こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3) 作:勇樹のぞみ
引き続き夜のイシスの街を歩くパチュリーと小悪魔だったが、
「パチュリー様、あそこの水場に裸の女性が!」
というわけで駆け出す小悪魔。
「待ちなさい! ……そういうのは目ざとく見つけるのねぇ」
呆れて後を追うパチュリーだったが、
「いやん、近づかないでっ! こっそり水浴びしてるんだから」
などと小悪魔は拒絶されていた。
一方、パチュリーに対しては、
「身体が砂だらけで気持ちわるいから水浴びしてるの。でも砂漠の夜って案外冷えるのよね。……クシュン!」
ときちんと答えてくれる。
この対応の違い……
「やっぱり一般人にも、あなたから滲み出るいやらしさが分かるのね」
「ヒドイ言いがかりです!?」
実際にはファミコン版で女勇者が周囲から男性と見間違えられていたことの名残。
スーパーファミコン版以降のリメイク作ではきちんと女性と認識されるようになったものの、このように所々そのままの部分も残っているので、女勇者は同性である女性にも性的な視線を向けているのでは、という疑惑が生じるのだった。
そうしてパチュリーは、
「そんなことはどうでもいいとして……」
「良くないですよ!」
「いいとして、夜の城も調べてみた方がいいかしら」
ということで行ってみる。
昼と変わらずに居るネコたちを横目に、兵士の寝室に入ってみるが、
「うわ~、化けネコだぁ~。助けてくれ~。ぐうぐう……」
などとうなされている兵が居る。
「化けネコねぇ……」
「そういえば魔法使い…… 魔女のペットってネコが定番ですけど、パチュリー様は飼われていませんね」
ふと小悪魔はつぶやくが、
「そうね……」
とパチュリーは城の玄関ホールに戻ると、壁に向かって、その場から動かないネコに気づいて話しかけてみる。
するとそのネコはくるりと振り向いて、
「ケケケ。オレさまは魔王さまの使い魔よ」
「しゃ、しゃべった!?」
驚く小悪魔を他所に話し始める。
「魔王さまにたてつこうなどと、大それた考えは改めアリアハンに帰るがよい。でないと、お前らは無残な最後を遂げるだろうよ。ケケケケ……」
という言葉を残し、その場から消え失せるネコ。
「び、びっくりしました……」
「あんな風に、かしら?」
くすりと笑うパチュリー。
「魔女の使い魔は、契約した悪魔から貸し出されたインプが化けているもの、とも言われているわ」
パチュリーはつい、と人差し指を小悪魔の顎に伸ばし、
「あなたもネコになってみる?」
と聞く。
小悪魔は冷や汗をかきつつ、こう答える。
「いえ、私はネコではなく攻める方ですから」
「あなたが何を言っているのか分からないわ」
そんなこんなで謁見の間に。
「女王様はすでにお休みです。また昼間にでも来られるが良いでしょう」
と兵士が言うが、パチュリーは玉座へと進み、そこから小さなメダルを拾い上げる。
「これで小さなメダルは15枚。刃のブーメランがもらえるわね」
ということで、キメラの翼を使いアリアハンへと飛ぶ。
街の端にある井戸、ロープを伝って降りて行った先の建物では、小さなメダルを景品と交換してくれるメダルおじさんが待っている。
「よし! これでパチェはメダルを15枚集めたので、ほうびに刃のブーメランを与えよう!」
前回以降、新たに集めた小さなメダル五枚を渡すと、代わりに刃のブーメランを渡してくれた。
スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではメダル20枚が必要なアイテムで、入手は最速でもピラミッドの魔法の鍵入手後という武器だったが、この世界の元となっている携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版では15枚、イシス到着時点で入手が可能となっていた。
通常のブーメランはというとノアニールを眠りから覚ました後の入手になっているので、パチュリーたちのように先にイシスに向かうことにすると入手順が逆転することになる。
「これが30枚になった時は力の指輪を与えよう。がんばって集めるのじゃぞ!」
パチュリーは次に道具屋に向かうと不要品を売却し、資金調達するとキメラの翼を補充し、さらには薬草を大量に買い込み『ふくろ』に入れる。
そうしてまた勇者の実家で身体を休めることにした二人だったが……
「何でガーターベルトを持って、にじり寄って来るの!」
「もちろんパチュリー様にガーターベルトを付けて差し上げるためですよ。星降る腕輪は素早さを二倍に引き上げる装飾品です」
