空駆けるミシラ飛行隊 荒野のコトブキ飛行隊   作:紅の1233

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皆さんは一番くじは何当たりましたか?
私は三つ引いてF、G、H賞が当たりました。
三つともザラ!これにはびっくり。


黒と白の翼

イズルマ

飛行場

 

イズルマに到着してアオイはアノ機体のことで頭がいっぱいだった。

水冷エンジンの機体を色々思い出した。

第一に思い出したのはアメリカのP-51ムスタングだ。だがすぐに候補から外れた。

ムスタングにはラジエーターを冷やすための大きな空気取り入れ口があるはずだ。それと現存していた機体のほとんどは銀色だったはずだから、月光に反射してギラギラ光っていてもおかしくない

その次の候補は同じくでアメリカのP-40だ。あえて名を言わなかったのは三つもあるからだ。それはいいとして、これもすぐ候補から外れた。

P-40の機首、カウル下は口みたいに大きく開かれている。それが見られなかったアノ機体はP-40じゃない。

そこで次の候補、いやこれが大本命。

ドイツのBF109だ。

飛燕と殆ど同じエンジンを使っている上、数は少ないが研究目的で日本に輸入された記録もある。

穴を通ってこの世界に来た可能性だって十分あり得る。

「でもあのメッサーのパイロットは私を攻撃しなかったのかしら...」

そこが不可解だ。

私とオルカを攻撃チャンスはいくらでもあった。なのに攻撃しなかった。

「なぜ...」

「アオイー、そんな所で何してるの?考えごと?」

下から声がした。

アオイの下でアニラが手を降っていた。

アオイが腰かけて考えごとをしていたのは愛機、零戦五二型の主翼の上だ。

普通はそんな所に座っちゃダメだが、補強してあるおかげで全く問題なく座れる。

「正解、考えごと」

「ちょっと時間くれるかなー?」

「いいわ」

アオイは翼から飛び降り、アニラの近くに着地した。

「要件はなに?」

「実はね、シズマツのカナリア自警団にね演習相手を頼まれたんだけど、良いかな?」

「今すぐ?」

「そうだよ。特別報酬もでるからさぁ、ね?」

「報酬目当てでやるつもりはないけど...」

「そうなの?エリとリエは特別報酬ありって聞いたら大喜びで引き受けてくれたよ。」

「オルカとローズは?」

「オルカは買い物に行ったよ。ローズはプラグと下請けに出したパーツを取りに行くって。」

「なるほどね、アニラは?」

「私は下で評価と記録係を頼まれたよ。」

「飛ぶのは零戦だけになるわね。」

「機体統一した方が訓練しやすいからね、それにアオイ達の機体は昼間は目立つから敵機役にぴったりだよ!」

「私のは本来昼間でも目立たなくするための塗装なんだけどね...」

アオイの零戦に施してある洋上迷彩は元々、昼間の海上を低空飛行する際に目立たなくするための塗装だ。

ただ、海の無いイジツでは昼間は目立ってしょうがない。夜間は別だが。

「まぁいいでしょ。敵役が目立つ塗装をしていれば負けた時に敵機が見えなかったから、って言い訳出来なくするし。」

「確かに、私らはさながらアグレッサー部隊といったところね。」

「あぐれっさー部隊...?」

「なんでもないわ、忘れて」

「うーん?」

「とりあえず私は先に休憩してくるわ」

アオイはその場を後にした。

「あぐれっさー...ってなんだろう?」

アニラは首を傾げる。

その後ろでは零戦の蒼が太陽に照らされて、輝いていた。

 

しばらくたって

 

