空駆けるミシラ飛行隊 荒野のコトブキ飛行隊 作:紅の1233
開眼
アオイは眼を覚ました。
起き上がって窓の外を見る、日の出前位の明るさだ。
壁にかけてある針だけの時計を見ると四時少し過ぎた位だ。
普段より二時間程早い起床だ。
ふとクローゼットの方へ目線を向けると、ミシラ飛行隊のハンガー内で見たサバイバルキットの入った背嚢があった。
中身を確認したら予備のパイロットスーツが中に入っていた。
アオイは着ていたパイロットスーツを脱ぎ、下だけ新しいズボンを着用する。
ちなみに自衛隊のパイロットスーツ、もとい繋ぎは腰の部分で分割することが可能なのだ。
ブーツを履き、紐を閉め、アオイは部屋を出た。
部屋を出て鍵を閉め階段を降りようとしたら、隣の部屋のドアが開いているのに気付いた。
中を覗いてみるとオルカがいた。
ベッドから転げ落ちた状態で寝ている。仰向けで寝ているのに、私より大きい胸は横へ全く流れていないで形を保っている、だが色気のない下着だけ着て大口開けて寝ている様は、おっさんそのものだ。
「アネキ...カンベン...ガァ」
寝言から察するにアニラに何か注意でもされたのだろうか
アオイはゆっくりと扉を閉めた。
見なかった事にしよう
下へ降りたアオイはバーカウンターの流し台で顔を洗った。
今の格好は下は緑色のズボン、上は白いTシャツのみの軽装な格好だ。
別になんの問題はないだろう
そうアオイは考え外へ出た。
軽くストレッチをしてアオイはランニングを開始した。
これは昔からの習慣である。
それに町並みを見るいい機会でもあった。
西向きの大通りに面したシズマツ運送協会女子寮、西へ向けば住宅地、その反対側の東側には大農場地区が見える。
とりあえず町の中心部がある東側へ走り出す。
走っていると町の風景がよく分かる。レンガと石造りで作られた町並みは明治時代の日本だ。どこか懐かしく、目新しく思う町並み。
床屋にクリーニング屋、喫茶店に雑貨屋、おっと映画館まである。そうかと思えば木造建築の建物もちらりほらりと点在する。
ますます日本だ。
町外れまで来たところで折り返し寮を目指す。
日が徐々に地平線から顔を出し辺りは明るくなってきた。
人通りも多くなっていく、皆西側住宅地から町中心部の商店街へ、もしくは大農場地区や飛行場に隣接する工業地帯へ、向かう人達だ。
朝日が登りそれと共に仕事を始めて、日が落ちれば家へ帰る。
まさしく昔の日本だ。
そう感じながらアオイは寮へ戻る。
寮内に入ると、白い円盤が空を飛んでいた。
未確認飛行物体か、アダムスキー型UFOか、いや一緒か。
よく見るとそれは皿だ。かなりの速度で滑空した皿はテーブル脇に立つ、エリが取った。いや右側にサイドテールが出てるからリエだ。
「次トーストー」
左側にサイドテールを出したエリはバーカウンターの方から、トースターから飛び出したトーストをさっきの皿同様に投げる、それを簡単に受け止めるリエ。
「あっマーガリンとジャムも取ってー」
「はいはーい」
リエはそう要請する。エリはカウンター下の冷蔵庫からマーガリンとジャムの瓶をそれぞれ取り出すと、投げた。
それを造作もなく受け取るエリ、しかもそれぞれ片手でだ。
唖然としてたらエリとリエがアオイに気付いた。
「アオイお帰りー」
「ランニングー?」
「せいが出るねー」
「せいってなに?」
「エリ知らなーい」
この双子は朝から元気そうだ。
『アオイも朝ごはん食べる?』
そして唐突に綺麗にハモる
「頂くわ投げて寄越さないでね」
エリはもう一枚トーストを用意した。
アオイは取りに行こうとカウンターに向かうと、エリがマグカップでなにかをかき混ぜているのが見えた。
白いマグカップと黒いマグカップが二つ、嗅いだことある匂いだった。
「これって...」
「ミルクココア」
エリはそう答える。
ミルクココアは大正時代には既に存在していた。マーガリンも同様にその時日本にはあった。マーガリンとココアもおそらく穴を通ってこの地にやって来たのだろう。
その後エリはスープカップに野菜とベーコンが入ったスープを注いだ。
