やはり俺がトニカクカワイイ美少女と結婚するのはまちがっている。   作:スキート

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第1話

 俺が18回目の誕生日を迎えた日、我が家にピンポーンとチャイムの音が鳴った。

 

「こんな時間に誰だよ」と思いながら、俺は扉を開けた。

 

 

 

「や、久しぶり」

 

「………………え?」

 

 

 扉を開けていたのは、2年以上前に俺が命を助けてもらった恩人であり、俺が初めてプロポーズをした相手だった。

 

「そうそう。言い忘れてたけど……私の名前は司というんだ。君の名前は?」

 

「……比企谷……八幡です」

 

 

「そうか。……とりあえず中、入っていいかな?」

 

 

 混乱する俺を尻目に、桃色の髪の美少女は続けてこう言った。

 

 

「頼むよ。だんな様♡」

 

 

 

 

 俺と彼女の出会いはだいぶ前に遡らなくてはならない。

 

 

 これは、2年前以上に始まった竹取物語の続き……なのだろうか? 

 

 ……俺と彼女の出会いは一言で説明できるほどの簡単なものじゃない。

 

 

 あれは、高校受験が終了した日のことだった…………。

 

 

 

 

 

 

 2月15日。自分が受けた総武高校の試験が昨日終了し、今日は面接も終わった。

 

 完全に俺の受験は終わり、結果発表の27日を待ちきれずそわそわしていたところ、我が妹の小町から、

 

「そわそわしててキモい。一回外の空気にでも当たってくれば?」

 

 と辛辣な言葉と同時に外に押し出された。

 

 せっかく外に出たのだから散歩でもしようと家LOVEの俺も流石に思い、家の近くにあった自販機で大好きなマッカンを購入し、散歩をしていた。

 

 

 

 

 今思えば運命だったのだろうか。……いや、そんなわけはない。只の偶然に過ぎなかったのだろう。

 

 

 横断歩道の先に、桃色の髪をした美少女が立っていた。

 

 首にマフラー巻き、厚手のコートを着ていて、右手にはホットの缶コーヒー。

 

 

 そんな彼女に見惚れてしまった俺は、止めていた足を進めてしまった。

 

 

 だけどそこは横断歩道で、車が来ているかの確認を怠ってしまっていた俺は右から迫るトラックに気づくことができなかった。

 

 

 そんな俺の様子に気づいたのか桃色の髪をした美少女は驚いたのか目を見開いていた。

 

 

 

 

 ガンッ……と鈍い音がなった気がした。

 

 音こそは大きかったものの、俺は意識が存在していた。だがその存在する意識もかすれ気味な様子で、少しでも気をぬくと意識が飛んでしまうほどのものだった。

 

 だけど周りを見渡すと血が飛んでおり、両足には激痛が走っている。

 

「や、べぇ……な……」

 

 意識が薄れてきたためか言葉を上手く発せなかった。

 

 

 

「大丈夫……。人はこの程度では死なないよ」

 

 

 そんな声を聞き、俺は一度閉じた瞼を開けた。

 

 寝転がっている俺を覗き込み、桃色の髪をした美少女が話しかけてきたのだ。

 

 そして俺が驚いたのはその美少女の頭からは血がポタポタと垂れていたことだった。

 

「……なん、で血が……」

 

 そこまで言おうとしたところで俺がぶつかってしまったトラックの運転手さんがこちらに声をかけてきた。

 

「お、おい。大丈夫か⁉︎」

 

「ん? ああ、大丈夫大丈夫。……それよりもこの子を早く病院に連れていってやってくれ。頭は結構強く打ってるから」

 

「いやいや、この子も大変だけど……! むしろ男の子をかばって……激しく車に当たったのは君だろ⁉︎」

 

 意識が薄れてるためかあまり二人の会話を聞き取れなかったが、この美少女が俺を庇って助けてくれたことは理解できた。

 

「あ、あの……」

 

「無理に喋らない方がいい。死なないだけで傷は深い」

 

 そう言って彼女は俺の元から去っていこうとしていた。

 

「礼はいらない。寝て起きたら私のことは忘れてくれ」

 

 

 

 今日は満月の夜。月の光に照らされながら月の方へ帰る彼女を見た俺は、かぐや姫と重ねてしまった。

 

 

 途切れ行く意識の中、俺は竹取物語を頭の中に思い浮かべた。竹取物語とは結ばれることのなかった夫婦の物語。がくや姫が月に帰るのを誰も止めることはできなかった物話。

 

 

 俺は中二の頃に厨二病を発症していた。

 

 あの時の名残りがまだ残っていたのかはわからないが、彼女は本当にかぐや姫なのではないか、本当に月に帰ってしまうのではないかという冷静になれば意味のわからない非現実的なことを頭で考え、今思えば頭のおかしい結論を出していた。

 

 

