ごーすとたうん   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 これは中編(第2話)です。




ごーすとたうん 中編

 

イエネコ  「ノラネコじゃないわよ! イエネコよ!」

  哺乳綱 ネコ目 ネコ科 ネコ属

  イエネコ Cat  *1

  Felis silvestris catus

 

 イエネコが、メジロ以外の面々を見た。

イエネコ  「よ、よろしく……」

 イエネコは急にしおらしくなって、うつむき加減で頬を赤くした。

アライグマ 「どうしたのだ? えと、アライさんはアライさんなのだ」

かばん   「ぼくはかばんです。はじめて会う人の前って、ドキドキしますよね」

サーバル  「わたしはサーバルだよ! ドキドキするの? よくわかんないなー」

フェネック 「まーそういう子もいるのさー。わたしはフェネックだよー、よろしくねー」

サーバル  「ねえねえ! さっき『ちちちー』って飛んでった子はだれ?」

 

メジロ   「あのかわいい子は……」

 

???   「くちゅん!」

サーバル  「ちゅん?」

フェネック 「くしゃみー?」

 サーバルとフェネックが、遠くを見た。

 追って、店の前の4人が、店から少し離れた所にある、傾いた電柱の上を見た。電柱は高く、15m近くあった。

 

 電柱のいちばん高い所にある横棒*2 に、茶色い鳥のフレンズが座っていて、店の前を見ていた。

 

メジロ   「……スズメちゃんです」

 

スズメ   「げぇ! みつかった!」

  鳥綱 スズメ目 スズメ科 スズメ属

  スズメ Tree Sparrow

  Passer montanus

 

イエネコ  「スズメ! あんなところにぃ!」

 イエネコが電柱へ向かって、ものすごい速さで走った。歩幅が大きかった。

サーバル  「わたしもっ!」

 サーバルが楽しげにイエネコを追った。こちらはもっと歩幅が大きくて速かった。

かばん   「ぇえ!?」

 

 イエネコが素早く電柱をのぼっていった。

サーバル  「うみゃっ!」

 サーバルがジャンプして、電柱に飛びついた。着地点はイエネコのすぐ下だった。

スズメ   「増えてるしー!」

 スズメが飛び立った。

 

サーバル  「みゃみゃっ!」

 サーバルはイエネコを追い越し、一瞬で電柱のてっぺんに登った。

 

サーバル  「うー」

 サーバルは、登った勢いを残しつつ、体を丸め……

サーバル  「みゃーーっ!!」

 ……体をバネのように伸ばして、同時に電柱のてっぺんを蹴って、大ジャンプした。反動で電柱が大きく揺れた。

 

イエネコ  「わぁ……」

 電柱を登りきったイエネコは、サーバルのジャンプに見とれた。

 

 サーバルの手が、スズメの足をかすった。

スズメ   「ちゅん!」

 スズメは驚いて一瞬跳ねあがった。

 

サーバル  「ふっ」

 サーバルは、ほとんど足音をたてずに着地した。

 

スズメ   「なんだよ今の! 猛獣は反則だぞー!」

 スズメが飛び去って行った。

 

サーバル  「にげられちゃったー」

 サーバルが速足で戻ってきた。彼女は笑顔で、残念そうには見えなかった。

 

イエネコ  「すごい……」

 

サーバル  「え?」

 サーバルが止まった。

イエネコ  「すごすぎるわ! えっと、サー、サー……」

 イエネコは、電柱のてっぺんに抱き着いたまま、キラキラした憧れの目でサーバルを見ていた。

サーバル  「サーバルだよ?」

 

イエネコ  「サーバルねえちゃん!」

 

かばん   「ええ!?」

サーバル  「ねえちゃん!?」

フェネック 「おー」

アライグマ 「サーバルには妹がいたのか」

サーバル  「いないよ! たぶん……」*3

イエネコ  「おーっきいジャンプ! 着地もかっこよかったわぁ!」

サーバル  「えへへー……つかまえられなかったけどね」

 サーバルが、ちょっと恥ずかしそうに笑った。

イエネコ  「でもでも、スズメが飛んだあとにジャンプしたのに手がとどいたし! のぼるのも2回手足をついただけ! けった時、はしらがゆれたわぁー! 力が強いのねー!」

 イエネコは、興奮して早口でしゃべった。

イエネコ  「体のひねりとか、手足ののばしかたがすっごくきれい! 目も耳も良くて、完璧にねらえたのね! 着地は、つま先をついて、足首、ひざ、足、腰の順で曲げて衝撃をおさえて……しかも体は全然ぶれてない!」

サーバル  「わたし、そんなすごいことしてたんだ……」

 サーバルは、純粋に驚いていた。

イエネコ  「あれだけの動きをするには、ものすごいバランス感覚が……」

 

フェネック 「あのさ、そこじゃなんだし、下でおはなししない?」

 店の前にいた面々が、電柱の下に歩いてきた。

イエネコ  「…………」

 イエネコが黙り込んで、真下を見て青ざめた。

かばん   「あの、もしかして……」

イエネコ  「おりられなくなんて、なってないわよぅ!」

サーバル  「そこからジャンプできない?」

イエネコ  「……たすけて、サーバルねえちゃん……」

 イエネコは、すがるような目でサーバルを見つめた。

 

