こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3)   作:勇樹のぞみ

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ナジミの塔の探索、そして小悪魔に迫る洗脳調教の恐怖!

 そして翌朝、朝食を取った後、二人はナジミの塔の探索に入る。

 

「まずは小さなメダルの確保ね」

 

 塔の中を進む二人に、バブルスライム3体が襲い掛かってくる。

 

「痛っ!?」

 

 バブルスライムはパチュリーに5ダメージを与える。

 今のパチュリーにしてみれば10発食らってもまだ生きている程度の打撃だが、それでも、

 

「フロッガーより強い?」

 

 実際、毒攻撃のイメージばかりが先行するバブルスライムだが、その攻撃力は高い。

 ファミコン版では最大7体、それ以降のリメイク版でも6体まで出現するため、毒攻撃以前に通常の攻撃ダメージで殴り殺されかねない強さを持つのだ。

 ただし、

 

「でもヒットポイントは低いようですね」

 

 小悪魔はバブルスライムに斬りつけ、一撃で倒す。

 

「それが救いね」

 

 と、パチュリーも同様に斬り捨てる。

 小悪魔は最後に残った一匹にも止めを刺そうとして、

 

「ごめ…… さい……

 わた…… シタちがまちが……っていました。

 もう…… にどとしませン。

 もう…… 森…… のオク…… にもどって、ひっそりと…… 暮らシ…… マ…… す。

 ごめんなさ…… あい……」

 

 泣きながら許しを請うバブルスライムに戸惑う。

 

 

 

(ゆる)す……!! 自分が強者だと思いこんでいる人間…… 特に女は)

 

 最後の一匹となったバブルスライムは、小悪魔を前に命乞いをして見せながら考える。

 

 バブルスライムはスライムの変異種だ。

 旧エニックス社から出版された『ドラゴンクエスト モンスター物語』では、毒の沼地を温泉代わりにしていた腐った死体に誘われ、入ったスライムが瘴気を吸い込みすぎて破裂してしまった姿だとされる。

 だが破裂しても死なず、それどころか毒に慣れてしまい、その姿のまま子孫を作って行ったのだと。

 

 実際にはそんなユーモラスな伝承とは違い、他者との熾烈な生存競争に負け生息圏を追われて毒の沼地に追いやられたスライムが毒に侵され苦しみ、文字どおりに身を崩しながらも環境に適応し毒を身に着けた存在だ。

 毒に慣れる、と言うが、実際には後のシリーズ作でそうだったようにバブルスライムに毒耐性など無い。

 その身は毒に侵され、姿かたちも崩れかけ、それでも辛うじて生き延びることができている、そんな存在だ。

 

 だからこそバブルスライムは他者に劣等感を裏返しにした強い敵愾心と残虐性を持つ。

 

 自分は虐げられた弱者だった。

 だから強者には何をやっても良いのだ。

 だって弱いのだから。

 

 バブルスライムは表面上は怯えるふりで小悪魔たちの同情を請いつつ、内心では過去、騙し討ちにした相手を思い浮かべながら毒に侵す機をうかがう。

 

(あの女も)

 

 序盤の冒険者は毒などの異常状態に対する抵抗力も弱い。

 

(あの女も)

 

 解毒呪文のキアリーを覚えておらず、毒消しの備えも十分でない場合が多い。

 

(あの女も)

 

 一瞬の油断をついて毒に侵せばそれで勝ちなのだ。

 

(自分を憐み赦し…… そして泣き喚きながら死んでいった)

 

 バブルスライムは相手が強ければ、こうして命乞いも、逃げることもためらわない。

 それこそ通常のスライムと変わらぬほど逃げ足は速い。

 生きてさえいれば次がある。

 己の種族が逃げ込んだ先の毒の沼地で、毒という武器を手に入れたように。

 

 そしてまた強い相手でも不意を突いて毒に侵し、すかさず逃げることで消耗させることができる。

 解毒手段を十分に用意していない迂闊な相手なら、それだけでハメ殺すことも可能だ。

 

 だから命乞いをしてでも逃げのび、そして再び毒に侵すべく襲い掛かり、また逃げ出し……

 そうして何度も何度も報復を、リベンジを果たしてきた。

 

(さあ赦せ…… 赦せ……!!)

