やはり俺の猫生活はまちがっている。   作:マクロ経済大回転

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指導する、猫

「では最後の質問です! 猫になったご感想をどうぞ!」

 

「あー、そうですね…、案外猫生活も悪くないんじゃないですかね」

 

 煮え切らない返答をする俺。いや、うん、まだレンタルが終わってないから何とも言えない状態な訳なんだが。少なくとも楽しい…と思える生活は出来ている。

 

「では最後に皆さんで写真を撮って終わりにしましょう!」

 

 そう言って俺を抱きかかえるリポーターさん。…もしかして俺の事好きなのん?

 カメラの左端に映る平塚先生は何処から取り出したのか「彼氏募集中」と書かれたフリップボートを持っていた。何かこう、行き遅れたおばさん臭がすご…すいません、睨みつけないでください平塚先生。

 右端ではゆるゆりフィールドが展開されており、誰も近づく事が出来ない…!

 

「では撮りますよー! 三…二…一…」

 

 動きが遅すぎた亀さんをひっ捕まえて鷲がカメラの目の前を通って左端に移動する。ナイスポジショニングだ、鷲よ。

 

パシャッ

 

 満面の笑みを浮かべたリポーターさんと由比ヶ浜と雪ノ下、やや引き攣った表情の俺、楽しそうにフリップボートの前に滞空している鷲と亀さん、平塚先生の哀愁感漂う雰囲気が一枚の写真に収められていた__

 

 

 これが放送されたのは四日後の金曜日のゴールデンタイムだった。噂の伝播は早いのか、放送を見ているとどうも千葉県内で俺は有名猫になっているらしい。これから追っかけとかが出現しそうで心配だ。

 勿論、平塚先生の元に電話がかかってくる事は無かった。

 

「はぁ、小町もあの日は吃驚したよ。お兄ちゃんが帰ってきたら亀がいるし、俺テレビ映るからって言われた時は何かの冗談かと思ったんだからね!」

 

「すまん小町。放課後に平塚先生から取材班が来ているから出るだろう?って一種の脅迫を受けたんだから俺だって被害者だ」

 

「…平塚先生のレンタルの権利剥奪しちゃおっかな…」

 

 平塚先生に今一番ダメージが入る言葉を言ってのける小町。いつからブラックデビル小町になったんだ?お兄ちゃん怖くて夜も眠れないよ。

 

「…やっぱ可哀想だしやめとこっかな」

 

 おお、小町優しい。平塚先生を思いやる心は大事だか…

 

「代わりに中二を紹介してあげよう!」

 

 やめて差し上げろ。

 

 

×  ×  ×

 

 

 目が覚める。今日も今日とて愉快な猫生活の始まりだ。今日はレンタル初日だと小町から聞いているのだが誰に貸し出されるのかまでは聞かされていない。小町曰くその時のお楽しみだよ! だそうだが不安しかない。ま、まぁ俺の可愛さで何とかなるもんね!

 

「おはよう、小町」

 

「ん、おはよーお兄ちゃん」

 

「八幡…、助けてくれや」

 

 朝からカマクラが鷲に(つつ)かれている。鷲の毎朝の日課と化したようだ。心の中でカマクラに両手を合わせておく。俺にはもう、助ける事は出来ないんだ。因みに亀さんは寝ながら廊下を歩いている。器用なこって。

 

「で?何時からレンタルなんだ?」

 

「八時からだよー」

 

 なんだ八時か。それなら何も問題は…ってあと二十分も無いじゃないか! 急いでキャットフードを掻き込んで身支度を済ませる。身支度と言っても毛繕いくらいなんだけどね!

 

「あ、迎えに来てくれるらしいからそんなに急がなくても良かったのに」

 

 早よ言えや。おっと、混乱しすぎてカマクラの言い方が伝染ってしまったじゃないか。

 

 暫くした後にピンポーンとチャイムが鳴った。誰が来るかわからない状況で俺の心臓が波打つ脈動が速くなる。何だろうこのドキドキは…、もしかしてこれが恋…?

 

ガチャ

 

「おはよう、ヒキタニくん。今日一日宜しく頼むよ」

 

 なんで初日からお前なんだよ。俺のドキドキを返せ。

 

×  ×  ×

 

「ここが僕の家さ」

 

 別に知りたくもなかった葉山の家が眼前に姿を現す。女子にこの住所を売ったらいい儲けになるんじゃなかろうかとゲスい考えを巡らせているとひょいと身体を持ち上げられた。

 

「ぼーっとそこに突っ立っていないで僕の部屋に行こうか」

 

 何故か、近くで「ぐ腐腐腐…」という声が聞こえた気がした。葉山も何かを察知したのか足早に家の中へと入っていった。気のせいではなかったらしい。海老名さんパネェ…。

 

「…一応準備はしたんだが猫にとってこの環境はどうなんだい?」

 