滑走路横の駐機場に綺麗に並んだ、全体を薄い黄色で塗り青い帯を付け、機体横にカナリアのマークを付けた紫電が四機。

その反対側に、機体横に赤丸にカタカナの『ス』を付けた全体を真っ黒に塗った零戦三二型と、同じマークを付けた濃い蒼色と水色の洋上迷彩をした零戦五二型が並ぶ。

「本日は宜しくお願いします!」

『おねがいしまーす!』

カナリア自警団の、アコ、エル、ヘレン、リッタが並ぶ。

「じゃあこれから打ち合わせを...」

『私達はパスで』

エリとリエはそう言って自分達の愛機の方へ向かった。

「えっ?ちょっとエリ、リエ!」

アオイが呼び止めようとするが

「だってこれから私達敵じゃん?」

「下手に仲良くして情が入ったら」

『演習にならないもんね~』

二人は各自零戦三二型の点検を始めた。

「全く、あの二人はいつもマイペースね。」

「すいません」

アオイは呆れ、アニラがアコに謝ったが、アコは

「いえいえ、それだけこの訓練に取り組む気があるんですよ。」

「そうかしら?」

「そんなことより搭乗する機が全てバラバラなのにあの高度な連帯が取れるミシラ飛行隊と訓練出来るんですよ!感激です!!」

アコの横で眼を輝かせるリッタ。

「巷には飛行隊全員が訳有りと聞きましたが、実際はどうなんですか?」

「それについてはノーコメントで」

「同じく」

エルの問いにアオイとアニラはそっぽを向く。

「フフ、もしそうだったら面白そうですね。」

「もうエル!」

言ってることは正しい、今アオイが解っているだけでも元空賊団長、お尋ね者、擬記憶喪失(アオイ)がいる。

スズネ運送協会の従業員の多くが訳有りの人が多い。

整備士をやっているジロウは元ギャング、事務をやっているミュラは...謎。

といった感じで、表沙汰に出来ないことを背負った人が多く勤めているのがスズネ運送協会だ。

ボスであるキシネはそういう所は気にしない寛大な人なのか、もしくはそういう人達を救うために多く雇っているのか、それはよく分からない。

 

簡単なミーティングを終えて滑走路に並ぶ両隊。

紫電と零戦を並べると、その違いがよくわかる。

零戦は低い位置に羽が付いているが、紫電は機体の中間位の高さに付いているため脚が長い。おかげで地上では操縦席から正面が殆ど見えない。

更に紫電のプロペラが零戦のに比べて大きいことがよくわかる。だが、アメリカのP-51ムスタングやP-47サンダーボルト、F4Uコルセアに比べたら小さい。速度を手っ取り早く向上するには、プロペラを大きくするのも一つの手だ。これも日本機が米国の戦闘機より劣っていた理由の一つだ。

零戦は栄、紫電は誉、それぞれのエンジン音を響かせて離陸していく。

 

両隊離れて、アオイは編隊を調える。

両翼端にエリ・リエがつく。

アオイ、エリ、リエが領空を侵犯し、それをアコ、ミント、リッタ、ヘレンが紫電に乗って迎撃にくる。

エルも本来加わる予定だったが、搭乗機に異常がみられたのでアニラと共に下で評価することになった。

今回実弾演習、実弾といっても中身はペイント弾。

当たった範囲を下から観察して判定するらしい。

ちなみに中の塗料は低温になるとゴムみたいに固まって剥がれなくなるらしい。

一体どういう仕組みなんだろう、そう思っていると

「イズルマ市営、こちらカナリア自警団です!貴方達の飛行プランは提出されていません!速やかに等空域から撤退して下さい!」

アッコが無線で呼び掛ける。

「来たわねエリ、リエ、配置用意」

『りょーかい!!』

アオイは減速してアコの斜め後ろに付くと射撃をした。だが弾道は機体から大きく離れている。

いきなり当てて撃墜、では訓練にならない、今回は警告後に敵が攻撃、その後空中戦に発展したという想定で行われる。

カナリア自警団から離れたアオイ、エリ・リエは隊列を整える。

アコの正面に対向する形になる。

『突撃ー!』

「火力と防御力で勝る敵にはヘッドオンしないのが鉄則なんだけどね...」

アオイとエリ、リエは真っ直ぐカナリア自警団に突っ込む。

「えっ正面突破?!」

アコが驚いていると目の前で三機の零戦が編隊を組んだまま急上昇する。

宙返りすると三機は揃ってカナリア自警団の真上から仕掛けてくる。

「全機散開して下さい!」

『はい!』

アコの呼び掛けにカナリア自警団全機散開する。

それを予想していたアオイは操縦桿を引いて機体を水平にする、そのままアコの後ろに付く。

「さぁこれで終了...」

機銃の発射レバーを握ろうとした時、

「お姉様危ない!」

ミントが後ろから容赦なく撃ってきた。

アオイは操縦桿を左右に降って弾を避ける。

 

