お気に入りが30件を超えていた事に驚きが隠せません
一話を短く整えて行きたいので今回も文字数は少ないです
よろしくお願いします!
耳朶を震わす音に目を覚ました。
「ここは──」
「本当に一時間で起きたのか、白。もう少し寝ていてもいいぞ?」
そうだった。ここは静姉が運転する車か。
「寝てるわけにもいきませんよ……あった」
カバンを漁り取り出したのは缶コーヒーだ。眠い時には微糖を飲みカフェインと糖分を同時に体に行き渡らせる。
「よしっ……覚醒しました、静さん。今回のボランティアについての話をお聞きしても宜しいですか?」
「ああ。小学生の林間学校、という事までは説明したかな?」
「はい。高校生だけでも十分人手は足りてると思いますがなぜ僕が呼ばれたのか、それが理解できません」
「ふむ。その理由は大きく分けて二つだ。一つは君のご両親から君の事を頼まれているからだ、上京してるから頼むってね」
全くあの人達は……過保護がすぎるだろう。
「そしてもう一つは、彼らの人間関係だ。決して良好とは言えない二組がかち合ってしまってな。無所属の君に外から少し助けてもらおうと思ったのさ。私の紹介なら誰も文句は言わんしな」
「……なるほど、大体わかりました。雪ノ下雪乃さん達と葉山隼人君達ですね。んで、由比ヶ浜さんは丁度その中間あたりですか」
後ろをちらりと見れば席順と環境がほぼそのままグループの違いを表している。雪ノ下さんと比企谷君は基本的に本を読んでおり、小町さんや戸塚君に話を振られた時に話す程度。
葉山君を筆頭にしたグループはそちらはそちらでおしゃべりに興じている様子が見られる。時々チラリと互いのグループの方は見るがそれを超えての会話はほとんど無い。
唯一例外として由比ヶ浜さんだけが両グループを行き来するように動いているのがなんだか可哀想に見えた。
一応だが、僕は既に今回のボランティア全員と自己紹介を済ませている。その所感としては、葉山君は別に悪い人では無い、そして比企谷君は別にいい人ではない、といった感じだった。
「ほう、その心は?」
「いえ、どちらも人間なんだなという事です。葉山君は勉強も運動もできるタイプですがどこぞの誰かと比べると人間らしい感性──感情を持っている。それは周りに関心がある証でしょう。
比企谷君は何処か達観しているようでいてそれだけでは無い。その中には確かに彼なりの優しさが混じっている、周りが気づかないだけでね。でもその優しさは彼の傷つきたくないといういわば自分の脆さの裏返し。そういう意味ではやはりいい人である、とは言い難い」
誤解して欲しくないのだが、僕は比企谷君を高く評価している。彼の人を見る目は曲解しながらも本物だし葉山君のように体裁を取り繕おうとしない分信用もしやすい。
なにより、彼と僕は少し似ている。あの目は知っている目だ。手痛い裏切りとそれが生み出す胸の痛みと悲しみを。
「ふっ、中々いい評価を下すじゃないか白。やはりお前を連れてきて正解だった」
「やめてください、まだ始まってすらいないんですよ?家に帰るまでが遠足なんですから」
「はははっ、その歳になってもまだそんなことを言うなんて、思考回路のわりに案外ピュアなんだな、お前は」
本当に面白そうに笑う静姉に溜息をつきながらシートにからだを預け脱力する。再び眠気に襲われはするものの今度は寝ることはしない。
鞄から文庫本を取りだし文章の世界に身を浸す。この時が僕にとっては一番至高の時だ。
イヤフォンから流れてくる静かな音楽に集中していたら、ふと車が止まった。目的地に着いたのだろうか。
「サービスエリアだ。少し休憩にするから君達は昼食を買ってきたまえ。一応ある程度は経費で落とせるから領収書は持ち帰ってくるように。出発は三十分後だ」
『はい』
その言葉に僕と静姉を除く全員が去っていった。
「ん?お前は行かないのか、白?」
「ええ。弁当作ってきましたから。静姉の分もありますよ」
「おお、そいつはありがたい。お前の料理は絶品だからな」
子供のようにキラキラと目を輝かせているのがバレバレの静姉に苦笑しながらカバンから取り出した箱のうち二つとおにぎりを三つほど手渡す。
「箸は割り箸で。そこに有りますから」
「うむ、いただきます」
「はい。召し上がれ」
静姉が食べ始めてから僕も箸を手に取っておかずを少しずつ口に運んでいく。うん、今日もいつも通りの味だ。特にこれと言って美味いとも思わない。静姉も美味しそうに食べているが──ん?箸が止まったな。口に合わなかったかな?
「いや、この料理は酒に合いそうだなと思ってな……また機会があったら作ってくれないか?」
「ええ、構いませんよ。ではその時はお金を貰いましょうかね」
「はははっ、言うようになったじゃないか白。だいぶ神経が太くなったみたいだな?」
「うん……色々、あったからさ」
「……そうか」
くしゃりと頭を撫でられながらぼんやりと弁当を見つめる。思い出すのは中学、そして高校生の頃の事だ。
気持ちを込めたものなど、所詮価値はない。意味があるのは金銭のかかる物だけであると、僕にそんな紛い物の正しさを押し付けたあの出来事。
『あんたなんて、金しか取り柄がない癖に!』
甦ってきた苦い記憶を脳の奥にしまい込みながら、絞り出すように呟く。勿論、顔に笑顔を貼り付けるのも忘れない。
「──冗談です、いつでもとは言いませんが時々なら作りに行きますよ、静姉」
「ん、楽しみにしているよ」
静姉は何も言わなかったけど、その目は僕のことを全て見通しているかのような目だった。勿論そんな筈はない。静姉が僕の両親から何かを聞いていれば話は別だが、何かあった事は見抜いているのだろう。何も言わず薄く笑って僕の頭から手をどかした。
「さて、私にも準備するものがある。手伝って欲しいので早めに食べてしまいたいが構わないか?」
「はい」
その後は互いにポツリポツリと言葉を交わしながら残りの時間を過ごした。林間学校は始まってすらいないというのにセンチメンタルな気分になってしまったことに内心苦笑いしながら昼食を食べたのは言うまでもないことだろう。
そして買い物に行ったみんなが戻り、バスが再び出発してから林間学校の目的地に着くまでの間、僕は皆にも配布した栞に目を通すことにしたのだが、それで若干酔ってしまったのはまた別の話である。
ここまでお読み下さりありがとうございました。この作品もやはり不定期にのんびり更新していきたく思っておりますのでどうぞよろしくお願いします。
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また次回更新でお会いしましょう。
黒っぽい猫でした!