 

 小悪魔の構える剣の切っ先がゆらぎ、

 

(赦……)

 

「させるわけが無いでしょう」

 

 パチュリーの剣が、バブルスライムの身体に突き刺さる。

 

「報復者(リベンジャー)を気取るモンスター? バカバカしい。お前はスライムよ。ただの薄汚いスライムに過ぎないわ」

 

 そしてぐりりとねじ斬った。

 

「そして私たちは勇者…… いいえ、魔法使いパチュリー・ノーレッジとその使い魔よ」

 

 こうしてバブルスライムの群れは倒された。

 

 

 

 バブルスライムからは薬液を採取することができる。

 

「大丈夫なんですか、ソレ」

 

 顔をしかめる小悪魔に、パチュリーは、

 

「毒と薬は同じものよ。使い方によって毒は薬に、薬は毒になる」

 

 そう答えるのだった。

 

 

 

 3階の小部屋に安置された宝箱から、小さなメダルをゲット。

 

「なにげに初めての宝箱ですね」

「そう言えば、そうね」

 

 魔法使いであるパチュリーが持つ魔術的視野、セカンド・サイトには財宝を守る精霊スプリガンの姿が捉えられていた。

 パチュリーはわずかな微笑で謝意を伝える。

 するとスプリガンは満足したように消えて行った。

 また別の場所で眠る財宝を守って行くのだろう。

 

 

 

 そして今度こそ、盗賊のカギを持つという老人の元に向かおうとするが、

 

「モンスターの大群です!」

 

 大ガラス2羽、フロッガー2匹、おおありくい2匹というモンスターの群れが襲い掛かって来た。

 

「まずは、大ガラスを沈めて」

「了解です!」

 

 まずは敵の手数を減らす。

 二人がかりでないと倒せないフロッガー、おおありくいは後回しにして二羽の大ガラスを打ち落とす。

 

「ぐっ」

 

 続けざまにパチュリーに襲い掛かってくるモンスターたち。

 高いヒットポイントを持っている彼女だからこそ耐えられるのだが、

 

「おおありくいの攻撃力がやっかいね」

 

 後ろ足で立ち上がって威嚇のポーズを取るおおありくい。

 どこか可愛らしい姿だが、その爪は鋭い。

 現実にも居る動物だが、腕力が強く10センチもの長く鋭い爪を持つため人が襲われると内蔵を引き裂かれるなどして死にかねないものだ。

 ジャガーもおおありくいには近寄らないという。

 

「次は一番攻撃力の高いおおありくいを減らすわね」

 

 二人がかりで、と思ったのだが、

 

「やりました、一撃です!」

「えっ、倒しきってしまったの?」

 

 小悪魔は一太刀でおおありくいを倒してしまった。

 会心の一撃、というわけではなく、たまたまヒットポイントの低い個体に、たまたま今の攻撃力で出せる最大ダメージが入ったというところらしく、パチュリーが斬りつけた個体の方は生き残る。

 

「それじゃあ、止めを……」

「後回しにしてフロッガーを倒して」

「はい?」

「アイテムドロップは最後に倒したモンスターのものが手に入るから」

「じゃあ、おおありくいの?」

「革の帽子を狙いましょう」

 

 そうしてフロッガーを倒し、最後に残ったおおありくいを倒すが、

 

「残念、そう簡単にアイテムドロップはしない、か……」

 

 おおありくいが革の帽子を落とす確率は1/64だ。

 

「でも苦労したおかげでレベルが上がりましたー」

 

 小悪魔がレベル3に。

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:3

 

ちから:16

すばやさ:19

たいりょく:13

かしこさ:10

うんのよさ:12

最大HP:25

最大MP:19

こうげき力:28

しゅび力:17

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「力も最大ヒットポイントも増えました。呪文も覚えましたが、メラじゃあ剣で攻撃するより低いダメージしか出せないから無意味ですよね」

「そうでもないと思うけど……」

 

 使い道はあるのだ。

 

「ま、まぁ、これで私も勇者らしく……」

「あら私も上がったようね。レベルが」

「えっ?」

 

 パチュリーは4レベルに。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:4

 

ちから:15

すばやさ:8

たいりょく:32

かしこさ:10

うんのよさ:5

最大HP:63

最大MP:20

こうげき力:27

しゅび力:12

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「なっ、最大ヒットポイントが63……」

 