「ヘレンさん!後ろはお任せ下さい!」

「はいよー」

リッタから元気な声が出るがヘレンは間の抜けた返事しか出ない。

目の前ではエリとリエの零戦三二型が、まるで曲芸飛行の如く、両翼が触れ合うほど接近したり、そのまま背面同士を重ね合う形でバレルロールをしたりと、まるで敵を錯乱させるような動きをする。

「ぬおおお、当たれー!!」

ヘレンの前に出たリッタは紫電のスロットルレバーに付いた20ミリ機銃用のボタンを押す。

だが目の前で蝶のようにふらふらと飛ぶエリとリエの機体には当たらない。

「へぇーあの双子なかなか上手だねー」

「感心してる場合ですか!」

突如二機の零戦三二型は急上昇を始めた。1130馬力を出す栄エンジンが軽い機体をぐんぐん引っ張って行く。

それにヘレンとリッタも続く。

「上昇力なら負けませんよ!」

対する紫電の誉エンジンは最大2000馬力を出力する。

徐々に紫電が零戦に近付いていく。

「よし撃墜!」

とリッタは射撃しようとした時、エリとリエの零戦三二型はラダーを横に向けて機体をスピンさせ、機首をこちらに向けてきたのだ。

「危ない!」

「おっと」

リッタとヘレンは二機を避けると自身も宙返りをして、降下していく零戦を追撃する。

 

「エリとリエ...でしたっけ、敵を翻弄させるのがお上手ですね。」

「そちらのエレンさんとリッタさんも中々良い判断力だよ。」

アニラとエルは双眼鏡を片手に各機の動きを評価していく。

エルはふと空から目を離しアニラの右足へ移す。

目線を感じたアニラは気付いた。

「なに、気になる?」

「いえすいません...つかぬことを聞きますが、先ほど右足を引きずるように歩いておりましたが、お怪我を...?」

「あぁこれ?これねぇ、義足をはめてあるんだよね。」

「義足...!」

「昔ね、敵の弾が機体を貫通して直撃。痛かったんだー、今は馴染んでるから気にしてないよ。それにしても、足が気になるってことは知り合いに誰か同じような境遇の人がいるの?」

