空駆けるミシラ飛行隊 荒野のコトブキ飛行隊 作:紅の1233
コンコンコン
アオイは扉を三回叩く、二回だとトイレになるからその辺配慮する。
「用件と名前は?」
中から声がする
「アオイです!面接の為にここに参りました!」
「入りなさい」
アオイはゆっくりと扉を開ける、床は赤い絨毯が敷き詰められ、正面には応接セット、更に奥の窓際には大きな机が置かれていた。机の上には蓄音機が置かれ、部屋中にゆったりとした音楽が流れていた。
アオイは中へ入り扉の方へ向き、ゆっくりと閉める。
向き直った先には女性が書き物をしていた。
金縁の眼鏡をかけて羽ペンでなにかを書いている。
髪は鮮やかな紫色の髪で、老いてる筈なのに全くそんな気配を感じさせない、いわゆる美魔女と呼ばれる感じの女性だった。
「アオイ、待っていたわ。とりあえずそこに座りなさい」
「はい、失礼します」
机前のソファーに座る。
「私の名前は“キシネ”、現スズネ運送協会会長キシネ。皆はボスって呼んでくれているわ」
キシネは蓄音機に手を伸ばし
「ちょっとうるさいわね」
針をレコードから離した。
「事業について軽く説明した方がいいかしら?」
「はいお願いします」
「スズネ運送協会は名の通り運送業が主、副業として学校や孤児院の運営、シズマツの工業地区への出費、農畜産業への発展を支援しているわ」
そういって羽ペンを壁に向ける。
アオイも指す方向へ向くとそこには学校や工場等色んな建物の写真が貼ってある。
「運送協会は曾祖母からやってる事業でね、昔は協会なんて名前がぴったり合うほどの大きなグループだったわ。でも今は殆どの運送会社が独立して今は商会の方がお似合いの筈なのに、今でも皆運送協会って呼んでるの、おかしいでしょ?」
そうキシネは笑って見せた。
「さて、昔話もこれぐらいにして貴女について話して貰うわ」
キシネは机の引き出しからファイルを取り出した。
「希望はミシラ飛行隊よね、アニラ達から推薦があるくらいだし」
「はい」
「他の業務の中で一番きつい仕事よ、それを承知の上?」
「はい!」
「いつどこで命を落とすか分からない仕事でも?」
「覚悟は出来ています!」
...
しばらく沈黙が続いた。
「飛行機には乗れる?」
「はい、つい先程アニラに試験して貰い合格を頂きました。」
「貴女はほんの数日前に突然姿を現た。おまけに記憶障害を持っている。間違いないわね?」
「はい」
「それでも飛行機乗れるのね」
「...」
「貴女、本当は記憶なんか失っていないんじゃないの?」
「...」
返答に困ってしまった。
「黙秘はだめよ、たとえ話したくないことがあっても私の前では隠し事は許されないわ」
キシネは手に持っていた羽ペンを置き、ファイルから七枚の写真を取り出しアオイの前に並べる。
アニラ、オルカ、エリ、リエ、ローズ、ミサオ、ミュラ
それぞれの顔写真だ。
「皆それぞれ他人には明かしたくない過去や執念を持ちながら私の元に来てくれたわ。それでも皆隠さずに私に全てを話し、私は採用する。これは曾祖母からの伝統でもあるの、どんな人でも採用する前には必ず聞く。貴女だけ黙秘というのは許されないわ。」
話さないという選択肢はない。仮に話さなかった場合ここに居られなくなる。
それは今まで優しくしてくれたアニラ達を裏切る行為でもある。
たとえ信じてもえないかも知れないが、今アオイにとって話せる唯一の事だ。
話したら後には引けなくなる、だが後悔はしない!
