こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3) 作:勇樹のぞみ
玉座の間でアリアハンの王様に会う小悪魔。
「よくぞ来た! 勇敢なるオルテガの息子…… いや娘じゃったか…… しかし男に勝るとも劣らぬその精悍さ。こあくまはさすがオルテガの子供じゃな」
中略(スキップ)
「しかし一人ではそなたの父、オルテガの不運を再びたどるやも知れぬ。町の酒場で仲間を見つけ、これで仲間たちの装備を整えるがよかろう」
こあくまは50ゴールドと武器防具を受け取り袋に入れた。
「ではまた会おう、勇者こあくまよ」
「分かったかしら?」
強引に記憶を吸い出され、そのショックにビックンビックンと痙攣している小悪魔にパチュリーは問う。
「な、何がですか?」
「分からないならもう一度……」
「やめてください、しんでしまいます」
そう懇願するのでパチュリーは仕方なしに言葉で説明する。
「アリアハンの王様はお金と武器防具を渡す時「これで仲間たちの装備を整えるがよかろう」と言ったでしょう?」
「あっ!?」
それでようやく小悪魔は理解する。
つまり、
「王様から渡されたお金と装備って仲間のためのものであって、私自身には1ゴールドたりとも渡されていないってことですか!?」
そういうことだった。
「魔王を倒す勇者に50ゴールドとあれっぽっちの装備しか渡さないなんてどういうこと、って思っていたのに、それすら勇者自身のためのものじゃなかったなんて……」
乾いた声で笑う小悪魔。
「せめて衛兵さんの持ってる槍とか鎧兜を……」
「ああ、あれは儀礼用の飾りよ」
「はい?」
「パレードアーマーと呼ばれるハリボテ。軽量化のために実用性とか耐久性は考慮されていないものなの。槍も同様ね」
「そ、そんなもので……」
「この国って鎖国中だから問題ないんじゃない?」
江戸時代の甲冑みたいなものだ。
各大名の象徴のようなもので実際に使用されることはなく、実用性より装飾性に重きが置かれていたという。
「そ、それじゃあ勇者がソロで魔王バラモスを倒した場合にくれるバスタードソードとか……」
「このアリアハンは弱いモンスターしか出ない死の危険が少ない場所。ここでの戦闘は練習モード、チュートリアルに相当するわ」
パチュリーは説明する。
「実戦における立ち回りを学ぶためにあるんだから、最初から強力な武具をもらって済ませてしまったら練習にならないでしょう?」
死ぬ危険の少ないここで基本的な立ち回りを覚えないで武器の性能に頼った戦いをしていると、後でそれが通用しない強敵に出会った時点で詰む。
また身の丈に合わない強い武器を持ったせいで、それを自分の実力と勘違いしてしまう。
そのせいで無謀にも強力なモンスターに挑んで、あっけなく死ぬというパターンもありえる。
ネット小説でも、普通の人間が勇者の剣を手に入れて「俺TUEEE (おれつえええ)」しているだけの話にはツッコミが来るだろう。
そういうことだ。
「ちなみにバスタードソードは『激しい怒りが込められた剣』と説明されているけど」
公式ガイドブックの記述だ。
それを聞いて小悪魔はうなずく。
「ああ、やっぱり「あるなら最初から渡せ」っていう勇者の怒りが込められているんですね。それともソロでバラモスを苦労して撃破した末にもらえるこれが、入手後すぐに下の世界で手に入ることに対する怒りでしょうか?」
パチュリーは薄く笑ってこう答える。
「こういう説もあるわ。込められた怒りの正体は「一人旅をするつもりだったのなら軍資金と装備を返せ」と恨む王様のものだった、という……」
「済みませんでした!」
即座に王様から渡された50ゴールドと装備、棍棒二本にひのきの棒、旅人の服を差し出す小悪魔。
「サイズ調整をお願いね」
受け取られずに突き返される旅人の服に小悪魔は、
「使い魔使いが荒いです。ブラック労働反対です!」
そう主張するが、
「……一度これを鉄槌として振り下ろすか、その口にねじ込まないとダメかしら?」
と棍棒を装備するパチュリーに恐怖する。
虚弱体質なパチュリーだったが、身体強化により持っている本で直接相手を殴る、というワイルドで強力な攻撃法も持つ。
小悪魔は、パチュリーが魔法による弾幕を潜り抜けてきた鬼、種族の能力として『鬼の力』、すなわち怪力を誇る相手をこれで壁まで吹っ飛ばすところを目にしたことがある。
つまり打撃攻撃にも(身体能力に何らかのブーストが加われば)十分な適性を持っているのが魔法使いパチュリー・ノーレッジなのだった。
そして今現在、パチュリーの力はゲームシステムの補正で勇者である小悪魔を上回っている……
城の片隅で涙目でちくちくと針を刺す小悪魔。
こうしてサイズを合わせると見た目もそうだが、何より動きやすさが違うのだから仕方が無いとパチュリーは思う。
とあるSF小説の主人公も、
