こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3)   作:勇樹のぞみ

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ピラミッドへ ミイラ緊縛、マミフィケーションへの誘い

 装備を整えたパチュリーたちは砂漠を北上し、ピラミッドを目指す。

 

「見えて来たわね、あれがピラミッド」

 

 というところで、

 

「モンスターです! やたらと派手(サイケデリック)な蝶、いえ、蛾でしょうか?」

「人食い蛾ね」

 

 四匹の人食い蛾と遭遇。

 しかし魔物の群れは驚き戸惑っている!

 

「チャーンス!」

 

 先制攻撃を仕掛ける小悪魔!

 

「刃のォォォオ、ブゥゥゥメラン!!」

 

 ブーメランは敵全体に攻撃できる武器だ!

 回転しながら飛翔するくの字型の刃が敵を切り裂いていく!!

 攻撃力もパチュリーと同等にまで上がっているため、結構なダメージを敵に与える。

 そしてパチュリーのチェーンクロスによる追撃!

 しかし、

 

「パチュリー様の攻撃をかわしました!?」

 

 一匹が攻撃を回避したため、二匹を倒すに留まる。

 

「人面蝶と同じく攻撃を回避することがあるのよ。その上このモンスター、スーパーファミコン版以降のリメイク作だと回避率が地味に上がっているの」

 

 ということ。

 

「ならもう一度!」

 

 小悪魔は星降る腕輪の効果で素早さが倍になっているので先手を取り攻撃することが可能。

 敵に何もさせないまま倒しきり、戦闘を終わらせる。

 

「良かったわ。見た目に反して、さまようよろい以上の攻撃力を持つ上、マヌーサやら毒攻撃やら仲間を呼ぶやらで、いやらしいモンスターだったから」

 

 ほっと息を吐くパチュリー。

 なお、彼女たちは前衛タイプのキャラ二人旅なのであまり影響は無いが、人食い蛾の判断力は0。

 馬鹿なので勇者パーティの隊列が認識できず完全ランダムで攻撃対象を襲うため、平気で後衛に攻撃を飛ばしてくる…… それもさまようよろい以上の攻撃力で、という厄介者でもあったりする。

 

 一方小悪魔は初めて使用した刃のブーメランをまじまじと見て、

 

「投げても戻って来る武器ですか。北欧神話のオーディンの槍、グングニルや雷神トールのハンマー、ミョルニルみたいですね」

 

 神話や伝説における投擲武器において、必中と共に付与されることの多い能力だ。

 

「そうね、そういった魔法の武器なんでしょう。発祥の地のオーストラリアでも戻って来るブーメランは遊戯用で、狩猟に使われるのは真っすぐに飛んで帰って来ないカイリーと呼ばれるタイプだし、そもそも当たればどっち道、戻って来ないものなのだから」

 

 そうしてピラミッドに到着する二人。

 日陰に入り、

 

「ふぅ、明け方とはいえ、砂漠を歩くのはきつかったわね」

 

 と一息つく。

 パチュリーは肩ひもで吊り下げた鉄の盾に視線を走らせて、

 

「鏡面仕上げの金属防具は光を反射するから温度上昇が抑えられるとは言うけれど、布でカバーしておいた方が良かったかしら?」

 

 ドラゴンクエスト10には盾カバーという装備があった。

 これはエンブレムを付けるなど装飾と識別が目的のものだったが、十字軍の頃に多用された鎧の上に着込むサーコートも装飾以外に金属鎧の温度上昇を防ぐ狙いがあったという説がある。

 同様に厳しい砂漠の日光による温度上昇を緩和することができるだろう。

 また、

 

「金属などの固くて他の物と当たって音が出るような装備は、布で覆っておくといいということもあるし」

「音ですか?」

「そう、消音が目的ね。ハンター、または軍隊なんかだと武器にカモフラージュのための布テープを巻く場合があるそうだけれど、これは同時に音を立てないための処置でもあるという話よ」

 

 野外、そして今回挑むピラミッドのようなダンジョンでは、かすかな音でも思いがけないほど遠くまで届いてしまうものだ。

 音の進む速度は常に一定。

 聴覚に優れた相手なら音の大きさと方角でこちらの位置をつかんでしまう。

 だから何かに当たると音を立ててしまいそうなものには消音対策を施しておいた方がいい。

 

