「悪かった! 悪かったから俺の目の前でマッカン飲まないでください! お願いします」
悪い顔で見せつけてくる葉山。小町にマッカン禁止条例が発布されてから一度たりとも飲んだことはないのに。唇を噛んで耐えるしかないのか…。
「あの子直伝の尻尾ぶんぶんでも良かったんだが、調べると良くないと書かれていたから辞めておいてあげたよ。そこは褒めてほしいところだね」
さらっと恐ろしい事を言うな。…ん? 尻尾ぶんぶんなんてけーちゃんにしか……。こいつ、けーちゃんと接点なんてあったのか…?はっ、もしやこいつロリコ…
「何やら良からぬ事を考えている顔だな。なんならこの場に陽乃さんを連れてきても良いんだぞ」
「すいません、何でもありません」
エスパー多過ぎて困っている今日この頃。魔王召喚とか卑怯すぎるだろ。
「まぁこれ位で勘弁してあげるよ」
やっと尻尾ぶんぶんから逃れることが出来た。飼おうとしてる猫にこんな事しちゃダメだからな、という視線を向けておく。葉山は笑いながら君にしかしないさと歯をキラッとさせた。…爽やか系イケメンめ、その笑顔を向ける方向間違ってるぞ。外から「ぐ腐腐腐」と聞こえてくるからやめてくれ。海老名さんや、盗聴器でも仕掛けてますのん?
「そろそろ押し込んでもいいかい?」
「…ああ、一思いにやってくれ」
「いくぞっ…!」
「んああ…」
…思い返してみたらかなりアレな会話だった。決して海老名さんが喜ぶような物ではない。…決して。大事な事だから二回言ったから勘違いするなよ!
事の発端は葉山の発言からだ。
「少し猫との生活を疑似体験してみたいからネコリンガルを切ってもらっていいかい?」
「構わんが…、リュックの中にあるからお前が切ってくれ」
リュックを部屋の入り口付近に置いてきてしまったので取りに行く距離が長くなっている。面倒だったので葉山に投げる事にした。
「じゃあ押す…どうしたんだ比企谷」
自然、身体が震え始めた。何故、ネコリンガルを切ろうとするだけでこんなにも身体が震えるんだ?俺はそんなにソレに依存していたのか? …いや、それもあるがもう一つの説が濃厚かもしれない。
「猫生活で得た物が否定されてしまいそうで不安なんだ…」
そう零した。何気ない一言。されど葉山は聴き漏らさなかったのか返答してきた。
「…君の得た物は簡単に否定されてしまう物なのかい? そうだとしたらそれは、本物では無いんじゃないかい?」
その言葉にハッとさせられた。今迄の一週間の記憶がパズルのピースのように嵌っていき、俺の気持ちが浮かび上がってきた。
「…本物は、壊れないな」
さぁ、覚悟は出来た。どんと来い、葉山よ。
という事があって先程の状況に繋がる訳だ。一応葉山に感謝はしている。下手すれば負のループに陥る所だったからな。
その後は久し振りに本能で動いて葉山を困らせてみたり、可愛さをふんだんに使って葉山を悶死させてみたり、ツンデレを使って葉山をデレさせてみたり…。あれ、これこそカップルみたいじゃねぇか。別に葉山の事は好きでもない筈なんだが、少しずつ毒されている気がする。これがイケメンパワーなのか…!?
「今日は助かったよ、ありがとう」
「…そうだな、いつでも呼んでくれていいぞ」
「お、また明日も呼んでやろうか?」
「それは勘弁してくれ…。後が詰まってんだ」
「ははは、冗談さ」
案外コイツといるのも楽しいもんだな、と認識を改めながら葉山の家を出ようとドアを開ける。だが俺は恐ろしいものを目の当たりにする。
眼前に鼻血を垂らしながら倒れている海老名さんがヒクヒクしていた。
「…なぁ、海老名さん遂にストーカー始めたのか?」
「…二年生の頃から付けられているかな?」
知りたくもなかった事実が葉山の口から放たれた。意外と気配察知出来るのな…。
ガチャ
「あ、お兄ちゃんおかえりー! どうだった?」
「ん、ただいま。まぁまぁだったぞ」
楽しかったが、やはり家が一番安心する。由比ヶ浜に命名されたヒッキーも伊達ではないという事だ。引き篭もり万歳!
「ゴミいちゃんな考えをしてるのは小町にはお見通しなんだからね」
と小町がジト目で見てくる。そんなジト目ですら可愛く思えてしまうあたりシスコン度が振り切れている事が自分でもわかる。これは小町ルート突入のサインなのか…!? 千葉の兄妹は仲良しだからな、別におかしい事は無いな。
「ひっ、なんかゴミいちゃん度が増した気がする…」
おおう、バレテーラ。
目覚ましのけたたましい音で目が覚める。今日も出勤らしく、誰が来るかはお楽しみだよ! と小町に言われた。その時はまたかと思ったが、あのドキドキが交友の広さによって出来ていると思うと妙に嬉しくなる。頼むから今日は癒し系が来て欲しい。材木座が来た日には急所を蹴り上げてやろう。…あれ? これフラグ?
「おはよ、小町」
「あ、おはよーお兄ちゃん」
「やっはろー、ヒッキー!」
「ふあぁ、おはよう小町、結衣」
「ふぇっ!?」
うん? 何やら女子たちが騒がしいな。どうしたのだろうか、虫さんでも出た?
「八幡は無自覚系男子やったんか…」
カマクラが遠い目をしながら呟いた。失礼な、俺はかなり自覚しているという自負があるぞ。多分…。
「なぁ爺さんや、あれが最近流行りの無自覚系主人公なんですか?」
「ふむ、あれでいて変な所は自覚してあるからの…。一概にそう言えないじゃろう。だがまぁ…、かなりの重症じゃ」
「私にはわからないわねぇ」
鷲と亀さんも無自覚系ウンタラカンタラと喋っている。え、何か無自覚でやらかしたっけ俺。そうやってウンウン唸っていると由比ヶ浜が近づいて来た。
「おおおお、おはよう!は…八幡」
・・・え? 何だって? いや待て、こいつ今俺の事八幡って呼んだか? 聞き間違いだったら恥ずかしいんだが、もしそうだとすると俺の発言も絞られてくる。
「おお、…ちょっと死んでくるわ俺」
「えっ、ちょっ、待って! ヒッキー! あたしが悪かったなら謝るから!」
誰だよ、寝惚けて下の名前で呼ぶ奴。…俺でしたね。
あまり筆が乗らなくて二日間も放置してしまいました…。
以上言い訳でした。すいませんm(_ _)m
少し見難かった為、場面転換に下の記号を入れることにしました。特に内容の変更はしていません。
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