変なプリキュア短編   作:セントラルパーク埋蔵金(笑)伝説

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変なプリキュア短編

01.戦いの後には

 

 

マリー・ヘンドリクスは、既に全ての手順を終えていた。

 

学校帰り、予め渡された合鍵を用いて親友の家へと入り込み、彼女のために冷蔵庫の中に眠る食材を拝借して夕食を作る。

 

それは、彼女……マリー・ヘンドリクスが親友以上の仲と公言して憚らないアニー・ロジャースが、プリキュアという正義の呪縛に囚われるよりも以前から、たまにある事であった。

 

アニーの家系は、率直に言うと正義の味方の家系だった。

 

父親は米国特殊作戦部隊群所属のエリート軍人。

既に亡き祖父は、現役時代は連邦捜査局の捜査官。

 

……可愛らしい笑顔の特徴的だった彼女の母親は、若くして病に斃れ、もう現世には居ない。

 

「おばあちゃん、アニーまだ帰ってない?」

 

「……まだ、みたいだねぇ。折角のおゆはんが冷めちゃうよ」

 

「……そっか」

 

このロジャースの邸宅に普段から居るのは、年老いたアニーの祖母、ローズマリー・ロジャースほぼ1人のみであった。

 

だからマリー・ヘンドリクスは、本当は誰かに涙を見せて甘えたい筈のアニーの、僅かでも心の支えになろうと思った。

 

それが、弱い自分が親友に返せる精一杯の恩返しだったし……マリー自身、アニーの傍に居たかったから。

 

アニーは強い子だった。

 

母親が死んだ時も、祖父が死んだ時も───

 

百合の花に囲まれて、狭い棺の中に横たわる肉親の姿を目に焼き付ける彼女。

 

ボロボロと涙を零しながらも、決して嗚咽を漏らす事無く、横に立つ父親を真似るように、安らかな表情を浮かべる母親の遺体から、一瞬とて目を逸らさなかった。

 

……アニーは強い。

 

きっと、マリーが知る中では、ジャンヌ・ダルクとかマザー・テレサとかに張り合えるほど、強い女の子だった。

 

───でも、限界の無い人間なんて、世には存在しない。

 

人間は、人間なりに行ける場所まで強くなったところで、所詮……人間を超える事など出来ない。

 

なのに……使徒は、アニーに……アニーだけじゃない、彼女を含め、実に世界中100人もの人間に

 

使徒は、無情にも人類全体のために。

 

彼ら、彼女らに、人間以上となる事を、半ば強制した。

 

マリー・ヘンドリクスには、それがどうしても許し難かった。

 

それはきっと、正しい行いだったんだと思う。

 

人間を、あの怪物の脅威から救うためには、もたらされなくてはならない施しだったんだと思う。

 

でも───何でアニーなんだ。

 

どうして世界は、自分じゃなくてアニーに重荷を負わせるのか。

 

アニーを辛い目に遭わせて……楽しいとでも言うのか。

 

親友の苦しむ姿は、その姿に悩む自分の姿は、そんなに滑稽か。

 

……マリーには、どうしても許せなかった。

 

あの日……悪魔が大空から降ってきて、アニーを人間以上に仕立て上げてしまった時から───

 

「ただいまー。ごめんね遅れて」

 

明るかったアニーの表情に、影の差す事が増えた時から───

 

「おや、グッドタイミングね」

 

「アニーおかえり! ビーフシチュー出来てるよっ」

 

「あーらま、染み渡る匂いだねこりゃ」

 

マリー・ヘンドリクスは

 

プリキュア、仕立て上げられた正義の味方……アニー・ロジャースの最後の砦であり続けると決めた。

 

それが、かつて自分を闇から救い出してくれた彼女への、最大の恩返しになると信じて……。

 

 

 

02.這いつくばる(地上の)天使たち

 

 

 

アニー・ロジャース、14歳。

 

人種、いわゆる白人の範疇に入る。

 

身長5フィート3インチ、体重は内緒のショ。

 

好きな色、オーシャンブルー、もしくはジェットブラック。

 

大好物はモンエナだけど、父親の言い付けで1日1缶しか飲めないのが甚だ不満。

 

職業、ちょっと前まで普通のハイスクール生。

 

いま? プリキュア。

 

…………………………

 

いや、別にトチ狂ってるワケじゃ無い。わたしはプリキュア。

 

馴染みの無い職名かもしれないが、要するに変身して戦う正義の味方。

 

変身する。アイテムは特に無いけど、可愛いドレスみたいな衣装着る。一瞬で。

 

始まりは何ヶ月か前、祖父の葬儀中のこと。

 

牧師が何かボソボソ言ってる最中、そいつは現れて……唐突にこう言ったんだ。

 

"この度は誠に御愁傷様です。つきましてはプリキュアになって頂きたいのですが、これから一緒に来て頂けますか?"

