その瞳に映るもの 作:シルベスター
なんか本編の内容まとまらないので外伝ですが、とりあえず生存報告と投稿をさせていただきます。
はるえ、ふぁーすとこんたくとぉ
「スズ?あんた、今度の土曜、私に付き合いなさい」
幼稚園の帰りに、かーさんにそう聞かれたのが全ての始まりだったと思う。
「ねぇ、かーさん?それっておれに、きょひけんある?」
「無論ないわよ?スズはお母さんの言うこと断らないでしょ?」
「ことわらないっていうか、ことわれないといいますか」
かーさんのお願いとか、断っても断れないし…。
そんな感じで半強制的に、土曜日に連れて行かれたのは雀荘。
雀荘って言ってももう使われてないらしく、部屋の中には古びた卓1つしか無かった。
「かーさん、ここになんかあるの?」
「ああ、ちょっと待っててね、スズ。もうすぐ来ると思うから」
そう言ったかーさん止まっていると、その人はすぐに来た。
「すみませーん。涼子さんいますかー?」
入口の方からそんな声がして、かーさんはその人を迎えに行った。
すぐに戻ってくて、俺にその人を紹介してくれた。
「スズ。紹介するわね。この子は赤土晴絵ちゃん。阿知賀女子の高校1年生で──」
初めて会った時のその人はとても悲しげで、無理をしているように見えて、なんでか分からないけど、俺はその人に魅かれたのだ。
「──今日からスズの麻雀の先生よ?」
それが晴さんとのふぁーすとこんたくとだった。
◇◇◇
「ねぇ、晴さん?こういうときってどーするの?」
「ん?あー、えっと、これは…」
晴さんはとっても不器用だった。
俺にもだけど、特に麻雀に対して素直になれていない感じがして、もどかしかった。
「じゃーこれは?」
「スズ、それは…」
最初の頃は教えてくれるばっかりで、一緒に打ってくれなかったけど。
段々と晴さんは笑ってくれるようになって…。
「でさ、はるさん…」
「あははっ!スズってそういうことするんだ」
麻雀をしてない時の晴さんは、とっても優しくて、楽しそうだった。
でも、いつまでも俺と打ってくれることはなくて、それが少し寂しくて、あの頃はとーさんもかーさんも忙しかったし、友達だってそんなに沢山いた訳じゃなかったから…晴さんは唯一俺と遊んでくれる人だったってのもあって…それでも嬉しかったんだ。
「はるさんはさぁ…なんで、おれとあそんでくれるの?」
ある時、晴さんにそんなことを聞いたことがある。
晴さんは、なんとも言えない顔をして、それで笑って言っていた。
「私が遊んであげてるんじゃなくて…私がスズに遊んでもらってるんだ…」
「どこをどーみてもおれがあそんでもらってるよ???」
あの頃は…いや、今もだけど晴さんの言ってる意味わかんなかったなぁ。
「うーん。そういうことじゃないんだよなぁ…」
「???」
「…スズは麻雀好き?」
こんな感じで唐突に聞かれたことを今でも覚えてる。
「うん!すきだよ!だって、まーじゃんはかっこいいもん」
「それって、涼子さんや浩介さんが麻雀やってたから?」
「そうだよ?…でも」
「でも?」
「それだけじゃないんだ。とーさんもかーさんもまーじゃんやってるのかっこいいから、おれもやりはじめたけどね!でも、いまいちばんかっこよくて、すきなのははるさんだから!おれがいま、まーじゃんすきなのは、はるさんがいるからだよ!」
「…え?」
そうなんだ。とーさんもかーさんも麻雀をやってて、俺も見よう見まねで始めたけど、それはきっかけに過ぎないのだ。
なぜなら、俺は晴さんと遊べることが楽しくて、晴さんに遊んで欲しくて、晴さんの笑顔が見たくて麻雀をやっていた。
晴さんが大好きだから、俺が麻雀をやる理由はそれだけだった。
◇◇◇
当時の私は、全国大会準決勝のトラウマからまともに牌に触れなくなっていて、塞ぎ込んでいた。
部活もやめて、1人でぶらぶらと何をするでもなく、歩き回る日々。
そんな私に、声をかけてくれたのがスズのお母さんの涼子さんだった。
涼子さんとは、そんなに面識があるわけではなかったけど、私の麻雀の先生だった露子さんの親友として何回かあったことがあった。
涼子さんは私に、スズの麻雀の先生になって欲しいと言った。
私は無理だと断ろうとしたけど、スズのキラキラとした目にあてられて、渋々了承した。
スズはこの頃から今と変わらないくらい元気いっぱいの子供だった。
私が教える一つ一つに一喜一憂して、私になんでも聞いてくるようなそんな前向きな子供だった。
スズに麻雀を教えることは、不思議と苦痛じゃなかった。
スズに麻雀を教えている時は、私は麻雀をしていた頃の私に戻れている気がした。
それでも…私は麻雀を打つことは出来なかった。
麻雀を打つっていう1歩が踏み出せなくて、私と打ちたがるスズにいつも悲しい顔をさせていた。
事情なんか知らないはずの小さな少年に、気を使わせていることが心苦しくて、どうしようもなく情けなく思った。
そんな感情を抱き始めたある日のこと。
スズに麻雀が好きかと私は聞いた。
なんでか、ふと思い浮かんだ。
するとスズは、キョトンとした顔をすると、すぐに元気よく言った。
「うん!すきだよ!だって、まーじゃんはかっこいいもん」
「それって、涼子さんや浩介さんが麻雀やってたから?」
涼子さんも浩介さんも元プロだし、多分2人に憧れて始めたのだろう。
実際その通りで、スズは元気よく頷いた。けれど……
「それだけじゃないんだ。とーさんもかーさんもまーじゃんやってるのかっこいいから、おれもやりはじめたけどね!でも、いまいちばんかっこよくて、すきなのははるさんだから!おれがいま、まーじゃんすきなのは、はるさんがいるからだよ!」
「…え?」
かっこいい?私が?
あの全国の舞台以降、まともに牌すら握れない私がかっこいい?
「はるさんは、いつもやさしくて、おれにまーじゃんをおしえてくれるときのはるさんは、すごくたのしそうなんだ!はるさんがたのしそうだと、おれもたのしい!」
この子はこんな私を見てくれる。
そう思った。
弱い私を受け入れて、無邪気に笑って手を伸ばしてくれる。
「そっか……そうなんだ……」
「どうしたの?はるさん?」
「ん?私もスズが大好きだって思っただけだよ」
私はそう言って、スズに笑いかけた。
いつか……いつか、麻雀をあの頃みたいに打てるようになったら、その時はまっさきにスズと打ちたい。
だから、私は立ち止まってられない。
「参ったなぁ……これ以上、弱いところ見せられないや……」
そう小さく呟いた。
きっと、涼子さんはスズのためじゃなく、あたしのためにスズをここに連れてきたのだろう。