変なプリキュア短編   作:セントラルパーク埋蔵金(笑)伝説

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第3話

01.人間、見て、聞いて、知る(井の中に大海が来訪する)

 

 

地球の出来上がりから、大体45億年

 

猿人ルーシーの誕生日から、大体320万年

 

とある男が磔に処されてから、大体2000年

 

東京スカイツリー倒壊より、5日前

 

その日、この太陽系第三惑星に存在する全ての、映像媒体を受信して画面上に映し出す、例外無く全ての機器。

 

テレビ、スマートフォンやパソコンは勿論、銀行ATMやコンビニエンスストアの発注用端末。

 

更には誰も居ない球場の電光掲示板から、何処かの廃屋に何故かあった、電池切れのゲームボーイに至るまで。

 

繰り返すが、例外など無く、人間程度が思い付けるクソ下らない懸念の一切合切を、冒涜的なまでに無視して。

 

そう、全て……地球上に存在する全ての"映像を映し出す機器"に───

 

 

使徒

 

 

自らを使徒と称した、全く得体の知れない存在。

 

人類の小賢しい企みの及ぶ事が叶わない、恐らくは地球上で初めての存在。

 

人が神の領域とでも例えそうな場所からの来訪者が、その姿を、初めて人類の前に現した。

 

……いや、現したという言い方は、この場合だと怪しいのかもしれない。

 

何せ、そこに映っている、人間に似たような姿を取る使徒の存在。

その色も形も、性別も、ハッキリと目で見えている筈なのに、いざ脳が具体的な認識に移ろうとすると、途端に情報が入ってこなくなる。

 

テレビに、スマートフォンに、その画面上に居る存在の肌の色も、造形も、男なのか女なのかも、その全てが像として目に映っている筈なのに、人間に似ている以上の一切の情報を脳に取得するという結果に至れない。

 

それでも、その姿を漠然とでも視界に入れた者は、知性の海の奥底に横たわる、廃れ掛けの本能の部分で理解した。

 

いま、自分の眼前に姿を現すコレが、自分などという矮小な生物が把握し、何らかの形で及ぶ事が出来るような存在ではない事を。

自分が霊長の王の玉座に居た事を久方振りに思い出し、それと同時に、その座から無様に転落させられた事を。

 

その結論に至った人間達が須く襲われたのが、新たな支配者たり得る謎の存在への圧倒的な恐怖なのだが───

 

画面上の使徒が次に紡ぎ出した言葉は、地球人類に対する罷免宣告などではなく、意外なものだった。

 

 

──近い内……君たち人間は、今の君たちの進化状況に、あまりにも不相応な試練に襲われる

 

──理由は明かせないが、この非常事態の責任の大部分は、我々にあると断じなければならない

 

 

申し訳ない……と、その謎の存在が最初に述べたのは、端的に言って人類に対する謝罪の言葉であった。

 

曰く、これから遅くとも半月の内に、この地球に人類の与り知らぬ脅威的な存在が出現し始めるという。

 

噛み砕いて言えば、創作の世界で言われるような、侵略者、人類の天敵。

 

しかし結論、現状の人類では、その存在を迎撃する事は不可能、無理であると言い切った。

 

その上、仮に地下深くまで潜り、厚さ十数mの隔壁の中に逃げても無駄だとも───

 

そこまで使徒の説明が及んだ時、未だ人類の過半数は、突如として降って湧いた状況に思考を右往左往させるのみであったが、残り半数の聡い方な人類は、順接的に"世界の終末"という概念に至り、そして間もなくドス黒い絶望の感情に襲われ……ながらも、更に聡い者の中の一部の者は、にわかな希望を見出してもいた。

 

要するに、この状況……この使徒という明らかに人類の上位に居るとしか思えない存在が、ここで謝罪混じりに人類へと接触してきたという事は───

 

それ即ち、使徒が人類を、これから来るという脅威から護ってくれる、という意味を指している……?

