキで武装する天龍、パーマをかけたセミロングのかつらのリーダー格:妙高。さらには岩川から派遣された新島中佐と岸田准尉も呼ばれた。この2人は兄川の着任直前に妙高たちに、兄川が危険人物であることを態々鎮守府まで赴き忠告してくれた人たちで、妙高たちからも信頼関係を置かれている。

 

 祥鳳「現時点では、まだどの艦隊からも発見したという報告はありません。」

 葉中「我々も少数ながら、鹿児島県警と連絡を密にしながら、指宿港、山川港、指宿駅、山川駅など、主な交通施設に8名配備しました。市内の警備も強化しております。」

 天龍「一体、どれぐらいの奴らが本気になって探してくれてるんだよ?」

 新島「我々2人が独自に調査した所、兄川発見に艦隊や憲兵を裂いている鎮守府は、確定した段階で125箇所。これは僕の予想した数より3倍多い計算です。」

 明石「どうして、そんな事になってるのよ?」

 新島「各々の鎮守府に連絡をして、捜索理由を聞き出した所、一番多いのは懸賞金で、今回設定された450万円を狙って暇をもてあましてる遠征用艦隊を四六時中奴の捜索に出させているそうです。」

 明石「450万!一脱走提督にかけられる懸賞金にしては・・・」

 妙高「確かに破格の値段であることは違いありません。ですが、あいつの罪状や将来の再犯率の高さを考えれば、むしろ少し安いぐらいです。」

 新島「話を戻しまして、その次は、皆様と同様、悪を許せず、将来の危険性を除去する必要がある、という内容でした。他にも、弱小鎮守府に押し付けられた下請け仕事や、実績作り等の返事をもらえました。」

 天龍「・・・ってことはだ・・・。賞金目当ての艦隊につかまったら、こっちに身柄を渡さない可能性があるっていうんだろ?」

 岸田「はい。考えられる行動として、早い内に密かに捕らえておき、賞金が跳ね上がったタイミングに合わせて大本営に直接差し出す、という線があります。もう一つ、捜索対象を探す真意の可能性として、艦娘に闇商売させるために参考人として奴を引き入れさせ、仲間にしてしまうという線も考慮しなければいけません。」

 新島「今までの経験上、懸賞目的で脱走犯捜索に動く人は時間の経過と共に増えていきます。皆様の思いを達成するためには、彼らが見つけ出す前に、指宿の皆様も直接捜索に出向く必要があると僕は思うのですが・・・。」

 

 新島の提案はメンバー全員に沈黙を招いたが、妙高がこれを断ち切る。

 

 妙高「分かりました。それでは、我々も駆逐、軽巡を中心とした捜索部隊を2艦隊出しましょう。」

 祥鳳「しかし、彼女達に彼の事は極秘事項になってます。一体どうやって?」

 妙高「現在、配属している皆さんはあいつの事は知らなくても、吹雪さんはよく知っている筈です。ですので、あの男を仕官に変装して吹雪を拉致した、軍とは無関係の犯罪者ということにして、顔写真を公表しましょう。一時期といえ、艦隊の一員だった吹雪さんのためなら皆全力を持って探してくれる筈です。」

 明石「それなら、私、ちょうどいいものを開発したんです。ずばり、チェーンマジックハンドと言いまして・・・。」 

 妙高「後で聞きます。それでは皆さん、持ち場に戻ってください。状況が変わり次第、すぐに連絡を!」

 

 会議を終わらせようとした瞬間。指宿に所属しているシングルマザーの艦娘の秋月が報告にきた。

 

 秋月「失礼します。妙高提督代理!鎮守府近海の警備に当たっていた軽巡川内より入電!鎮守府裏正面の海に、脚部艤装をつけた一人の男が、提督代理宛に無線で何か話しかけてます!」 

 新島「ちょっと待て。海から一人の人間が脚部艤装で水の上を浮いているのは、間違いないな?」

 秋月「はい!歳は20代前半から中盤ぐらいで、上半身はボロボロの茶色いジャンバーを一枚だけ羽織っていて、海軍の帽子を被っているみたいなんですが・・・。」

 妙高「無線の内容は?」

 秋月「えっと、平文でこう叫んでいます。提督代理を語る悪の手先共、お前達が探していた死に損ないの津和昭雄が帰ってきたぞ、今度はお前らが正体を白状する時だ、と。」

 新島「岸田!」

 岸田「はい、間違いなく奴ですね。」

 天龍「津和昭雄だって?」

 陽炎「どうする?」

 妙高「私達提督代理が、奴を捕らえます。その後の処罰は私達に任せてください。」

 葉中「了解しました。各地に派遣していた憲兵を一度呼び戻します!」

 新島「僕と岸田は、妙高さんたちに同行します。」

 

