やはり俺の猫生活はまちがっている。   作:マクロ経済大回転

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はじめまして、猫

 目が覚める。昨日の夜に夜更かししたせいか、あまり頭が回らない。寝ぼけ眼のまま毛布から這い出し、洗面台へと向かう。ぬぼっとしながら歯を磨き、朝食を食べにリビングへ行く。

 

「ふあぁ、小町おはよう」

 

「んー?どしたのカマ、クラ?…え?」

 

 小町が何か騒いでるな…。朝から元気で何よりだ。ただもうちょっとお淑やかさを思い出してほしいぞ、小町よ。そんな事を考えながらトーストに齧り付いた。

 小町の騒々しい声を背に受けながら食器類を片付け、いざ学校へ行かんと家を出発する。因みに昨日自転車のタイヤがパンクしたので今日はバス通学だ。愛しの小町を後ろに自転車でゴーが出来ないから朝から気分はだだ下がりである。

 

「ふあぁ、…そんなことよりねみぃ」

 

×  ×  ×

 

 何故かちらほら通行人からの視線を感じたものの無事にバス停に着いた。バス通学とか久しぶり過ぎてバス停どこだっけと道に迷ったのは内緒だ。

 数分と経たずにバスはやってきた。整理券を取り、出来るだけ真ん中に立つ。混んでる時は中央付近がベストポジションだ。降車する時にそんなに労力を掛けずに済むし、他の人が降りる時に避ける必要もあまりない。つまりは立ち寝ができるということだ。睡眠大事だからねっ!こんなことなら昨日夜更かししなけりゃよかったな…、…zzz。

 

×  ×  ×

 

 未だ寝ぼけ眼のままバスを降車する。周囲から奇異の目で見られた。解せぬ。まさか寝ている間に涎を垂らしていたのか…!?もしそうだったら今すぐ帰宅して毛布に(くる)まって悶え死ぬまである。…死んじゃうのかよ。次に立ち寝する時は気をつけよう。

 バスを降り、程なくして総武高校の制服がちらほら見え始める。あと少しで俺の通っている総武高校だ。今日は確か1時間目から現国だったな。…憂鬱だ。

 

 学校に着き、いよいよ眠気がマッハになった為机に突っ伏して寝ることにする。無機質な机はひんやりとしており、俺を心地よい眠りへと(いざな)った。

 

×  ×  ×

 

ザワ…ザワ…

 

 何だか教室が騒がしい。朝の小町といい道端ですれ違った人といい、バスに乗り合わせた人といい、今日は違和感の多い日だ。世界が俺を中心に回っているのではないかと勘違いしてしまいそうなくらいだ。

 

ガララ

 

「よーし、今日も授業はじめ、る、ぞ……?」

 

 1時間目の現国の授業をしに教室にやってきた平塚先生が此方をみて固まっている。あれ?俺なんかやらかしちゃった?また涎垂らしてた?悶え案件ですね。

 

「だ、誰だ?猫を教室に連れてきた奴は!こんな可愛い猫なんぞけしからん!私が丁重にお持ち帰り…ゲフンゲフン」

 

ああ、独り身だと癒しが足りなくな…

 

「…なんだかそこの猫が良からぬ事を考えているような気がするのだが何故だろう」

 

 怖ぇ。こっちの思考を読み取るとかあなたどんなエスパーですか。…ん?猫?

 

「クシュン!…先生、さっさとそこの猫を連れ出してください」

 

 川…川…川越?さんが嫌そうな顔で此方を見ながら先生に促す。まてよ、確か川島は猫アレルギーだったはず…。それに加えてさっきの平塚先生の発言。これらから導き出される答えは…。

 

「おっと、すまんな。そこの猫ちゃん、ここは君の席じゃなくて比企谷の席なんだ。居心地がいいのはわかるが野良に帰りな」

 

 猫だった。アイエエエ!?ナンデ!?ナンデネコ!?そういえば朝からの違和感はこれだったのか!?寝ぼけてて気付かないとか俺由比ヶ浜のことバカとか言えないじゃねぇか!

 平塚先生の胸に抱きかかえられ教室を後にする。背中に感じる柔らかさをもっと感じていたい…。ふ、不可抗力だから仕方ないよねっ!

 

「…私も猫飼おうかな」

 

 そんな呟きと共に俺はグラウンドへと放り投げられた。

 

×  ×  ×

 

「あちぃ…」

 

 あれからよくよく考えてみた結果、自分の馬鹿さ加減に辟易させられることになった。

 暑いからといって裸でベッドから起き上がる時点でもうアウト。毛布だと思っていたものは猫化する前に着ていたパジャマであった。歯磨きしに洗面所の鏡を覗いているのに気付かないし、まともに歯磨きできていたかも不明だ。小町の言動がおかしかったのもこの状況であれば納得だ。それに…

 

「何処の猫が整理券受け取ってバスに乗るんだよ…」

 

 そりゃ奇異の目で見られるわけだ。さぞ運転手も吃驚したものだろう。だが一番の問題は教室まで来て“比企谷八幡”の席で寝てしまった事だ。私は比企谷八幡ですと公言しているようなものだ。いつバレてもおかしくない。バレたが最後、肉体的いじめに繋がりかねん。

 

「はぁ…」

 

 まぁ、学校に来なければいい話だ。そう深刻な問題でもない、筈だ。ただなぁ…、言葉が通じないって意外と辛いものなんだな。

 

×  ×  ×

 

キーンコーンカーンコーン

 

 いつのまにか寝てしまったようだ。太陽が南に高く昇っている。と、誰かが目の前にいることに気付く。

 

「んあ?」

 

「…ニャー」

 

 …雪ノ下だった。


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