しんしんと、もしくはコンコンと、そこまでは分からないが、そんなフワッフワした感じの音を感じた気がして、僕は何時もなら先を越される目覚ましより先に布団をのけて窓を開ける。眠たげな目を擦り終えたその先は、東京の代わり映えしない景色が、見違えるような銀世界になっていた。
「寒い!」
詰まるところ、ただの雪だ。なんの不思議もないただの雪だった。
「なんか寒いと思ったら雪かぁー・・・こりゃ電車も止まるかな・・・」
ボヤキながらカーテンをそっと閉め、再び布団に潜り込む。このへんでは珍しくよく積もっており、近くの公園で雪をかき集めたら鎌倉でも作れそうな程だ。
「・・・・・寝るか・・・」
現状確認を終え、いそいそと布団をかぶり直し眠りにつこうとする、こうしないと少し面倒なことになりそう——————
「マスター!雪合戦するでー!」
なってしまった。
「やっぱりきたね茜ちゃん!けどもう遅い!僕は既に二度寝の構えへと移行した、もう僕を外に引っ張り出す事なんてできやしない!」
頭から布団を抱え込み完全防御形態に入る。子供っぽいがその実優しく温厚な茜ちゃんの事だ、無理に引っぺがして外へ出すなんて行為をするわけがないだろう。
「因みに雪合戦するって言いだしたのはゆかりさんや」
「・・・・僕が出てこない場合どうしろって?」
「人体に新しい関節が作られるっていっとったで」
可動域が増えて便利そうだ。死ぬほど痛いというデメリットに目を瞑れば
「まぁ、ええやん、この前動画作ったばっかで今日は暇やろ?家にいるニートより、外で雪合戦してるニートの方がまだ養護できるってもんや」
「前者と後者にそれほど差異を見い出せないんだけど、傍から見たらどっちもクソニートだよね?」
僕は動画投稿者なだけでニートではないと三度言っているのに、みんなからの認識がいまだ改善されないのが悲しい所だ。
「ま、もうご飯作っといたで、はよ起きてきてな?」
茜ちゃんはそうとだけ言い残して僕の部屋を後にした。今から二度寝しようにも、ああ言われた後に出来るほど僕の神経も太くはないわけで、茜ちゃんの登場で目が覚めてしまったし、とりあえずは1階に降りて今日の予定を考える事にした。
若干跳ねている寝ぐせを手で押さえつけながら、リビングへの扉を押し開ける。
「おはよー、積もってるねぇー今日」
「あ、おはよマスター」
最初に挨拶を返してくれたのは、金髪の長髪を揺らし、ラフなTシャツに身を包んだ弦巻マキという少女。一部主張の激しい部分がとても眩しい。
「っていうか、皆起きてたの?まだ7時前だよ?」
よく見るとマキちゃんだけではなくて、葵ちゃんやきりたん、ずんこちゃんまでもが勢揃いしていた。もしかしなくとも、理由は一つだけだろう。
「もしかして皆もゆかりんに呼ばれたの?」
「そだよ。朝っぱらから・・・私はまだ寝てたいんだけどねー・・・」
「お姉ちゃんもノリ気でしたし、なら私がやらない理由はないですから」
「私はゆかりさんってより茜ちゃんに引っ張り出されました・・・子供らしく外で遊ぶべきだと。余計なお世話です・・・まぁ仕方ないのでやりますけど・・・」
「優勝したらずんだ餅と言われたので」
皆口々に理由を語るが、その肝心のゆかりんの姿が見えない。主催者がいないというのはどういうことだろうか。
「そのゆかりんの姿が見えないんだけど、どこにいるの?」
少し気になるので所在を聞いてみる。
「ゆかりさんなら庭で雪だるま相手にBOT撃ちしとるで」
「彼女雪合戦の事少し勘違いしてない?」
庭の方に目を向けると、前転回避から流れるような動作で三体の雪だるまにヘッドショットを放っていた。
「お、マスター起きたんですね。でしたらさっそく会場に向かいますよ!」
」
ただの雪合戦のはずなのに、僕はこれから始まる冬の遊戯に、何か不吉な予感を感じずにはいられなかった。
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