テーブルにエリとリエが並んで、その反対側にアオイが並び。
『いただきまーす!』
エリとリエは手を合わせて食べ始めた。
「いただきます」
アオイも手を合わせる。
アオイはマーガリンをトーストに塗り、ジャムの瓶に手を伸ばす。ジャムの柄を見るとブルーベリーと書いてあった。
軽く塗って食べ始めようと、ふとエリとリエを見るともう朝食の半分以上を食べ終えていた。
「二人ともなんでそんなに早く食べるの?」
そう聞くとエリとリエは
「朝一から」
「仕事があるんだ」
「それにはアオイも」
「同行させろって」
『アニラが言ってた』
食べながら交合に答えた。
アオイも急いで食べ始めた。
早食いは前から慣れている。
急いで食べ終えると皿を集めて、バーカウンターへ持っていこうとしたがエリとリエに止められた。
『片付けはローズに任せればいいよ』
「ローズ?」
『ん』
二人がアオイの隣を指差した。
アオイが向くとその先に
「びっくりした!」
なんとローズがテーブルに突っ伏していた。
全く気づかなかった、音も気配も感じられなかった。
「いぃいよぉ~、まぁかせぇて」
ローズの顔を見ると目の下に大きなクマがある。
「ローズどうしたの?!」
「あぁ~オイ、これぇ~やってぇたら徹夜しちゃいましたぁ~」
そう言って見せてくれたのは、右端に病院で撮ったアオイの正面写真、その横に色々書かれた履歴書のような物だった。
だが、下には戦闘機の真横から見た図と真上から見た図が載っていた。
「これぇなんだけどぉ~アオイは...どんな......ぐぅ...」
ローズはその場に寝てしまった。
「ちょっとローズ」
声を掛けても全く反応しなくなった。変わりに小さな寝息が帰ってくるだけだった。
「いつもローズってこんな感じ?」
エリとリエはやれやれって感じで
『そういつもこう』
「特に機械が絡むと」
「のめり込みすぎて」
「時間を忘れて」
「ご飯も忘れて」
『こうなっちゃうの』
仕事熱心なのは関心だけど徹夜は美容と健康の毒、作業にも支障が出る。なんてアオイは思ったけど今のローズにそんな事伝えられるわけがなかった。
見せてくれた履歴書のような物をローズの元に置き、三人は外に出た。
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側車に三人乗りして飛行場に到着した。
エリとリエが颯爽とバイクから降りるのに側車に乗ったアオイはぐったりしていた。
「リエ、飛ばしすぎ...」
「あのぐらい日常茶飯事だよ」
「ねー」
なにせ全く舗装されていない砂利まみれの道路を飛ばしたんだ、揺れでアニラは少し疲れてしまった。
気を取り直してアオイは側車から降りる。
目の前には一式陸攻と零戦三二型がエンジンをかけた状態で待っていた。
「それじゃあアオイは一式陸攻に乗って!」
そう言ってエリとリエは零戦三二型へ走っていく、一式陸攻の搭乗口の部分に琥珀色のツインテールにした娘が待っていた。
「アオイさんですね?私は一式陸攻副機長のカグマです」
カグマはアオイと握手をする。
「さあ入ってください」
カグマに案内されて一式陸攻の機内に入ると、爆弾槽の部分が改造されて荷物室になっていた。
そこへ野菜が入った箱、穀物袋が敷き詰められその上にも荷物が積まれ天井一杯にまで積まれていた。その脇には乳製品の入った木箱が置かれている。
総重量はおそらく一トンに達しているかもしれない。
だが、重量が二トン以上ある桜花を積むことが出来たんだから、これぐらいどうってことないだろう。
狭くなった機内を通り操縦席まで来る。
操縦席ではヒルファが飛行前のチェックをしていた。
「私はどこに座ればいいの?」
「そこに座ってください、ヒルファの後ろです。」
そこは操縦席後ろ、一段高くなった観測員用の席だ。
「リュー、上部機銃座に移ってくれる」
「ほーい」
リューと呼ばれた子は観測員席を私に譲ってくれた。
「それで私は何をすれば」
「もちろんこれです」
そう言って渡してくれたのは双眼鏡だ。
「見張り員です。」
そしてカグマも席に座ると機内電話で確認する。