 

 

──それは厳密には不正解だ

 

──我々は力を貸す。しかし、実際に手を下すのは君たち人類だ

 

 

抱いた淡い希望は、使徒の発した短い言葉で即座に摘み取られた。

 

 

──本日……正確にはグリニッジ標準時18:08頃……薄々と勘付いている者も居るか

 

──この時、我々の方で……言い方は悪いかもしれないが、君たちの一部に少々"テコ入れ"を施した

 

 

使徒が言うに、彼らにより少々"テコ入れ"された人類が、既に地球上に100名ほど存在していて。

 

これから人類を襲う圧倒的な脅威への対抗を可能とする力を、その100名は身に宿しているという。

 

使徒が人類に対してもたらす救済は、この100名の"対抗手段"を生み出す、という事だけ……らしい。

 

 

──言いたい事は察する。……しかし、これ以上に我々が直接的な介入をすると、その余波が大き過ぎるのでね

 

──プリキュア……地上の天使とでも言おうか? それが君たちを護る盾と──なる事を祈っている

 

──ただ、最良の結果を生み出すためにも、あまり小賢しい奸計を巡らせない事を推奨させて頂こうか

 

──あー……ライリー・ゲイツ君? 特に君の考えているソレは、やめておいた方が君のためだと思う

 

 

翼が無くとも天使……それを私欲のため毒牙に掛ける事が、如何なる意味を持つか、少しは解るだろう?

 

その不穏な言葉を最後として、使徒は世界中の画面から一斉に姿を消したのだった。

 

この瞬間、全世界に、使徒という神の領域との遭遇を体験した70億以上の知性体が生まれた。

 

ここまできて尚も状況を理解しない愚かな者

 

正しく立たされた状況を理解して明日に絶望する者

 

───この状況すらも利用しようと企む真の馬鹿者

 

様々な者が居る中で、正しく異端と称するのが相応しい、100人の選ばれし人間は、確かに存在していた。

 

地上の天使、プリキュア

 

これより5日後、とある島国にて人類の戦いは開幕し、プリキュアの勇姿が全人類の瞳に刻まれる事となる。

 

ちなみに、この時の映像を録画した記録媒体には、ブラックアウトした無音の映像が映るのみだった。

 

 

 

02.The Time has come

 

 

結論から言うと、そのカラミタスに操った海水を使った攻撃(わたしの十八番)は効果が無かった。

 

なにせ、出現したカラミタスは、液体状の、というか水そのものの身体を持ったタイプだったため。

 

まるで海自体が意思を持って襲い来るように、間断無く叩き付けられる猛烈な勢いの奔流を、わたしは必死に回避し続けていた。

 

カラミタス出現の場所に辿り着き、近隣の船舶を逃がしてから既に十数分、ちょっとした膠着状態が続いている。

 

───タイダルウェーブ・カラミタス

 

わたしの持ち技とモロ被りなので非常に不本意だが、わたしは目の前のカラミタスに、そう名付けた。

 

実に安直かつ、それ以上に無いほど的確な名前だ……と思う。個人的に。

 

先程から、わたしに叩き付けられる、この容赦の欠片も感じられない激流の勢いは、まさに津波級だから。

 

アニー「うぐっ、ああぁッ!!」

 

ドバッシャアアア!!!

 

回避が間に合わず、会敵から何度目かのそれを喰らう。

 

わたしは龍のようにうねる奔流に容赦無く飲まれ、冷たい大西洋の海中へと引きずり込まれた。

 

アニー(や……ば……)

 

そこでわたしは、咄嗟に固有能力で自分の周囲に水流を発生させ、そこから上下左右全方向に滅茶苦茶な軌道、かつバショウカジキ辺りなど周回遅れにする速さで海中を駆け回り、最終的に再び海上へと飛び出した。

 

わたしに数瞬ほど遅れて、同じように再び海上へと現れたカラミタスは、わたしの推測通り──わたしの身体を捕縛して海中深くへと誘い、そこで改めて始末に掛かろうとしているようだった。

 

現にいま、わたしと同様に海中へと潜っていたらしいのが、その証左。

カラミタスはわたしの次の動きを窺っているのか、わたしと睨み合うように動きを止めている。

 

