楽しんで書きますので、頑張って拝読頂ければ恐悦至極。
01. 『プロローグ』
―――オラリオ。
世界で唯一の
未知なるダンジョンへの挑戦。数多行き交う冒険者相手の交易。本来であれば、活気や希望に満ち溢れているはずの場所。
しかし近年、この都市を覆っているモノはドス黒く渦巻く【闇】。詐欺、強盗、殺人……あらゆる犯罪が都市の日常と化していた。人々は安心して外を出歩けず、かと言って家の中も決して安全とは言い難い。そんな、暗黒時代。
それでも、その【闇】を打ち払うために。その都市に【光】を取り戻すために、立ち上がる者たちはいた。
【ロキ・ファミリア】に、【ガネーシャ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】。
そして―――――
――――――【アストレア・ファミリア】。
正義と秩序を司る女神、アストレアを主神とする正義の派閥。そのファミリアに属する冒険者たちは、ダンジョンの探索だけでなく、オラリオの秩序安寧にも尽力していた。
仄暗い都市の現状を変えるために。
これが、
〇
最近、随分犯罪が少なくなった。比例するように、街道を出歩く人の数が増えてきた。
街行く人々の顔も、俯き加減でなくしっかり前を向いていて、心なしか活気があるように見える。
決して急激に変わったワケではない。じわり、じわりと。徐々に顔を出す朝日のように、都市が明るさを取り戻してきた。
きっと、住人達も確信は持っていないだろう。
それでも、肌で感じ。そして、心で嗅ぎ取り。都市に漂う雰囲気の変化に無意識に気付いた人々が、行動を始めた。
これは、大きな一歩だ。
何よりも、力を持たない人々が自らの意思で動き出した点が大きい。冒険者のように、【
しかし、自身と同じ立場の者が行動したのなら話は別だ。俺も、私も、と。その光景を見た誰かが足を踏み出し、それに触発された誰かが外へと繰り出す。そんな風に、誰もが知らぬ間に良い循環を作る一員となる。
この流れを作るのが、恐らく一番難しかった。【闇】と戦う者―――彼ら、彼女らが出来るのは、身体を張って環境を作るまで。そこから先は、住人達自身で進む必要があった。強制では続かない。自発的でないと意味が無い。そこが、最も難しい部分。
しかし、とうとう成し遂げたのだ。後は、この流れが続くように力添えをすれば良い。悪い方向に向かわないように。滞留しても、後退はしないように。
きっとその先に、平和になった都市という未来が待っている。
そうなれば―――。
と、そこまで考えて、"彼"は
希望を抱くのはいい。けれど、それが多くなって楽観的な心構えに繋がるのはいけない。ある程度目処が立ったとはいえ、これからの戦いが決して楽になるワケではないのだから。
せっかくここまで来れたのだ。油断して命を落とすなんてことは勘弁願いたい。
悪党共の相手に、ダンジョンでの冒険。いつ死んでも不思議ではない出来事の連続だった。実際に、他派閥の同志には命を落としてしまった者もいる。しかし、団員達は皆いくつもの死線を共に越え、一人も欠けることなく第一線で活躍していた。
"彼"は、その仲間達を思い浮かべる。
正義の派閥を謳っているのに、一癖も二癖もある者ばかり。酒を
本当に、よくもまぁ纏まることができたものだ、としみじみ思う。
主神の
これだけ優れた能力を持つのは、他に【ロキ・ファミリア】の【
そしてここで、"彼"の脳裏にもう一人の人物が浮かんだ。
その人物―――基本無表情で潔癖なエルフの少女。自分と同様、団長に連れられて
"彼"よりも数か月遅れで入団した"彼女"は、凄まじい速度で成長し、今では派閥でもトップクラスの実力者。
そんな"彼女"に、"彼"は特別な想いを抱いていた。誰よりも近くで"彼女"を見ていたからこそ、気付くことが数多あった。そしていつしか、"彼女"から目が離せなくなっていた。
"彼"は、"彼女"の掴む未来を、その目で確かめたくなった。叶うのであればその隣、すぐ傍で。きっと他の団員達がこんなことを聞けば、飛び切り
それでも。"彼"は、"彼女"の進む道を、共に歩みたかった。
―――と、ここで。自分でも少々恥ずかしい方向に思考が進んでしまったことを認識し、"彼"は気を紛らわせるために一度深く呼吸をして、閉じていた瞳を開けた。
今日は晴天。
心地よい風が吹き抜け、眠気を誘う。
今居るのはアジトにほど近い、陽当たりの良い家屋の屋根上。"彼"の、最近のお気に入りの場所だった。
もう一回、このまま眠ってしまおうか。そんな風に考えている"彼"の耳に、聞き覚えのある声が届いた。
「……―――ル! アル! ……はぁ、こんな場所に居ましたか」
"アル"。そう呼ばれた"彼"は、仰向けに寝転ばせていた身体をのそりと起こし、声の聞こえた方角へ顔を向けた。
そこに居たのは、先程まで頭に浮かんでいた"彼女"―――リュー・リオン。
綺麗な金色で、肩に届かない程度に伸びている髪。空色の瞳を持つ端正なその顔立ちは、仲間を前にした時だけ感情が表に出やすくなる。他人に肌を晒すことを嫌うエルフらしく、華奢な身体を覆うローブを身に纏っていた。
今まで、そんな"彼女"について勝手に想いを巡らせていたせいで、唐突に現れた
「そろそろ食事です。皆、もう準備して……どうしました? 私の顔に、何か?」
「……いや、何でもないよ。行こう、リュー」
派閥の中で、"彼"だけが呼ぶ"彼女"のファーストネーム。それを聞いた"彼女"は、他人には判別出来ない程小さく表情を和らげた。
「はい。今日は確か、アルの好物のはずです」
「お、やった。……ところで、今日リューは手伝ってないよな?」
「? ええ、今日は当番ではありませんから。でも、何故そんな事を―――」
「あー、早く行って食べないと。競争競争」
「な、待ちなさいっ! 私の質問に―――」
これは、何気なく。そして、とても大切"だった"日常の一幕。
都市の平和のために、自身の目的のために、"彼"―――アル・チュールは今日も剣を振るう。辿り着く