 妙高「(今更、一人でのこのこと戻ってくるなんて、どういうつもりなの?)」

 

 

 昨日

 

 我という意識が返って来た時、兄川は目を閉じている事に気がついた。自分から眠りについたり瞑想の域にたどり着こうとする時以外に目を瞑るのは、今までの経験から縁起が悪いとおもっているので、兄川は少しずつ目を開いて辺りを見回した。

 

 白い電灯が薄暗く4畳半程度の部屋を照らしている。一瞬、地下室とも思ったが、自分が寝ていたベッドの横に雨戸が閉めてある窓があったので、地上の建物の部屋と気がついた。そして、そのベッドで横になっている兄川の傍にテスタと吹雪がいた。

 

 吹雪「目が覚めましたか?司令官!」

 テスタ「おはようございます。ご気分は如何ですか?」

 

 兄川「・・・!、2人とも無事だったんだ・・・。包帯が痛々しいが・・・。」

 

 テスタはガライヤに人質にされたときに、首を爪で刺されおり、吹雪も敵の攻撃が激しかったからか、身体のあちこちに包帯を巻いている。やはりログハウスを造れる?ぐらいに知能のある棲艦達だ。傷の治療法もある程度は分かると言う事か。

 

 兄川「・・・それより、ここは何処だ?自分達はどうなったんだ?あの富士っていう人は?」

 吹雪「私もあの時に大破して気を失って・・・、目を覚ましたらここにいました。」

 テスタ「あなたを眠らせた後、そのまま引き返しました。ここは私達のもう一つの本拠地よ。さっきの事もあったし、もう艦娘以外は誰も襲ってこないと思うわ。」

 兄川「そうか・・・。ならば、しばらくは休めそうだな・・・。ありがとう、テスタ。」

 テスタ「い・・・いえ!・・・富士首領にも言われましたけど、元々、私が蒔いた種ですから・・・。」

 兄川「自分達の件とガライヤとかいう奴らの件は関係ないはずだろ?自分は、あなた達が自分達を助ける意志を感じ取れたから、君を奴らから守りたくて。」

 

 テスタ「!、兄川、それって・・・、やだぁ!私達、まだ会って全然時間も経ってないのに・・・!」

 兄川「・・・ごめん、そういう意味で言ったんじゃないんだ。あなたに恋したとは思ってなかったけど、一人の話が通じ合う人として、あんな奴に痛い目に合うのを見てられなかったんだ。でも・・・」

 テスタ「でも・・・?」

 兄川「テスタ、貴方は美しい人だ。一人の男として、貴方を意識しそうになってるよ。」

 テスタ「・・・/////////」

 吹雪「ちょっと司令官!深海棲艦を口説いてどうするんですか!それは、確かに優しくて綺麗な人ですけど・・・、本来なら私達とテスタさん達は敵同士なんですから!」

 

 アヴェンタ「その通りだ、この軟派男!」

 

 奥のドアからアヴェンタが入ってきた。

 

 テスタ「アヴェ!」

 アヴェンタ「兄川!テスタはお前の事を認めたかもしれんが、我々はまだ認めた訳じゃない。そこの所を勘違いするな!」

 兄川「すいません。別にそういう意味で言ったんじゃないんだけどなぁ・・・。」

 アヴェンタ「少しは言葉の重みを知るべきだ・・・全く・・・。それより、一つ教えてくれ。」

  

 アヴェンタの顔が先ほどとは打って変わって真剣になる。

 

 アヴェンタ「お前のその強さは何だ?何故、何故手馴れの深海棲艦の大軍相手に戦える?」

 兄川「それは・・・。」

 アヴェンタ「私の目から見ても、お前は只者ではない事は分かる。が、我々の知るただの人間は、お前みたいに髪や肌を白に変色させて、深海棲艦相手に一人で徒手空拳で戦うことなんて出来ない。一体、お前の中にある何がそうさせるんだ?教えてくれ。」