アニー(厄介だなぁ……)

 

そもそもコイツ、タイダルウェーブ・カラミタスの身体は、前述の通り液体。

 

そして、奴の水鉄砲──水大砲? 鉄砲水? をモロに喰らった時、その際に飲み込み掛けた水が、わたしの知る海水の味だった事を確認している。

 

恐らくはこの液状カラミタス、わたしと同様に、ある程度まで自分の周囲の海水を操る事が可能なようだ。さながら手足のように。

 

わざと滅茶苦茶な軌道を取って海上に出たのは、奴の捕縛の手をかいくぐるための(半ば破れかぶれな)手段。

 

プリキュアとはいえ無茶な動きをした影響で、ちょっと前に食事した影響か胃の調子が良くないが───

 

もしノコノコ一直線に海上を目指していたら、今頃わたしはその分かり易い軌道を先回りされていたに違いない。

 

仮に海中まで引きずり込まれ、回避が間に合わずに身体を捕らわれてしまった場合、きっとわたしには為す術が無い。

 

奴は海中に於いては、周囲の海水と視覚的に同化して、目視で姿を捉える事が叶わなくなる──即ち、波の形が見える海上と違い、奴がどんな風に何処から襲ってくるか分からないから、対応を取るまでの時間が格段と遅れるのだ。

 

アニー(なら……今の状況、わたしだけで取れる対応は……)

 

しかし、この状況。

 

海上に上がったわたしと、カラミタス。互いの次の動きを探り合って下手に動けず睨み合う───

 

少なくとも、カラミタスの側はそう思っている事だろう。

 

───でも、互いの姿をハッキリと捉えられるこの状況。

 

───わたしには、紛れもなく巡ってきたチャンスなんだ

 

そして次の瞬間、わたしがざとらしく視線を横に向けると、それを隙と見た奴がここぞとその身を再び水中に……!

 

アニー(今だっ……プリキュア・アクアリウム・アロウジョンッ……!!)

 

効果範囲──最大に設定

 

わたしは自身の身体、その中枢に鮮やかなオリオンブルーのキュアエナジーを集中させ……一気に前方へと解放。

 

次の瞬間、さながら前倣えの体勢で突き出した、わたしの両掌の先から数インチを円周上の一点とし、半径約30ヤード程度に及ぶ真円の範囲の"海水だけ"が、その真円の中心を起点に……ズバァッ!!と瞬く間に吹き飛ばされた。

 

まるで、その範囲に、見る事も触る事も出来ない巨大なボールが瞬間移動してきたかのように。

 

アクアリウム・アロウジョン───前述の通り範囲内の"海水だけ"を、数秒間だけ無理矢理に周囲へ押し遣る──排水する技。

 

かなり用途が限られるが、海中に居る敵の動きを撹乱、僅か一瞬ではあるが、強制的に隙を生じさせる技だ。

 

奴がチャンスを見出し水中に潜った、その瞬間を不意打ち……地味に見えて、これが効く。

 

真円の周囲に押し遣った海水が、数秒を置いて元に戻ってくる僅かな間に、わたしは海水を消失させた真円の空間の中に取り残され……グネグネと混乱するかのように奇妙な形状変化を繰り返す、透明な液状の塊を見た。

 

アニー(レッツお仕置きタイム(The Time has come))

 

そこから、わたしは弾かれるよりも速く行動に移る。それがカラミタスの全容だと理解した瞬間。

 

アニー(───プリキュア・アクアマリン・トルネードッッ!!!)

