本が中毒レベルほど好きな男、本多幸太はとある本屋を見つける。そこは幸太が捜し求めていた本がずらりと並べられた本屋だった。本を買おうとレジに向かうと女性からとんでもないことを告げられる。

1 / 1
今回の作品は筆先文十郎がカッとなって書き進めたものです。「何これ?」と思うかもしれませんが読んでいただけると幸いです。

あとあとがきに作者の黒い部分が見えますので、そういうのが見たくない方はあとがきは見ないことをおすすめします。


あなたの本屋

 俺は本多(ほんだ)幸太(こうた)。どこにでもいる普通のサラリーマンだ。強いて違うところと言えば、本が好きな所だ。ライトノベルや難しい推理小説、自己啓発などいろんな本が好きだ。

 小説を読んでいるとその世界観に引き込まれ、自己啓発本を読んでいると自分自身と向き合っている感じがする。科学や歴史などの学校の授業で習うような本も自分が今まで知らなかったことを知ることが出来て好きだ。

 暇さえあれば本を読み(あさ)っている俺はジャンル問わず様々な本を読むのがもう中毒レベルになるくらい好きになっている。

 そんな俺にも一つ悩みがある。近場にある大抵の本は読んでしまったことだ。

「そろそろ新しい場所を開拓しないとなぁ」

 そんな俺は車で隣の県まで遠出をすることにした。しかしどこも似たような本ばかりで俺の心を刺激するものはなかった。

 家へと帰る道中。

「ん?」

 俺は車を止めた。

「……あ、『あなたの本屋』?」

 俺の目の前には『あなたの本屋』と大きな看板が掲げられた店があった。『あなたの本屋』と大きな看板が掲げられている以外何もない。

「……とりあえず入ってみるか」

 チラシはおろか窓もない建物という怪しさ満点の本屋。しかし目ぼしい収穫がなかった俺はとりあえずその本屋に入ることにした。

「……な。何だ、これは!?」

 俺は我が目を疑った。目の前には向こうの壁が見えないほどずらりと本棚が並んでいたのだ。

「いらっしゃい」

 声のほうへ振り返ると高校生くらいに見えるピンク色のショートヘアの女性がレジにいた。客が来たというのにその表情は感情表現に乏しいといえるほど無表情だ。

(整った顔立ちなんだから笑ったらいいのに)

 そんなことを考えながら俺は近くの本棚から適当に本を取る。

「え!?」

 表紙を見た瞬間、俺は思わず声を漏らしてしまった。それは俺が一度は読みたいと思い散々捜し求めたが結局見つからなかった本だった。

 再び本棚に目を戻した俺は

「嘘だろ、おい!?」

 再び声を漏らしてしまった。目に見えた本のタイトルは全て俺が探していた本、もしくはインターネットオークションで定価の数倍まで跳ね上がった本ばかりだったからだ。

「こ、これは夢か?夢なのか!?…………待てよ」

 俺はふと我に返る。

(俺が探していた本はどれも幻になったものとかプレミアがついてしまったもの……当然値段もメチャクチャ高いはず……)

 そう思って値札を見て、またしても俺は声を漏らしてしまった。

「ひゃ、百円!?」

 これは嘘だと思い何度も目をこする。しかし何度こすっても値札は百円のままだった。この本だけかと思い他の本の値札も調べるがどれも百円だった。

「どういうことだ、これは?」

(本が汚れていたり破れていたりしているから百円なのではないか?)

 俺は本を調べる。しかしどの本もそれらしきものは見当たらなかった。

「う~ん……」

 普通なら定価の倍ほどの値段がつきそうな本がきれいな状態で、しかも百円という価格。このありえない状況に俺は腕を組み、考え込む。

 どれくらい経過したか分からないが俺はある答えを叩き出した。

「店がこの価格と決めたんだ。悩むことはない」

 財布の中身を確認し、俺は特に欲しいと思った本を次々手にとっては入り口近くに置いてあったかごに放りこんでいく。

 数分後。

「お会計お願いします」

 俺は先ほどの高校生だと言っても十分通じる可愛らしいミステリアスな女性の前に大量の本が入ったかごを置いた。

「かしこまりました」

 女性店員はピッピッとバーコードを読み取っていく。入り口の時点では気がつかなかったが胸がでかい。しかも彼女が座った状態でやっているものだから胸の谷間がはっきりと見て取れた。