「ああ、つまり素早さが高いあなたに付けた方が効果がある、するとガーターベルトが私に回って来るということね」
「ですから私がパチュリー様に付けて差し上げて……」
そう言いつつ、じりじりとパチュリーに迫る小悪魔。
(ガーター留めのバンドって、下着の下を通すんですよね、つまり……)
ということだが、しかし、
「……それじゃあ、精算してみましょうか」
パチュリーは諦めた様子でそう言うと、アイテムを分配し、それぞれの所持金を計算することに。
「アイテム分配が先なんですか?」
「次はピラミッド突入だから、借金が生じようとも装備の有利さ優先で行くわ。お金の計算はその後でね」
そういうわけで、
「あなたに使ってもらうのは刃のブーメランと、星降る腕輪、そして星降る腕輪の効果をさらに高めるための素早さの種ね」
「ううっ」
いかにも高そうな装備ばかりで怯む小悪魔。
「刃のブーメランの売却価格は900ゴールドという、このクラスの武器としては格安の値段。そして素早さの種は60ゴールド。これらは二人に所有権があるから、合計の半額の480ゴールドを私に払えば自分のものにして使うことができるわ」
「そ、そんなお金……」
「今まで使っていたトゲのムチが売却できるでしょう? 240ゴールドで売れるから、差額の240ゴールドで大丈夫よ」
「そ、それなら何とか払える…… んですかね? ここまで戦いやアイテム回収で稼いできたはずですし?」
「そして星降る腕輪だけど、これ、価値が高過ぎて値段なんか付けられない売却不可のアイテムなのよね」
「ええっ!?」
「それで考えたのだけれど、勇者と商人だけの二人旅だと星降る腕輪と、ピラミッドで魔法の鍵を取ったら入手できる豪傑の腕輪、どちらかをこの先、状況に合わせて付けて行くでしょう?」
「それはそうですね」
「付け替えるたびに計算なんて面倒だから、この際、星降る腕輪の売却価格を仮に、豪傑の腕輪と一緒として計算したらいいんじゃないかって」
「なるほど……」
「豪傑の腕輪の売却価格は3375ゴールドだから、半額の1687ゴールドを私に払えばいいわけだけど、代わりにガーターベルトを私に渡すわけだからその分の売却価格975ゴールドを引いた、712ゴールドを払ってもらえばいいわ」
「そ、それって……」
「そうして清算すると」
小悪魔:-1129G
パチュリー:322G(+未払い分1129G=1451G)
「という具合になるわね」
「ぐふっ……」
とんでもない借金持ちになってしまい、その重みに耐えかねたかのように膝をつく小悪魔。
フルフル震える手で、
「そ、それでもガーターベルトを、ガーターベルトをパチュリー様に付けてもらえるなら、私はそれだけで……」
と気力を振り絞るが、
「ああ、ガーターベルトは売却するわよ」
「はい?」
「性格をタフガイからセクシーギャルに変えたくは無いし、どうせピラミッドで魔法の鍵を取ったら星降る腕輪か豪傑の腕輪の二択になるのだし、取っておく意味は無いわね」
「で、でも守備力が上がりますし、少なくとも魔法の鍵を取るまでは身に着けた方が……」
「それなら売却したお金で防具を揃えた方がよっぽど守備力を上げられるわよ」
ということ。
小悪魔はこの世の終わりかと思えるほど絶望的な表情をし、がっくりとうなだれ、両手を床につける。
そうして、しかし最後の希望に縋るように膝をついたまま、震える指先をパチュリーに伸ばし、にじり寄る。
「な、ならせめて売り払う前に、一度だけ、一度だけでもいいんです、付けてみて……」
「ああ、あなたはこれね」
「もがっ!?」
小悪魔の口に突っ込まれるパチュリーの指。
そうして小悪魔は、
「あひィッ……!? あ、あはあぁぁぁぁぁ……」
全身を襲う筋肉痛を凝縮したような痛みに叫ぶ。
そう、パチュリーが小悪魔の口の中に突っ込んで飲み込ませたのは、先ほど言っていた素早さの種だった。
その場に倒れ伏し、ビックンビックンと震える小悪魔を見下ろし、パチュリーは言う。
「あら、素早さが1しか上がっていないわ。ここはリセットしてやり直すしか無いわね」
そうして……
「あッおうッ!」
「あむあむあううぅッ!」
「くはああぁぁぁッ……」
繰り返す時の中、小悪魔の悲鳴が延々と続くのだった。
「ひ、ヒドイ目に遭いました」
何度もリセットを繰り返した末、摩耗しきり、精神が焼き切れたかのように眠りに落ちた小悪魔。
そのまま一夜を明かしてしまっていた。
せっかくパチュリーと同じベッドで寝たというのに、その間の記憶がまったく無いという実にもったいない話だった。
