幼鳥たちが準備を始めた夜。俺は母鳥の元へ足を運ぶ。
「あら、いらっしゃい」
「どうも」
「一つ、聞きたいことがあるんですが…」
「私の答えられる範囲なら何でもいいわよ」
「いつも子どもたちと一緒に寝てるんですか?」
「…ええ、あの子たちから聞いたの?」
「いえ…。ちょっと気になってたんで」
短い間だが幼鳥たちと暮らしたことで分かったことがある。俺があの小っ恥ずかしい
通常、鷲の雛が孵るのは春。そして梅雨時に巣立ち、夏の本番になれば自立し始める。秋になると親鳥に追い出され、自律する。だが彼らはこれらのどれにも
そう、彼等は一年遅れの「じりつ」をしようとしているのだ。
「…構い過ぎだったのね」
「俺じゃ無理なんであと一押し、お願いします」
母親の想いが子どもたちに通じたのだろうか、母鳥の一声で四羽はあっさりと巣立っていった。様々な要因が複雑に絡み合って出来た家族愛は案外単純らしい。
「ところで何て言って送り出したんです?」
「ここに戻ってきたら容赦なくバラすわよって言って送り出したわ」
訂正、超過激だった。
陽が昇り、辺りが明るくなる。ふあぁ、よく寝た。あとは愛しの我が家に帰るだけだと思うと幾分心が軽くなる。
「暇になった事だしちょっと空散歩しない?」
既に起きていた母鳥が話しかけてくる。空散歩か、昨日は寝てしまったから今日は景色を楽しむとするか。
「じゃ、背中に乗って頂戴」
「おお…、背中広い。逞しい…」
「行くわよぉ!」
ビュォッ
風を切り、空を翔ける。まるで小型飛行機でも運転しているかのような疾走感に高揚した。地表は遥か下、家々がミニチュアに見える程の高度だ。
「どう? 私のお気に入りの飛行ルートなのよ!」
「ええ! 最高です!」
風の音に消えてしまわないように大声で返す。
…ちょっと、目が乾いてきたな。
「ストレス発散に最高速で行くわよ! しっかり掴まってな!」
そう言った途端、今迄の比じゃないスピードで飛び始めた。一瞬、掴まるのが遅かったのか俺は宙に浮いた。理解が追いついて数秒後。
「落ちる落ちる! 助けてぇ!」
ミニチュアのように見えていた家々が段々と近づいてくる。ああ…、ここで俺は死んでしまうのか? 一瞬の内に、走馬灯が頭の中を
やはり、俺の猫生活はまちがってい__
ポスッ
地面に落ちたにしては軽い音だ。更に身体の所々が
「間に合った…。お母さん、一旦暴走すると周りが見えなくなるんだ」
昨日の夜に飛び立った四羽の内の一羽だった。なんでも俺の事が気になって追いかけてきたらしい。…もしやこれが噂のモテ期とやらなのか!? と、益体も無い事を考えながら幼鳥が地面に降り立つのを待っていると、俺に話しかけてきた。
「お母さんのことお願いね、あの人ああ見えて寂しがりやさんだから」
「お、おう。任された」
__…という事があってだな、あれよあれよと言う間にこうなった」
現在、愛しの我が家のソファの上で毛繕いをしながら小町に話しかけている。俺の隣では母鷲がカマクラを突っついて遊んでいる。当の小町はお口あんぐり状態だ。…何か物を突っ込みてぇ。
「お、お兄ちゃん。…家を動物園にするつもり?」
成る程…。親父にチケット販売を担当してもらって俺は寝る。これぞ究極の働かずしてお金が手に入る一例だな。うん、動物園目指そう!
「大丈夫だ、小町に危害を加えるような奴は連れてこないから安心しろ」
「…お兄ちゃんを心配した小町が馬鹿だったよ」
その日の夜、親父が東京の出張から帰ってきたらしい。仕事詰の三泊四日の出張とは親父の社畜魂に吃驚だ。バタバタと玄関から此方へ音を立てながら向かって走ってくる。
「は、八幡が猫になったと聞いて飛んで帰って来た、んだ…が…」
「ん? どうした親父」
「家の中を鷲が飛び回っている幻覚が見えるぞ…。俺はもう限界らしい」
そう言って口から泡を吐いて倒れた。親父ぃ! 現実だから目を覚ませぇ!
今日も、比企谷家は、平和でした。
目が覚める。今日は最も嫌いな曜日ランキング堂々の一位、月曜日だ。今日もちゃんと授業を受けるよな? と平塚先生からの有難い
ザワ…ザワ…
ファッ!?
キャー!
む、遂に我の半身が現れたか!
か…かっけぇ!
君は…大道芸人でも目指しているのかい?
へくちっ
目が…目がぁ!
八幡はすごいなぁ…!
…
「何故…、何故君は出会う毎に此方の頭を痛くさせるんだっ!」
「連れてきちゃダメですかね」
「はぁ…、もういい。いい加減授業を始めるぞ」
鷲と共に現国の授業を受けてるなう。どうも、八幡です。あの脅迫文にイラっと来たので連れてきちゃいましたっ☆因みに周りの視線は初日にキャパオーバーしてからもう慣れた。これでもう怖いもの無しだね!
昼休み。一昨々日の噂と今朝の噂が広まったのか学校全体の生徒が俺を一目見に押しかけてきた。噂の伝搬って早いよなぁ…。
「全員に構ってたらまともに昼飯が食えねぇ…。何故だかベストプレイスの場所も割れてるし…」
恐らく一色の仕業だろう。となると奉仕部部室も安全とは言い難くなる。俺の行きそうにない所、かつ人気が少ない所か…。
「いや、待てよ。別に学校内で食べなくてもいいのでは…?」
そうだ、海辺に行こう。
やや難産でした。
色々と不可解な点もあるかと思いますが目を瞑って読んでやってください。
お気に入り100件突破ありがとうございます!
これからものんびりやっていきますのでよろしくお願いします。
ではまた次回に。