 特にピラミッドは強敵が現れる場所。

 少しでもモンスターとの遭遇を避ける努力が必要だった。

 

「私たちの持っている装備は革や布のものがほとんどですから、そんなに気にしなくても大丈夫だと思いますけど」

 

 そう答える小悪魔に、パチュリーは首を振って言う。

 

「布の戦闘服で戦うようになった近代以降の軍隊でも、隠密行動が必要な場合は軍服の袖、裾、股などをヒモで縛って衣擦れの音すら立てないよう気を配るって話もあるくらいよ」

「ヒモですか?」

 

 戸惑う小悪魔にパチュリーは告げる。

 

「旅人の服を仕立て直した時に出た余りの布があるでしょ」

 

 アリアハン国王が渡した旅人の服は男女関係なく大抵の人間が着ることのできるフリーサイズ。

 そこから少女の姿をしたパチュリーの体格に合わせてきっちりとサイズ調整をしたので、余った布は多い。

 

「それを帯状に切って巻いておけばいいわ」

 

 カモフラージュと消音になる。

 小悪魔はパチュリーの指示のもと包帯状に裁断した布を装備に、刃のブーメランのサヤにきつく巻き付けていく。

 木製の打撃武器である普通のブーメランならともかく、刃のブーメランはその名のとおり刃が付いているのでサヤ無しには安全に携行できない。

 それゆえに付属していたものだが、強度はともかく造りが今一つなのか、力をかけるとギシギシ鳴るという不具合があった。

 布をきつく巻き付ければそれが防げるし、石造りの壁など固いものに当たっても音を立てないという利点もある。

 

 しかし小悪魔は不意に瞳を輝かせながら顔を上げると、

 

「聞いて下さい、パチュリー様」

「聞かないわ。どうせ下らないことでしょう」

「何を勘違いなされているのか分かりませんが包帯緊縛、マミフィケーションの話です」

「何も勘違いなんてしていないじゃない!」

 

 マミフィケーションというのはその名のとおりミイラ(マミー)のように全身を包帯その他でぐるぐる巻きに拘束する緊縛プレイの一種。

 一般にはこのピラミッドでも登場するモンスター、ミイラ男のイメージが強いため理解しづらい面があるが、イメージの根源となるエジプトのミイラは手足を身体と一緒にまとめて身動きできない形で包帯に縛られている。

 寝袋の一種にマミー型シュラフがあるが、その名のとおりあのような形をしているものだ。

 つまりマミフィケーションとは包帯により身体を芋虫のように一つに縛り上げられてしまう全身緊縛を意味するのだった。

 性的嗜好に基づいた愉しみ方の一つ、というのはパチュリーも知識としては知っているが、

 

「武器のサヤに布を巻きつけるだけでそういう話に結び付ける、その頭の仕組みが分からないし、そんな特殊なシュミの話をされても……」

 

 という話。

 しかし、

 

「特殊? 本当にそうでしょうか?」

 

 と小悪魔は笑ってみせる。

 その嫣然とした笑みに、パチュリーは思わず息を飲む。

 そんなパチュリーに、小悪魔はささやくように言い募る。

 

「想像してみてください、パチュリー様」

 

 小悪魔はその形の良い指先を……

 そう、これまで種を使って能力値を上げる際のマッサージで散々にパチュリーの身体を弄び、啼かせた己の指を見せつけるかのように作業を続けながら語る。

 器用に、まるで蜘蛛のように動きサヤに布地を巻きつけていくその指に、パチュリーの瞳は我知らず吸い付けられ、

 

「自分がこんな風に、蜘蛛の糸に巻かれるように全身を、手足までまとめて縛り上げられ芋虫のように転がり這いつくばるしかない、完全に無力化させられる拘束感を」

「っ!?」

 

 ぐいと引っ張り、きつく、硬く布を食い込ませ、その下のサヤ本体のカタチを浮き立たせて見せて、

 