 絶句する小悪魔。

 彼女が勇者らしく先頭に立って歩く日は遠そうだ。

 

「素早さが上がったおかげで守備力が12になったのが結構大きいかも知れないわね。守備力は4ポイントごとに1ポイントのダメージを減らす効果があるから」

「んん? それだとパチュリー様は3ポイント。私の守備力17でも4ポイントしか減らないから、たった1ポイントしか変わらない?」

 

 そういうことだった。

 

 

 

 そして解体だが、おおありくいからは毛皮と肉、爪が手に入る。

 

「爪なんてどうするんでしょうか?」

「削って薬にするそうよ。現実のおおありくいの爪も同じように取引されてるって言うし」

 

 まぁ、そういう地域もある、という程度で効能は確かではないが。

 

「あとは薬草で傷の治療ね」

 

 最大ヒットポイントも増えたことだし、お互いに薬草で治療。

 小悪魔はフル回復したが、パチュリーは薬草一つでは満タンにならないという……

 

「まぁ、それでも50越えならよっぽどのことが無い限り大丈夫でしょう」

 

 そういうことで探索を続ける。

 途中、大ガラスとフロッガーに遭遇するが、

 

「一撃でフロッガーを倒せました!」

 

 小悪魔はようやくパチュリーより1ポイントだけ上回った力と攻撃力でフロッガーを斬り捨て、

 

「大ガラスからも1ポイントしかダメージを受けなくなったわね」

 

 パチュリーは守備力が上がった効果を確認して、大ガラスを倒す。

 そして3階に上がったところ、

 

「サソリバチの群れです!」

 

 三体のサソリバチだったが、

 

「サソリバチは仲間を呼ぶから気を付けなさい!」

 

 とはいえ気を付けたところでどうしようもない。

 というのもパチュリーたちは、ひたすら斬りつけるしか有効な攻撃手段を持ち合わせていないのだ。

 そして、

 

「こいつ、バブルスライムより強い!?」

 

 アリアハン大陸でも有数の強さを持っているのだ。

 またヒットポイントもバブルスライムより高く、

 

「今の私たちの力で一撃で倒せるか倒せないか。微妙なところね」

 

 ということで苦戦する。

 しかも、

 

「ああっ、倒したと思ったら仲間を呼ばれちゃいました!」

 

 となかなかに厳しい。

 

「落ち着きなさい。仲間を呼んでいるということはそのターンは攻撃できないってことなんだから」

 

 パチュリーはそう小悪魔をなだめながら攻撃を続ける。

 そして、

 

「な、何とか勝ちましたけど、勝ちましたけど……」

 

 小悪魔はヒットポイントを半分以下に削られていた。

 薬草で治療が必要だ。

 

「剥ぎ取りは、はさみと針ね」

 

 道具の材料になる素材だった。

 

 そして一行はさらに進み、フロッガー3匹とおおありくい2匹の群れに遭遇する。

 

「しくじったわね……」

 

 レベルが上がり攻撃力も上がったということでパチュリーはフロッガーを、小悪魔はおおありくいを攻撃したが、一撃で倒せないわ打撃が分散するわで戦闘が長引き被ダメージが蓄積する。

 何とか死なない範囲に収めたが、

 

「あ、あと一撃受けたら終わりでした……」

 

 小悪魔は再びボロボロになっていた。

 そして、

 

「ああ、レベルが上がったわ」

「ええっ!? 私上がってないですよ!」

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:5

 

ちから:16

すばやさ:9

たいりょく:35

かしこさ:10

うんのよさ:6

最大HP:68

最大MP:20

こうげき力:28

しゅび力:12

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「2レベル差…… 追い越したはずの力、攻撃力もまた並ばれちゃいました。しかもヒットポイント68って……」

「そんなことより薬草がもう尽きるわよ」

 

 最後の薬草を使って治療を行う。

 そして4階への階段を上り、

 

「ふぅ、最後の治療は要らなかったかもね」

「でも、もしモンスターに遭遇してたら死んでますから必要な出費ですよ」

 

 噂に聞く老人の部屋へとたどり着く。

 そこは人が住めるようになっていて、居眠りをして船をこいでいる老人の姿があった。

 小悪魔たちが近付くと目を覚ます。

 

「おお、やっと来たようじゃな」

「はい? 私たちのことを知ってるんですか?」

「うむ、勇者が旅立ったということは、わしも聞いておる。お前さん、名前は?」

「……こあくまと言います」

 

