やはり俺の猫生活はまちがっている。   作:マクロ経済大回転

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考える、猫

「はい、すいませんでした」

 

 現在、俺は小町に説教をくらっている真っ最中だ。まぁ、勝手に逃げ出したのは悪いとは思っている。だが誰だっていきなりわしゃわしゃされたら吃驚するだろう。因みに二人はもう帰ったらしい。

 

「んー、にゃーにゃー言われてもあんまり反省してる感じがしないんだよねぇ」

 

 理不尽だ…。助けて、サキえもーん! ただ意思疎通が出来ないのは問題だ。ホワイトボードとマジックペンを持ち歩くか…? 自分より大きいものを持ち歩くのもまた大変だな。

 

「ま、いいよ。小町たちもちょっと興奮し過ぎたからね。明日結衣さんと雪乃さんに謝っときなよ?」

 

「え? 明日?」

 

「うん! お兄ちゃんは明日も学校に行ってくること!」

 

 もう学校へ行くまいと決めたのに早々に打ち崩されたぜ…。仕方ない、妹からのお願いを蔑ろにする事も出来んからな。シスコン? どうとでも言え。

 

「じゃ、小町晩御飯作ってくるからソファでゆっくりしててね!」

 

 エプロンを着けながらそう言って台所へ行く小町。うん、やはり小町は天使でまちがっていないな。ここに戸塚が居れば天使と天使の夢のコラボレーションで昇天してもいいレベルで天国になるのにな。今日は戸塚ニウムを摂取していないから悪い意味で頭の中がお花畑状態だ。ああ、戸塚会いたいよ…。

 

「おい」

 

「…ひゃいっ!?」

 

 人語ではない言葉が俺に届く。え、なに? 俺幽霊とかと話せるようになっちゃったのん? 若しくは捻くれを拗らせて幻聴まで聞こえるようになったか。後者の方があり得そうだ。

 

「あんたなんで猫になっとんねん?」

 

 訂正、カマクラだった。成る程、猫同士だと言葉は普通に伝わるのか。しかしこうして改めて見るとカマクラって以外とイケメンなんだな…。

 

「いや、朝起きたら猫になってた」

 

「んなあほな」

 

「…さっきから思ってましたけどカマクラさん、何故関西弁なんです?」

 

「ん? ああ、生まれは関西やからな! 流れに流れて千葉の動物イベントで小町殿に気に入られたんや」

 

「お前…、そんなにキャラ濃かったんだな」

 

 そんな経緯があるとは思わなかったな。長いこと千葉にいるはずなのに関西弁が抜けないって相当だと思うが。何かあったのかしらん?

 

「そう、あれはわいが生まれた頃の話や」

 

 あ、貴方もエスパーなんですね…。

 

×  ×  ×

 

 わいは元々捨て猫やった。拾ってくださいの文字が書かれた紙が貼っつけてある段ボールに入れられてた。その時の季節は冬や。毛布なんて入ってる筈もなくて寒ぅて寒ぅて凍え死んでしまいそうやった。そこを偶然通りかかった怖そうな(あん)ちゃんが拾ってくれたんや。

 見た目とは裏腹に兄ちゃんは優しかった。毎日身体を拭いてくれた。毎日美味しいご飯を食べさせてくれた。毎日遊んでくれた。わいもそんな幸せな日がずっと続くと思ってた。

 その日は秋、曇りやった。

 

「ずっと部屋に篭っててもおもろないし久し振りに公園行こか」

 

 そう言ってわいを抱えて公園に向かってくれた。道中、道路の向かいに猫じゃらしが生えてた。風に揺られてピコピコしてる奴はわいを夢中にさせた。気付けば兄ちゃんの腕の中から飛び出した後やった。

 

ガッ

 

 そんな音が響いた。猫じゃらしにはまだ到達しておらず、視界はぐるぐる回ってた。けど兄ちゃんの腕の中やった。一瞬、なにが起こったかわからへんかった。けど、アレを見ただけでわかってもうた。ひしゃげたトラックのバンパー、転がったまま動かない兄ちゃん。丁度、雨が降り出した頃やった。

 

 あれからわいは動物保護団体に引き取られた。そん時は自己嫌悪で潰れそうやった。あの時飛び出していなければ、時間帯がずれていれば。そういう“たられば”が頭からこびりついて離れへんかった。いつまでもくよくよしてたって何も変わらへん、そう割り切ることが出来た頃が動物イベントが千葉で開催された時やった。

 暫くして小町殿に引き取られ、ここで暮らすことになった。割り切ることが出来ても未だに兄ちゃんの事を忘れられなかったわいは、形見として兄ちゃんが使ってた関西弁を使うようになった。そんな時や、あんたが車に撥ねられたって情報がきた。わいは兄ちゃんとあんたを重ねて見てしまった。だからあんたのような自己犠牲の元に成り立っている人助けを見ると嫌気が差す。でも、心の何処かで安心もしていた。

 __猫になったあんたなら何となくわかるやろ?

 

 

 先程のカマクラの話を思い出す。

 

「はぁ…」

 

 俺のやってきたことは間違っていたのか…? そう思うと心がキュッと締め付けられるような感覚に陥る。でも、それでも、己の過去を認めてまた前を向くことが出来るのであれば。俺は、変わらないに固執する必要もないのかもしれない。

 

×  ×  ×

 

 晩御飯を食べた後、小町が笑顔でやってきた。

 

「ねね、お兄ちゃん。ネコリンガル、使ってみよ!」

 

 そんなものが果たしてちゃんと機能するのか甚だ疑問だがやってみるに越したことはない。以前カマクラにも使ったことがあるような気もするがかなりまともな返答が返ってきた気がする。あれ? もしかしてネコリンガル有能?

 

「ほい! じゃあお兄ちゃん、なんか言って!」

 

「…小町可愛いっ!」

 

『小町、可愛い』

 

「ふぇっ? お、お兄ちゃん、これ合ってるの?」

 

 まさかここまで有能だったとは。固有名詞までしっかり翻訳してやがる。おう、合ってるぞ、と首を縦に振り肯定する。

 

「じゃ、じゃあ小町以外でっ」

 

「とつかわいい」

 

『凸可愛い』

 

 少しばかりの変換ミスもあるようだがかなりの高精度だ。大体合ってるぞ、と両手で丸を作って見せる。

 

「いやー、ここまで凄いとは思わなかったね。お兄ちゃん、これ明日持って行きなよ」

 

 コミュニケーションに必要な道具もこれで揃った。大きさもちょっと頑張れば持ち運べる程度の大きさだ。流石愛しの小町である。

 

「んじゃ、平塚先生に連絡しとくからー。また明日ね、お兄ちゃん」

 

「おう」

 

 そうして毛布に包まり、俺の色々あった猫生活の初日は終わった。って平塚先生だと!? 嫌な予感しかしないぞ…。玩具にされる未来しか見えない。早々に、明日が憂鬱になった。




若干長くなった第4話でございます。
勝手な独自設定を盛り込んでしまいました。すいませんm(_ _)m
内容が内容なので一応R-15付けときますね。

高評価ありがとうございます!まさかまさかの真っ逆さまです。
励みにもなるので嬉しいです。
それでは、また次回に。

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