「準備は大丈夫?」
「万端!」
「OK!」
「ほーい」
「いつでも行ける」
「状態良好」
「もちろんさ」
各員から返事が帰る。
カグマがヒルファに目線で合図を送ると、ヒルファは前を指差す。
「よし出発!」
カグマがスロットを前へ入れる。両翼に搭載した火星二五乙型の回転数が上がり、機体が前に進み始める。
アオイが後ろ方向へ向くとエリとリエの乗る、黒い零戦三二型がついてくるのが見えた。
乗ってるエリとリエはこちらに気付いて手を振っている。
滑走路に到達するとエンジン音がまた一段と激しく響き始めた。
ゆっくりと浮き始める機体。
アオイはハンガーの方を向く。
三つあるミシラ飛行隊のハンガーの前に、一機の戦闘機が置かれている。
塗装が全くされていないジュラルミン無地むき出しの銀色が、太陽光に反射して輝いている。
零式艦上戦闘機五二型だ。
零戦の中で一番多く生産された型で、零戦の中でも最高傑作とも呼ばれている位の機だ。
なにも塗装されていない無地そのもの零戦は、まるで米軍機にも見える。
滑走路から離れ、徐々に高度をあげていく一式陸攻、雲に隠れて見えなくなるまでその零戦の輝きにアオイは眼が離せなかった。
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シズマツから大分離れた場所。
周囲は見渡す限りの荒野だ。
その上を悠々と飛ぶ一式陸攻、その両翼に飛ぶ零戦三二型が二機。
アオイは周りを警戒しながら不思議に思うことがあった。
この一式陸攻の乗員は、どう見ても高校生にもならない年頃の少女ばかりだ。
なぜそんな歳でこんな任務についているのか疑問だった。
「カグマ達はどうして一式陸攻に乗ってるの?」
「唐突ですね。と言いますと?」
「いや、なんで貴方達みたいなまだ若い娘がこんな危ない任務をしてるのか気になって...」
「確かにそうですね」
「それに親御さんとかは心配しないの?」
「...」
カグマは黙ってしまった。カグマはヒルファを向くと、ヒルファは目線と仕草で合図した。
カグマはそれを見て決意し、アオイに話始めた。
「実は私達に親はいません、つまり孤児って訳です。」
それを聞いてアオイは驚いた
「ごめんなさい、悪いこと聞いちゃって」
「いいえ謝る必要はありません。確かにそう不思議に思っても仕方ありませんね。」
「やっぱり何か事情を持っているの?」
「えぇ今の仕事を選んだ理由は、キシネさんへのある種の恩返しです。」
「恩返し?」
「そうです。元々私達はシズマツではなく遠いインノと呼ばれる町にいました。」
そう言ってカグマは自身の手を見る
「その町は治安が悪くて人身売買なんて日常茶飯事でした。孤児である私達なんかただの家畜同然にしか扱ってくれません。私達はそれが嫌で逃げ出して、路地裏や廃屋に隠れて生活し、窃盗や詐欺、密売といった犯罪に手を染めて生き延びていました。」
アオイは目の前にいるカグマにそんな過去があるなんて信じられなかった。
「でもそんな生活は長くは続きません。ある日へまをして捕まってしまったのです。また競売に掛けられていたところを、助けてくれたのがキシネさんだったんです。」
そう言ってポケットから写真を取り出す。そこにはカグマとキシネが並んで立っている写真だ。
「キシネさんは私達を高値で買いここシズマツに移住させてくれました。そこで私達は始めて人の暖かみを感じました。シズマツの人達は見ず知らずの私達を受け入れて優しくしてくれました。そしてキシネさんは私達に住む場所を提供し学校へも行かせてくれました。インノの時とは比べ物にならない位明るい生活が出来る事ができました!」
隣にいたヒルファも頷く
「私達は少しでもいいからキシネさんの役にたちたい、そう思って一式陸攻に乗っているんです!」
「そうだったの」
「ところで」
「うん?」
「スズネ運送協会にいる人は昔からなにかを抱えている人が多いみたいなのです。アオイさんもなにかあったんですか?」
藪から棒だった。
「いや、私は...」
「ええ、いいじゃないですか。ずるいですよアオイさんだけ話さないなんて」
