「その前に、です! 先輩の貸し出しって言ってますけど先輩どこにいるんですか?」
「んっふっふー、聞いて驚くなかれ、そこの猫が小町のお兄ちゃんなのです!」
「またまたぁ〜、そんな冗談はよして下さいよ。みんなで私をからかってるんですか?」
「ふむぅ、じゃあお兄ちゃん、証拠見せてやって!」
全員の視線が俺に集まる。えぇ、いきなり証拠みせろって言われてもな…。俺と一色しか知り得ない事とか…? いや、そんな事この場で言ったら後で一色にバラされかねん。となると…
「あざとい」
「ぶぅ〜、あざとくなんかないですよぉ〜」
頰を膨らませながら一色が返答する。ほらあざとい。仕草から言葉の伸ばし方まで全てが計算され尽くされているようだ。この場でこのあざとさにやられる奴なんて…あ、木材屋くらいか。というか何故お前がここに居る。
「ホントだ、先輩ですね!」
「です! お兄ちゃん可愛くないですか!」
「眼が濁っている辺りがキュートポイントかしら?」
…この眼はデフォルトだ。本当にキュートポイントだと思っているならそいつの眼は節穴決定である。
「あ、そういえばお母さんから聞いたんですけどー。もしかして昨日マッカン買ってたりします?」
「…何故知っている」
あの場には俺しかいなかったはず…。いやまてよ、最後に投入した十円玉、転がってきたような…。まさか!
「やっぱり先輩だったんですね!お母さんがちゃっかり動画撮ってたんで楽しんで見させてもらいました♪」
…後で一色の母に十円玉を返さなければならなくなったな。下手したら貸しを作られるやもしれん。
「えっ、お兄ちゃんマッカン飲んじゃったの?」
「お、おう。喉乾いたからな。…なんかダメだったか?」
「お兄ちゃん…マッカン飲んじゃダメだよ?」
「え゛」
何故だ…! ソウルドリンクを飲んではならない理由を聞かせてもらおうじゃないかっ!
小町曰く「マッカンには練乳が含まれててね、その練乳は牛乳から作られてるの。でも猫は牛乳に含まれる乳糖を消化するのが苦手で、お腹を痛めたり下痢を引き起こす原因になるんだよ! だから飲んじゃダメ!」だそうだ。子どもに諭すように言われたがそんなに信用ないのん? 俺。
至極真っ当な理由だったな…。どうしよう、これからマッカン無しで生きていけるかな…。
「ほぉ、小町くんはちゃんと猫の事を知っているんだな。感心感心」
「それが飼い主の務めですから!」
「へぇ〜、ゆきのん知ってた?」
「勿論よ。これは常識よ」
「あれ? なんかまずい事言っちゃった系ですかね…。まぁ先輩ですし大丈夫ですね!」
「…で、ヒキタニくんの貸し出しキャンペーンだと聞いて来たんだがいつ始まるんだい?」
「あっ、忘れてました! それでは、気を取り直して…」
…ちっ。マッカンを犠牲に有耶無耶にできると思ったんだが…。葉山、お前は許さねぇ…!
…え?お前俺をレンタルしたいの? まさかそっちの趣味の人だったのか? 何処からか「ぐ腐腐腐」と聞こえてきそうなので急いでこの思考は捨て去ったが不安は拭い切れなかった。
「では改めて…お兄ちゃんをレンタルしたい人!」
シュバッ!
おお、シンクロ率百パーセントだ。オリンピックで金メダルも夢じゃないな。地上でのシンクロ競技とか生まれないかな…。
「では、その心はっ?」
「比企谷くんと一緒ににゃーにゃーしたいにゃー…」
雪ノ下…、聞きようによってはすごく卑猥に聞こえるぞ。もうちょっと具体的な内容を言ってもらえればレンタルされてもいいんだけどな。
「ヒッキーとサブレとあたしで遊ぶんだっ!」
まぁ、由比ヶ浜はその辺りが妥当か。レンタルいいぞー。
「先輩をいじめるのも楽しそうですよねー」
性格悪っ。この後輩、先輩を敬うってこと知らないんじゃないの? ああ、俺は
「癒しが、欲しいんだ…」
先生…。強く生きてください。俺が慰めますから。
「今度猫を飼いたいからその練習かな?」
けっ、俺を練習台代わりにするんじゃねぇよ。却下だ、却下。
「八幡と一緒に過ごしたい、じゃダメかな…?」
戸塚可愛いよ、とつかわいい。毎朝俺に味噌汁を作ってくれ! 逆にこっちが戸塚をレンタルしたいまである。
「我の原稿を読んで貰うのだっ!」
お前のラノベは読むのが疲れるんだ、大人しく消えてくれ。レンタル?却下に決まってるだろう。
「うわぁ、小町にはお兄ちゃんの好感度が透けて見えるよ…」
「わ、我は諦めぬぞ! 頼む、八幡!」
…はぁ、仕方ない。半日だけだからな。
「ははは、ヒキタニくんなら信頼できると思って来たんだけどな…」
ぼっ、ぼっちがそんな言葉に騙されるわけないだろう? 別に嬉しいとか思ってないんだからねっ!
「ひ、比企谷くん。あれは言葉の綾と言うか…そ、そう! 私の本心よ!」
…墓穴掘りまくりだぞ、雪ノ下。黒歴史はそうやって次々と生成されていくんだ。だんだん不憫に思えてきたな…。レンタルされたら慰めてやろう。
「…ちょろいね、お兄ちゃん」
なし崩し的に決まったが俺の出勤日数がとんでもないことになりそうで今から憂鬱である。
「…働きたくないでござる」
「…実はちょっぴり嬉しいくせにぃ」
定位置になったのか俺を肩に乗せて歩く小町が反撃してくる。ぐぬぅ、なぜバレるのだ…。
「小町が何年お兄ちゃんの妹やってると思ってんのさ」
そう言って、笑う小町。ああ、小町もみんなもちゃんと俺の事見てくれてたんだな…。そう思うと視界が淡く滲んだ。
「ありがとう、小町」
「ん、小町にお任せあれ!」
無事家に着くと仕事が早く終わったのか母親が出迎えてくれた。
「おかえりー、ん? 小町、その猫どうしたの?」
「あれ、言ってなかったっけ」
…そういえばまだ両親に俺が猫になった事伝えてなかったな。今朝も両親共々五時に家を出て行ったから一回も俺の姿を見ていないことになる。
「__お兄ちゃんだよ?」
その日の夕方、母親の絶叫が木霊した。その声は総武高校まで届いたとか届いていないとか。
暇な時に書いてたらいつの間にか一話分出来上がってました。
UAも5000突破で嬉しい限りです。
もっと評価とかつけちゃっていいのよ?(チラッ
すいません、自惚れが過ぎましたね。
では、また次回に。