「えぇ、祖父が足を痛めてまして。なにせ実業家でいつも色んな所に飛び回っていました。」

「なるほどねー」

「話は変わりますがミシラ飛行隊は六人いると聞きましたが、残りの二人は」

「おーい姉貴ー」

声がする方を向くと、見覚えのある銀髪で長身の女性がリヤカーを引っ張ってこちらに来るのが見えた。

「あっちょうどいい所に来た、おつかいお疲れさまー」

オルカはリヤカーに大荷物を入れて引っ張って来たのだ。

そこにローズの姿が見えなかった。

「あれ?ローズは?」

「ローズは...」

「すぅ...」

どこからか寝息がする。

リヤカーを見ると荷物の間でローズが器用に寝ていた。

「お前はなにを寝ているんだ!」

オルカはローズの額をはたいた。

「いたいなぁー」

額をさすりながら起きるローズ。

エルはローズの顔を見て

「あら、ローズ?」

「あれぇ、もしかしてエルぅ?!ひさっしぶりだねぇ!!」

「しばらくぶり、会ったのは学生の時以来かしら?」

「そうだよぉ!卒業して以降は私は家出しちゃったからぁ会ってなかったよねぇ。」

「家出!一体何をしていたのかしら?」

「そこはあまり掘り下げないでぇ」

ローズとエルが昔話に花を咲かせてるなか、アニラはオルカが引っ張って来た荷物が気になった。

「おつかいご苦労様オルカ」

アニラは引っ張っていたリヤカーを見る。リヤカーには買い物に混じって麻袋に包まれた大型の荷物が二つがあった。

「かなり大きい荷物だね、中身は?」

「13.2ミリ機銃だってよ」

13.2ミリ機銃とは三式十三ミリ固定機銃のことだ。零戦五ニ型の派生型や試製烈風に搭載された機銃だ。

12.7ミリブローニングM2機関銃をコピーして作られたのが本機関銃だ。

その13.2ミリ機銃がニ丁並んで置かれている。

「13.2ミリ...、なにに使うの?」

「ローズいわく、彗星の火力アップに使うってさ。」

「おぉ頼もしいね、でも何処に積む気なんだろう?」

ローズが乗っている機は彗星、もう機銃の搭載できるようなスペースはない。

「さぁな、それはローズに聞いてみないとわかんねぇな。」

オルカがふと上空を見るとアオイの零戦にミントの紫電が接近するのが見えた。

「おっ、アオイがピンチだぞ」

「あっねえねえオルカ」

「なんだ姉貴?」

「あぐれっさー部隊って知ってる?」

「聞いたことないな、なんだそれ?」

「アオイが言ってたんだけど新手の空賊かなにかかな?」

オルカの頭の中でアオイに関するある推測が生まれた。

だが、今は確証が得られないから話すべきではない。

下手に言って姉貴を困らせてはいけない。

オルカは自制した。

「知らないな、それより演習の監視はいいのか姉貴?」

「あっ!いけないいけない、えへへ」

「しっかりしてくれよ姉貴」

アニラは慌てて双眼鏡で上空を見た。

 

垂直上昇に入った際にアオイは少し後悔した。

紫電と零戦では上昇力を比べたら、紫電の方が上だ。

後ろから接近してきたミントの機体から20ミリ機銃が発射される。

被弾する。

と思ったら機銃が途中で止まった。

「えっ?!弾切れ」

ミントは一瞬思考が停止した。

紫電は20ミリ機銃が翼に四基と強力だが致命的な欠点がある、弾薬が少ないことだ。

紫電の20ミリ機銃は零戦から流用したドラム弾倉式のため100発しかない。

引き金を十秒程連続で引けば弾切れを起こすほど少ないのだ。

それを悟ったアオイは零戦の操縦桿を左下に倒す。

上昇しながら零戦をバレルロールさせた。

「上昇中にバレルロール!!」

ミントが驚いている中、アオイは後ろに付き発射トリガーを握る。

ミントの紫電の左翼に五発、命中した。

「お姉さまー!」

ミントの機体が離脱していく。

「ミントさん!」

アオイは動きが単調になったアコを狙った。

だが機体が言うことを聞かなくなった。

失速を起こしたのだ。

アオイは機首を下に向け増速させる。

だがその隙にアコの紫電が後ろから接近してきた。

「この!!」

機銃を撃ち続けるアコ。

その時、一発がアオイの零戦の右翼に当たった。

「当たった!」

だがアオイは離脱しない。

まだ一発程度なら撃墜判定にならないのだ。

アオイは零戦が増速させた所でまた一気に上昇させる。

今度は垂直上昇ではなく宙返り、巴戦に持ち込む。

アコも体にかかるGに耐えながら追おうとするが紫電と零戦では、零戦の方が有利だった。

アオイはGの影響で脳の血圧が下がり眠気が襲いかかってくる。ブラックアウトの前兆だ。それを奥歯を噛みしめて我慢する。

そして、機銃の操作スイッチを7.7ミリと20ミリ同時に撃つ位置にあることを確認し、照準機と紫電の位置を見る。

この世界の戦闘機乗りの多くは数打ちゃ当たる方式で撃っている。

つまり照準機を見て中心に来た所で撃ち、外せば修正する。

これを繰り返しているのが多い。

今まで後ろから撃っていたミントやアコも同じ事をしている。

だが、アオイは違う。

敵が進む方向、弾道を予測し撃つ。

弾を敵に当てに行くのではなく、弾に敵が当たりに行くようにしているのだ。

アオイは紫電が照準機を外れ、隠れる位の位置で射撃トリガーを握る。

翼と機首、四ヶ所から銃弾が飛び出す。

アコの紫電の左右の主翼、胴体後部に着弾する。

「きゃあ!」

「カナリア自警団の団長、撃墜と」

 

