「「「ごちそうさまでした」」」
あの後俺が全力で手直ししてどうにかこうにか他人丼を作る事に成功した。一時はどうなることかとヒヤヒヤしたものだ。猫の姿でもしっかりと料理ができる事がわかっただけ良しとするか。猫の手はデフォルト装備だからいつもより楽だったかもしれない。
「やっぱヒッキー凄いね! あたしもこれだけ作れたらなぁ…」
「専業主夫を目指していただけの事はあるからな。…一応言っておくが由比ヶ浜の料理下手は努力でどうにかなるレベルを超えているから諦めろ」
「酷い?!」
「至極真っ当な意見です八幡様! ボクだってもう残飯処理班にはなりたくないんだ!」
犬って何だかんだ人間の残飯処理班に当てられるよな…。少し可哀想な気がしないでもないが大半の犬は普段食べているドックフードより美味しいものが食べられるからwin-winの構図が出来上がるのだ。但し暗黒物質は除く。
「世界の平和の為なんだ。仕方ない」
「フォローになってないからね?!」
…何気にこのやり取り楽しいんだよなぁ。
「ふにゃっ!?」
突如そんな声が聞こえた。決して俺の声ではない。とすると由比ヶ浜になるな、とそちらを見やると顔を真っ赤にしながら携帯の画面を見ていた。もしかして如何わしい画像か何かが送られて来たのかしらん?
「そんな恥ずかしい事…、出来ないよ小町ちゃん…。で、でもっ! 距離を縮めるチャンスかも…?」
何だ、小町の仕業か。なら何の問題も…、大アリだよ。一体何を由比ヶ浜に吹き込んだんだ? というかそんな知識何処で身に付けたんだ、毒虫なら営業スマイルで社会的に抹殺してやろう。等とどうでもいい事に耽っていると由比ヶ浜が茹で蛸も吃驚な赤さで話しかけてきた。
「…お、おおおお、オフロ…、いいい一緒に入らない…?」
「…ん? なんだって?」
ここは全力で難聴系主人公を模倣する時だろう。聞こえてはならない言葉が耳に届いた気がするがもう一度聞けば聞き間違いだという事が分か…
「だから一緒にお風呂入ろって言ったの!」
…るだろう、って聞き間違いじゃないだと!? 俺の心の中は天地がひっくり返って地面から空が降ってくるくらいの大パニック状態である。うん、意味わかんないね!
「…え? 本気で言ってるのか?」
このまま行けば同級生、しかも異性と風呂に入ったという事実が爆誕してしまう。そうすれば俺に変態という烙印が押されてしまう事になる。それだけは避けたいのだが…。
「あたしは一緒に入りたいの! …ね? いいでしょ?」
吹っ切れた由比ヶ浜は強かった。困ったような顔で俺を見つめてくる。あざとさではなく天然だから尚更タチが悪い。…簡単に折れてしまうだろうが。
「…そこまで言うなら少しだけならいいぞ」
「やたっ!」
だが彼女はまだ気付かなかったのだ…。彼女の人生で特大の黒歴史を作ることになるとは。
「あー、あったけぇ…。やっぱ風呂はいいなぁ」
どうも、猫なのにお風呂が大好きな八幡です。現在風呂桶に溜まった温水に浸かっている状態である。猫的には丁度いい深さだ。ベッドもいいが風呂もいいよなぁ…。
「ふんふんふふ〜ん♪」
由比ヶ浜がご機嫌に髪を洗っている。見えるのは彼女の後ろ姿だけ。お団子は下げると髪は肩にかかる長さで、水に濡れた扇情的な様は俺の心を揺さぶってくる。何というかこう、背徳感を覚えるような…ゲフンゲフン。…
「ヒッキー、おいでっ」
「ぶっ!?」
由比ヶ浜がくるっと此方を振り向いたかと思うと両手を広げながらおいでおいでと呼んでくる。…両手を広げながらだ。大事な事なので二回言いました。つまりあれだ、見てはいけない部分がもろに見えている状態な訳で。俺の少ない理性の欠片がゴリゴリ削られていく。これはもしや由比ヶ浜ルートが
「ほらっ」
誘惑に勝つことが出来ずふらふらと由比ヶ浜へ向かって行く俺。うん、これは色々アウトですね。
「んあああぁぁ〜…!」
風呂から上がって約三十分。由比ヶ浜がベッドで毛布に包まりながら悶えている。かなりの黒歴史を作ってしまったからな。かくいう俺もタオルケットに包まりながら悶えている。…特別変な事はやってないから安心してよね! …誰に向かって弁明しているんだ俺は。
「先程はお楽しみでしたね、八幡様」
ここぞとばかりにサブレが話しかけてくる。意外と性格悪いのなお前。
「ひ、ヒッキー! さっきのは忘れて! お願い!」
「おおおおおう、何のことだかサッパリダナー…」
テンパりすぎだろ、俺。最後の方とか棒読みにも程があるレベル。データ消去とか簡単に出来たらいいんだけどな…。何だかんだ覚えていそうで怖いでござる。
「そ、そっかぁ…。なら仕方ないねっ」
何故そこで残念そうな顔をするんだ…。忘れて欲しくないのか? 女子の心はよくわからんな。
「流石八幡様! 鈍感に定評があるだけの事はありますね!」
貶されているようにしか聞こえないんだが気のせいか?
「ただいま…」
「おー、おかえり、お兄ちゃん。どうでしたかな?」
ややニヤけた表情を隠しきれないまま小町が尋ねてくる。
「いや、うん、何も無かったぞ」
「…お風呂」
「ひゃいっ!?」
「やっぱり何かあったんだー? 結衣さんやるぅ! 流石お義姉ちゃん候補の筆頭だね!」
小町め。絶対楽しんでるだろ…。お兄ちゃん怒ったゾ。激おこぷんぷん丸なんだからねっ!
「…もう寝る」
「ちょっ、ごめんって! お兄ちゃん!」
小町の声が後ろから聞こえるが無視だ、無視。お兄ちゃんはちょっと一人になりたいんだ。未だに熱が冷めやらないまま眠りに落ちた。
「__これにて第一学期終業式を終わります」
思い出すのも恥ずかしい由比ヶ浜とのアレコレがあった翌日、我が総武高校の終業式が行われた。何故月曜日に執り行うのかは甚だ疑問だが事実なので仕方がない。
「一学期終わっちゃったね」
ラブリーマイエンジェル戸塚が話しかけてきた。ああ、戸塚ニウムが暫く摂取できなくなるなんて…、夏休みなんか無くなってしまえばいいのに!
「そうだな…暫く会えないなんて寂しいぞ」
「照れるなぁ、八幡…」
とつかわいいよ、戸塚。もうこのまま戸塚ルートでゴールインしたいまである。この国に異種間結婚を認める法律があれば最高なんだけどな…。
「あら、鼻の下伸ばし谷君じゃない。昨日はお楽しみだったようね」
一瞬にして全世界が凍りつく。…まて、その情報はどこで手に入れた。
「由比ヶ浜さんから聞いたのよ」
由比ヶ浜ァ、何してくれとんねん! …俺が関西弁とかウケる。
「明日のレンタルは私だから覚悟なさい」
ワァ、イイエガオダナー。
遅くなりました第14話でございます。
作風が変わったような気がしますが気にしないでくださいm(_ _)m
暑いですね…。皆さんも熱中症等気を付けてくださいね。
ではまた次回に。