「ギチギチに、くっきりと体のラインが出るくらいに締め上げられ緊縛され、身動きもできないままに肺の中の空気を、いいえ、被虐の快楽が入り混じった吐息を、苦鳴を搾りとられるさまを……」

 

 間。

 

「今、即座に否定できませんでしたね?」

「ちっ、ちが……」

「パチュリー様、占いや口説きのテクニックには「あなたはおおらかな人だけど、実は繊細なところもあるよね」というように『正反対のことを言う』というものがあります」

 

 一見、何の関係もないように思えることを語り出す小悪魔。

 

「人間は単純ではないので「おおらかなだけな人」「繊細なだけな人」などは居ず、こんな風に言っておけば必ず当てはまり、相手は自分の隠れた一面をわかってもらえているような気持ちになるのです」

「詐欺の手口ね」

 

 パチュリーは形の良い眉をひそめて吐き捨てるように言うが、しかし小悪魔は意に介さず、

 

「でも、真実を突いているからこその方法だとも言えますよね?」

 

 と笑顔で言ってのける。

 

「お判りでしょう? パチュリー様の理性は否定するでしょうけど、魔法使いであっても生きている、生者である限り心のどこかには生の欲動(エロス)と死の欲動(タナトス)に基づく、性への欲求とか破滅願望などが微量でも無いとは言えないわけで」

 

 見つめあう、両者。

 

「それがパチュリー様の隠れた一面であり、本性であり、そして私はどんなパチュリー様であっても肯定する存在です。だって私はパチュリー様のすべてを愛しているのですから」

 

 だから小悪魔は慈愛に満ちた表情で言う。

 

「ここは本の中の世界で誰も見ていないんですから、本当の自分をさらけ出してもいいんですよ」

「……人をおかしな性癖を隠して偽りの人生を歩んでいるかのように言わないでちょうだい」

 

 心底呆れた、といった表情と声で言葉を返すパチュリーに、

 

「……そうでなくてはいけません」

 

 と、小悪魔は笑う。

 

「例え始めから結末が決まっていようとも。例えパチュリー様が心の奥底で堕とされることを渇望していようとも。最初から悪魔に狂わされ、被虐の快楽を甘んじて受けるようではパチュリー様も私も興が削がれてしまいますものね」

「言ってなさい」

 

 パチュリーはいつもどおり、ため息交じりに言い捨てるが、小悪魔の笑みは消えない。

 

「この先出てくるミイラ男というモンスターですけど、ドラゴンクエストの派生作品『ドラゴンクエスト モンスターバトルロードIIレジェンド』では特殊攻撃に『バンテージホールド』という拘束技が追加されてまして……」

 

 敵一体を包帯で縛り上げ、身動きできなくする技だ。

 

「体験、してみますか? 司書権限でこの世界を改変することも可能ですよ。のちの作品の要素を旧作リメイクで取り入れる。ドラクエシリーズでは珍しいことではありません」

「何ですって?」

「本来のパチュリー様の力なら歯牙にもかけないモンスターの攻撃を、あえてその身で受けてみる、状態異常に捕らわれ、自由を奪われてみるんです。ゾクゾクしませんか?」

 

 戦闘中に状態異常を受けてしまう……

『避けられなかった運命』という大義名分の下に、モンスターからの拘束を受け、がんじがらめに縛られてみる。

 本来のパチュリーならば通用する余地などないくらい、隔絶した実力差のある格下からの攻撃に自ら望んで拘束されてみる。

 

 小悪魔の誘いに身を委ねたら、一体どんな風にされてしまうのだろう?

 

 そんな好奇心も無いではない。

 パチュリーは生まれながらの人外、生粋の魔法使いではあるが、少女の形を取る以上、その思考は外見に引きずられる。

 性的なことに目覚めつつある思春期の少女特有の戸惑い。

 だが、しかし大人ではないからそれに対する処し方が分からない。

 このパチュリーの脳裏に浮かんだ戸惑いも、そんな思春期特有の、一時の気の迷いと言って良いもの。

 程度や方向性は違えど、誰にだって似たような経験はするものだ。

 

 だが…… 普通の少女が弱さゆえ、恐怖から踏みとどまってしまうこの手の迷いを、しかしパチュリーは実行に移したとしても害されない強さを持っていた。

 だからこそ迷う。

 

 わざと拘束を受け、がんじがらめにされ自由を奪われる。

 それはどのような感覚を、感情を自分にもたらすのだろうか?