 

再び迸らせたキュアエナジーで海へと働き掛け……未だ真円の中に居る奴の真下。

 

そこから、水上竜巻(Waterspout)──付近の空には積乱雲(スーパーセル)も、それに由来して発生するメゾサイクロンも気配すら無いが、わたしこと自然界の摂理を超越したプリキュアの力で、カラミタスの真下にピンポイント、かつ瞬時にそれを発生させてみせた。

 

アニー「たまには空も飛んでみては?」

 

巻き上げられた強力な海水の旋風に、足場(海水)の消失に混乱している所を狙われ、為す術も無く上空へと飛翔させられた液状カラミタスは──

 

実際は与えられた外的刺激に反射的な反応を返しているに過ぎないのだろうが、何処かパニックを起こしたように、なおも激しく形状変化を繰り返し、アクアマリン・トルネードから逃れようとする……が、それも無駄な足掻きでしかない。

 

上空へと跳ね上げられ、無理矢理に海水と引き離された事で、完全な無防備状態へと陥った液状の塊……もといカラミタスは、最早わたしにとって射抜くに容易い、さながらクレイ射撃の的のような物だ。

 

さて、そろそろ終わりにさせてもらう。

 

マリーとの楽しい時間を、しかも課題の途中という舐め腐ったタイミングで邪魔してくれた御礼に、打ち上げ花火を特等席で観覧させてやる。

 

きっと良い眺めだろう……何せ、花火そのものの中から見る訳なんだから。

 

 

アニー「プリキュア!!」

 

 

アニー「タイダルウェェーブ・スプラァッッシュ!!!!」

 

 

空中に舞い上がったタイダルウェーブ・カラミタス───

 

その水の身体を、丸被りした名前の青い水属性の極太ビーム(濃縮キュアエナジー)が貫き。

 

瞬間、その水の塊が沸騰したかの如くボコボコボコボコ、と一気に泡立ち始め、そして───

 

──ズパッ。

 

限界まで張り詰めさせた巨大な水風船に針を刺したような、不快感を煽る鈍い破裂音を響かせ、ビームを受けた所から、カラミタスは粒子状のキラキラ煌めく光と化して、そして虚空へと消滅した。何という迫力に欠けた花火だ。

 

通常兵器で倒しても、暫くすればカラミタスは再び活動を始める。

 

頭に該当する器官を潰しても、身体を丸ごとバラして焦げ目しか無くなるまでローストしても……

 

やがて時間が経てば元の姿を取り戻し、何事も無かったかのように動き始める、神の領域の生命体。

 

だからこそ、同じ神の領域の力であるプリキュアの力で、分子レベルまで完全分解(カラミティブレイク)して、文字通りこの世から消滅させるのが最も良い対処法。

 

例の使徒が言うに、人類が開発した禁忌を何度か冒せば、割と倒せなくもないハズ、との事だけど───

 

まさか、カラミタスが出現する毎にA兵器を、それこそ独立記念日の花火感覚で消費する訳にもいかないしね。

 

アニー「…………」

 

そうして……騒がしかった大西洋が、再び波の音だけの流れる世界となった。

 

凪いだ海上に浮かぶわたしを残し、海は今の今までを完全に忘れ去ったかのように、静か。

 

アニー「……はぁー」

 

吐いた深い息に様々なものを乗せて、わたしは意識を区切った。

 

さて、海の向こうから沿岸警備隊辺りが来て、何やら面倒な事になる前に、さっさとマンハッタンに帰ろう。

 

今日は疲れたし、課題を踏ん張ってビーフシチュー食べたら、おばーちゃんに頼んで疲労回復のスムージーでも作って貰おうかな……。

 

残り少ないとはいえ課題は憂鬱でしかないけど、マリーが傍らに居れば何とかなるに違いない。

この場合、一緒に課題をやってくれる戦力的な意味じゃなくて、単に清涼剤的な意味合いとしてね。

わたしにとって、回し過ぎて焼け焦げた精神に、マリーとおばーちゃん以上の冷却装置は無いんだ。

 

なんて呑気な思考を頭に流しながら、自然と冷却されていく心と身体の片隅で、わたしは警戒の意味も込めて周囲を見回そうとして───

 

そこまで遅れたのが、失敗だった。

 

背後──背後────背後──────わたしのすぐうしろ

 

ザバァ……わたしの背後から、あまりにも不自然な波音が鳴る。

 

何かが海の底から這い上がってきて、獲物を捕らえんと忍び寄るような……。

 

そして

 

わたしの意識の中の警報装置が、ガンガンとけたたましく伝えていた。

消滅した筈のタイダルウェーブ・カラミタス。それが健在だという事実を。

 

 

 ! ! ! ! ! !