アオイは覚悟を決め話し始める。
「キシネさんは穴をご存知ですか?」
一瞬キシネは頭を傾げた。アオイの言った事があまりにも唐突だったからだ。
「えぇ知ってるわ、ユーハングとイジツを繋いだ」
「私は、その穴の向こうから来た人間かもしれないんです」
一瞬沈黙する両者
「かもしれない?貴女はその穴から来た事に自覚は...」
「ありません、それどころかどうやってここまで来たのか、よく分からない状態です。」
「そう...」
ファイルから新たに取り出した写真、それは自分が乗ってきた機体。
「それは!」
「やっぱりこの機体は貴方が乗ってきた物だったようね」
残骸からでも想像できる全体的に小型で丸い機体、バラバラになった尾翼に施された黄色と黒のチェック模様
T-4練習機
航空自衛隊で使われている主力中等練習機だ。ブルーインパルスで使用される機として有名な飛行機だ。
「安心して残骸はこちらで回収して、ミシラ飛行隊のハンガーに保管してあるわ」
その言葉にアオイは少し安堵した。
「それでどこに所属していたのかしら、確かユーハングは穴の向こうではニホングンと呼ばれていたようだけど...あなたも?」
「いえ、私は空軍...正確には“航空自衛隊”。つまり、後世の軍隊に所属していた者です。」
「ジエイタイ...」
キシネは聞き慣れない言葉に耳を傾ける。
「自衛隊と言いましても自警団や軍とは少し違いまして、なんて言えばいいでしょ...」
アオイにとって自衛隊を説明するのは少し難しく感じた。
アオイの元いた“世界”では自衛隊は軍なのかどうか等、よく議論が起こる。
いっそのこと武力と言い切ってしまえば潔く感じるかもしれない、だがそれを良しとしない連中が多くいる。
自衛隊に所属するアオイにとってそれはとても歯痒く感じた。
自分達は日陰者だと言われているようなものだからだ。
「いいわ、その辺にして」
黙りこんでしまったアオイを気遣って深く追求するのをキシネは止めた。
「質問ばかりで嫌になるかもしれないけど、貴女はその穴がまた開いた時には向こうへ帰るつもり?」
「はい...出来ることなら...」
「なるほどね...」
キシネは机から書類を取り出すとなにかを書き始めた。
「役所への届け出は私からしておくわ、貴女が戻れるまではうちにいなさい」
そう言ってキシネはウインクした。
すかさずアオイは立ち上がり
「ありがとございます!」
頭を下げる。
「いいわお礼なんて、部下のために動くのも上司の役目よ。それと」
「まだなにか...?」
「住居と機体はアニラ達と話し合って決めなさい。これから長い付き合いになるかもしれないんだからね、もう下がっていいわ」
「はい!これからお世話になります!」
アオイは部屋を出た。
カウンターの所まで戻るとミュラはさっきと変わらずにタイプライターを打っていた。
隣を通り出ようとしたら
「待ちなさい」
ミュラに止められた。やっぱりこっちを見てくれない。
そして、タイプライターを打つ手を止めてカウンターに真鍮でできた鍵を置いた。
「貴女の部屋の鍵よ、場所は隣のパン屋シオノの隣の女子寮、二階部屋よ。これからお互い世話になるわね」
そう言ってミュラは仕事に戻る。
「はい、よろしくお願いします!」
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スズネ運送協会の建物を出て隣、パン屋シオノに挟まれた小さなレンガ作りの建物、ここがスズネ運送協会の女子寮のようだ。
ドアを開け中に入るとまるで飲食店のような雰囲気だった。
スズネ運送協会本部同様に高い吹き抜けで、正面奥にはバーカウンター、左には本棚にジュークボックス、右には大人数が同時に食事を取れる長テーブル。
そして、バーカウンター隣に奥へ行くドアとバー上の廊下に繋がる階段がある。
「確か二階だった...」
アオイは階段を上る。
ベランダ状の廊下に六つの扉が並ぶ。
扉にはそれぞれ「1~6」の番号札がかけられている。
ミュラから貰った鍵には「6」の刻印が彫られている。
「6」の扉の鍵穴に鍵を挿し込みひねる
カチャ
開いた
中に入ると、ベッド、クローゼット、小さなテーブルと、必要最低限の家具があるだけの部屋だった。
...
アオイはベッドに飛び込んだ。
綺麗にしてあったタオルケットと毛布が一瞬でしわくちゃになった。
アオイに強烈な睡魔が襲ってきた。
朝から何も食べずに飛行機に乗り、そこから面接、気が緩んだこと、疲労が重なり眠りへの我慢が決壊した。
「まだ...やる...ことが、あったはず...あぁ...ダメ...すぅ」
アオイの意識は闇へ飲み込まれていく。
着替えもせず、シャワーも浴びず、飯も食べず、靴は一応ぬいだ。
とにかくもうそのまま寝てしまった。