 

 数十分後。

 

 6人が『リカーショップつぐみ』の前に座って、ジャパリまんを食べていた。

 座り順は、前から見て左から、アライグマ、フェネック、かばん、メジロ、サーバル、イエネコだった。

 

かばん   「のぼる時より、おりる時のほうが怖いですよね」

イエネコ  「……こわくなんか、ないもん……」

 イエネコは、落ち込みとふてくされが混ざった様子だった。

サーバル  「かーわいー!」

 サーバルが、イエネコを笑顔で抱きしめた。

イエネコ  「う……や……ねーちゃん…………ごろごろ……」

 イエネコは、目を閉じてサーバルに身をあずけ、喉を鳴らした。

サーバル  「へへへぇ……」

 サーバルはとても嬉しそうだった。

メジロ   「ノラネコちゃんが、こんなに懐くなんて……」

イエネコ  「ノラネコじゃないわよぅ……」

サーバル  「イエネコだよー、ねえ」

イエネコ  「ごろごろ……」

 イエネコは、喉を鳴らしながらサーバルにほおずりした。サーバルは目を閉じて、やさしい顔をした。

サーバル  「ぐるる、ぐるる……」

 

かばん   「…………」

 かばんは、サーバルとイエネコを無表情で見ていた。

 それをフェネックがちらりと見た。

 

かばん   「イエネコさん、下りられなくなるのに、なんで登ったんですか?」

イエネコ  「スズメを見てると、つかまえたくなるの」

サーバル  「すっごくつかまえたくなる子だよね!」

 

かばん   「気が合うんだね……」

 かばんは、素っ気ない感じで言って、サーバルとイエネコから顔をそらした。

フェネック 「…………」

 フェネックは少し考えこんでいるようだった。

 

メジロ   「あんなにかわいいんだから、つかまえたくもなりますよ!」

イエネコ  「そういう意味じゃないの!」

 

 フェネックが少し前かがみになって、イエネコを見た。

フェネック 「イエネコさん、メジロさんはつかまえたくならないのー?」

イエネコ  「かんたんにつかまえられるから、おもしろくないわ」

メジロ   「ひどいですー」

 

イエネコ  「サーバルねえちゃん、スズメをつかまえる方法おしえて?」

フェネック 「あー、かばんさんに考えてもらったら?」

かばん   「ぅえぇ! ぼく?」

フェネック 「サーバルはすぐつかまえちゃうから、おもしろくないでしょ?」

サーバル  「なにそれー、よろこんでいいの?」

イエネコ  「でもあたしは、サーバルねえちゃんみたいな、かっこいいやり方がいいの」

アライグマ 「かばんさんはすごいのだ! おもしろい方法を考えてくれるのだ!」

メジロ   「興味あります、それ!」

かばん   「あんまり期待しないでください……」

 

 

 『リカーショップつぐみ』に近い、住宅地の道路。

 

メジロ   「ここでよく、スズメちゃんがボスからジャパリまんをもらってるんです」

 

 かばんが、シャンパンクーラー*4 に日本酒を注ぎ、そこにジャパリまんを浸した。

メジロ   「ふしぎなことしますねぇ」

かばん   「これを置いて、向こうに隠れます」

 かばんが、酒を含んだジャパリまんを交差点の中央に置いた。

フェネック 「なるほどねー」

 

 

 しばらく経って。

 

 スズメが飛んできて、ジャパリまんから少し離れた所に着地した。

スズメ   「むう……」

 スズメは、少し警戒した様子で、両足をそろえてぴょんぴょんと飛び跳ねて歩き*5 、ジャパリまんに近づいていった。

 

 かばん、アライグマ、フェネック、メジロが、塀の陰に隠れ、小声で会話していた。

アライグマ 「へんな歩き方なのだ」

メジロ   「ふふ……かわいいですよねぇ」

 

 スズメが、ジャパリまんのにおいをかいだ。

スズメ   「くんくん……くちゅん!」

 

フェネック 「あれって、くしゃみなのー?」

メジロ   「ぷぷぷ……」

 メジロが口をおさえて笑いをこらえた。

かばん   「おおきい声出しちゃだめですよ!」

 

 スズメは、ジャパリまんを一口食べて、少し動きを止めた。そしてその場に座り込んで、ジャパリまんを食べ始めた。

 

サーバル  「いっちゃえ! イエネコ!」

 サーバルとイエネコは、民家の屋根の上にいた。

 ふたりの視線の先にはスズメがいた。

 スズメは、ジャパリまんに夢中になっている様子だった。

 

 イエネコが下を見た。

 

イエネコ  「……うぅ……」

サーバル  「だいじょうぶだよ。ネコ科はこの高さならけがしないから」*6

イエネコ  「あの子、サーバルねえちゃんでも、つかまえられなかった……」

サーバル  「イエネコは頭がいいから、ちょっと練習すれば、わたしより狩りがうまくなるよ」

イエネコ  「え?」

 イエネコは、驚いてサーバルを見た。

サーバル  「一瞬でわたしの動きがぜんぶわかっちゃうのは、頭がいいからだよ」

 サーバルが微笑んだ。

イエネコ  「…………」

サーバル  「ほら、がんばって!」

 

