こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3) 作:勇樹のぞみ
翌朝、起床したパチュリーは小悪魔の拘束を解くと、顔を洗って身支度を整え、1階のダイニングキッチンへと向かう。
「健康的な生活よねぇ……」
起き抜けなのに食欲があり、勇者母が昨晩買い取ってくれたカラスの肉でどんな朝食を作ってくれるか楽しみにしている自分が居る。
引きこもりで本の虫な彼女には、とても新鮮な体験であった。
一方、小悪魔はというと、
すぅうううっ……
「はぁああぁぁぁ」
すぅうううっ……
「はぁああぁぁぁ」
昨晩パチュリーが眠り、その残り香と、元々の自分の匂いが染みついたベッドにうつぶせに横たわり、枕に顔をうずめ思いっきり深呼吸。
「いぃぃいなぁぁぁ、これっ! いぃぃいなぁぁぁ、これぇ!」
ムフー、スーハー、グーリ、グーリ。
柔らかな枕に顔を押し付け、その香りを楽しむ。
「はぁぁ~っ! パチュリー様の匂いはたまりませんねぇ」
小悪魔はパチュリーの使い魔ではあるのだけれど、紅魔館での役目は大図書館の司書。
寝室のベッドメイクは『完全で瀟洒な従者』にして『紅魔館のメイド』十六夜咲夜か、妖精メイド(あまり役に立たないが)の仕事。
つまり現実世界では触れることもできなかったパチュリーの寝起きしたベッドの残り香を、この世界なら存分に楽しめるのだ。
しかもこのベッドは本来、小悪魔のもの。
自分と愛しい主の匂いが入り混じり、あたかも「ゆうべはおたのしみでしたね」したかのような錯覚を覚えてしまう。
「あふ……」
昨晩、パチュリーからギッチギチに施された拘束による放置プレイ責めにより小悪魔の心身は散々に啼かされ、高まっていた。
だから太ももをすり合わせ、もじもじして我慢しようとするも、己の身体を苛む欲望には逆らえず。
「ぱ、パチュリー様が、パチュリー様が悪いんですよ。私、私こんなになるまで我慢したんですから」
小悪魔は自分と主にそう言い訳しながらそろそろと、興奮で震える指を自分の身体に這わせ……
「おはようございます、パチュリー様!」
「ええ、おはよう」
食卓で出されたハーブティーを楽しんでいたパチュリーは、妙にすっきり、つやつやとした様子で現れた小悪魔に、
(この子は朝から元気ねぇ……)
と呆れる。
まぁ、自分の残り香が付いたベッドを小悪魔が何に使ったかを知ったら、そんな呑気にはしていられなかっただろうが。
そこにタイミングよく勇者母が、
「さぁ、朝食ですよ。新鮮なお肉を譲って頂いたので、麦酒(アンバーエール)でマリネしたカラス肉のハーフグリルに仕立ててみたわ」
朝からガッツリ系なのは勇者の家、つまりファミコン版ではカンダタなどと同じ覆面パンツの筋肉男だった勇者の父、オルテガの家だからか。
こんなの食べきれない、と思うパチュリーだったが、勧められるままに口にしてみて驚く。
「これは……」
琥珀色をした麦酒を使用したマリネ液に漬け込んだお陰だろう肉が軟らかくなっており、香り高く味わい深く仕上がっている。
添えられたのは今朝、沢から摘んできたという新鮮なクレソンにナッツをまぶして作られたサラダだったが、
「このサラダのドレッシングはオリーブオイルと粒マスタードでしょうか? ほのかに柑橘の風味もあっていいですね。シャキシャキした歯ごたえがたまりません」
と小悪魔も満足げだ。
パチュリーも、
「その緑が彩りとなって一層食欲をそそるように思えるわね」
そううなずく。
パンではなくクラッカーが出されていることも相まって、メインの肉料理の重さを上手く軽減しているように感じられる。
クラッカーは日持ちするのでパンのように毎日焼かなくて良く手軽で美味。
……まぁ、酒飲みなら確実に朝からビールが欲しくなるメニューなのだが、パチュリーたちには関係ない。
そして金色に澄んだ、暖かなスープも胃に優しいあっさり系。
パチュリーには珍しく、食が進む朝食となったのだった。
さすがにメインの肉料理は食べきれず小悪魔と分け合ったのだが、
「パチュリー様と半分こ! ああ、生きていて良かったです」
と小悪魔にも好評なのだった。
「何も、涙ぐまなくても……」
こんなことでそこまで、と呆れるパチュリーだったが、
(これからは、もう少し優しくしてあげるべきかしら?)