 兄川「・・・、詳しい事は分からないですけど・・・、ああいう風になるのは、今回が初めてじゃないんです。」

 アヴェンタ「・・・自覚をもって覚醒できるのか?」

 兄川「自分でも答えは出ないんです。ただ、完全に我を見失いかける時と、そうでないときがあって、あのガライヤ以外と戦っていた時は、一人あたり相手する時間が圧倒的に短かった記憶があります。」

 アヴェンタ「(テスタの話と同じだ。・・・もし、この推察が当たっているなら・・・。)」

 

 何かに気がついたようにアヴェンタは兄川にもう一度問いかける。

 

 アヴェンタ「お前、一番最初に顔を合わせたときに私が聞いたことを覚えてるか?お前は誰かと戦っているのか、と。」

 兄川「どうしても言わなきゃいけないんですか・・・?」

 テスタ「私からもお願いします。私、一度夢中になったら最後まで知らないと気がすまないタイプだから・・・。貴方が信頼できる人だって事を、皆にも伝えたいから・・・、ダメ?」

 

 真剣な眼差しで真実を求めるアヴェンタと、聖母のようなやさしさのオーラで兄川を包もうとするテスタの2人が兄川からの回答を待っている。

 

 兄川「・・・フゥ・・・・・・ハァハァハァ・・・キィ・・・ッハァ・・・」

 

 残念な事に2人の思いは圧力になって、兄川に過呼吸を招いてしまう。

 

 テスタ「兄川!」

 アヴェンタ「怖いのは分かる!でも、ここで吐き出せないならお前のためにならないぞ!」

 

兄川の困惑した顔を見た吹雪は、気まずくなってその場を離れようとする。

 

 吹雪「あ、あの・・・!、もし、私に聞かれたくない事でしたら、話が終わるまで外で待ってますから!」

 アヴェンタ「待て!」

 吹雪「ヒィ!」

 アヴェンタ「お前は聞く必要があるだろう。兄川と同じ様に元いた鎮守府に不信感を抱き、兄川と共に逃げてきたお前はな。お前が鎮守府の面々を裏切ってまで兄川をにがしたのは、自分の勝手な都合で兄川を巻き込んだからか?」

 吹雪「ち、違います!本当に司令官がかわいそうだと思って・・・!」

 アヴェンタ「だったら、兄川の話を受け止めろ!それが人と人の付き合いというものじゃないのか?」

 吹雪「・・・はい。」

 

 兄川「いや・・・良いんだ、吹雪。自分は臆病だから・・・このことを素直に話す勇気は持てないままなんだ。」

 アヴェンタ「そうやって何時までも逃げてばかりいては何も始まらんぞ。もしかしたらテスタでさえ、お前に愛想を尽かすかもな。」

 テスタ「アヴェ!急になんて事言い出すの?私、ずっと待ってるから!貴方の苦しみを受け止める日を!何時までも、何時までも!」

 兄川「アヴェンタさんの言うとおりだ。いつかは、ちゃんとありのままに全てを打ち明けたいと思ってる。」

 吹雪「司令官・・・。」

 

 兄川「それより吹雪。自分達が鎮守府から脱走して何日経った?」

 吹雪「え?えっと、3日ですけど・・・。」

 兄川「3日?もう既に指名手配にされているだろうし、もし自分どころか吹雪にも懸賞金が掛ってたとしたら・・・。」

 吹雪「司令官?」

 

 兄川は、吹雪の両肩を掴み、ある命令を下す。

 

 兄川「駆逐艦吹雪!現司令官からの最初で最後の命令を出す。聞いてくれるか?」

 吹雪「え、あ、はい。」

 兄川「君は、兄川誠という男の全てを忘れろ。その後は、海軍に戻るも良いし、深海棲艦と良き友達になっても、あるいは解体の道を選ぶのも構わない。いずれにせよ、君は新しい艦娘となって一から歩みだして欲しいんだ。」

 吹雪「何を言ってるんですか、司令官!そんなメチャクチャな命令を出すなんて、司令官らしくありません!もしかして・・・私が頼りないからですか?」

 

 兄川「そんな事じゃない。だが、君はおそらく自分:兄川誠を思い出すたびに君の親というべき海軍を許せなくなる筈だ。本来なら命を懸けながらも充実した栄光ある日々を送る筈だった君の人生は、兄川という男のせいで踏みにじられた。」

