こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3) 作:勇樹のぞみ
砂漠の街イシスに到着するパチュリーと小悪魔。
まずは女王様に謁見するため城へ。
「左右に並んでいる石像は何でしょう?」
「スフィンクスみたいね。エジプトのルクソール神殿にはこんな風にスフィンクスが並んだ参道があるという話だけれど」
「スフィンクス……」
そうして入った城では女官に、
「ああ、たくましい人たち! 女王さまもきっと気に入ってくださることでしょう」
などと言われ、パチュリーは、
「私がたくましい…… 現実ではありえない評価ね」
と微妙な表情をする。
一方、小悪魔はというと、
「たくましい女性を気に入る女王様? それってつまり……」
「そうれ、お鳴きっ!」
拘束されたパチュリーの柔肌に女王のムチが振り下ろされた!
「あひいぃぃぃっ!?」
経験したことのない激しい痛みにパチュリーの思考が一気に吹き飛ぶ。
まるで絶頂したかのように身体をのけぞらせ、瞳を見開き叫ぶパチュリー!
「ホホホ、強い女の悲鳴は、いつ聞いても心地良いわ」
「くぅっ……」
痺れるような痛みに呻きながらも、しかし折れないパチュリーの顔を覗き込み、女王はいやらしく笑う。
「あの勇者の小娘を人質に取られてさえいなければ、こんな汚い手を使う相手に負けないのに、そう言いたいのかしら?」
その場には意識を失いぐったりとした小悪魔が、女王の下僕に押さえつけられ、喉元に刃物を押し当てられていた。
「嘘をお言いでないよっ! 本当は嬉しいくせにっ!」
再び振り下ろされるムチ!
「ああーっ!!」
「フフ…… 私にはお見通しよ。お前が虐められて喜ぶ変態だってことはね!」
何を、と戸惑うパチュリーに、女王は語る。
「強い女、賢い女はみんなそう。実力に見合った、常人ならナルシストとしか思えないような自信と高いプライドを持ち…… だからこそ、その裏返しのマゾの快楽は底なしに深くなる」
笑いながらムチを振るう女王。
「お前は心の内でこうなることを望んでいたのよ! 強く美しい自分自身を徹底的に辱め、痴態をさらけ出さざるを得ない状況に追い込まれることをね!!」
「そっ、そんなはず……」
反論はひときわ強く振り下ろされるムチに遮られた!
「あ゛ぁぁああああっ!!」
「当然、お前はそれを認めないわ。強いが故のプライドや立場が邪魔をするし…… 何より自分から認めてしまっては興覚め。辱め、貶め、汚し甲斐のある強く美しい自分ではなくなってしまうものね」
そうしてパチュリーの髪の毛をつかみ顔を上げさせると、耳元にささやく女王。
「でも…… 相手が人質を取るなんて卑怯な手で脅して来たらどうかしら? 抵抗できなくてもそれは『仕方がないこと』よねぇ?」
ぞくり、とパチュリーの背筋に何かが走った。
女王はこう言っているのだ。
人質を取られているのだ、反撃を許されないまま一方的に嬲られたとしても、それはパチュリーの名を傷付けることにはならないのだと。
そうして行きつく先は…… パチュリーは想像してしまう。
相手の卑怯で陰湿な責めにボロボロにされ、まるで公開処刑を受けるかのように、公衆の面前で辱められる、この七曜の魔法を極めた魔法使い、パチュリー・ノーレッジが!
