本物の貌   作:黒っぽい猫

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何ヶ月ですかね、この作品の更新……相変わらずのナメクジ更新でホント申し訳ないです……でも、正直これが現時点でのモチベの限界だったりするのでお許し下さい

今回もよろしくお願いします


顔合わせ、最初の事件

「うーん……やっと到着か…………」

 

昼過ぎに、僕達は今回の林間学校が行われる千葉村に到着した。外の空気を吸って気分の切り替えを行う。

 

「大分辛そうでしたけど大丈夫ですか?」

 

小町さんが水のペットボトルを渡してくれたのでありがたく頂く。水筒の中身はコーヒーなので正直助かった。

 

「うん、まさかバス酔いするなんて思わなかったけどね……」

 

「帰りは兄と座席を代わってもらうといいですよ、白さん。バスの中央辺りは酔いにくいって聞きますし」

 

「小町、そこは普通にお前が席を変わればいいんじゃないの?なんで俺を巻き込もうとするの?」

 

「だってごみぃちゃ……お兄ちゃんはあの席にいても何も話さないでしょ?それに私が白さんとお話してみたいし!」

 

「小町ちゃん、今ごみぃちゃんって言いかけたよね?八幡的にポイント低いんだが?」

 

「お兄ちゃん、キモイ」

 

「……」

 

ボコボコに言われて八幡君からとんでもない絶望のオーラが溢れだしている。今なら死の支配者になれそうだ。

 

「ほら、茶番をやっている暇はないぞ!早く小学生達と顔合わせだ!」

 

パタパタと忙しなく動き回る静姉の後に僕達はついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学生達と合流した後、小町さんを含めた高校生組が小学生に対して自己紹介をしている間に静姉と僕は小学教諭達と自己紹介──という名の軽いミーティングを行っていた。

 

一日目のフィールドワーク、そしてカレー作りの際の所属班についてざっくりと確認を行い各自が自分だけでなく他人の役回りまで理解しておく事などを決めた。

 

そして一通り確認が終わった所で葉山君がこちらを呼びに来た。

 

「月城さん、平塚先生。小学生に自己紹介をお願いします。俺達はもう済ませたので」

 

「了解した。白、お前からしてこい」

 

「わかりました、静さん」

 

タバコを取り出しながらニヤリとした静姉にため息を漏らしつつ小学生の輪の方に向かう。さっきまで忙しなく動いていたのだから休憩が必要だろうしね。小学生の近くまで歩いていくと、興味津々といった様子でこちらを見上げる無数の目に貫かれ若干顔が引き攣ってしまった。

 

正直にいえば、子供の相手は得意ではない。彼らの目は、言葉は、抱いているものは良くも悪くも素直だ。だが、今更逃げる訳にもいくまい。

 

一瞬目を閉じ、息を深く吸い込む。

 

そしてとびっきりの笑顔(作り笑顔)で小学生達の方を見る。

 

「……今回、特別参加のボランティアとしてここに居ます、月城白です、気軽に話しかけに来てください、短い間ですがよろしく」

 

できるだけ短く、必要最低限の言葉を残しその場を後にする。まばらな拍手を背に受けながら引っ込むと静姉が歩いてくるのが見えた。すれ違いざまにフワリと煙草の匂い。本当に一服してきたらしい。

 

「悪いな、白」

 

「……そう思うなら先に自己紹介して下さいよ、困ります」

 

「はははっ、すまんすまん。まあ私も自己紹介をしてくるから我が校の生徒達と親交を深めていてくれ」

 

手をヒラヒラさせながら反省する様子もなく行ってしまった静姉にため息をつく。あの人は本当に……。

 

日陰でコーヒーを飲みながらぼーっとしていると唐突に声をかけられた。

 

「随分と平塚先生と仲良さげですね、月城さん」

 

「ああ、一応僕の両親の教え子みたいだからね。僕の小さい頃の話も結構知ってる人だよ」

 

少し驚いたことに、話しかけてきたのは雪ノ下雪乃さんだった。出発前の態度からしても、僕に彼女から接触してくることなど無いと思っていたので虚をつかれたのだが雪ノ下さんにはコチラの内面は悟られていないようだ。

 

「……何か私の顔についていますか、月城さん?」

 

「いいや、君はてっきり人見知りだと思っていたからね。僕に話しかけてくるのは少し意外だった」

 

「……そうですか、ご期待に添えず申し訳ありません」

 

皮肉っぽくわざわざそんなことを言ってくる辺りはやはり姉とは似ていない。良くも悪くもあの人からは人間らしさが微塵も感じられないことと比べると雪ノ下雪乃の方が人としては好感が持てた。

 

「別に期待に沿う必要は無いだろう。むしろ僕は安心した。君が君の姉のように取り繕う人間じゃなくて良かった。僕にとっては人間味のある君の方が接していて気が楽だよ」

 

「……!姉をご存知なのですか?」

 

「同大学、同キャンパスともなれば多少はね。あの人には前期に見事に恩を押し売りされてしまった仲だよ」

 

「……なるほど、ご愁傷様です。姉がご迷惑をおかけしております」

 

「ああ、全くだよ。いつも振り回されっぱなしだ」

 

「ふふふ……」

 

下らない軽口で互いに笑う。共通の話題があって助かった。と、いきなり雪ノ下さんの後ろに影が迫ってきたかと思ったらそのまま彼女の背中にダイブした。

 

「ゆきのんゆきのん!何で白さんともう仲良さげなの?!ゆきのんは人見知りだから一番仲良くなれなさそうだと思ってたのにー!」

 