「ちょいとばかり賢くしてやろうか、坊や。軍隊にはサイズはふたつしかないんだ…… 大きすぎるか、小さすぎるかだ」
と言われて針と糸を渡され、チャレンジしていたではないか。
「これでいいわね」
小悪魔によりサイズ調整がなされた旅人の服。
雨風避けや野営の為のクロークを備えた、旅人必携の丈夫な服を着込み、棍棒を手にしたパチュリーはうなずく。
「要らないものは売り払って、武器を買い替えましょうか」
パチュリーは武器屋に向かい棍棒二本とひのきの棒、そして最初に着ていた布の服を売り払うことにする。
結局、棍棒は小悪魔を脅すためにしか使わなかったという……
「パチュリー様の匂いが染みついた服…… それを売るなんてとんでもない!」
「人の着ていた服に顔をうずめないでちょうだい」
パチュリーの着ていた服
これを与えられた小悪魔は本能に従うまま魅惑の匂いに包み込まれ、濃厚なフェロモンを吸ってしまい魅了状態にされてしまう。
さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで堕とされてしまう。
「ちなみに私は素でパチュリー様に魅了されているので、即座に恍惚・朦朧状態にされてしまいます」
「どうしてそこで胸を張ることができるのか本気で分からないし、そもそも人の着ていた服に勝手に変な特殊効果を設定しないでくれる?」
「いえ、犬にとって主人の匂いの付いた衣服がフェロモンを発する魅惑的な存在に思えるように、私たち使い魔には主人の魔力の残り香が付いた服はごちそう……」
「嗅ぐな!」
さすがにそれはパチュリーでも恥ずかしい。
小悪魔から取り上げるとさっさと売ってしまうことにする。
そんなパチュリーに小悪魔は真顔で、
「服についてはパチュリー様の写真…… この世界だと姿絵と一緒に売れば、高値で買い取ってくれそうですが」
「主の尊厳を切り売りするような発想は止めてもらいたいのだけれど」
口ではそう言いつつもゾクリとした戦慄を、そして下腹部に甘い疼きを覚え、戸惑うパチュリー。
自身が絶対的ともいえる強者ゆえに、現実ではかなえられることのない『自らの尊厳を売り渡す』という未知の背徳の悦びが彼女を魅了し、パチュリーの精神と肉体は被虐願望に蝕まれてゆく……
「おかしなナレーションを付けてまでセクハラするのは止めなさい!」
真っ赤な顔をして小悪魔の戯言を否定するパチュリー。
こうして外の世界の『ぶるせら』と呼ばれる商売に着想を得た小悪魔の提案は却下されたのだった。
ぷりぷりと怒るパチュリーの背中を見守る小悪魔。
口の端がきゅっと吊り上がり、その瞳が愉悦にけぶる。
(ふふふ、パチュリー様、えっちな欲求や欲望というのは蓄積していくものなんですよ)
主従契約の抑止力に触れない程度のセクハラでも……
たえず繰り返すことで少しずつ、死に至る毒を流し込むかのようにパチュリーの心と身体を媚毒で満たしていくことは可能なのだ。
最後にはコップいっぱいに張られた水があふれんばかりになるのを表面張力によりかろうじて保っている、そんな具合になる。
そうしてふとした拍子に零れ落ちる……
それを味わう瞬間を、どんな美酒にも勝る甘露な雫の味を夢想して、小悪魔はブルルと身体を震わせる。
(今、想像だけで達しちゃいました……)
そして先ほど小悪魔が語った、
> さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで墜とされてしまう。
状態異常の効果が蓄積して重症化していくという話。
これはセクハラであると同時に、警告でもある。
パチュリーが自らの欲望に負け、堕ちたその時に、
「だからあの時言ったじゃないですかパチュリー様。それなのにどうして『こうなること』を選んじゃったんですか?」
「気付くはずが無い? いいえ、パチュリー様ほどの方が気づかないはずがないじゃないですかー」
「つまりパチュリー様は心の奥底に私にぐつぐつ煮込まれて、とろとろに蕩かされてしまいたいという願望を持っていた。だからこそ無意識に気づかなかったことにしちゃってたんですよ」
と嬲るための、そして事前に警告したにもかかわらずこうなってしまったのは、パチュリーが自ら望んだからなのだと刷り込むためのもの。
(愛していますよ、パチュリー様。ですからどこまでも甘く、優しく、ていねいに堕落の悦びに沈めて差し上げます)
慈愛に満ちた表情でほほ笑む小悪魔。
(だから安心して堕とされてくださいね)
小悪魔が謀る、パチュリーを至上の悦楽と被虐の奈落へ堕とすためのゲームは、始まったばかりなのだ。
一方、パチュリーは気を取り直して……
装備の売却で手に入ったお金と王様からもらった軍資金を合わせた104ゴールド。
それを使って100ゴールドで売られているアリアハンの城下町で一番強力な武器、青銅製の小剣を買うことにする。
どうのつるぎ
主人公が冒険の最初に持っている両刃の剣。