その後、アオイはエリ・リエの援護に向かおうとしたがヘレンとリッタ、両機ヘッドオンをして相討ちになり、残存機はアオイ一機だけになってしまい、侵犯側の勝利で演習を終えた。

 

アオイは駐機した零戦の翼を見ていた。濃い青と水色の洋上迷彩についた黄色のペイント弾。

「アオイさん」

そこへアコがやって来た。

「今回はいい経験をさせてもらいました。実戦さながらの訓練ははじめてでした。」

「はじめてで味方の連帯、操縦も的確だったわ。私相手にあそこまで飛べれば実戦でも勝てるわ。」

「そんな謙遜する必要ありません。負けてしまったの私達なんですから。」

「いえ、今回の判定は私達が勝利になったけど、実戦だったら負けていたわ。」

「えっ?なぜですか?」

「これよ」

アオイが指差したのは零戦に残るアコが唯一当てたペイント弾だ。

「当たってる箇所がエルロン、補助翼の基部に当たってるわ。もし本当に実戦だったら機動が遅くなって、今頃地面にダイブしていたわ。それに私の乗ってるのは零戦だし...」

「でもミシラ飛行隊の零戦は通常とは違って改造が施されていると聞いたのですが」

「例え改造してあっても所詮零戦よ。貴女方が使っている紫電に比べれば防弾は無いようなもの。敵が当てにくい動き、いや敵が射てない位置に行くのが、生き残るコツよ。それに」

「それに、なんですか?」

「弾を無駄遣いしないことね」

「アッハハハ、やはり気付いてましたか。紫電は装弾数が少ないんですよね。どうしたらアオイさんみたいに当てることが出来るんですか?」

「偏差射撃って奴ね。」

「偏差射撃...」

「照準機の中心に敵機が来てから射撃するのではなく、敵機が来ると思う方向、弾道を予想して敵機が弾に当たりに行くような射撃をするの。こうすることで無駄遣いも減らせるわ。」

「なるほどー」

「お姉さま!あっ、お話中でしたか、失礼しました。」

二人の元にミントが来た。

「あぁ待ってミントさん。何かようですか?」

「あぁはい。皆で烈風を見ませんかって、聞こうと思ってました。」

アオイがミントが来た方向を見ると、飛行場でリッタとエルが烈風を見上げていた。

「エルさん見てください!幻の艦上戦闘機烈風ですよ!感激です!」

「噂は聞いていましたが、まさか実機が存在していたなんて」

烈風を見上げていた。

そこへアオイが来て。

「よかったら飛んでるところ、見てみる?」

「良いんですか!?あざーす!!」

アニラの配慮に大喜びのリッタ。

「へぇあれが烈風。」

「よかったら行ってきたら?」

「えっ、でもまだ話の途中...」

「話なんてまた後で出来るわ。」

「アオイさんありがとうございます。行こうミントさん。」

「はい。お姉さま。」

アコとミント、二人仲良く歩いていくのをアオイが見届けるとそこへ

「アオイ~」

ローズがリヤカーを引っ張って現れた。

「ローズ何かよう?」

「下請けにぃ出したぁパーツの一部を忘れ物しちゃってねぇ。それを一緒にぃ取りに行ってくれないかなぁ?」

「オルカはどうしたの?」

「アニラのぉ烈風の始動の手伝いをやってるよぉ。エリとリエはぁどっか行っちゃったしぃ、アオイにしか頼めないんだよぉ。」

「わかったわ、付き合ってあげるわ。」

「ありがとぉ♪」

「で、ローズ。」

「なにぃアオイ?」

「忘れ物ってなんなの?」

「13.2ミリ機銃の弾薬と増槽タンク。」

 

