彼はとあるゴブリンの根城である廃墟へと向かうと冒険者達が入るのを確認してから音声を再生する。
『くそっ!ゴブリンめ!』
その声を聞いて侵入した冒険者達が廃墟の中心へと駆け付けるのを待ってから、彼はゴブリンと冒険者達の戦いを観察した。
その中で彼はゴブリンを殺す事に慣れた錆び付いた鎧の人間を見る。
この危機的状況にありながら策を用いり、的確にゴブリンを始末するその人物の戦い方は彼の参考に大いになった。
故に彼はゴブリンから、その人間に標的を変える。
「変だよ、オルクボルク。他の冒険者の姿が見付からない」
「ゴブリンスレイヤーさん。私も何か嫌な予感がします」
ゴブリンスレイヤーやオルクボルクーーそう呼ばれた人間を彼は廃墟の屋根から確認する。
観察しながら彼はゴブリンスレイヤーの合理的な作戦に目を見張る。
固有の武器のみを使わず、時に知恵を巡らせて罠を張り、時に所持した道具を使い、ゴブリン達を始末する。
その戦い振りに彼は良いアイディアを得たと思った。
ーーとは言え、手練れとは言え、ゴブリンスレイヤーのパーティーには廃墟全てのゴブリンを討伐するのは困難だったらしい。
いや、彼が音声を再生しなければ、ゴブリンスレイヤーとその仲間はもっと慎重に討伐を行っていただろう。
そう思うと彼は口惜しく感じた。
ゴブリンスレイヤー達が異変を感じて、一時撤退すると彼は廃墟の屋根から降り、健在で未だ何があったかを把握してないゴブリン達を始末する。
ーーー
ーー
ー
翌日、休憩を取ったゴブリンスレイヤー達は再びゴブリンの棲まう廃墟へと足を踏み入れた。
「また此処?……流石にオルクボルクでもおかしいって解るでしょ?」
「確かにの。昨日聞いたあの声からは、まるで生気が感じられんかったしな」
妖精弓手と鉱人道士の言葉に女神官もかつてない異変に緊迫する。
「……だからこそだ」
ゴブリンスレイヤーはそう告げると一歩踏み出し、すぐに立ち止まった。
「ーーっと、どうしたのよ、オルクボルク?」
「死臭がしますな」
ゴブリンスレイヤーの代わりに蜥蜴僧侶が答えるとゴブリンスレイヤー達は警戒しながら前進を再開する。
そこで見たのは生皮を剥がされ、宙吊りにぶら下がるゴブリン達の死骸であった。
「ーー何よ、これ?」
それを見て、妖精弓手が思わず、こみ上げる吐き気を手で押さえる。
「……見せしめか?」
ゴブリンスレイヤーはそれをしばし観察すると周囲を探索する。
どう言う理由かは定かでないが、ゴブリン達を虐殺した何かは孕み袋にされた女性や子供のゴブリンは殺さなかった様であった。
ゴブリンスレイヤーはその子供のゴブリンを処分してから更に周囲を探る。
「ーーっ!?」
そんな中、妖精弓手はそちらへと振り返った。
だが、そこには何もなく、ただ崩れかけた廃墟の屋根と青い空が見えた。
「どうしたんですか?」
女神官の言葉に答えず、妖精弓手は弓を構える。
妖精弓手にだけ解っていた。
そこに見えざる何かがいると言う事にーー恐らく、ゴブリン達を血祭りに上げた者だろうと。
だが、その見えざる何かは妖精弓手が身構えると、その場から去って行った。
理由は定かではないが、恐らく、自分は標的と思われてないのだろう。
そう判断すると妖精弓手は脱力して、武器を下ろす。
「何かいたのか?」
「ええ。でも、何かまでは解らなかったわ」
ゴブリンスレイヤーの問いに妖精弓手はそう答えると彼らと共に地下に通じる通路へと入る。
そこもまたゴブリンの死体だらけであり、ゴブリンロードと思われる首のない死体が玉座にもたれ掛かっていた。
「さっきの奴の仕業かも」
妖精弓手がそう呟くとゴブリンスレイヤーはこう返した。
「そんな事よりゴブリンだ」