 

そのまま、訳のワすら解らず、解らせてもらえず、葬儀に参列した顔見知りや親友、親戚、ついでに牧師の姿は一瞬にして消え……

 

───潮風

 

気が付けば、黒い喪服姿のわたしは、大海原をザザンと駆ける巨大な船の甲板に立っていた、と。

 

本当に気が狂った気もしたけど、それはもう、何処から見ても巨大な甲板を持つ船だった。

 

前に父親から見せて貰ったジェラルド・R・フォードの艦上映像と比べても遜色無い……どころか、遙かに広い。

 

しかし、原子力空母と決定的に違うのは、甲板の中央に鎮座するかの如くそびえる……神殿のような建造物。

 

歴史のテキストで見た、古代メソポタミア文明の遺跡と似ている気もしたが、石材などではなく、透き通る水晶か硝子で出来た、それ。

 

「……………………」

 

そして、わたしの周囲に、わたしと同じように呆けた風に直立不動でいる、100名に届かんばかりの人間。

 

皆、このわたしと立たされた状況は似ているらしく……

 

───ベーコン数枚の乗った、良い匂いを漂わせるフライパン片手に、呆然と立ち尽くすエプロンの女性

 

───クラッチペン片手に尻餅をついた、アジア人と思しきセーラー服の少女

 

───如何にも金持ちの、フェラーリとか乗ってそうなスーツのハンサムガイ……というか映画俳優のアーランド・ブロッサム

 

───あと何故か、1匹の賢そうなボーダーコリー(おすわり中)

 

 

目に付いただけでも、女性に大きく比率が傾いてはいるが、全くと言えるほど統一性の無い一団。

 

見た感じ、あまりに幼かったり、逆に老い過ぎていたりする人は居ないようだが……

 

それら謎の一団(不本意ながら私も含め)が、その巨大な甲板、大海原の唸り声をBGMに───

 

何故か誰も一言も発さず、かく言うわたしも一言も発せず、まるでノースコリアの軍事行進みたいに規則正しい配置で、並んでいた。

 

そのまま何分か経過した頃だろうか……

 

これまた唐突に、紫色の光が、整列するわたし達の目の前に鎮座する透明な神殿のような建造物から、ビカーッと。

 

神殿ぽいのに神々しさの薄い、思わず目を覆いたくなる光り方をしたと思ったら、葬儀中に現れたアイツが居た。

 

神殿の玄関口みたいな所に。

 

あまりに意味不明の過ぎる状況に、わたしは思わず口を開こうとして…………

 

……………………

 

開けなかった

 

何でだ

 

わたしだけじゃない、ここに整列する100人は居そうな人間達の……その誰もが、現れたソイツに誰も何も言わない。反応しない。何だこの状況は。

 

(…………)

 

いや、いわゆるフィクション慣れした現代っ子である私は、この妙な感覚に覚えがあった。あってほしくなかったけど。

 

これは

 

───感情を操られている?

 

 

  "  そ  れ  正  解  "

 

 

 

 ! ! ! ! ! ! ! ! !

 

 

頭の中で、わたしの知らない声が弾けたその瞬間。

 

猛烈な恐怖の感情が炸裂し、わたしの頭を端から端までゾワワと埋め尽くそうとして…………

 

……………………

 

埋め尽くさなかった。

 

なるほどね、やっぱ感情を制御されてるんだ、これ。

 

基本、人間は思考の許容を越えた危機的状況に陥ると、大抵は冷静な判断が効かなくなり、恐慌状態……つまりパニックに陥るか、または逆に一切の行動が起こせなくなり、茫然自失するか……そのどちらかの状態になる。

 

そしてこの場では、わたし含めて集まった全員が後者の状態になった訳だ。有り得んでしょ、そんな奇跡。

 

 

  "  よ  く  理  解  し  た  ね  "

 

 

  "  こ  の 場 の 全 員 と 同 時 に 話 し て る け ど  "

 

 

  "  気  づ  い  た  の 、  君  含  め  て  4  名  だ  よ  "

 

 

  "  ス  ゴ  い  ね  "

 

 

果たしてスゴいのだろうか、よく解らない。

 

少なくとも、あんま嬉しいとは思えなかった。

 

頭の中に生の声が響くなんて初めての体験だったけど、それにもわたしの反応は淡白だった。

 

脳は今もグルグルと考え続けているのに、脳との線が切れたみたく、身体は動かない。

 

これが、わたし達の目の前に存在する、色も形も性別も解っている筈なのに、何一つ特徴が頭に入ってこない何者かの持つ力なのだとしたら。

 

わたしと、わたしの周囲の皆は……きっと、まだ人間の触れてはいけない領域に触れてしまった、という事なんだろうと思う。

 

───わたし達はどうなるのだろうか

 

殺されるのだろうか? こんな訳も分からない存在に。

 

湧き上がる筈の恐怖の感情は、震えという形すらも現れず……ああそうなのか、と流れてしまう。

 

こんなの冒涜だ、と思った。思いはした。

 

でも、それだけ。

 

湧いて欲しいとすら思うのに、さっぱり怒りに類する感情は湧いてこなかった。

 

 

  "  理  解  力  あ  り  過  ぎ  て  も  考  え  も  の  、  だ  ね  "

 

 

  "  そ  れ  は  た  だ  の  妄  想  だ  "

 

 

  "  君  達  が  死  ん  だ  ら  、  わ  れ  わ  れ  に  も  損  失  だ  か  ら  ね  "

 

 

 

……殺さないのだろうか?