青銅製で、切るよりも叩いて攻撃する。
(『SFC版公式ガイドブック』より引用)
「切るより叩いて、というのがポイントね」
「そうなんですか?」
よくわかっていない様子の小悪魔にパチュリーは説明する。
「剣というのはただ振るだけではダメで、しっかりと刃筋を立てないと斬ることができないものなの。だから、叩いてもダメージが与えられるというのは初心者にとっては使いやすいでしょうね」
「なるほどー」
小悪魔は感心するが、
「あれっ? それじゃあ棍棒やメイスなんかの打撃武器の方が良いのでは?」
「確かに、振って当たればダメージになる打撃武器は扱いやすいけど、それじゃあいつまで経っても剣の扱いを覚えることができないでしょう?」
「ああ、そうですね」
「剣の扱いが練習できて、刃筋を立てることに成功しても失敗しても与えるダメージに大きな違いは出ない。そんな銅の剣は初心者にぴったりなのよ」
そういうことだった。
「そもそも初心者に重く、刃渡りが長く、切れ味が鋭い立派な剣なんて持たせたら、剣に振り回されて自分の足を斬りかねないしね」
剣は重いのだ。
外の世界の時代劇なんかだと刀を軽々と振っているが、真剣はそんな真似などできないほどにずっしりと重く、西洋剣はさらに重い。
そして日本刀は両手を使って操るが、ドラクエの剣は、盾を使うことからも分かるとおり片手で扱わなければならない。
これは容易なことではない。
振り回す力はもちろん要るが、安全のためには止める力が絶対に要る。
そうでないと勢い余って自分の足を斬ってしまうのだ。
そういう意味でも、銅の剣なら割と安全なのだった。
「それにしても……」
と小悪魔は店に並べられた銅の剣を眺めながら言う。
「銅の剣って、青銅剣なんですね」
「まぁ、そうなるでしょうね」
この辺は諸説あるが、パチュリーが読んだ公式攻略本では青銅の剣、という解説が記載されていた。
もっとも同時に英語表記では『Copper sword』とされていたが(青銅はBronze)
「銅は単体では柔らかすぎるから、道具に使うなら合金にするのが普通ね」
コンコン、と剣の平を叩き、品を確認するパチュリー。
「何をしているんですか?」
小悪魔が訊ねると、パチュリーは笑って答えた。
「青銅の剣は型に溶かした金属を流し込んで造られる鋳造品よ。スが入ってたり、細かいヒビが入ってたりしたら大変だから、こうやって確かめるわけ。魔物に遭って、剣で叩いて折れました。ハイこの世からさようならは嫌でしょう」
「確かにそれはシャレになりませんね……」
実際、外の世界の銃剣など軍用の刃物類は柔らかめの刃を持つことが多い。
素人でも研ぎやすいように硬度を落としているというのもあるが、本質的には「硬くて折れるよりは、柔らかくても曲がってしまう方がマシ」という思想からくるものだ。
そうしてパチュリーは一本の青銅製の小剣を選び出し、自分のために購入する。
「しかし、どうして青銅の剣なんでしょうね?」
「アリアハンでは石炭が取れないから、という説があるみたいね」
「石炭? 鉄鉱石じゃなくて?」
「鉄を精錬するには青銅に比べ高温が必要なのよ。でも石炭が無いし鎖国で輸入もできないとなると……」
「炭を使うしか無くなりますね」
昔の日本のたたら製鉄みたいに。
「ええ、そして木を伐採して炭を大量に使うとなると、今度は自然破壊が問題になる」
閉じた世界での自然破壊はかなりまずい。
中世の日本でも製鉄のため、多くの森林が消失し大変なことになったという。
「だからアリアハンでは鉄より少ない燃料で造れる青銅器が一般的になったんでしょうね」
レーベの村で売っているブロンズナイフは公式ガイドブックにて、
ブロンズナイフ
刃を欠けにくく加工してある青銅製のナイフ。
料理などにも使われる軽いナイフだ。
とされている。
つまり青銅器が調理にも使われるほど浸透している、普段使いされているということだろう。
逆にアリアハン大陸で売っている武具で、確実に鉄が使われているらしいのは鎖鎌だけ。
これは農具からの転用品で、しかも刃は小さい。
国内で希少な鉄は食料生産のための農具に優先して使用され、その使用量もできるだけ少なく有効に活用できるよう工夫されているということなのだろう。
王様から渡される50ゴールドと武器防具のお話。
「なぜ王様は勇者に最下級クラスの武具や小銭しか渡さないのか」
とツッコむ方も多いのですが、それに関わる事柄についてのパチュリー様による考察でした。
そして元気いっぱい、セクハラに励む小悪魔。
まぁ、やってることは、
「パチュリー様にえっちなことを意識させ、欲求不満になったところでおこぼれをもらいたい」
ってだけなんですけどね……
みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
今後の展開の参考にさせていただきますので。