彼は野人と共に地を駆けた。
ピクルに合わせ、彼は極力、自身の生身で戦った。
如何にしてラプトルとの戦うのかも教え、大型の恐竜とも対等に戦える筋肉や骨格などを作った。
野生の力とは恐ろしく、純粋で真綿が水を吸うようにピクルは順応していった。
そう。順応である。
ピクルと云う野人は異星人である彼との出会いをきっかけに類人猿のそれとは違うーー恐竜との戦闘を前提にした進化を彼との狩りで繰り返し行っていた。
きっかけと云うのは何事にもある。
ピクルと呼ばれる野人は彼をきっかけに白亜紀最強の野人として進化が完了するのも時間の問題であった。
そして、その為の身体能力を手に入れようとしてる。
強力な肉食恐竜との戦いは仕上げとばかりにここから始まった。
時にはまだ敵わぬと知って逃走したり、彼に助けを求めたりした。
彼も厳しく、この野人を育てたが、それ以上にこの野人に愛着が湧いた。
故に時に助力したり、時に逃走の仕方を教えた。
いつしか、この野人と彼の間に友情のようなものが芽生える。
それと同時に別れの時が近い事もお互いに理解する。
ティラノサウルスとの死闘にピクルが勝利し、その肉を頬張っている最中、彼はピクルに戦いを挑む事を行った。
ピクルは理解しなかったーーしたくなかったが、本能が理解してしまった。
ああ。これでこいつと別れなんだな。とーー。
先に攻撃を仕掛けたのはピクルではなく、彼であった。
彼はアームの力を最大まで起動させ、ピクルを殴る。
そして、彼の部族独特の威嚇スタイルでピクルを挑発した。
この時、ピクルの身体は最終形態のそれに近い進化をしていた。
無論、持って産まれた天性の恩恵と云うのもある。
だが、それでもピクルの脳を揺らすには十分な一撃だった。ピクルは頭を振ると彼を見詰めた。
本能で理解はしていた。
だが、芽生えた友情がそれを拒んでいる。
それを否定するように彼はピクルに再び迫った。
ピクルはそれを本能的にしゃがんで避けながら、嫌でも理解してしまう。
それ故に涙した。
ピクルを相手する彼もまた悲痛な叫びを上げる。だが、これは通過儀礼に過ぎない。
ピクルと呼ばれる野人をより進化させるにはこの方法しかないのだ。
故に彼は一切の躊躇いを捨て、数年以上、狩りの仕方を教え続けたこの野人へと最後の試練と云わんばかりに近付く。
それに対してピクルは這いつくばる事で応える。降伏からそうしたのではない。
自身に狩りを教えたこの異形の生物であり、恩師であり、親友である彼に全力で挑む為である。
そして、ピクルは野人独特のスタイルで真っ向から彼に挑んだ。
異常な瞬発力による体当たりにより、ピクルの突進を受けた彼はもの見事に吹き飛んだ。
木々を薙ぎ倒し、岩盤に叩き付けられ、彼の肉体も無事ではすまなかった。
元より持っている素質が違う。
近代兵器による狩りが主な彼と原始的な力で狩りをする事を学んだピクルとでは持っている性質が違うのだ。
だが、敗北した彼の胸中には喜びがあった。
よく、ここまで成長をしたなと誉めたかった。
ピクルの方は放心したように動かない。
ここからどうすべきか、彼は迷っていた。
そんなピクルに彼はリストブレイドを取り出した。
ーーそして、自身の右足を切断する。
それが何を意味するのかピクルは理解出来なかった。
ただ、彼が苦痛に顔を歪めているのは解った。
彼は切断した足をピクルの前に投げる。
ここでピクルは本能で理解した。
これが弱肉強食なのだ。勝てば、その肉を喰らい、強者として生きねばならぬと・・・。
それを本能で悟ったピクルは地に落ちた彼の足を泣きながら食らった。
そして、ピクルがその足を完食した頃には彼の姿はなく、あの飛行物体が飛んで行くのを気付く。
ピクルの境地にあるのは寂しさであった。
本当は別れたくなどない。
しかし、子が母から離れるようにピクルもまた彼から離れねばならないと心で理解していた。
だからこそ、ピクルは声にならぬ叫びで一声鳴き、彼を乗せた宇宙船が見えなくなるまで空を見上げ続ける。