 

 

それ以上、何かを考える余地は無かった。

どうしてとか、ならどうするとか、そんなのは既に分かり切っているんだ。

奴は生きていて、わたしは油断して、だから不意を突かれて──話はそれだけ。

 

だからわたしは、すぐさま海中へと潜り背後の重圧の大元から距離を……いや駄目だ、間に合わない。

 

アニー(……!! プリキュア・アトランティック……ッ?!)

 

振り向きざまに、奇襲する敵に用いる迎撃技を繰り出そうとするも……無情にもこれも間に合わない。

既にわたしは、その海水で出来た何本もの腕に四肢を掴み上げられていて、構えを取る事も出来なかったんだ。

 

目の前に蠢くは、先程までと何ら変わらない、波の化物───タイダルウェーブ・カラミタス。

 

アニー(やられ……る)

 

きっとわたしは、これから最大の一撃を浴びせられるだろう。

 

奴には、やっと巡ってきたチャンス。わたしは死にはしないだろうけど、間違い無く深手を負わされる。

 

海水の腕に四肢を固定され、空中に磔みたいな状態で浮かぶわたしに、技の一発外す筈も無い。

 

今度は、わたしが奴にとっての的となった訳だ。

 

そうして、わたしを捕らえる奴の液体の身体、その中心に、技の前動作だろう渦が形成され始め。

 

それは、腕に捕らわれ身動き叶わず、良い的となったわたしに、狙いを定めるみたく高速で回り。

 

 

 

「 プ リ キ ュ ア ! ブ レ イ ヴ ジ ェ ッ ト ・ ガ ン グ ニ ル ッ ッ ! ! ! 」

 

 

 

渦の回転が一層激しくなるのと、その渦の中心を一筋の緑色の閃光が貫いたのは、ほぼ同時だった。

 

───

 

再びの静寂…………も、一瞬で終わる。

 

 

ギ ィ ィ イ ア゙ ゥ゙ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ! ! ! !

 

 

奴の身体の渦が勢いを失い、完全に停止したと同時──耳を覆いたくなる不快な悲鳴が大西洋に轟き渡り、わたしを拘束していた海水の腕も、その液体の身体も崩れ去り。

 

そして、最後に残ったのは透明な……な、何だ? 大きさにして成人男性2人分ほどの、ウネウネとアメーバのように波打つゼリー状の球体が、タイダルウェーブ・カラミタスの崩れた液体の身体の中から現れ───

 

かと思えばそれは、先程わたしがタイダルウェーブ・スプラッシュを喰らわせた時のようにボコボコと泡立ち始め。

 

数秒の後、透明なゼリー球は唐突にズパッと破裂し、光の粒子となって虚空へと消えていった。

 

拘束の手が消滅した事で、海面へ再びドボンと落下したわたしは、それをただ呆然と見ているだけだった。

 

???「良いドレスじゃんそれ。5番街で買った?」

 

そして、多分わたしに対してのだろう、声が掛かった。

 

……それは声変わり途中の、まだ幼さの残る少年の声だった。

 

アニー「……太平洋で貰った。あなたもそうでしょ?」

 

???「まあね。壮観だったよなぁ……僕らが一斉に変身した、あの瞬間」

 

振り返ると、こっちに"歩いて"近付いてくる人影……プリキュアが居た。

 

アニー(えっ)

 

海面を歩いてる……待って、それどうやるの。わたし出来ないんだけど。固有能力?