 

 パチュリーの迷いは尽きない。

 ずぶずぶと、泥沼に沈んでいくように思考の淵に囚われてしまう……

 

「いいじゃないですか、これはゲームなんですから」

 

 小悪魔は言う。

 そう、ゲームなのだからちょっと試してみるだけ。

 パチュリーに小悪魔が主張するようなおかしな願望が無ければ、ちょっと自由を奪われ、拘束されるだけで終わることだ。

 そのはずなのに……

 

 どうして呼吸が浅くなるのだろうか?

 どうして鼓動が早まるのだろうか?

 どうして、どうして……

 

「………」

 

 考え込むパチュリーからは見えない位置で、小悪魔は笑う。

 そう、これはゲーム。

 ドラクエ3の世界を楽しむと同時に……

 小悪魔が謀る、パチュリーを至上の悦楽と被虐の奈落へ堕とすためのゲームでもあるのだ。

 

(パチュリー様には酔って頂かなくてはいけません、このシチュエーションに)

 

 それこそがパチュリーの精神を侵す、最高の媚薬となるのだから……

 

 

 

「でもそういう意味じゃあ、霊夢さんも凄いですよね」

 

 先ほどまでとはうって変わった能天気な口調で小悪魔は言う。

 パチュリーはそれに毒気を抜かれて、

 

「博麗の巫女がどうしたって言うのよ」

 

 と聞く。

 幻想郷の博麗大結界の要となる博麗神社の巫女。

 

「私見ちゃったんです、霊夢さんが女性の性の象徴である胸をぐるぐる巻きにすることで、その拘束、緊縛感を味わっているのを!」

 

 小悪魔によって包帯緊縛、マミフィケーションについて散々語られた後だと妖しく感じるかも知れないが、それは、

 

「……ああ、サラシってやつ」

「しかもあのいやらしい脇の開いた巫女服で周囲にそれをちらちらと見せつけながら日常生活を送るという難易度高すぎな露出羞恥プレイ!」

「………」

 

 酷すぎる、酷すぎる言いがかりだった。

 

「霊夢が聞いたらあなた、ちりも残さず退魔されるわよ」

「大丈夫です! ここは本の中の世界ですから! 霊夢さんが来たらジパングの巫女、ヒミコ役を演じてもらいます!」

「やまたのおろちに変化して襲い掛かってくるわけね」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 ちょっとシャレにならなかった。

 だから小悪魔はこう言う。

 

「じゃあ、おろちが化けているニセモノではなく、第5のすごろく場に出てくるホンモノの方で」

 

 ファミコン版では住民のセリフから死んだものとされていた本当のヒミコだったが、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではしんりゅうの願い事で行けるようになる第五のすごろく場に何気にひょっこり居たりする。

 

「わらわは ヒミコと申す者。

 ここは どこじゃ?

 このような まがまがしき所は…

 おお そうかっ!

 おろちの 腹の中じゃなっ。

 あな くちおしや……。」

 

 などと言って。

 第五のすごろく場への入り口はジパングの井戸の底にあったりするので、すぐに帰ることができるはずなのだが……

 すごろく場は『まがまがしき所』なのか…… いや、ギャンブル場というのは人の情念と欲望が入り混じる場所ではあるのだが。

 

 ただし、

 

「それはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だけのものだから」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は省略されているのだった。




 相変わらず絶好調でパチュリー様にセクハラを働く小悪魔。
 そして唐突に始まる霊夢への熱い風評被害。
 おかげで話が進まない進まない。


>「ここは本の中の世界で誰も見ていないんですから、本当の自分をさらけ出してもいいんですよ」
>「……人をおかしな性癖を隠して偽りの人生を歩んでいるかのように言わないでちょうだい」

『超人機メタルダー』の主題歌『君の青春は輝いているか』が思い浮かぶ私。
(興味のある方は歌詞を検索するなり聞いてみるなりしてください)

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