空駆けるミシラ飛行隊 荒野のコトブキ飛行隊 作:紅の1233
空を飛ぶ一式陸攻とその先頭を飛ぶアニラの烈風、その烈風の両翼を飛ぶ、ベトナム戦争時のアメリカ軍機のような二色塗装を施したオルカの流星と、F-2戦闘機のような洋上迷彩を施したアオイの零戦。
アオイは烈風と流星に見とれていた。
烈風は翼端が上を向いたガル翼だ、しかしその角度は浅いためあまり目立たない。
対する流星はガル翼の角度が大きく、とても目立つ。
形状だけなら米軍のF4Uコルセアを思い出す。だがコルセア程の派手なガル翼ではない。
その時、横から突風が吹きアオイの零戦が少しふらついた。
「アオイ大丈夫か?」
「大丈夫よ」
オルカが心配しアオイが返事をする。
零戦にはオートパイロットなんて気の聞いた装置はない、おまけに零戦は軽いから上空で希に吹く突風で簡単に流される。
だから常に操縦桿とラダーを操作しなくてはならない。
第二次世界大戦時の零戦乗りはこんな感じで、長距離移動の後に空戦してまた同じ長距離移動をして帰っていくのだからその苦労がよくわかる。
アメリカのP-51ムスタングも硫黄島からこんな感じでB-29を護衛していたのだろう。
多分アメリカの事だから自動操縦装置ぐらい採用していたかな?視たことある資料には書いてないから分からない。
それはさておき。
今回の配達先はシズマツからかなり離れた場所だ。
途中、空の駅で休憩と給油をして行く程の場所だ。
途中空賊らしき編隊を見かけ肝が冷えた瞬間もあったが、現在無事に全機編隊を組んで飛行している。
山脈の上を飛んでいくと
「街が見えてきたけど」
アオイが呟く。
確かに街が見えたが様子が変だった。
建物は残っているがどれもボロボロ、至る所の木々は伸び放題あれ放題になっていた。
「この街なんか変ね」
「そりゃそうだ、そこはとっくの昔に人が居なくなった街だ。」
一式陸攻を挟んでオルカが無線を飛ばしてきた。
「昔は色んな所に街があったんだけどな、今じゃあ殆どが廃街さ」
「まれに空賊とかが根城にしていることがあるから、やだよねえ」
アニラとオルカは口々に言う。
確かに人が全くいないゴーストタウンではあるが、滑走路や建物はそのまま残っている。
隠れ家とし使うには絶好の場所だ。
「ここも“アノ街”が発展したから」
アノ街とは私達が今行こうとしている場所だ。
その時
「あれは?」
アオイはゴーストタウンから進行方向へ伸びる道に気付いた。
片側二車線、アスファルトで綺麗に舗装された道が真っ直ぐ続いていた。
「あれは陸路を開拓しようとした者達の夢の跡。」
街から伸びた道路の先に大きなトンネルがあった。
「ここからイケスカまで道路を通そうとしたんだよね。」
「でも、途中で放棄されて今に至るって訳だ。ほら反対側の出口は塞がってるだろ?」
オルカの言うとおり山の反対側の出口はなかった。あったのは山肌だけだ。
この世界のトンネルは全部手掘りだから、途中で嫌になったのだろう。
「皆さん、そろそろ到着しますよー」
カグマの言うとおり遠目だが高層ビル郡が見えてきた。
砂漠の中に唐突に現れる感じは中東の都市を思い出す。
そのビル群の方から一機こちらに近付いてくる機がいた。
砂色の五式戦闘機だ。
翼と胴体には丸と花の赤いマーク、イケスカ所属を表す識別マークだ。
五式戦闘機が編隊の前に来ると左右にバンクをした。
「ついて来いってか?」
「お行儀良くねオルカ」
「わかってるって姉貴」
オルカの流星が返事するかのようにバンクを降る。
五式戦闘機に先導され目的地が見えてきた。
イケスカ
イジツ最大の発展した都市。
高層ビルが建ち並び、その間を戦闘機が離発着できそうな位広い道路が碁盤の目みたく通っている。
その中心には
...