アオイは双眼鏡を覗いてそっぽを向いた。
「ほら任務に戻って」
「あぁー逃げないで下さいよー」
だが話をしている場合ではなかった。
覗いた先に機影が見えたのだ。
「三時の方向に機影を確認!」
「えぇ!?数と機種は?」
見えているだけで六機、翼下から固定された脚が見える。
「数は六、固定脚機」
「六で固定脚...モメガ!この辺で固定脚機の飛行プランはある?」
機内電話で機首にいるモメガに呼び掛ける。
モメガからの返答は早かった。
「この周囲にそのような飛行プランはありません、おそらくこの辺に出没するアカリス賊です!機種は九六式艦上戦闘機です!」
「やっぱりね総員戦闘配置について!」
その号令と共に各員一斉に持ち場の機銃を確認し、旋回機銃なら動作確認、横の銃座だったら窓を開けて機銃を外に向ける。
「迎撃体勢を取るようにエリさんとリエさんに伝えて」
「了解!」
アオイから見て右斜め後ろの通信席で無線担当のムサイは急いで、護衛のエリとリエに連絡する。
即座に護衛の零戦三二型二機がアカリス賊のいる方向へ機種を向けた。
「アカリス賊って...」
「空賊ですよ」
「空賊?」
「空賊は戦闘機に乗って輸送機や飛行船を襲ってくる悪い奴等です。」
「やってることは海賊と一緒ね」
「さあ行くよ!」
「空戦上等!」
エリとリエは真っ直ぐアカリス賊の正面から突っ込む。
アカリス賊六機が横列になると全機が一斉に機銃を撃ってくる。
それを見透かしたように二機の零戦三二型は機種を下げ降下すると一気に機種を上げ、九六式の尾翼を掠めるように上昇していく。
リエは20ミリと7.7ミリ両方を撃つ、九六式の尾翼が吹き飛び堕ちていく。
降下加速度も加えて上昇、宙返りを素早く行い九六式艦戦の後ろにまわる。
するとアカリス賊は左右、二手に別れた。
「私は右!」
「なら左!」
エリとリエも別れて追撃する。
エリは一気に九六式に追い付くと7.7ミリ機銃だけ撃つ。九六式の主翼付け根に当たりバランスを失って落ちていく。
「よし当たり!おっと」
後ろから曳光弾が追い抜いてきた。
後ろを確認すると二機追いかけてくるのが見えた。
「あれやるよ!」
「オーケー!」
エリとリエはお互いの場所を把握する。
エリは九六式を追うのをやめリエの方へ向く、当然九六式はエリの後ろへ付く。
「よーし食い付いてきたよ!」
そのままエリとリエはそれぞれ正面を向き衝突する形となる。そしてギリギリの所で
『そーれ!』
機体下を掠めるようにすれ違う。
しかし、後ろにいた九六式は避けきれずに仲間通しで正面衝突をしてしまった。
残り二機
不利に思ったのか一機が逃げ出そうとしたが無理だった。
九六式艦上戦闘機は最高速度が時速400キロ程度、対して零戦三二型の最高速度は500キロ以上だ。
あっさり追い付いてエリによって撃墜されてしまった。
「後、もう一機!」
「一式陸攻に向かったよ!」
九六式が一式陸攻に向かっていくのが見えた。その後ろをリエが追いかける。
機銃を撃つがふらふら飛んで避けられてしまう。
「ちょこまかと鬱陶しい!」
だが一式陸攻が射線に入り始めて撃てなくなった。
「しゃーない!」
「九六式一機こちらに接近!」
アオイは向かってくる九六式を見た。
仲間を全滅された怒りか、死なば諸共の覚悟で真っ直ぐ突っ込んでくる。
「迎撃用意!」
不意にヒルファが声を上げた。
リエの零戦三二型が急上昇し、銃座の射線から外れると
「迎撃開始!」
上部、側部、前部の三つ銃座が一斉に射撃を開始する。
九六式は一式陸攻を撃つため機動が真っ直ぐになってしまった為当てるのは簡単だった。
機体が三回大きくぐらついた後、火を吹いて一式陸攻の下を抜けていった。
「状況終了、各員警戒を怠るな」
そう言ってヒルファは黙ってしまった。
「ふぅ、これで暫くは安心出来ますね」
カグマは安堵して胸を撫で下ろした。
アオイは心情は少し不安になった。
これからこの娘達を守らなくてはならないのだから。
見上げた一式陸攻の上空では零戦二機がロールをしながら、アオイ達を追い越していった。