瞬間、ぶるりと身体が震え、腰が砕けそうになった。
その姿に女王の瞳が満足そうに細められたが、パチュリーは……
(挑発に乗ってはいけないわ。ここは耐えて、相手の油断を誘うのよ)
パチュリーの力ならいつでも逆転は可能。
小悪魔の完全な安全を確保するために敢えて今は耐え忍び、大きな隙を見せるまで待つのだ。
だからそれまでは……
痛みから分泌される脳内麻薬に酔ったパチュリーは気付かない。
女王が差し出した「人質が居るから仕方が無い」という言葉は、パチュリーがこの被虐のシチュエーションを甘んじて受ける、そして楽しむことに対する許し。
パチュリーが自分自身に言い訳できる理由をくれてやったのだということを。
そして、自分がまんまとそれに乗せられているということを。
パチュリーを被虐と快楽がいざなう奈落へと堕とすための責めは、始まったばかりだった。
砂漠の夜にムチ打つ音と、パチュリーの苦鳴が響き続ける。
明けの明星が輝き、パチュリーが取り返しのつかないほどのマゾ性癖を精神と身体に刻み込まれてしまう、そのときまで……
「……って、感じですかね?」
「そんなわけ無いでしょう!?」
それは違う女王様だし、そもそも自分を主人公とした官能調教劇という妄想を垂れ流しにするなという話。
そして、もちろんイシスの女王は、兵には、
「女王さまをおまもりするのがわたしの役目。ああ、わたしはなんて幸せな男だ!」
「オレは女王さまのためなら死ねる! ああ女王さま……」
と慕われ、女官たちには、
「私たちは女王さまにおつかえする女たちです。イシスに住む女なら、だれもがあこがれる役目ですわ」
「わが女王さまには、こわいものなどありませぬ。たとえ魔王といえども、その美しさの前にひざまずくでしょう……」
と讃えられる存在。
そして実際、謁見を果たした女王様は、
「皆が私を褒め称える。でも、一時の美しさなど、何になりましょう。姿形ではなく、美しい心をお持ちなさい。心にはシワはできませんわ」
誰もが憧れる美しさ…… 幻想郷に居る文字どおり人外の美貌を誇る存在を見慣れているパチュリーたちでも美人と思える風貌に、それを鼻にかけたりはしない人格者だったりする。
「ロマリアの王族が微妙だっただけに、人柄が際だつわね」
とパチュリー。
なお、パーティが全滅した際には最後にセーブした場所の王様から、
「しんでしまうとは ふがいない!」
などと叱咤されながら再開することになるが、イシスの女王の場合は、
「しんでしまうとは かわいそう」
と言ってくれるという違いがあったりする。
またここの女官の一人から、
「子どもが歌う、わらべ歌にはピラミッドの秘密がかくされているそうですわ。でもあたしには、なんのことやらさっぱり」
という話を聞けたので、子供たちの歌を確かめる。
「ねえ いっしょにうたおうよ!」
「まんまるボタンはふしぎなボタン。ちいさなボタンでとびらがひらく。東の東から西の西」
それを聞いて、パチュリーはうなずく。
「この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものだから、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版の「東の西から西の東へ。西の西から東の東」という手順よりは簡略化されているわね」
「それは助かりますね」
「ファミコン版だと「まんまるボタンは、おひさまボタン。はじめは東。次は西。」つまり太陽が東から上って西に沈むように、東、西の順に押すという分かりやすく覚えやすい歌詞になっていたのだけれど」
「太陽ですか」
「この地域のモデルになっている古代エジプトでは、日々変わることなく繰り返される太陽の運行を永遠の秩序ととらえ、太陽神ラーとして信仰していたわ。そしてこの太陽神は、昼の間は「マアンジェト」という名の船に乗り天空を航行し、夜は「メスケテト」という船で冥界を移動すると考えられていたの」
しかし、リメイクで仕掛けを複雑化させた結果、当てはまらなくなったため『おひさまボタン』は『ふしぎなボタン』に差し替えられたのだった。
「このピラミッドの仕掛けはそんな風に変化しているものだから、確認は必要なの。ファミコン版の経験者が確認せずにスーパーファミコン版ではまったり、スーパーファミコン版の経験者が同様にスマホ版ではまったり、ということが実際あるみたいだし」
と締めくくる。
そうしてさらに城内を探索。
学者の部屋の本棚からは、性格を変える本が手に入る。
「ひぃっ!?」
洗脳調教の恐怖に怯える小悪魔と、手に取って見定めるパチュリー。