「……由比ヶ浜さん、私は別に人見知りな訳ではなくて関わる必要が無いから話をしないだけよ?初対面でも必要ならハッキリと言うわ」

 

「私ももっとゆきのんとお話したいー!」

 

由比ヶ浜さんはズズっと顔を雪ノ下さんに寄せながら抱き着く。照れているのか「暑苦しいわ」なんて言いながらもなされるがままにされている。

 

「仲がいいんだね、二人とも」

 

「はいっ!私達仲良しですよ!!」

 

由比ヶ浜さんは、元気よくこちらに笑顔を振りまく。どうやら由比ヶ浜さんは裏表の無い性格らしい。

 

暫くの間、二人と談笑(というより由比ヶ浜さんのマシンガントークを僕と雪ノ下さんが聞いていただけだが)していると小学生の塊が立ち上がる。

 

「ん、そろそろ仕事みたいだね……行こうか」

 

「あ、はい!!」

 

元気が有り余っている由比ヶ浜さん、それと対称的にゲンナリとしている雪ノ下さんの二人とともに持ち場に着くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィールドワークの間、僕達に与えられた仕事は小学生が道から逸れないようにする事だ。彼らの行動は衝動的で、かつ本能的だ。自分の行きたい場所に行く為に全速力で進む彼らの行動を制限する為には、どうしても方向を僕達がある程度絞り込んでやる必要がある。

 

(本当のフィールドワークならもう少し自由にさせてもいい気がするんだけどね)

 

高校生や大学生といった義務教育を超えた人間ならまだしも、小中学生にそのようなことをさせる訳にはいかないのだろう。ほぼ等間隔に僕らは配置され、小学生の進行ルートを絞り込む手筈になっていた。

 

「おっと、君達ー、そこから先に進んじゃダメだよ」

 

「えー!どうしてー?」

 

「その先には熊が出るって言われてるから。危ないでしょ?」

 

「むー……でも、クマも見てみたい!」

 

子供と触れ合う経験がほとんど無かった僕にはどうも彼らと距離感を図るのが少し難しい。

 

「突撃ー!!」

 

「あっ、こら!!」

 

説得の方法を考えていたら真横を突破されてしまった。その先にクマは居ないが、少し高い段差がある。小学生にとっては危険だという理由で行くのが禁止されている場所だ。

 

走り抜けたのは四人のうち二人、残り二人は留まっている。

 

「君達は道に沿って他の先生やお兄さん達と合流してくれるかい?僕は二人を連れ戻すから」

 

反応を見る前に、僕の身体は柵を飛び越える。小学生がくぐり抜けられる柵の存在意味を後で千葉村の運営に問い合せてやる。

 

小学生は足が早い。急がなければ大怪我をする事になりかねない。

 

(……そんなこと絶対にさせるもんか)

 

ふと目の前に、一人の少年が立ち止まっているのが見えた。僕が近付くのを振り返って確認するや否や半泣きで訴えかけてくる。

 

「翔が!翔が!!」

 

「…………!君は少し下がってろ!」

 

少年が見ていた先は件の段差がある場所だ。駆け寄って下を見ると垂れ下がる木の枝に捕まるもう一人の少年の姿があった。

 

「助けてっ……!!」

 

涙と鼻水でグシャグシャの顔をこちらに向けて必死にこちらに叫ぶ少年を前に、躊躇う余裕は僕にはなかった。

 

五、六メートル程の崖を一気に飛び下りる。慌てていたからか、左の足首から嫌な音が聞こえたが今は考えないようにする。そのまま少年を見上げ声をかける。

 

「手を離して大丈夫だ、君の事は絶対に受け止めるからずっと上だけを見続けるんだ!」

 

「無理っ……無理だよ!怖いよ!!」

 

怯えたような声が聞こえてくる。確かに校舎の二階から飛び降りると考えたら足が竦むのも分かる。

 

「確かに僕だって今飛び下りるのは怖かったさ!でもできる!人は恐怖に勝てる!!そして僕を信じろ!僕はここから飛び降りても平気だった!そんな僕が下で君を受け止める!大丈夫に決まっているだろう!!」

 

その言葉が言い終わる前に、少年が落ちてきた。どうやら腕が耐えきれなくなったらしい。その少年を、僕自身が緩衝材になる形で頭を打たぬように受け止める。

 

頭が辛うじて下向きになる前に少年を抱きとめることが出来た──が。

 

「ぐっ──」

 

左足は完全に使い物にならなくなってしまったらしい。想像を絶する痛みに顔を顰めるが、声には出さない。

 

どうにかこうにか痛みが落ち着いた後、少年の顔を見ると気絶してしまっているようだった。無理もないか。

 

「崖の上にいるかい?!翔君は無事だよ!!もしまだそこに居るのなら道を引き返して先生達にこのことを伝えて、僕は別ルートから戻るって言っておいて欲しい!!」

 

聞こえたら返事を、とそう付け足すと元気な返事と走り去る音が微かに聞こえた。これで向こうは安全だろう。

 

「さて──と、僕も行こうか」

 

背中に改めて少年を背負い直し、集合場所に続く道へと踏み出す。

 

 

 

僕と、意識を取り戻した彼がフィールドワークの終着点に辿り着いたのは本来の集合時間を30分程遅れてからだった。




本当に、定期的に更新できる方って凄いですよね……尊敬します

白君、割と運動神経は高い方だったりします。羨ましいですね()

次回もまた読んで下さると嬉しく思います

それでは、またノシ

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