二人は歩いていくと、工場に着いた。

「それじゃあぁ、アオイはここでぇ待っててぇ。」

「わかったわ」

アオイは外で待つことになった。

そこへ

「やぁお嬢さん、暇してるかい?」

声をかけてきたのは灰色の作業着がオイルで汚れ、年期の入った帽子を被ったおじいさんだった。

「あの貴方は」

「お前さん、飛行機乗りじゃろ?」

「え、えぇ。でもなんでわかったんですか?」

「ハハハ、今はこの工場で働いておるが昔は飛行機の整備士をやっておったじゃ。飛行機乗りかどうかは雰囲気で分かるもんじゃ。」

雰囲気?服装ですぐに分かる気もしたがあえてそれは言わなかった。

「まぁそこに座りたまえ、どれジジイが暇つぶしに一つ、不思議な話しでもしてやろう。」

そういって案内されたのは工場外の一角に設けた、テーブルと椅子が置かれた場所だった。

「昔イズルマにはな、“イカルガ”自警団という強い飛行隊があったんじゃ。」

「昔...今はないのですか?」

「あぁない。ある日団長であるトキオが不慮の事故で亡くなってしまってな。それから直ぐに解隊になってしまったんじゃ。」

「それは残念でした。」

「ちなみにトキオは、カナリア自警団団長のアコの父親じゃ。」

「!!」

「まあそれはいいとして、不思議なのはここからじゃ。その事故は新聞に載ったが、写真は載っていなかったんじゃ。」

「確かに、そういう墜落事故が起こった場合事故機の残骸とかを載せたりしますね。」

「そうじゃろ?それに事故が起きた際に真っ先に検証しに行くのがワシら整備士じゃ。じゃがな、そういうのをやった覚えが全くない、これは上が情報を意図的に規制をかけてるとしか思えんのじゃ。じゃがこんな年寄り一人ではどうすることも出来んよ。」

「結局事故原因はなんだったんでしょう...」

「団員の一人が言うにはな、団長は雲の中に入ってパッと消えちまったみたいじゃ。で、その時に

『なんだこの穴は』

といったそうじゃ。」

穴?!!

「まぁその操縦士が嘘言ってるかも知れんから真相は闇の中じゃ。とりあえずアンタも雲の中を飛ぶ時は気を付けるんじゃぞ。」

そう言うとおじいさんは立ち上がり

「話しすぎて喉が乾いてきた。どれお茶でも持ってきてやろう。」

と言って工場内へ入っていった。

アオイは脱力して椅子の背もたれに背中を預ける。

アオイの目線の先ではアニラの烈風が飛んでいた。

零戦並に軽快な動き、紫電以上の上昇力で昇っていく。

その翼は太陽に反射してキラキラと輝いていた。




スズネ運送協会保有機体
その3
ヒルファ(機長)、カグマ(副機長)、モメガ、リュー、レム、ニッパ、ラウ、キプシロン
一式陸上攻撃機三四型改
塗装:史実と同じ、茶色と緑色の二色迷彩
マーク:タンポポ

インテグラルタンクを廃止して自動防漏タンクに、更に防弾ゴムも自動消火装置も装備された。
水平尾翼への上反角追加等の改修を施した
上方旋回機銃と後部機銃は長砲身の20ミリ九九式二号銃、前方と横方は13ミリニ式機関銃が装備されている。両方ベルト式。前方銃座の左右は任意で7.7ミリ九ニ式機関銃を取り付け可能。
爆弾槽を改良した荷物室が設けられ最大積載量は1トン前後。食料品や手荷物関係が主な運搬物。
スズネ運送協会所有している輸送機の一機、基本的に近場への運送に使われる。

深山改
塗装:史実と同じ、一式陸攻と同じ
マーク:ひまわり

殆どが忠実と同じ、唯一の違いが火星二五型乙に換装されている位。
最大積載量は4トン。
エンジンや大型の工業機械を運搬するのが主な運用、まれに旅客機として使用されることもある。
ユーハングの工厰跡地にある援蔽壕でバラバラに分解された状態発見されたのを、スズネ運送協会が復元した物。

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