 

疑念は残れど、頭に響いた声に一抹の安堵を覚える。

 

……恐怖や怒りは感じなかったのに、安堵の感情は普通に味わえた。

 

 

 

 

  "  君  た  ち  は  適  合  者  だ  "

 

 

 

  "  わ  れ  わ  れ  、  使  徒  が  選  ん  だ  人  間  な  ん  だ  よ  "

 

 

 

  "  率  直  に  言  う  と  、  君  ら  に  は  戦  っ  て  も  ら  う  "

 

 

 

  "  戦  士  、  プ  リ  キ  ュ  ア  と  し  て  ね"

 

 

何だソレは───という疑問を抱こうとした。

 

 

その次の瞬間だった。

 

 

「─────────────────」

 

 

パッッ、と、眩しさを感じた。

 

その眩しさの後には、全てが変わっていた。

 

簡単に言うと、変身していたんだ。

 

わたしを含め、この場に居る全員が、今の刹那で。

 

今まで着ていた黒い喪服は消し飛び───

 

と思ったら、わたしが着ていたのは、爽快感のあるマリンブルーの生地を基調に、白いフリルで飾られた煌びやかなドレス。

 

しかし、それでいて運動性を損なわない事も念頭に置かれたスポーティさの感じられる、若々しいデザイン。

 

違和感を覚えたので見てみると、染めてもここまで自然には出来ないだろう、地毛としか思えないスカイブルーの長髪。

 

わたしは元の薄めの茶髪から何色にも染めた事が無いので、ショックと感動が半々ずつ襲ってきて……襲ってこなかった。

 

わたし以外の皆も、まるで童話やアニメーションの世界から飛び出してきたかのような、小さな子どもの見るような夢を、現実に投写したままの光景の中に居る。

 

赤、青、緑、黄、紫、水、桃、黒、白、金、銀、etc...

 

絵本の最後のページ、全ての夢が叶う場所。

 

そこはまるで、幼い頃にいつの間にか失ってしまった色彩と無邪気さの楽園。

 

舞い散る花弁

 

清らかな奔流

 

燃え盛る豪炎

 

白と黒の絆の力

 

歪に再構成される時空

 

翼を広げた神の領域の顕現

 

 

───綺麗だと、思った

 

 

どうして今まで葬儀に出ていたわたしが、偉大な祖父を喪った悲しみを忘れ、こんな気分になれてしまうのか。

 

真に冒涜的なのは、わたしの方ではないのか……不安なのに、その不安はうざったいほど即座に掻き消えた。

 

 

これが、わたし達プリキュア───

 

地上の天使が一斉に遂げた、世界で初の変身

 

 

  "  帰  宅  の  時  間  だ  "

 

 

そうして、全ての元凶であろう、その何者かが、再びわたし達へと言葉を響かせた。

 

 

  "  詳  し  く  は  帰  宅  途  中  に  理  解  出  来  る  "

 

 

  "  プ  リ  キ  ュ  ア  の  役  目  、  保  障  、  身  分  、  全  て  を  "

 

 

  "  た  だ  、  舌  に  は  注  意  し  て  く  れ  た  ま  え  "

 

 

  "  で  は  、  ま  た  会  お  う  。  諸  君  "

 

 

最後まで唐突だった。

 

最終的にわたしは、その変身した姿のまま、葬儀の行われていた墓地に戻る事になったんだけど。

 

……何と、それまで居た船の甲板から、音速なんて軽く超えるような"初速"(←重要)で、100人全員の身体が空へと飛び上がったのだ。

 

不思議な事に風圧も何も感じなかったが、その速さはグングンと増しに増し続け、景色を楽しむ余裕すらも無く、この地球を天文学的な速度でブッチ切るわたしの身体は……何故か既に、プリキュアの事を大まかに知っていた。

 

凄いなこれ、どういう仕組みなんだ本当に。ちょっと怖いんだが。

 

……………………

 

そうして、ものの数十秒で、上述の通り、わたしはブロンクスはウッドローン墓地の上空へと到着し……。

 

地上、即ちわたしが居なくなった事で大騒ぎする参列者達の真ん中へと、落下していった……。

 

面白い格好の何かが突如として落ちてきた事で、呆然とする参列者の見る中で、無情にもわたしは元の喪服姿に戻り……。

 

アイツのやっていた思考制御的な何かもそのタイミングで解けたのか、一気にヤバい物がわたしの頭と食道と下半身へと押し寄せ……。

 

わたしは尊敬する祖父の葬儀の場で、父の、祖母の、親友の、親戚一同の見ている前で、人生最大級の恥辱を味わった。

 

……アイツ、今度会ったらボディースラム50発じゃ済まさんからな。

 

 

 

 

 

 

 

その夜、親友の膝を涙で濡らすわたしの目に飛び込んできたのは───

 

テレビの大画面を占拠し、どのチャンネルに回しても変わらず映り続けるアイツと。

 

光の戦士、プリキュアの誕生を大々的に世界へと喧伝する、声無きアイツの声なのであった。




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