「会計合わせまして五千円になります」

「あ、はい。五千円ね」

 彼女が会計に集中していたことをいいことに胸をガン見していた俺は慌てて財布を取り出し彼女に五千円札を手渡す。

「お客様、申し訳ありませんが足りません」

「……え?あ、消費税ですか?」

 会計は五千円ですと言われたから五千円札を出したのに足りないと言われた俺は一瞬きょとんとするもすぐに小銭入れをポケットから取り出す。

「いえ、これらの本は全て税込みです」

「え?だったら──」

 俺が言い終わる前に彼女はほとんど表情を動かさず淡々とした口調でとんでもないことを告げた。

「足りないのは、お客様の魂です」

「…………は?」

(魂?何を言ってんの?)

 ポカーンとする俺に彼女は淡々と説明する。

「当店はお客様が100%欲しい本を提供します。例えもうこの世になくなった本であっても。そんな本屋だから『あなたの本屋』なのです」

(そんなバカな……)

 そう思った俺だが彼女の言うとおり俺が今まで欲しい、見たいと思っていた本がいとも簡単に見つかったこと。そして彼女から感じる得体の知れない雰囲気に納得せざるを得なかった。

 

 本の代金は手数料に過ぎない。本当のお代は人間の本質、この店を訪ねる者の魂。

 

 そう付け加えてから彼女は続ける。

「こう説明したけど安心して。魂を取ると言っても貴方の寿命は一秒たりとも減らない」

「…………」

 俺は悩む。魂を取られると言われてすぐに決断できるわけがない。

 そんな俺の心を見透かすように彼女は淡々と告げた。

「別に買わなくてもいい。ただその場合、こちらの本を売ることはできない」

「そ、そんな!?」

 寿命は減らないとはいえ魂は取られる。しかし彼女の言うとおりにしなければ本は手に入らない。

 悩みに悩みぬき、俺は彼女の目を見た。

「分かった……俺の魂、受け取ってくれ」

「分かりました」

 一瞬何かが切り取られる感覚がした。だが痛みはない。

「それではお受け取りください」

「あ、ありがとう」

 俺は本を受け取り車に戻ると「へんな店だったな」と呟いて車を発進させた。

 

 

 

 幸太が店を出た後。先ほどの女性、長門(ながと)みゆきは両手の掌にある丸い水晶をじっと見つめる。

「人はどうしても本……物語を追い求める。それこそ身を削り、心をすり減らしてまで。その知的好奇心はとても美しい。そう、私が今この手に持っている水晶のように」

 そういって謎の女性はこの時、幸太に見せなかった無表情以外の顔を浮かべた。

 

 

 

 その後男がどのようになったかどうかは彼女にとって興味がなかった。

 











2019年7月18日。この日、今でも本当なのか信じられない事件が起きました。

京都アニメーション放火事件。

今でもなんと言っていいのか分かりません。
熱狂的に京アニ作品を見ていない私ですが、それでも京アニ作品の影響を受けるほど楽しませてもらいました。
鎮魂歌、というわけではありませんが『京都アニメーションに楽しませてもらった、小説家を目指す一人間として何が出来るか』と考えた結果

京アニ作品にいそうなキャラクターで作品を一つ作ってみよう。

と思いつきました。
今作に登場した謎の女性、長門みゆきは『涼宮ハルヒの憂鬱』の長戸有希と『らき☆すた』の高良みゆきを元にしたキャラクターです。



ぶっちゃけ言って亡くなられた方々の方がもっと面白い、多くの方の心を躍らせる作品を作られたはずです。私ではその数万分の一がせいぜいでしょう。でも今回の事件で『日本アニメ界の進歩が数十年遅れた』とか言われたくなかった。
自分でも何を言っているのか分からないのですが、これが正直な感想です。

悲しみと悔しさと怒りで心が乱れている状況ではありますがこの言葉で閉めさせてもらいます。

亡くなられた35名の京アニ関係者の皆様、すばらしい作品を本当にありがとうございました。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。