 一瞬考えた後、小悪魔は名乗った。

 小悪魔は種族名だが真名を名乗るわけにもいかないし、そもそもゲーム上の登録名を使うべきだし。

 

「そうかこあくまというのか。わしはいく度となく、おまえにカギをわたす夢を見ていた。だからおまえに、この盗賊のカギを渡そう。受けとってくれるな?」

「はい」

 

 老人から鍵を受け取る。

 その名の通り盗賊が錠前を破る時に使う鍵だ。

 

「ところでこあくまよ。この世界には、そなたの性格を変えてしまうほど、影響力のある本が存在する。もし、そのような本を見つけたら気をつけて読むことじゃな」

「ええっ、まだあんなのがあるんですか!?」

 

 小悪魔はレーベの村でパチュリーから力の秘密を使った洗脳調教を施されそうになった恐怖体験を思い出し、震えるが、

 

「ああ、ここにもあるわね」

 

 パチュリーが部屋の本棚から取り出した本に腰を抜かす。

 

「はわわ……」

 

 パチュリーはその本、『おてんば辞典』を手に取って見定めた。

 

「天真爛漫、元気な娘! おてんばイタズラ大好きっ娘、集まれ! ……? やっぱり使い切りの性格を変えるマジックアイテムね。この内容だと男性が読んでも役に立たなそう……」

「本来の目的とは違う意味で性癖を目覚めさせる男性もいるかも知れませんね」

 

 小悪魔は現実逃避かスカートを履いた女性が何かにキックをかましている様子が描かれている本の表紙を見ながら言う。

 

「そもそも魔導書でなくとも、一冊の本でそれまで無かった属性に目覚めちゃうってこともありますから、そーゆー本かも。パチュ×こあ派だった人が、こあ×パチュ本を読んで主従逆転に目覚めちゃうとか……」

 

 掛け算の順番は大事、などと主張し始めるその相変わらずのセクハラトークに、パチュリーの瞳がすっと細められる。

 

「……ずいぶん余裕ね。やっぱり『セクシーギャル』なんて性格をしているからそんななのよ」

「ひぅっ!」

 

 パチュリーはやれやれと首を振りながら本を片手に、こちらはいやいやと首を振り怯える小悪魔に詰め寄る。

 

「大体最初の性格判断で「あなたはエッチですね」「自分でもうっすらエッチであることにきづいている」「ひといちばい男の子がすき」「あなたはエッチです。それもかなりです」なんて連呼されても恥じないでいられるのがおかしな証拠」

 

 小悪魔に突きつけられる事実。

 

「小悪魔、あなたすでに洗脳されてるのよ」

「はい?」

「お前はエッチだとしつこいまでに連呼して刷り込んだ後、「でも心配はいりません。それはそれほどあなたが健康ということなのですから」と救いの手を差し伸べ肯定する。この手口、覚えがあるでしょう?」

「あ、ああ……」

 

 小悪魔は気づいてしまった。

 確かに…… それは妖しい宗教の入門体験や、現代で言うならブラック企業の新入社員研修などで散々人格否定をした末に救いの手に偽装した都合のいい価値観を刷り込む洗脳の常套手段、そのものだ。

 

 卑劣! 性格判断に仕組まれた罠!!

 

 などといったセンセーショナルな言葉が小悪魔の脳裏を過る。

 

「わたし……」

 

 呆然とする小悪魔に、パチュリーはふっと表情を緩めると、

 

「可哀想に」

 

 そう言って小悪魔の頬に手を添える。

 

「神魔の類は精神(こころ)が純粋だから、こういうことに影響を受けやすいわ。そこに付け込まれちゃったのね」

「パチュリー、さ、ま……」

「でも大丈夫」

 

 パチュリーは慈愛に満ちた表情で小悪魔にささやく。

 

「私がこの本で、歪められてしまったあなたを救い出してあげる」

「あ、ああ……」

「さぁ、その手に取って読んでみて。読書により幸福を感じることは義務。そうよね」

「読書により幸福を感じることは義務……」

 

 おてんば辞典を持たされる小悪魔。

 そして……




 スライムスレイヤーなパチュリー様再びでした。
 そして小悪魔に迫る洗脳調教の恐怖!
 というところで次回に続きます。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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