こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3)   作:勇樹のぞみ

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スライムスレイヤー

「それで得られたアイテムとお金の分配なのだけれど」

「分配、ですか?」

「ええ、ちょっと試したいことがあるからドラゴンクエスト10のようなオンラインゲームで使われる『報酬の公平配分』をしたいと思うの」

 

 MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)などプレーヤー同士でパーティを組む場合に使われる方法だ。

 戦いの貢献度に比例して、などというのは面倒だし不平不満が出やすいので現実的ではない。

 それゆえ人数で単純に均等割りするのだ。

 しかし、

 

「どうしてそんなことを……」

「もちろん検証のためよ」

「検証?」

「ドラクエ3の商人は「使えない」「あなほりwwwww」「商人とかお前の存在意義がわからんのだけど」「イエローオーブ引換券」などと言われているけど」

「酷すぎる言われようですね」

 

 小悪魔は言う。

 

「とても他人事とは思えません」

「そんなところに共感を覚えなくていいから。しかも真顔で」

 

 話を戻して、

 

「でもそれは本当かしら? 例えば戦士は「金食い虫で装備が無ければ弱いから足を引っ張る」と言われているけど、それって勇者も一緒でしょう?」

「ああ、つまり現実的な『報酬の公平配分』をしてみて勇者と商人を比較検証してみたい、ということですか」

「ええ、二人旅なら単純比較が可能でしょ?」

 

 そういうことだった。

 

「宿代や薬などの消耗品の代金を支払った残りを二人で分けて、買い物はそれぞれの予算の範囲で行うの」

 

 今回は30ゴールドから薬草3つを買って、残り6ゴールドを二人で分け合って3ゴールドずつ。

 

現在の所持金の合計:10G

小悪魔:3G

パチュリー:3G+4G(剣を買った残金)=7G

 

「アイテムについてはどうします?」

「基本は売却して清算するけど、売るのが惜しいものについては、これも公平になるよう分配ね」

 

 ということに。

 

「それじゃあ拾った力の種だけど、あなたに使うわね。これであなたは私に87ゴールドの借金を持っていることになるわ」

「はい?」

「力の種の売却価格は180ゴールド。これは二人に所有権があるものだから、半額の90ゴールドを私に払えば自分のものにできる」

「い、いきなり借金持ちですか!?」

「今のあなたの力だと、この街の周辺に出る大ガラスすら一撃で倒せない可能性があるから仕方ないわね」

 

小悪魔:-87G

パチュリー:7G+3G=10G(+未払い分87G=97G)

 

「それにこういう風に借金の仕組みを作っておかないと「高性能の武具を手に入れて冒険が楽になるはずが、お金が溜まるまで使えない」なんてことになりかねないでしょう?」

 

 それはそのとおりだが。

 

「じゃ、じゃあ残ったラックの種をパチュリー様が使って借金を相殺……」

「ああ、ラックの種って売却価格が40ゴールドだし」

「えっ、そんなに安いんですか?」

「そもそもドラクエ3の運の良さって、因果律に干渉して毒やマヒなどといった状態異常に陥る確率を下げるという効果しかないから」

 

 しか、と言うが、効果はともかく原理は無駄に大掛かりである。

 

「どこかの異能生存体みたいな能力ですね」

「そこはレミィの能力を引き合いに出すところでしょう?」

 

 二人が暮らす紅魔館の主、レミリア・スカーレットは『運命を操る程度の能力』を持つ。

 

「まぁ、つまり状態異常攻撃を行ってくる敵に遭遇する以前の段階だと上げる意味が無いわ」

「ああ、そういう……」

 

 現実でもそうだが、こういう出費は可能な限り後回しにした方がいいのだ。

 特にゲームの場合、開始直後の100ゴールドは大金だが、ちょっと進めばもの凄いインフレで100ゴールドがはした金になるという……

 

 そして小悪魔はふと思い出したように言う。

 

「そう言えば能力値の成長には職業とレベルによって決まるおおよその基準値があって、種によるドーピングによって一時的に上昇させたとしてもその分、次のレベルアップで上昇しなくなってしまう。つまりドーピングは大局的に見てレベルアップによる能力値上昇が見込めなくなった段階でするのが正しいという意見もあるようですが」

「いや、その理屈はおかしい」

 

 即座に否定するパチュリー。

 

「能力の向上に基準値があるのではなくて、実際には職業とレベルに応じた成長上限値と下限値があってレベルアップではその間でしか成長しないというだけよ」

 