などと考えるのだった。
「昨晩、小さなコインと引き換えにもらったトゲのムチだけど」
商人の鑑定能力と、自分の知識を合わせて調べるパチュリー。
トゲのムチを手に取って見定める。
「『イバラのトゲを編み込んだしなやかなムチ』ね。呪術的にもこれはモンスターに効くでしょうね」
「イバラというと、野薔薇とか、トゲのあるバラ族の植物ですよね。魔物除け、特に吸血鬼避けに使われる」
「そうね、そして広義にはサンザシなんかを含む場合もあるわ」
「……それも吸血鬼に効くやつですよね」
「ええ、そして古代ケルトのドルイドはサンザシを神聖視していて、それを受けてか英国の妖精物語では魔力ある植物とされた。その影響もあるのでしょう。サンザシは生薬としても使われるし……」
「なるほど」
つまり、この武器は彼女たちが住む紅魔館の主である吸血鬼の少女、レミリア・スカーレットにも効くのかもしれない。
当人が聞いたら、
「吸血鬼だろうとなかろうと、そんなのでぶたれたら痛いに決まってるでしょっ!!」
と主張するかもしれないが。
心臓にサンザシで造った白木の杭を打ち込まれて死なない存在の方がマレなのだし。
「ファミコン版では『鉄のトゲでモンスターの肉を引き裂き、骨を断つ強靭なムチ』とされていたけれど、その攻撃力は鎖鎌以下で攻撃できるのも単体に限られた」
「それに対してこれは同時に複数のモンスターへの攻撃が可能で、威力も鎖鎌以上、ですか」
「そうね、だからこれは呪的武器で、モンスターには鉄のトゲ以上にイバラのトゲが効く。そういうことなんでしょうね」
そう分析するパチュリー。
「だから、これで攻撃すれば1グループの敵にダメージを与えることができそうよ」
「「できそう」って、そこは「できる」と言い切ってもいいんじゃないですか?」
パチュリーの頭の中には攻略本の知識も入っているのだし、と思う小悪魔だったが、
「そこ、厳密に言うとメタルスライム、はぐれメタルには1体だけにしかダメージを与えることができないから」
と正確性にこだわる主人に、なるほどと納得する。
「これを装備できるのは、あなただけみたいね」
トゲのムチを装備できるのは勇者、盗賊、魔法使い、遊び人。
商人のパチュリーは装備できない。
「お店に持っていけば240ゴールドで売れるわね。大丈夫、呪いはかかっていないわ」
という話だが、
「つまり私が使わなければならないけど、そうするとパチュリー様に半額分、120ゴールド払わないといけない。借金っていう呪いがかかるってことじゃないですかぁ!」
そういうことだった。
「でも今、あなたが装備している銅の剣は、お店に持っていけば75ゴールドで売れるわね。それを差し引けば45ゴールドで手に入るわよ」
だからパチュリーたちは道具屋に行って薬草を補充してから、
「それじゃあ、清算してみましょうか」
と、それぞれの所持金を計算する。
前回の清算時の計算が、
小悪魔:-92G
パチュリー:40G(+未払い分92G=132G)
「現時点での宿代や薬などの消耗品の代金を支払った残金が186ゴールド。つまり、146ゴールドの収入があったので、一人当たり73ゴールドの配当ね」
そしてさらに、
「さっき話したとおり、あなたの銅の剣を売ると75ゴールドがあなたに手に入る一方で、トゲのムチを手に入れるには私に120ゴールド払わないといけないから」
つまり、
「最終的にはこうなるわ」
小悪魔:-64G
パチュリー:261G(+未払い分64G=325G)
「借金が…… 借金が無くならない」
「まぁ、そうなるわね」
そういうことになった。
「まずはレーベの村に行って、私も武器の新調、鎖鎌を買うわね」
パチュリー用の武器を購入するため、レーベに向かって出発する。
平野にて大ガラス3羽の群れに遭遇。
「ふふふ、それじゃあ、お仕置きを始めましょうか」
小悪魔の手に持たれたイバラのトゲを編み込んだしなやかなムチは、この草原の上をヘビのように這っていた。
彼女が手首をしごくと地面を幾重にもしなり、のたくる。
そして、
「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」
小悪魔のトゲのムチが唸り、大ガラスを打ち据える!
その先端は音速すら超えるというムチの範囲攻撃、触れれば皮膚が裂け、肉が爆ぜるトゲのムチの攻撃フィールドに痛打され、即座に全滅する大ガラス。
今まで一体一体倒していたことが馬鹿らしくなるような爽快さと……
ゾクゾクと背筋を走る嗜虐の快楽に、小悪魔はその瞳を愉悦にけぶらせる。
「パチュリー様、アルミラージと戦いましょう! 今すぐにでもっ!!」
「はぁ?」
アルミラージは催眠呪文ラリホーを唱え、こちらを眠らせてくる有角ウサギのモンスター。
アリアハンでも東部やいざないの洞窟で出現するが……
To be continued
ちょっと短めですが、初っ端で小悪魔が暴走して、このままでは最初から最後までセクハラ祭りになってしまうため、いったん切らせていただきました。
……でもこれって、問題の先送りに過ぎないという話もありますが。
小悪魔がアルミラージを使って何をする気なのかは次回、
『おちる恐怖、パチュリーを苛む催眠とムチの二重奏!』
で。
ご期待ください。