 吹雪「そんな事は絶対ありません。それに私はそんな程度の事で自分の人生を諦めたりしません!私は深海棲艦の中にも良い人はたくさんいる事を知ったんです。私にとっては貴重で大事な経験になったんです。そんな素晴らしい体験が出来たのは、司令官がいてくれたからなんです!」

 兄川「その素晴らしい体験や思いは、出来れば全うな艦娘としての生き方を素晴らしいと思った上で感じて欲しかった。君は海軍への不信を心に植えつけたまま深海棲艦と友好関係を築いた。そうなれば君は艦娘でありながら海軍にネガティブな気持ちをもって生き続けなければならなくなる。たとえ海軍が極悪な組織だったとしても、君には辛すぎる。自分自身の親とも言うべき存在に一生反抗精神をもって生き続けることになるんだ!下手をすれば反逆者として惨めな最後を迎えるだけだ。分かってくれ、吹雪!自分は君にとって永遠の呪いになりかねないんだ!」

 吹雪「でしたら私は海軍の艦娘では無い。新しい艦娘としての生き方を探します!でも、そのためには、司令官がいないとダメなんです。生きているか死んでいるかは問題じゃないんです。私の一部になっている司令官を完全に忘れてしまったら・・・忘れたら・・・ウワアァアアア!!!」

 

 吹雪の顔も兄川の顔も赤くなったり青くなったり。しまいには双方涙も鼻水も流している。誰の目にも分かる本音と本音のぶつかりあいだ。

 

 テスタ「2人とも落ち着いて!兄川?さっき貴方は言いました。いつか本当のことを素直に話したい、って。あれは嘘じゃないですよね?その日が来たら吹雪さんにも全て話すと約束したんですよね?」

 兄川「それは・・・。」

 テスタ「もう・・・アヴェンタの言うとおりですね。もう少し言葉の重さを知るべきですよ。だから、吹雪さんに、約束を破るようなことを言わないでください。」

 兄川「テスタ・・・ごめんな・・・!」

 

 兄川はどうしてもたまらなくなってテスタを抱きしめた。テスタはそれを優しく受け止め、兄川の頭をさする。やさしくやさしく・・・。兄川の心は次第に落ち着きを取り戻していた。それでも、彼が一度決めた覚悟は潰えない。

 

 テスタ「落ち着きましたか?」

 兄川「・・・ああ。」

 吹雪「あの・・・、司令官。グスッ・・・私は、本当はどうすれば・・・。」

 兄川「テスタ、アヴェンタさん。しばらくの間、吹雪を預けても良いですか?それと、ここが何処なのか、地図を見せてくれませんか?」

 アヴェンタ「・・・何をする気だ?自分の部下を巻き込ませたくないというのか。」

 

 兄川「元々は自分個人の戦いだったんです。だから、このけりは自分でつけなきゃいけないんです。」

 テスタ「・・・どうしても一人じゃないとダメ?」

 アヴェンタ「お前なら、我々の居場所をばらすような事はしないと思うが、ここからお前の鎮守府があるイブスキまでは、北北西に一晩進まなければならない。しかも、お前の戦いはそこから始まるんだ。長旅で根をあげている暇は無いぞ。」

 兄川「わかってます。吹雪、改めて命令する。テスタ達を守ってくれ。そして君なりに良い人生を歩んでくれ。」

 吹雪「グスッ・・・!ウゥ・・・了解しました・・・!私が・・・司令官を・・・たすけるんだから・・・。」

 

 兄川「いつか必ず戻ってくる。約束だ。」

 

 

 兄川はテスタ艦隊の皆から譲り受けた無線機やジャンバー、コンパスを身につけ、アヴェンタの指示通りに、因縁の指宿へと孤独に進む。

 

 そして、一晩過ぎて、指宿に帰ってきた。兄川は無線を鎮守府が傍受できる電波にあわせて大声で叫ぶ。

 

 兄川「聞こえるか!!提督代理を語る悪の手先共、お前達が探していた死に損ないの「津和昭雄」が帰ってきたぞ!!今度はお前らが正体を白状する時だ!!」

 




 幾らか見直してみたけど、テスタ,いい女すぎる。自分で性格を設定したキャラとはいえ、どうしても甘えたくなってしまう。これが作者の理想の女なのか?

 ところで、仮に一人の脱走司令官に懸賞金がかけられたとしたら、一体どれくらいの金額になるのでしょう?
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