 

気になる……

 

 

 

03.プリキュア、邂逅(Strange Devid)

 

 

アニー「今の、あなたがやったの?」

 

???「そう。今のブヨブヨがアイツの本体。多分、海水を余分に纏って大きく見せてたんだ」

 

海面に屈み、目線をわたしと近付けつつ解説を披露する彼は──歳はわたしくらいの黒人の少年プリキュア。

 

ダークグリーンを基調に、身体の随所にシンプルなメタリックシルバーのプロテクターを装着した、戦闘に於いての実用性を前面に出した感じの、如何にも男性的な力強さを感じさせられるコスチューム。

 

ちなみにわたしは水/愛だが、推測するに彼、闇属性は間違い無く入っていると思われる。

 

後は……第二属性として土、それか勇、もしかしたら幻属性を持っているかもしれない、彼。

 

アニー「助かった。でもその……本体? の位置、どうして分かったの?」

 

???「え、ううん? 別に分かってなかったよ」

 

アニー「は?」

 

???「いや、何となく中央かなって。そういうパターン多いから」

 

アニー「…………」

 

勘で撃ったのかい。もし本体から外れてたらどうしたんだ、当たったし結果オーライだけど。

 

???「纏っていた海水から抜け出して、あの竜巻に乗って、ギリギリ海に逃げてたんだと思うよ。ナントカスプラッシュ受ける前に」

 

アニー「タイダルウェーブ・スプラッシュね。竜巻はアクアマリン・トルネード」

 

???「あーゴメン、それそれ。要するに、君が貫いたのは、ただの海水の塊だったって事」

 

アニー「やられた……助けてくれてありがと、本当に。あのままだったら大怪我してたかも」

 

???「気にすんない、オレたち同じプリキュアだろ」

 

礼を言うと、ダークグリーンの彼は照れ臭そうに笑った。

 

黒人の肌の色的に解り辛いけど、赤面してるんだろう。ちょっと可愛いかも。

 

アニー「ところで、あなた名前は? わたしアニー、そこのマンハッタンから来たの」

 

デヴィッド「ん、オレはデヴィッド。テキサスのメイソンに住んでるよ」

 

アニー「テキサス?」

 

また随分と遠い土地の名前が挙がった。テキサスだと。

 

此処からだとプリキュアでも、そんな易々と行き来可能な距離じゃないだろうに。

 

デヴィッド「ちょっと遠出してたから、偶然ね。能力的に探知情報が来る機会が多いから」

 

やっぱり出先でセラフの情報が送られてきたったって寸法か。旅行でもしてたんだろうか。

 

アニー「ふうん、能力って?」

 

デヴィッド「……まあ、あれだよ。瞬間移動ってやつ。簡単に言うなら」

 

アニー「へえ…………えっ」

 

デヴィッド「やろうと思えば、地球の真反対まで一瞬で行けるよ」

 

アニー「え、スゴ……凄くない?」

 

デヴィッド「まあ、一度にそんな長い距離を跳ぶと、暫く変身出来なくなるけどね、エナジー尽きて。丁度クイーンズ近くに跳躍したら、セラフから要請が来たんだ。ビビッと」

 

ビビッと、頭に指でアンテナを作る仕草を取るデヴィッド少年。

 

どうやら旅行では無かったらしい。なるほど、易々と行き来が可能な固有能力をお持ちだった訳だ。

 

──ポピュラーな言葉だと瞬間移動(teleportation)。それも、この惑星を股に掛けられるレベルの。

 

アニー「わたしも他のプリキュアあまり知らないけど、かなりスケール大きくない……?」

 

デヴィッド「へへ、まあね。あーでもまぁ、それ以外のトコは平均値っぽいけど。プリキュア的に」

 

姿を消したり、翼で空を飛んだり、はたまた人の感情を自在に操ったり、動物とお話してみたり───

 

実際に見た事は少ないけど、プリキュアが持つ固有能力……つまり、世界に100人存在するプリキュア、1人1人が持つ、個性とも言うべき特別な力は、実に多岐に渡るもの。

 

わたしで言えば、自分の周囲の一定範囲に存在する水を自在に操る力。

 

先の戦いでチョコチョコ披露したのがそれで、他には戦闘機並みの速さで泳いだり、ある程度の汚水を浄化出来たり。

 

自分が実際、そういう人知を越えた力を、この身に宿したと理解した時には、なるほど感心、昂揚、恐縮、様々な情動に襲われ、同時にちょっとだけ全能感などと例えられそうな気分も湧き上がったものだ。そんな気分に任せてイースト川沿いの市民プールで実験したりして怒られた事もあった。