「まけたら、あかん…… あきらめたら、あかん…… 勝つまでやるんや! ……なにこれ」
「何で、ナニワ風なんですかね?」
「読んだ者の性格を『まけずぎらい』に変えるものね」
負けたらあかんの本である。
「『まけずぎらい』は『セクシーギャル』の完全下位互換ですから!」
懸命に予防線を張る小悪魔に、パチュリーはため息をつき、
「お店に持って行けば22ゴールドで売れるわね」
と売却することにするのだった。
実際『まけずぎらい』は良い性格では無いから変える意味は無い。
この本の値段も相応ということだろうか。
そうして城の外に出ると、城の外周で、
「俺はこの城にあるという、星降る腕輪を探している」
という武人に出会った。
ならば、ということで城の地下へと行ってみる。
安置されている宝箱を開けると、星降る腕輪が手に入った。
「それが素早さを上げるという伝説の腕輪ですか」
感心してパチュリーの手元を覗き込む小悪魔だったが、
「ひぃっ!?」
星降る腕輪を手に入れると亡霊が現れる。
「私の眠りを覚ましたのはお前たちか?」
そう問われ、パチュリーは素直に「はい」と答えておく。
「お前は正直者だな。よろしい。どうせもうわたしには用のないもの。お前たちにくれてやろう。では……」
そのまますっと消えて行く亡霊。
「び、びっくりしました……」
「そう? びっくりついでに言うけど、ここって勇者…… あなた一人で来てもさっきの亡霊に「私の眠りを覚ましたのはお前たちか?」と言われるのよ」
それが何か、と言いかけて小悪魔も気づく。
「一人でも……「お前たち」?」
顔を引きつらせる小悪魔に、パチュリーはこくりとうなずいて、
「亡霊には勇者の後ろに何が見えているのかしらね? 殺されたモンスターたちの亡霊? それとも……」
「止めてください、怖すぎます!」
「……悪魔なのに?」
「悪魔でも怖いものは怖いんですよっ!」
こうして星降る腕輪を手に入れたパチュリーたちは、今度はイシスの街に繰り出す。
いつものように、
武器屋、そして墓の前から小さなメダルを、武器屋の主人の家からステテコパンツを、井戸のそばから素早さの種を、井戸の中からは読んだ者の性格を『いのちしらず』に変える勇気100倍の本を発見した。
手に取って本を確かめるパチュリーだったが、
「さあ、今こそその一歩を踏み出す時! この本を読めば、その勇気が君の手に! ……ねぇ」
「ダメですパチュリー様!」
パチュリーを強く引き止め、語る小悪魔。
「本を読んだだけで勇気が手に入るはずがありません。そもそも『勇気100倍』とはア〇パンマンの最強状態を指す言葉!」
「ちょっと、何を言い出すの!」
非常に嫌な予感がして制止しようとするパチュリーだったが、小悪魔は止まらない。
「そして『ア〇パン』とはシンナー吸引を指す隠語! つまりアサシンと呼ばれる死を恐れぬ暗殺者が大麻の投与で作られたという伝説のように、きっとその本にはシンナーのような薬物を吸わせて恐怖心を失わせ、勇気100倍にしてしまおうという方法が書かれているに違いありません! CERO年齢区分が全年齢対象のA区分、幼児もプレイするゲームに何て恐ろしい暗喩を込めるのでしょう、エニックスさんは!!」
「そんなわけないでしょう! というか危なすぎる発言は止めなさい!!」
そもそもアサシンと大麻の関係性は、現代では否定されている……
まぁ、それで小悪魔も『伝説』と言っているのだろうが。
「でも最初の性格診断で『いのちしらず』になれるのは砂漠での選択。『勇気100倍』を入手できる場所はここイシスとドムドーラ。すべて砂漠地方ばかりと縁がある性格です。そしてアサシン伝説の発端となった中東も砂漠の存在する土地柄。エニックスさんがそれを意識していないとは思えませんよね」
「いいから!」
危ないからこれ以上、深く突っ込むなという話。
ともあれ、
「この本を読むとなれる『いのちしらず』って、城で手に入れた負けたらあかんの本を読むとなれる性格『まけずぎらい』の上位互換なのね」
「あああ、止めてくださいパチュリー様」
一転して恐怖の表情でイヤイヤをする小悪魔。
「そして今のあなたに足りないヒットポイントを決める体力の成長補正が+15パーセント。つまりこの性格に変えれば、あなたの生存率が高まるということ」
守備力を高める素早さの成長補正もセクシーギャルと同じ+20パーセントであり、『いのちしらず』はそういう無謀とも思える性格でも生き残ることができる力を秘めているのだとも言える。
「あ、あああ……」
小悪魔に迫る洗脳調教の恐怖!