「それじゃあ、イシスに跳ぶわよ」
身だしなみを整え朝食を取ったら、キメラの翼を使ってイシスへと跳ぶ。
パチュリーは結局一度も身に着けることなくガーターベルトを売却して、所持金と合わせて1100ゴールドの鉄の盾を買い込んだ。
「鉄の盾、ですか? もっとコストパフォーマンスの良い防具もあると思うんですけど」
不思議そうに首を傾げる小悪魔。
防具の買値を守備力で割って並べてみると分かるが、通常は鎧→盾→兜の順でコストパフォーマンスは悪くなる。
つまり買いそろえるならまずは鎧。
盾がその次。
兜は一番優先順が低くなるという具合になる。
同時に守備力が高くなれば高くなるほど、コストパフォーマンスは悪化する傾向にある。
そして鉄の盾はコストパフォーマンスが悪いと言われる鉄の鎧よりさらに費用対効果が劣悪な防具である。
「そうね、防具の品ぞろえが豊富なアッサラームのお店に行って、もっとコスパの良い防具類を予算内で揃えるという手もあるのだけれど」
例えば鉄のエプロン、青銅の盾、毛皮のフードを買うというもの。
小悪魔は比較のため試しに計算してみるが、
「あ、あれ? コストパフォーマンスが良い防具ばかりなのに、総額は1200ゴールドで鉄の盾の1100ゴールドより高くなります? それでいて守備力は1ポイント低くなるって?」
「その購入パターンだと今、私が使っているターバンと革の鎧の売却金額の下取り価格を差し引かないと」
「ああ、232ゴールドを差し引くんですね」
「あとはキメラの翼を1つ余分に使う25ゴールド分が仕入れのための交通費としてかかるわけだけど」
「すると守備力が1ポイント低い代わりに、107ゴールド安く上がるわけですね。でも……」
「まぁ、両者にそれほど差は生じないということね」
「んん? 鉄の盾は圧倒的にコスパが悪い、しかも高額な商品なのに結果はほぼ変わらない? あれ? 私騙されてます?」
「騙す必要がどこにあるのかしら?」
答えは、
「鉄のエプロン、毛皮のフードは確かに悪くないコストパフォーマンスを持つ装備だけれど、それを言うなら革の鎧、ターバンの方がもっと上よ。つまりそれらを買い替える損失分で、鉄の盾と青銅の盾のコスパ差が相殺されてしまうのよ」
ということ。
「さらに言うなら鉄のエプロンと青銅の盾は魔法の鍵を手に入れたらもっと良いものに交換、買い替えになるわ。毛皮のフードも、あなたが今使っているものを使いまわすことになるだろうし。でも鉄の盾ならバハラタで魔法の盾を買うまで使い続けることができる」
まぁ、
「気分的にも砂漠で鉄製の鎧は着たくないし、毛皮のフードよりはターバンの方が過ごしやすいしね」
ということでもある。
そういうことで、鉄の盾を装備するパチュリー。
「これで一気に守備力が上がったわね」
最終的に二人の装備とパラメーターは、
名前:パチェ
職業:しょうにん
性格:タフガイ
性別:おんな
レベル:9
ちから:26
すばやさ:20
たいりょく:54
かしこさ:13
うんのよさ:9
最大HP:107
最大MP:26
こうげき力:53
しゅび力:50
ぶき:チェーンクロス
よろい:かわのよろい
たて:てつのたて
かぶと:ターバン
そうしょくひん:なし
名前:こあくま
職業:ゆうしゃ
性格:セクシーギャル
性別:おんな
レベル:7
ちから:29
すばやさ:62
たいりょく:20
かしこさ:17
うんのよさ:14
最大HP:39
最大MP:33
こうげき力:53
しゅび力:69
ぶき:やいばのブーメラン
よろい:かわのこしまき
たて:かわのたて
かぶと:けがわのフード
そうしょくひん:ほしふるうでわ
という具合に。
「よ、ようやく攻撃力がパチュリー様と並びましたが……」
「どうしたの?」
「これ、攻撃力も、そもそも守備力が高いことでさえ、パチュリー様から借金して身に着けている装備類のおかげなんですよね?」
「ああ……」
最終的な所持金も、
小悪魔:-1129G
パチュリー:97G(+未払い分1129G=1226G)
ということになっており、確かにそのとおりだったりする。
「……ハリボテ感がとっても強いです」
商人が融資しなくては戦えないハリボテ勇者……
なお、この光景を目にした人々からは、やはり、
「勇者は商人のヒモ、はっきりわかんだね」
などと噂されることになったという。
イシスの夜の続き、および装備変更でした。
次回はピラミッドですので、小悪魔に借金を負わせてでも守備力を上げさせたのですが。
と言いますか、パチュリー様が買った鉄の盾もできるなら小悪魔に装備させたいところなんですけどね。