鬼滅の刃~短編集~ 作:太郎
日光か特殊な鉄で出来た刀で頸を斬らない限りどんな傷もたちまち癒える不老不死の存在。人喰いの鬼。その始祖の鬼の名は鬼舞辻無惨。無惨の血によって人は鬼となり、日夜、人を喰らい続けている。
べんっ
「お呼びでしょうか無惨様」
そして無限城。ここは
「あぁ」
この洋装をしたモダンな紳士然の青年こそが、鬼舞辻無惨だ。自分は間違えないと平然に言ってのける自己中心的な性格をしており、配下の鬼たちにもとても厳しい。そう、厳しいのである。
「今日はどの様なご用件でしょうか」
「いつも鳴女ちゃんにはよく働いてもらっているから労をねぎらおうと思ってね」
「!?」
だから、こんな無惨は存在しない。
~其ノ壱~
「あ、の」
「ん、なんだい鳴女ちゃん」
鳴女は困惑していた。いや、恐怖といってもいい。いつも無表情か怒った表情をしている上司が、屈託のない……そう、純粋無垢な子供のような輝かんばかりの笑顔で居るなど恐怖でしかない。
そもそも。
(鳴女“ちゃん”って……)
上司はいつも、直属の十二鬼月だろうと誰だろうと呼び捨てだ。それが「ちゃん」付けだ。ありえない。どうしたのだろう、もしかして試されているのだろうか。いや、私の能力は非常に便利であり、自惚れかもしれないが無惨様も気に入ってくださっているはずだ。自分はなにかミスをしていただろうか。
ぐるぐると疑問が鳴女の頭の中で回るが、無惨は首を傾げているのに気づいて我に返る。呼びかけておいて、何も言わないなど非常にまずい。不愉快にされたら即殺───気に入られていたら幾分か許容するが───するのがこの無惨だ。
「き、今日も変わらずお美しゅうございますね」
「あ、えーと。急にそんなことを言われたら照れてしまうな……」
これは絶対に夢だ。そうに違いない。顔を赤らめながら照れるとか、無惨様に限ってありえない。絶対にない。
「そ、それで。その今回は私の労を労う為だけで……?」
「あ、いや。十二鬼月の皆の労も労いたいから、全員を呼んでくれないだろうか?」
(皆……皆って、絶対に無惨様の口から出ない。なんなのこれぇ。夢なら早く覚めてよぉ……)
もはや泣き出しそうになりながら、無惨の命令で鳴女は
べんっ
~其ノ弐~
なんだこれは。そう泣き叫びたい。恐怖で震えながらそう思っているのは
急な招集で十二鬼月が集まったのは、毎度のことなので全く気にしてない。どうせ、誰かが何かをしでかしたからお叱りを受ける。十二鬼月でも実力でなる上弦はともかく無惨様より席位を伝えられるだけの下弦の誰かが死んだかと思っていた。
(誰も欠けていないな。なら、何故招集が……ん、鳴女が震えている?)
十二鬼月が全員居るのを確認した猗窩座は、この場所の主である鳴女へと向けて少し眉をひそめる。そしてその近くにいた自分の主を見て───
「 」
言葉を失った。
主を見た瞬間、驚きで体は硬直し、目と口はこれでもかと開き、汗が滝のように溢れ、恐怖で体が震える。圧倒的恐怖。猗窩座がこれまで感じたどんな恐ろしい事も、これに比べれば些末な事に過ぎない。
気付けば、全員が跪いて頭を垂れていた。恐ろしい。なんて恐ろしい事だ。下弦の鬼の方からは荒々しい息がここまで聞こえてくる。普段であればうるさいと不快に思うが今は仕方ない。何せ、あの無惨様が……あの無惨様がっ。
(((無邪気な笑みを浮かべているなんてっ)))
あの黒死牟ですら若干ではあるが冷や汗を掻いているのだ。この状況はありえない。魂まで冷える程の恐怖だ。
「よく来てくれたね。まずは全員が集まってくれたことに私は感謝をしたい」
(か、感謝……だと!?)
《え、猗窩座殿。俺の耳がおかしくなったのかい?》
小声で隣で平伏する童磨が話しかけてくる。本当に目障りで嫌いで気持ち悪くてうざくて殺したいほどムカつくクソ野郎だが、今だけは知っている声色を聞けて少し安心する。
「いつも身を粉にして、私の為に働いている皆の労を労いたくて集まってもらったんだ」
《猗窩座殿、これが恐怖なんだね。俺、凄く怖いよ》
《安心しろ。俺もだ》
《俺たち、今日ここで死ぬのかああ》
《お兄ちゃん、私怖いよぉっ》
《は、半天狗殿。大丈夫か、しっかりせよっ》
《あばばばばばっ》
終始狂乱し続ける十二鬼月たち。それに気づかずに無惨は労を労うべく言葉を続けていた。
(なにこれぇ……)
人物紹介
鬼舞辻無惨:始祖の鬼。全ての鬼のボスであり、どんな鬼よりも強い。残酷無情で、十二鬼月でも怒らせると殺す(主に下弦)超絶ブラック上司。
黒死牟:十二鬼月筆頭である上弦の壱。最強の鬼にして最強の剣士。ありえないほどに強い。
童磨:十二鬼月の一人。上弦の弐。万世極楽教という宗教の教祖をしている。《猗窩座殿、これが恐怖なんだね。俺、凄く怖いよ》と言ったのは童磨。
猗窩座:十二鬼月の一人。上弦の参。無惨の命令であるものを日本中を走り回って探している。《安心しろ。俺もだ》と言ったのは彼。
半天狗:十二鬼月の一人。上弦の肆。大きな角二本と額の大きなコブが特徴。すっごく臆病。なので《あばばばばばっ》とか言っちゃう。
玉壺:十二鬼月の一人。上弦の伍。目が口で口と額に目があり、変な姿をしている。壺を作るなどの芸術家気取りの鬼。《は、半天狗殿。大丈夫か、しっかりせよっ》と言っていた。
妓夫太郎:十二鬼月の一人。上弦の陸。妹の堕姫と一緒に行動をしている。《俺たち、今日ここで死ぬのかああ》と言った。
堕姫:十二鬼月の一人。上弦の陸。上弦ほどの力はないが、妓夫太郎と一緒に行動しているので数字を貰っている。超絶美女。《お兄ちゃん、私怖いよぉっ》と子供っぽいことを言った。