今回エピローグとなりますので、文章自体は極めて短くなっております。
数多の正義の命が儚く散った、運命の日。さらに一人の冒険者が、奮起虚しくその最期を迎えようとしていた。
●
「―――少し……眠るだけだよ」
いつも通りだろ? そう付け加えて、なんとか微笑んで見せる。
彼女は、激しく拒絶した。
あなたを一人置いては行けない、あなたが残るのなら私も共に、と。
座り込み、大木に体重を預ける自分に対し、片膝をついて涙ながらに目線を合わせる彼女。
困ったことだ。
そんな泣き顔で、そんなことを言われてしまうと、やっと決心した気持ちが揺らいでしまう。
けれど、だからこそ。
何を言ってるんだ、と。助けを呼んでくるんだ、と。
「俺は……その間だけ、休ませて……もらうから」
そんな風に、あくまでも"二人で生き残るため"だということを強調する。
詭弁であることは分かっている。でも、そうしないと、彼女は到底納得しないだろうから。それに、嘘は言っていない。生きたい気持ちは本当だ。ただ、もはやその可能性が極端に低いだけ。
―――面倒をかけて悪いけど、頼む。
狡い事この上ないが、有無を言わさずそう言って、押し付けた。
しばらくの沈黙。
そして数秒間の逡巡の後、音が出そうなほど強く拳を握り締め、俯き加減で。彼女は絞り出すように口を開いた。
私を独りにしないで下さい、と。
ズキリと、鋭い刃で貫かれたように胸が痛む。耐え難い苦痛だった。この日に受けた、どんな傷よりも。それでも、顔にも声にもその動揺を出さない。決めた心を変える訳にはいかなかった。
それ故に、そんな彼女に掛けた最後になる言葉は。
―――俺が、死ぬわけないだろ?
今までで、一番卑怯な嘘だった。
背を向け、
片足の骨が折れているというのに、とんでもない無理をしてくれているようだった。去り際の彼女の顔は、きっと生まれ変わったとしても忘れることはないだろう。
本当に、心苦しい。結果として彼女に全てを押し付ける形となった事も、嘘をついてしまった事も。しかしそれを踏まえても、これが正しい選択のはずだ。二人で生き残るのが最上であるが、一人でも―――彼女だけでも生かすのが、自分の為すべきことなのだ。
そう、自分を正当化する。最期の時が近いのに、卑しさで自分のことが嫌いになりそうだった。
そして、"限界"は程なく訪れた。
何度か迫り来るモンスターを切り捨てはしたが、これ以上の抵抗は叶わない。
端から
そんな中、僅かに残る四肢の感覚が、
狭い視界にその光景は映らず、詳細は把握できない。
(養分……に……でも、なるのかよ)
周囲の大木の一部だろうか。
植物に生気を全て吸い取られた自分を想像して、そんな姿は見られたくないな、と頭の隅で思ってしまった。
それでも、モンスターの餌になって食い散らかされるより幾分かマシではありそうだった。どうせ、迎える結末としては同じなのだ。
しかし、結末が一つであっても。何もしないでただ"その時"を迎えるのは、彼女に不誠実だと思った。それに、ただ諦めてしまうと、"向こう"で待っている仲間達にも申し訳が立たない。
だから。
一縷の望みを賭けて、最後の言葉を紡ぐ。変えようの無い未来に抗うように。微かで弱々しいが、一言一言に凛と力を込めて。
その効果すら経験していない、自らに初めて発現した『回復魔法』の詠唱を。
「―――【コールド…………スリープ】」
そこで【迅雷】―――アル・チュールの意識は、完全に途切れた。
この日、正義の派閥【アストレア・ファミリア】は壊滅した。
第二級冒険者10人、及び
ひとまず、この話をもって連続投稿完了、並びに0章の終幕となります。
今後は少々間を置いて1章の投稿という運びとなる予定です。
また、後書きという形で大変恐縮ですが
非常に多数のお気に入り/感想/評価を頂きましたこと、この場を借りて厚く御礼申し上げます。こんなにも反響を頂くとは夢にも思っておらず、リューさんの偉大さを唯々思い知るばかりです。今後はリュー様と表現することも検討中です。
リュー様マジ無上。