 

まあそんな感情も、毎週のように人知を越えた存在と戦うにつれ、次第にボヤッと薄れていったけど。

 

しかし彼……デヴィッド君? の持つ力は、わたしと比べても人の領域の越え具合が凄まじい。

 

それ以外の能力、単純な力量だとか機動力とかが平均に収まるものだとしても、釣銭が大量に来る。

 

わたしが時間を掛けてカラミタスの出現場所に向かうまでのタイムロスを、彼なら殆ど無しに出来る。

 

変身しなければ力を使えないという手間はあるけど、人間や他の生命体を、それが生まれ出た瞬間から縛り続ける、迫り来る時間という巨大な制約。その大部分を、彼はプリキュアになって克服したという事なんだ。

 

……?

 

……あれ、ということは。

 

アニー「あ、じゃあ今から、わたし連れてマンハッタンまで一気に……」

 

デヴィッド「生憎、一緒に跳べるのは非生物限定。しかも重量70ポンド弱が上限」

 

アニー「えー残念……」

 

デヴィッド「ナカムラヒロほどには、なれなかったね」

 

なんでえ、惑星規模の割に中途半端なトコあるね……まあ、そんな上手い話は無いって事かな。

 

まあ、わたし独力でも、泳ぎだけに全力で集中すれば数分と掛からない速度出せるし、良いんだけどね、まあ。

 

キュアエナジー枯渇と、あと単純なスタミナの問題を考慮しなければ、アフリカ大陸南端(Cape of Good Hope)からインド洋を回るルートで東アジアまで1日と少しで行ける。殆ど旅客機同然のスピードだ。

 

地上の天使、海を司る水属性プリキュアは伊達じゃないのだ。……まあ仮に実際やったら、アフリカに着く前に変身が解けて、スタミナ切れから碌に泳げず漂流、からの鮫さん辺りに喰われてリアル天使の御世話になるだろうけど。

 

何という間抜けな死に方だ、向こうの祖父と母親もコメントに詰まること間違い無しだね。

 

アニー「助けてくれて本当に感謝してる。また会ったら協力させてね」

 

デヴィッド「協力プレイ、燃えるね」

 

デヴィッド「じゃあ君これから……」

 

それだけ言うと、わたしは海中に潜り、そのまま彼に背を向け、マンハッタンへと高速で泳ぎ始める。

 

デヴィッド「えっあれ?」

 

デヴィッド君……同年代としては随分と感じの良い少年だったし、機会があるなら是非とも共闘したいものですね。

 

アニー(さーてと……)

 

時刻は正確には分からないけど、そろそろ14時を回る頃だと思う。

 

マンションを出て海に出る前に、バッテリーパークの屋台でホットドッグを2つ食べたからランチは済んでるけど、その程度の量じゃ、そろそろ誤魔化しが利かない。

 

ついでに海水も少し飲んだせいで、喉も渇いた。

 

帰って課題を乗り切れば念願の日常withマリー(その前に課題)だけど、これから陸に上がったら近所の店で何か食べよう。

 

あーでも、そろそろおばーちゃん帰ってくるし……もしかしたらランチ用意してくれてるかも。

 

上陸したら、まず家に電話を掛けて、その辺り確認してみよう。

 

マリーは……居るんだろうな、まだ。ロジャース家に。そういう子だから。

 

ついでにホットドッグでも買っていってあげよっかな。

 

などとわたしは、大西洋をマンハッタンに向けて驀進しつつ財布の中身に思考を巡らせた。

 

で、それはそうと───

 

アニー「……何で付いて来てんの」

 

デヴィッド「いや、あれで終わりは、ちょっと寂し過ぎるじゃん?」

 

高速で大西洋をマンハッタンへ泳ぐわたしの傍ら。

 

どういう原理か水上を駆け、わたしに併走する少年がそこに。

 

まだ何か御用事ですか?

 

……はあ、波乱の予感がするよマリー。




デヴィッド・バークレイ(Devid_Berkeley)
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