なんだかよく分からないキャラクターの大きな像がある。
本当になんだかよく分からない。
イジツの絵本、“ウーミ”に出てくるキャラクターやカナリア自警団の“アレ”の方がかわいい気がしてくる。
次いでだけど、カナリア自警団のアレはアコが考案したそうだ。
趣味が良いのか悪いのか。
なんて事をアオイが考えていると
「ほらアレだ!」
ビル群を通り過ぎてヌコヌコ沼が広がり、その真ん中に建設途中の建物が見える。
「あそこに降りるの?!」
「そうだよ!」
沼の真ん中に立つ高い建物の根元、紫電改と五式戦闘機が止まる滑走路が見えた。
最初に一式陸攻が着陸し、その後に烈風と零戦、流星の順で着陸する。
アニラの烈風に先導されアオイもアプローチに入る。
アオイは零戦のフラップを下ろし、失速ギリギリの速度で着陸する。
誘導員の指示にしたがって駐機させる。
着陸し零戦から降りたアオイは建設途中の建物を見る。
とにかく趣味が悪い。
ビルを無理やり古風に仕立てあげた感じだ。
その最上階近くにはビルを貫くように滑走路が付いている。
違法建築なんて言葉がぴったり合う造形だ。
「スゲーよなこれ、イジツで一番高い建物じゃないか?」
オルカが子供みたいに上を見上げながら、その場でぐるぐる回っている。
そこへ
「オルカさーん荷物下ろすの手伝ってくださーい。」
一式陸攻の所でカグマが手を降っていた。
「よしきた任せろ」
オルカとカグマ一行がバケツリレー方式で、一式陸攻から青色の花丸が描かれた木箱が多数、降ろされる。
箱の中身は四式射爆照準器一型と四式自動爆撃照準具だ。
前者は戦闘機の照準機で私の零戦にも搭載されている物で、ユーハングでは主に紫電改に付けられていた。
後者は鹵獲したB-25用ノルデン照準器をコピーしたジャイロ式の照準機だ。
どちらもハナマル飛行機製だ。
ハナマル飛行機は光学機器の製造も得意でハナマル製造の照準機は、イジツ全体に広まっている。
だが、わざわざシズマツから我々が派遣された理由は
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ジャズが流れるスズネ運送協会、会長室
「ボス、わざわざ遠いイケスカからシズマツのスズネ運送協会に?」
質問するアニラ、その横にはオルカとアオイ、一式陸攻の機長と副機長のヒルファとカグマも並ぶ。
その目の前では資料を見ているキシネ。
「そうですよ、イケスカにはブユウ商会があるのになぜわざわざうちに頼むんですか?」
荷物を運ぶ役の一式陸攻、その搭乗員のカグマがそう思うのは仕方がない。
「わざわざ自分達が危険な目にあってでも取りに行くつもりはないらしいわ。変わりにかなりの額の報酬を払ってくれるそうよ。燃料代も込みでね。」
「むぅ」
カグマは言い返せなかった。
「もし救難が必要な状況になったらイケスカから救難隊を飛ばすつもりらしいわ。」
「妙に待遇良いですね。」
カグマの発言に横のヒルファは頷く。
「あなた達は一式陸攻で行って貰うわ。」
「えっ?なんでですか?」
「なるべく急ぎの依頼でね、飛行船でも深山でもなく、一式陸攻による輸送で向こうから頼まれたわ。」
「あっだから私達も呼ばれたんですね。てっきり飛行船で行って、途中から一式陸攻で運ぶと思ってました。」
「そんな危ねぇことやらせるわけないだろ!」
カグマにオルカが突っ込みを入れる。
アオイは横で頷く。そりゃそうだ、双発戦闘機ならまだしも双発爆撃機が運用できるわけがない。
「ハッチ外すの大変だったし、あんな肝が冷えること二度とごめんだ!」
アオイは度肝を抜かれた。
実際に一式陸攻は飛行船に着船したことがあったのだ。
後で聞いた話だが、スズネ運送協会で使っている飛行船、タテヤマで一時期一式陸攻も運用できないか考えた事があったそうだ。
そこでタテヤマの船首と船尾のハッチと、ハッチ周辺の一部部品を取り外し、ギリギリ一式陸攻が入れる幅を確保したのだ。
そこで何回か発船試験をしていたらしい。
発進するのはわりと簡単そうだが、着船は相当苦労しただろう。
一式陸攻の全幅は大体25メートルある、だがタテヤマのハッチ周辺はどんなに広く見積もっても30メートルはない。
着船試験は一回きりだったようだ。
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そんなことを、目の前で作業しているヒルファとカグマ一行を見て思い出す。
アオイは周りの停まっている機が気になった。
周りに停まっているのは五式戦闘機だ。
終戦間際に登場した最後の陸軍戦闘機だ。
P-51やB-29を撃破するといった戦果をあげパイロットからの評価も高かった。
だがアオイから言わせたら五式戦闘機は、遅すぎた二軍戦闘機だ。
評価が良いのは先代に登場した四式戦闘機疾風に比べてエンジンの信頼性が高く、元となった三式戦闘機飛燕よりも上昇力と旋回性能が向上したからだろう。
だが当時、他国の戦闘機と比べたら技術的に進んでる所は一切ない。
アオイが二軍戦闘機と呼ぶ理由はそこだ。
しかし、もしこれが疾風より早く飛燕と同時期に登場していたら、米軍の戦闘機乗りは更に辛い戦闘をしていただろう。
発動機の選定がいかに大事だったかよく物語っている。
だから私はよくローズに零戦に金星エンジンを積んでくれって頼んでいるのに、「パーツが無いよぉ」と言って断られる。
はやいとこ実現してもらいたい所だ。
話がずれるが、紫電改みたいな高性能な機体が欲しいと前に言ったがこれも却下された。
「生産ラインが無いから無理!」だそうだ。
現在ハナマル飛行機で主に製造しているのが、零戦、隼、飛燕。エンジンだと栄と火星と熱田、誉だ。紫電と雷電も製造しているがこれは受注生産だそうだ、しかも割高。
生産ライン上に無い機体を作るとなると、完全なワンオフとなってしまう。
そうなるととんでもない価格になってしまう。
現在、アオイの貯蓄では到底買えそうにない。
また設計図も保持していないから当分無理だ。
保有する機体だけでどうにかするしかない。
そんな感じで苦虫を噛み締める思いをしていると、先導していた五式戦闘機の方から誰かがこちらに歩いてきた。
「やあやあ君達がスズネ運送協会のパイロット達だね。長らくの旅路お疲れちゃーん」
長身長でノリのよさそうな感じだった。