 そういうことだった。

 

「レベルアップによる能力上昇は基準値などといった存在しない値に近づくように成長するのではなく、単に職業とレベル、そして性格に応じ修正される上昇率が決まっているだけなの。つまり種によるドーピングで能力値ブーストをしたとしても上限値に引っかからない範囲なら問題ないわ」

 

 つまり、

 

「考えれば分かることだけど、レベルアップの能力上昇が元の能力値とは関係無く決まっているということは、種によるドーピングを行っておけばレベルアップして成長していく値にもずっとその分が上乗せされていくということよ。つまりドーピングを行う時期はその説とは逆、早ければ早いほど得になるわけ」

 

 ということ。

 そして力の種を手にしたパチュリーは、

 

「そういうわけだから食べなさい」

「うぐっ!?」

 

 そのまま小悪魔の口の中に突っ込んだ!

 

「ふふふっ、どうしたの、こあ?」

 

 使い魔を、ごく限られたプライベートな時にしか使わない『こあ』という甘い愛称で呼びながら……

 反射的に吐き出しそうになる小悪魔を押さえ込み、力の種を指ごとねじり込むパチュリー。

 それはもう楽しそうに、満面の笑顔で!

 

 そして小悪魔は逆らえずに力の種を飲み込んでしまい、

 

「……っ!?」

 

 突き抜ける衝撃。

 キャラメイクでパチュリーが体験した、短時間で筋肉の破壊と超回復を行うために生じる筋肉痛を凝縮したような痛みが全身に走り、硬直する小悪魔。

 それに耐えるために思わず歯を噛みしめようとするが、口にはまだパチュリーの指が入れられたままだ。

 そして主従契約の抑止力により、小悪魔はパチュリーを害することができない。

 だからパチュリーの指に伝えられるのはペットが主人にかわいがってもらおうと甘噛みするような、くすぐったい感触だけだった。

 その何とも言えない刺激に、パチュリーは静かにほほ笑む。

 

(し、仕返しですか? 仕返しなんですね! パチュリー様っ!!)

 

 と、主人と使い魔の間につなげられたパスを使った声なき抗議を他所に、パチュリーは痛みから突き出され、ひくひくと震える小悪魔の小さな舌の動きを愉しむ。

 まるで何かを受け入れるかのように口を『O』の形にして開き舌を突き出す小悪魔の表情は何とも官能的だった。

 

「!? ~~っ!! ~~~っ!!!」

 

 小悪魔は身体を突き抜ける痛みと、敏感な口内、舌を弄ばれる快感に身もだえする。

 苦痛と快楽のダブル責めに、あっさりと精神がへし折られてしまう……

 

 生物は激しい痛みを与えられると精神と身体がパニックに陥り、痛みを和らげようと脳内麻薬を分泌させる。

 そしてそこに同時に一滴の心地よさを与えられると、本能的に苦痛から逃れようとそれにすがり付いてしまう。

 今の小悪魔のように、自分に癒しを与えてくれるパチュリーの指先を愛おしげに舌で追うようになってしまう。

 

(うぅ…… パチュリー様ぁ)

 

 乾いた砂漠で与えられた一杯の水のように。

 いや、灼熱地獄で与えられた慈悲の救いのように。

 責め手の、パチュリーの与える快楽が、脳内麻薬でいわば麻薬漬けにされてしまった身体に、精神に染み渡って行く。

 それが癖に…… 依存症になっていくわけである。

 

 一方、激しい痛みと快感を同時に与えられた脳は混乱し、今自分が辛いのか気持ち良いのか分からなくなり……

 ついには痛みを快感に取り違えてしまうようになる。

 これは精神を苦痛から守るための作用で、意志の強さや誇りやプライドなどではどうにもできない。

 

 主人の、パチュリーの与える苦痛に圧倒的な恐怖と、それを上回るほどの興奮を覚えるように脳のシナプスを繋げられてしまう。

 頭の中にそういう回路を焼き付けられてしまうのだ。

 そして、そうされてしまったが最後、もう二度と元には戻れない。

 

 小悪魔はこれらの仕組みを理解していたが、だからこそ型にハメられ、絶対に逃れられない詰んだ状態にされてしまったことに心の底から恐怖する。

 そして逆にパチュリーは自分がやっていることに自覚が無いため、その責めには一切のためらいや遠慮が無い。

 