 葉山の自室に通されて真っ先に目に入ってきたのは壁際に設置されたキャットタワーだ。その直ぐ横に水飲み場とトイレが併設されていた。窓際に設置されている葉山のベッド横に猫用のベッドも見受けられ、床にはカーペットが敷いてあり広々としている。

 

「…なぁ、こういう質問とかって俺じゃなくて雪ノ下に聞いた方が早いんじゃないか?」

 

「僕も一時期はそう思っていたんだが…雪乃ちゃんレベルになってくると猫への配慮の注文が多過ぎて僕には対処出来ないと判断したんだ」

 

 まぁ分からんでもない。適度なアドバイスが欲しいのだろう。雪ノ下に任せたが最後、劇的大改造されて「なんという事でしょう」とナレーションが入る事だろう。匠も吃驚なレベル。

 

「はぁ、わかった。じゃあ文句付けてくぞ」

 

「文句って所が君らしいな」

 

「まぁ先ずは遊んでからだな」

 

 そう言ってキャットタワーによじ登った。先程から登りたくてウズウズしていたんだ。ちょっとくらいいいだろう。それに猫になりきる事で分かる事も有るしな、と開き直って小一時間程遊ばせてもらった。

 

「ふぅ、遊んだ遊んだ」

 

「…楽しんでくれて何よりだよ」

 

 やや渋い顔をしながら返答する葉山。まさか一時間近く遊ぶとは思っていなかったらしい。猫を飼う練習なんだろう? 見守る事も練習の内だ。

 

「ちょっと疲れたから寝かせてくれ」

 

 ふむ、ベッドは毛布でふかふかだ。文句なしの寝心地だな。ちょっと寝てから指導といきますかね、と思案しながら微睡みに落ちていった。

 

「君は猫になってから自由奔放になりすぎだ…」

 

 葉山の嘆きが聞こえた気がした。

 

×  ×  ×

 

 結局、三時間ほど寝てしまった。寝心地が良すぎるあのベッドが悪い、と責任転嫁して葉山の元へと向かう。

 

「メシくれ」

 

「…はぁ」

 

 盛大に溜息を吐かれた。解せぬ。

 

「ほら、キャットフードだ」

 

 おお、サンキュな。と目で感謝の意を述べ、少し遅めの昼ご飯を食べる。

 

「柔らかな肉感と魚の味…、穀物ではなく芋を使った香ばしい香り…、カリカリと食べやすい大きさの欠片…。これは美味い」

 

「お気に召してくれたようで何よりだよ」

 

 調子を取り戻したのか葉山が近付いてくる。うん、褒めるポイントその三だな。さぁ、食べ終わったから指導といきますか。

 

「さてと…、大きく分けて問題点は四つある」

 

「そんなにあるのかい…?」

 

「先ず一つ目、水飲み場とトイレを併設するな」

 

 人間でもそうだが、飲食する場の近くにトイレがあればいい気分はしないのだ。こいつは猫の気持ちどころか人間の気持ちも分かっていないのか…? ぎるてぃ!

 

「成る程…、言われてみればそうだ。でもどこに置けばいいかな?」

 

「トイレなんだから臭いもかなりの物になる。だから洗面所辺りにでも設置しておけば換気も出来るし困る事もないだろう。洗面所に置けないというのであれば屋根のあるトイレを買っておけば良い」

 

 俺は猫用トイレではなくちゃんと人間用トイレで用を足しているがな。中々そんな猫はいないだろう。

 

「次に二つ目、水飲み場は複数が鉄則だ」

 

 色んな所に水飲み場があった方が猫としては安心なのだ。因みに部屋の端っこの方にあるとなお良しだ。猫の気持ちを分かろうとしないとは…。ぎるてぃ!

 

「ふむ、また明日買う事にするよ」

 

「では三つ目、危険なものは片付ける事」

 

 猫は基本的に高い所を好む。物を山積みにしていると猫によって崩されたり、棚の上に物を置いたり、埃をこまめに拭き取らないと猫に悪影響を及ぼす。又、倒れやすいものは固定する必要がある。あとガラス系は絶対に露出させては駄目。こんなに物を積むとは…片付け苦手なのか…? ぎるてぃ!

 

「もっと綺麗にしておかないといけないな…」

 

「更に四つ目、爪研ぎ用の何かは買っておく事」

 

 猫は爪研ぎでストレス発散する事が多い。爪研ぎ用の物を買っておかないと家中爪痕だらけになってしまう事も珍しくない。ストレス発散の爪研ぎは葉山の顔でどうぞ。ぎるてぃ!

 

ブチッ

 

「…君は一々僕を攻撃しないと気が済まないのかい?」

 

 葉山が静かにキレた。




果たしてこの情報が正しいのかどうか…。
リアルで猫を飼っている方、もし間違っているところがあればご指摘ください。

評価バーに色が付きました!評価してくださった皆さんありがとうございます!
作者の喜びの舞 ٩( ᐛ )و
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