これがあったから小悪魔は無茶苦茶なことを言って話をうやむやにしようとしたのか。
しかしパチュリーには通じない。
そうして絶望に震える小悪魔に、
「でも、力の補正が-5パーセントというのが痛いわよね」
と言う。
「そう、そうなんです!」
弾かれるように顔を上げ、希望に縋りつくように言う小悪魔。
実際、『いのちしらず』はそのイメージと違い魔法使いや僧侶、賢者といった後衛向きの性格だった。
体力への補正は後衛職に足りないヒットポイントを上げるうえ、素早さアップによる守備力強化でさらに耐久性が高まる。
素早さの向上は魔法による先制攻撃を可能とするものでもあるし。
力の上昇にわずかにマイナス補正が加わるが、後衛職は元々力が上がりにくく、打撃によるダメージがそれほど期待されるわけでも無い。
ゆえに許容範囲と言えるものだった。
パチュリーはため息をつき、
「お店に持って行けば67ゴールドで売れるわね」
と売り払うことにするのだった。
そんなパチュリーは、ある人物と出会う。
「私はソクラス。こうして夜になるのを待っています。でも夜になると、なぜか朝が待ち遠しくなってしまうのです」
「は?」
言っていることが良く分からない。
それでは、と思い街の外に出たり入ったりで時間を潰し、夜を待ってみる。
イシスの街と城は他とは違いワールドマップには表示されず、砂漠に存在するオアシスの森のマスに入ることで『街と城が表示される中間マップ』に切り替わり、そこから街か城を選んで入ることができる。
スーパーファミコン版では外に出たら、いったん砂漠に出ないと『街と城が表示される中間マップ』に遷移しない仕組みになっていた。
オアシス周囲の森から『街と城が表示されるマップ』が表示されるマスに移動しても普通にワールドマップの森を移動しているだけ。
敵も普通に出るという処理だった。
一般的な平地の場合1~49歩目にエンカウントするが、平地に比べ砂漠は1.5倍、森は1.8倍に歩数がカウントされるため、小まめに出たり入ったりを繰り返さないと敵にエンカウントする率が高まるのだった。
一方、この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。
イシス周辺、オアシスの処理がスーパーファミコン版とは異なっている。
この世界では『街と城が表示されるマップ』から出て『ワールドマップ』へ遷移した後、上方向に一歩移動するだけで『街と城が表示されるマップ』に戻ることができる。
つまり『街と城が表示されるマップ』から下方向キーでワールドマップへ、そこで上方向キーを押して『街と城が表示されるマップ』へ、と移動を繰り返すと絶対にエンカウントすること無く時間を進めることができるのだ。
そうやって安全に時間を夜に進めて訊ねてみると。
「私はソクラス。こうして夜が明けるのを待っています。ああ…… 早く朝にならないかなあ」
と働きもせず朝を待ち続けている。
このソクラスの家からは頭が冴える本が見つかる。
「『頭が冴える本』って、読むと眠れなくなる本なんでしょうか?」
「それを言うなら『目が冴える本』でしょう」
小悪魔の物言いに呆れるパチュリー。
「でも働きもせずに家に引きこもっているというのは良くないですよ。とにかく、この本はこの人から取り上げて置いた方が良さそうですね」
しかし、それでもソクラスの暮らしぶりには変化が無かった。
昼に会った神父曰く、
「誰もソクラスのことを笑えまい。人生とはああしたものかも知れぬ……」
とのことなので、このイシスでも引きこもりの問題は深刻なものになっているらしい。
だが、
「引きこもっていられるだけの力、財力や権力、立場があるのなら、好きにすればいいと思うのだけれど」
と、こちらも生粋の引きこもりであるパチュリーには、何ら問題とは思えないらしい。
「えぇー?」
「例えば、引きこもっても問題なく暮らせるほど家が裕福というのも先天的な『才能』よ。私のように魔法を志す者なら、それだけで学習の向上率や魔法の習得速度が違ってくるわ」
というわけで、
「誤魔化してないで『頭が冴える本』を渡しなさい」
「うぐっ!?」
小悪魔が後ろ手に隠していた性格を変える本を取り上げるパチュリー。
「日ごろの行いというものね。いつもがアレなあなたがまともなことを言い出すなんて、何かあるって言っているようなものよ」
まぁ、
「頭が冴える本はロマリアでも得られて、売りに出したものだけど」
商人の能力で鑑定した内容、
「驚異の大脳発達術! 頭の良くなる食品リスト! 超思考法!」
というキャッチコピーが怪し過ぎるというのもあるが、根本的にはこの性格の体力-20パーセント補正というのが辛すぎるということである。
長所である賢さ+40パーセント補正というのは僧侶や魔法使いに使うとマジックパワー切れがまず起きないというほどに賢さが伸びてくれるのだが……
一方勇者はマジックパワーが少ないので、この性格は良さそうと思うかも知れないが、パーセント、割合での補正というものは元々低い値への効果は薄い。
逆に元々高い体力が大幅なマイナス補正の影響を受けてかなり下がってしまうので、使い勝手が悪いのだ。
そういうわけで、
「まぁ、売るしか無いわね」
ということで洗脳調教を免れる小悪魔だった。
相変わらずな小悪魔のセクハラ妄想。
そして違う意味で危ない主張。
いえ、彼女の暴走に書いてる私も冷や汗ものなんですけどね……
次回はイシスの夜の続きに、逆襲のパチュリー様。
そして刃のブーメランゲットからの装備の更新、各人の所持金の精算。
つまり『借金奴隷小悪魔』の巻となります。
「勇者は商人のヒモ、はっきりわかんだね」
再びということですね。
いや、そうしないと小悪魔が次のピラミッドで死にかねないし……