(堕ちちゃう! 私は最初からパチュリー様の愛の下僕ですけど、もっと下まで、堕ちちゃいけないところまで堕とされちゃうぅ……)

 

 パチュリーのハードな責めに混乱し、壊れていく小悪魔。

 その身体は弓のようにぴんと張られた状態で引き攣り、最後には失神状態へと追い込まれてしまうのだった……

 

 

 

「うう、酷いです、パチュリー様……」

 

 気絶状態から復帰し、さめざめと泣く小悪魔だったが、パチュリーは気にした様子も無く妙にすっきりとした顔でステータスを確認する。

 

「せっかく力の種を使ったっていうのに、最低の1ポイントしか上がっていないのね」

「酷いぃ、酷すぎるぅぅ」

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:1

 

ちから:12

すばやさ:17

たいりょく:8

かしこさ:9

うんのよさ:8

最大HP:15

最大MP:18

こうげき力:24

しゅび力:16

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 ちなみにパチュリーはというと、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:1

 

ちから:12

すばやさ:4

たいりょく:17

かしこさ:8

うんのよさ:4

最大HP:11

最大MP:16

こうげき力:24

しゅび力:10

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 だから、小悪魔は力の種を使っても商人のパチュリーと同等の力、攻撃力しか持っていないことになる。

 勇者なのに……

 

「それじゃあ準備もできたしレーベの村に向かいましょうか」

「ええっ、いきなりですか!?」

 

 驚く小悪魔。

 

「最初はアリアハンの街周辺の弱いモンスター、スライムや大ガラスを相手にレベルを上げるんじゃあ……」

「レーベに行くのにそれ以外のモンスターと戦う必要は無いわよ?」

 

 実はルートを最短コースから1マスずらすだけで、他のモンスターとは出会わないようにできるのだ。

 

「戦う回数も少なければ1回。どんなに多くても3回だけでたどり着けるから」

 

 だからさっさとレーベに向かうべきなのだ。

 

「それなら楽勝ですね。大ガラスにさえ気を付ければスライムは最弱のモンスター。問題にもなりません」

 

 と言う小悪魔だったが……

 

「駆け出しが陥る誤り(ミス)ね」

 

 とパチュリーに否定され、瞳を見開く。

 

 よくある話だという。

 新米の勇者一行が初めての冒険としてスライム退治に赴いたことも。

 それがスライムの大群によって追い詰められ死者を出してしまうことも。

 パーティに僧侶が居るからといって薬草、キメラの翼…… そういった備えを十分にしておらず、消耗の末追い詰められ全滅してしまうことも。

 何もかもがこのドラクエ3の世界では日常茶飯事な良くある話なのだ…… と。

 

「どうしてそんな……」

 

 息を飲む小悪魔にパチュリーは語り出す。

 

「簡単な話よ。

 ある日突然、自分たちの住処が怪物に襲われたと考えてみなさい。

 やつらは我が物顔でのし歩き、自分を傷付け、同族を殺し、略奪して廻る。

 

 他にも例えば自分の同族が襲われ、嬲りものにされ玩具にされ殺されたとする。

 連中はげたげたと笑って、好き勝手し放題してその死体を放り捨てたとする。

 そんな光景を後に、自分はただ逃げ出すしかなかったとする。

 

 許せるわけがない。

 

 逃亡した先で群れをつくり、とにかく報復しようと行動に移す。

 

 探して、追い詰め、戦い、襲い掛かり、殺して、殺して、殺して、殺していく。

 

 もちろん上手くやれるときもあれば、失敗するときもあるでしょう。

 ならば増殖した次のスライムがそれに代わって人を襲う。

 何回、何十回と戦い続ける。

 機会さえあれば、そこを片っ端から突いて殺していく。

 そうしているうちに――…

 

 脅威になっていくわけね。

 

 間抜けな『お優しい』者たちが「ぷるぷる。ぼく わるいスライムじゃないよ」と命乞いをするスライムを目にし、見逃してやろうなどとしたり顔でのたまう。

 街の子供たちは「あ、スライムだー。ぷにぷに~」などと言い、脅威とすら認識しない。

 

 でもそのスライムは群れから弾き出されて逃げてきた手合いでしかない。

 そんな半端なスライムを相手に自信を付けた者が勇者に、そして勇者の仲間になる。

 

 一方、生き延びたスライムは増殖し、どんどんと増え、群れを成していく。

 

 ……まぁ、事の起こりはそんなところ。

 

 分からない?