 イエネコが姿勢を低くして、おしりを振ってスズメに狙いを定めた。

 

イエネコ  「にゃーー!!」

 イエネコがジャンプして、スズメに襲い掛かった。

 

スズメ   「うわぁ!! あうぅっ」

 スズメは飛びたったが、ふらついた。顔が赤かった。

 

 イエネコが、スズメがいた所に両手で着地し、肘と肩を使って衝撃を吸収し、両足をついて……

イエネコ  「ふっ!」

……体の向きをスズメの方に変え、体を起こしながら数歩助走し……

 

イエネコ  「にゃあーっ!!」

……体をバネのように伸ばしてジャンプした。

 

 イエネコがスズメの背中に覆いかぶさって……

スズメ   「ぉわっ!」

……スズメの腰をつかみ、地面に押さえこんだ。

 

イエネコ  「はあ、はあ、はー……」

スズメ   「あうあう……あれぇ?」

 スズメは顔を赤くして、目をまわしていた。

 

イエネコ  「やった……」

 イエネコは、嬉しそうにスズメの腰を抱きしめた。

 

 

スズメ   「たた、た、たべないでーー!!」

イエネコ  「たべないわよ!」

 

 

 少し経って。

 

スズメ   「ずるいぞーこんなやり方!」

 スズメは、イエネコに抱きしめられて、つかまえられていた。

かばん   「あわわ……ごめんなさい……」

アライグマ 「かばんさんが助けたけど、イエネコがスズメをつかまえたのはたしかなのだ」

サーバル  「イエネコは細かい動きが得意なんだね。やっぱり狩りに向いてるよ」

イエネコ  「……あ、あたりまえよ! あたしはサーバルねえちゃんの弟子なんだから!」

かばん   「弟子!?」

サーバル  「でしってなあに?」

 

フェネック 「謎の声がくしゃみだったのか知りたいねぇ」

スズメ   「なんだそれ?」

イエネコ  「あのくしゃみに何度おちょくられたことか……」

スズメ   「おちょくってないぞ!」

アライグマ 「イエネコは、どうしてそんなにスズメをつかまえたかったのだ?」

イエネコ  「それは、えっと……」

サーバル  「つかまえたくなる子だからだよね」

メジロ   「あの、それはですね……」

 

イエネコ  「つかまえて、ごしゅじんにあげるの」

 

スズメ   「プレゼントにされるのか!? わち!?」*7

かばん   「ごしゅじん?」

メジロ   「イエネコちゃん、あなたのごしゅじんは……」

イエネコ  「ごしゅじんは、ヒトなの」

かばん   「ヒト?」

 4人がハッとなった。

イエネコ  「ヒトっていうのは、とてもへんな動物なの。おっきなみみも、羽もしっぽもなくて、ものをうまく使ったり、作ったり……そう、あなたみたいな……」

 イエネコが、かばんを見た。

かばん   「ぼくはヒトですよ。イエネコさん」

イエネコ  「やっぱり! そうじゃないかなーって思ってたの!」

サーバル  「やったねかばんちゃん! ヒトに会えるよ!」

スズメ   「わちは、“ごしゅじん”だか“ヒト”だかに何をされるんだ……」

 スズメは若干おびえていた。

イエネコ  「たべる……じゃなくて! モデルになってもらうわ。ごしゅじん、あたしばっかり撮るから、おかねがもらえないーとか……。だから、たまにはほかの子も撮ったらって」

アライグマ 「もでるってなんなのだ?」

イエネコ  「写真に撮られる子のことよ。えっと、写真っていうのは……ものを、ぺらぺらに写すっていうか……」

サーバル  「ぜんぜんわからないよ」

イエネコ  「見ればわかるわ、サーバルねえちゃん」

 

 

 

 後編へつづく

 

 

 

 

 

 

 

 

*1 この書き方だと独立種っぽいですが、イエネコはヨーロッパヤマネコの亜種、とする場合もあります。イエネコとその近縁種をどう分類するかは見解が分かれているようです。イエネコの祖先はリビアヤマネコ(ヨーロッパヤマネコの亜種?)と考えられています。

*2 この棒は、高圧線がかかっていたものです。電線は一部が残っています。形状的にここに座れるのか? 体重に耐えられるのか? という疑問が浮かびますが、電線のかけ方は様々ですし、鳥のフレンズは体重が軽い(?)ので座れました。

*3 サーバルには、兄弟姉妹(元の姿のまま)がいる可能性もあります。

*4 『リカーショップつぐみ』にあったものです。浅い形のものです。

*5 スズメのあの歩き方(ホッピング)です。フレンズの姿でこれをすると、かなり不自然です。

*6 実際には ネコは低い場所から落ちて怪我をすることもあります。

*7 「わち」については、あとがき・設定(第4話)に書いてあります。アクセントは「わし」と同じですが、「うち」みたいになる時もあります。




 中編あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 一行は、ごしゅじんの巣へ向かいます。


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