『このまま彼女を行かせていいのか?』と。

 

 

 気づけば俺は立ち上がっていた。

 

「そうです‼︎ ですから今スグ救急車を────」

 

 

「……あの、俺は大丈夫なんで」

 

「⁉︎」

 

「それより、さっきの彼女はどこに……」

 

「いやいや、さっきの子もだけど君を動いちゃダメだって‼︎」

 

「……俺、昔からゾンビみたいな目って言われてたんで大丈夫です」

 

「それは目がゾンビみたいってだけであって本物のゾンビじゃないんだからね⁉︎」

 

 

 

「と、とにかく今は落ち着いて‼︎ そろそろ救急車も来るから‼︎」

 

「だ……い、丈夫です。そんなことしてる場合…………なのはわかってるんですけど……」

 

「わ、わかっているんだったら……なんでそんなに……」

 

「……わかんないです。でも……行かなきゃ後悔する気がして……」

 

 運転手さんがまったく納得の出来ないようなことをいいながら俺は彼女を探すために走り出した。

 

 運転手さんが何か言っていたような気がするが、頭がかぐや姫のことでいっぱいになっていた俺は何も聞こえていなかった。

 

 

 走るたびに激痛が両足を襲っているのにも気づかないほどに俺は必死に探していた。

 

 血が出すぎたせいか、とにかく寒かった。

 

 もう春にはなっているのだが、暑い寒いを大雑把に分類するというのなら今はまだまだ寒い部類の時期。

 

 身震いが止まらなかったが、俺は漸く彼女を見つけた。

 

 彼女はバス停の待機所に座って本を読んでいた。

 

 

 俺は待機所の扉を開け、彼女に話しかけた。

 

「……あの。さっきのはすまん。おかげで助かった」

 

 

 

「……これは驚いたな。よくそのケガで動けるな。さっきも言ったが浅くはないぞ?」

 

「……お礼は言っておかないとと思ってな」

 

 

「まぁいいから、ちょっと君ここ座りなさい」

 

 

「え? ああ。すまん」

 

 彼女の座る椅子の横をパシパシと叩き、俺に座るように催促する。

 

「君、血だらけじゃないか。せっかく助けてあげたのに……。そのびしょ濡れのコートも脱ぎなさい」

 

 彼女は自分のコートからハンカチを取り出し、俺から出ていた血を拭いてくれた。

 

「まったく……一つしかない命は大切にしなさい」

 

 

 俺の血を拭くために美少女は近づき、ふわっとしたいい匂いが香ってきた。

 

 俺は女子という生き物には関わりなどなく、柄にもなくドキドキしてしまっていた。

 

 

「……人を呼んでこよう。そのままじゃ本当に死んでしまう」

 

「……だよな。今にも意識が飛びそうだ」

 

 

「……君は何故、それをわかっていながら私の元に?」

 

「追わないと後悔すると思ったんだ……。それに、言いたいこともある……」

 

「……その言いたいこととは?」

 

 

 

 

 

 

 先程も言った気がするが、今考えればなぜあんな頭のおかしいことをしたのだろうと枕に顔を埋めながら後悔する。

 

 

 

 

 

 

「(月に)行かないでくれ。(月に)行くぐらいなら俺と一緒にいてくれ」

 

 

 

 薄れ行く意識の中、俺はそんなことを口にしていた。今思えば主語が抜けていて本当に良かったと思う。

 

 この時の俺は自分を主人公とでも勘違いしていたのだろう。でなければこんな恥ずかしい言葉は出てこない。

 

 

 彼女の顔を見てみると、鳩が豆鉄砲を食らったかのようなポカンとした表情をしていた。

 

 

「え──っと。……それはプロポーズということかな?」

 

「…………え、いや。……そう(いうわけじゃないん)だ……」

 

 

 咄嗟にでた言葉だったからか、俺は自分がプロポーズみたいな言葉を言っているのに気づかなかったのだ。

 

 彼女の口から「プロポーズ」という言葉が出た瞬間、頭が「俺そんなこと言ったの?」状態になり、自分の先程の言葉を思い出した。

 

 そして、彼女の言葉の返事をしなければと頭を必死に回したせいか、今にも頭の中がパンクしそうになり、意識が途切れそうになっている状態で彼女の言葉に返事をした。言葉が抜けていることにも気がつかなかったのだ。

 

 

 俺の言葉を聞くと、彼女は俺から目を逸らしてこう言った。

 

 

 

「私と結婚してくれるなら、付き合ってあげる」

 

 

 彼女から出た言葉はあまりにも予想外のものだったのだが、この時にちゃっかりと返事をした俺を今後一生ありがたく思うのだろう。

 

 

 

「……俺で、良ければ」

 

 

 

 

 自分からプロポーズしてんのに何言ってんだと思いながらも俺の意識はプツンと途切れた。

 

 

 

 

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