 勇者がモンスターを殺すために仲間を募るのと同じで、スライムもまた勇者を殺すために群れるのよ」

 

 そしてスライムの強みはこの群れを成す、ということ。

 

「数の暴力、それがスライムの強みよ。大ガラスの最大出現数は4羽であるのに対してスライムは倍の8匹。それに対して勇者一行とはいえ駆け出しの1レベルだと後衛職ならヒットポイントが一桁というのもざらよ。油断するとなぶり殺しにされるわ」

 

 しかもレベル1のキャラでスライムを一撃で確実に倒せるのは銅の剣を装備した勇者、戦士、あとは魔法使いのメラの呪文ぐらいしかない。

 一方でスライムから受けるダメージは十分に素早い者が旅人の服を着ている場合を除けば2ポイント以上。

 そして大抵は旅人の服は素早さが低く守備力の低い者に回されるため、ほぼ全員が一撃で2ポイント以上のダメージを受けることになる。

 

「まぁ、これはファミコン版の場合の話で、それ以降はスライムの出現数は6匹以下に制限されたけど……」

 

 しかしスライムの脅威は減らないのだ。

 

「スライムは知能が低くても間抜けじゃないわ」

「それは?」

「スライムはこちらのレベルが高い場合は逃げることもあるけど、レベルが低い場合は決して逃げ出すことはない。それはスライムが敵の強さを認識し判断しているからよ」

 

 勇敢さも群れへの帰属意識も無く、敵が強いようであればあっさりと仲間を捨て逃亡するくせに、弱いようであればいつもの逃走癖を忘れたかのように嵩にかかって責め立ててくる。

 それがスライムだ。

 

 ゲームシステム的には20パーセントの確率で逃げ出すようになっているものを、相手が一定レベル以下の場合はキャンセルするようになっている。

 だから弱い相手には逃げ出さないのだ。

 つまり成長した後に遭遇するなら何もせずともターン毎に二割が攻撃もせず自動的に減るはずのスライムが、駆け出しの勇者パーティ相手だと絶対に逃げ出さず100パーセント攻撃してくるということでもある。

 

「この行動を左右する能力値を判断力というわ。スライムはこれが1。相手を見て行動を変える頭があるわけ」

 

 これが0の場合、こちらの強さが認識できないからレベルと関係なく逃げ出す。

 

「そして判断力0のモンスターはパーティの隊列というものが認識できないから隊列を無視して攻撃をするのだけれど……」

 

 ファミコン版ドラクエ3の公式ガイドブックではフロッガーとポイズントードに関して後列攻撃をしてきやすいとの記述があるが、このからくりは判断力にある。

 判断力が1以上のモンスターは隊列を認識して前列を優先的に狙うが、判断力が0のモンスターは隊列を認識できないため標的が完全にランダム。

 それゆえに判断力が1以上のモンスターと比較して、後列を攻撃する可能性が高くなるというわけである。

 

「スライムの判断力は1だから、その攻撃は先頭から順に43.75%(28/64)、37.5%(24/64)、17.19%(11/64)、1.56%(1/64)となるわ…… ファミコン版なら」

「ファミコン版なら?」

「スーパーファミコン版以降のリメイク作品では、先頭から順に約40%、30%、20%、10%となっているの。つまりヒットポイントが少なく後列に下げているメンバーに攻撃が向かう可能性が高くなっているわけ」

 

 だからスライムの最大出現数が8匹から6匹に減っても決して油断ができないのだった。

 

「スライムは絶えない。数ばかり多く、その力はモンスターの中でも最弱」

 

 パチュリーは語る。

 

「そして駆け出しの勇者パーティでも運が良ければ何とかなってしまう。……運悪く死者が出たとしても成長しレベルさえ上がってしまえば脅威ではなくなってしまう。だからその危険性は決して認識されない」

 

 そういうことだった。




 パチュリー様の無自覚なセクハラ返しで躾けられてしまう小悪魔。
 そしてスライムスレイヤーなパチュリー様の語りでした。
『ゴブリンスレイヤー』を読んでドラクエでスライムスレイヤーに置き換えてみる、というのは結構考える人が居ると思いますが。
 実際、ドラクエ3のスライムの特性と駆け出しの勇者パーティとの力関係について詳しいところを調べてみるとぴたりと当てはまるんですよね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
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