こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3)   作:勇樹のぞみ

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初戦闘(ようやく)

「隊列は、現状ではヒットポイントが多くて守備力も高い小悪魔、あなたが先で」

「ま、まぁ私、今は勇者ですから?」

 

 小悪魔をポイントマンに、パチュリーをバックアップマンにというツーマンセルでアリアハンを出発。

 戦闘においての最小単位とされるツーマンセルは人数が少ない分、どちらかというと上級者向け扱いされがちだが、スリーマンセル、フォーマンセルより単純で、また動きを把握し、気を配らなければならない味方の数が少ないということから習熟しなくても割と機能するという長所を持つ。

 ドラクエ世界での戦闘、しかも肉弾戦をメインにしたものに不慣れな小悪魔とパチュリーにはちょうど良かった。

 

 二人は慎重に索敵しつつ橋を越え、レーベの村へと向かう。

 

「北上する時に、最短コースから一マス分だけ西にずらすの。それでスライム、大ガラスたち以外との戦闘は避けることができるわ」

 

 モンスターの出現パターンはレーベの村の位置を境に東西で『アリアハン西地方』と『アリアハン北地方』に別れ、『アリアハン西地方』では昼の間はスライムと大ガラスしか現れない。

 だからこそ有効な手段だった。

 

 そして二人は森に差し掛かったところで、

 

「ピキー!」

 

 スライムの群れ、それも出現数の上限である6体に襲われる。

 小刻みに跳ねながら突っ込んできたスライムは、そのままパチュリーの腹部に体当たりする!

 

「かはっ……」

 

 肺から空気を搾り取られるパチュリー。

 2ポイントのダメージ。

 パチュリーのヒットポイントは11だから、6匹すべてから攻撃を受けたら死んでしまうわけだ。

 たかがスライム、たかが2ポイントとは決して言えない重いダメージだ。

 スライムの身体は弾力を持つが、これはボクサーの拳がグローブを付けた時と同じように衝撃が逃げずに浸透してしまうということでもある。

 

「パチュリー様!」

 

 慌てて小悪魔は青銅の剣でパチュリーを襲ったスライムを斬り倒す。

 勇者の力なら一撃だ。

 しかし、

 

(行動を終えたモンスターを倒されても……)

 

 パチュリーは顔をしかめる。

 できるならまだ攻撃をしていないスライムを倒して欲しかった。

 そうでないとこのターンで攻撃してくるスライムの数は減らないのだ。

 

 そして剣を振り下ろして隙ができた小悪魔に、次のスライムが体当たりする。

 

「くっ!?」

 

 小悪魔は攻撃を食らったものの、素早い動きでダメージを軽減することに成功する。

 ドラクエ3では素早さの半分が守備力に加算される。

 その恩恵であり、受けたダメージは1ポイントのみ。

 

 そしてパチュリーもまた剣を振るい一撃でスライムを斬り倒すが、そこに残ったスライムたちが殺到した!

 イノシシのように突進し、体当たりを仕掛けてくる。

 猪突猛進と言う言葉もあるが実際にはイノシシは、いや野生動物は突進を開始してからも、相手の動きに合わせ機敏に方向転換をするものだ。

 そしてイノシシがインパクトの瞬間、牙でかち上げるようにして攻撃するのと同様、足元まで迫ったスライムがパチュリーの体幹、みぞおちを狙って跳ね上がる!

 

「こふっ!?」

 

 一匹目が最初に受けたダメージが回復しきっていない腹をさらに痛めつけ。

 

「ぐっ!」

 

 続けざまに突っ込んできた二匹目が腹筋を完全破壊する。

 

「くはぁっ!!」

 

 そして防御力を失った柔らかな下腹に、止めを刺すかのように三匹目の体当たりが突き刺さる!!

 

「う、かはっ……」

 

 三体のスライムから続けざまに一方的に体当たりを受け、パチュリーはヒットポイントを危険なまでに削られてしまう。

 

「パチュリー様っ!? 今回復を!」

 

 小悪魔は慌てて買っておいた薬草を取り出すが……

 今のパチュリーにそのまま与えてもうまく呑み込めないと見て、それを自分の口に入れると噛み締め、主人の唇へ自分の唇を重ね合わせる。

 

「う……」

 

 パチュリーの喉が『こくん』と上下し、口移しに与えられた小悪魔の唾液交じりの薬草の汁が飲み込まれた。

 苦いはずなのにどこか甘く感じられる薬草の力により、パチュリーの体力が回復する!

 

「ふぅ、ありがとう、こあ」

 

 力を取り戻したパチュリーは再び剣を振るい、スライムを斬り払う。

 これで、

 

「三つ」

 

 三体倒し、あと半分だ。

 そして……

 

 

 

「ぷるぷる。ぼく わるいスライムじゃないよ」

 

 命乞いをする最後の一匹を前にして、戸惑う小悪魔。

 

「こ、降伏したスライムも…… 殺すんですか?」

 

 小悪魔がパチュリーに問う。

 怯えたようにぷるぷると震えるスライムに、罪悪感を覚えたようだ。

 パチュリーはあっさりと答える。

 

「当たり前よ」

「ぜ、善良なスライムが居たとしても……?」

「善良なスライム、探せばいるかもしれない。けど……」

「ピキー!」

 

 隙を突いてスライムが飛び掛かってくる!

 先ほどの命乞いは油断を誘うための演技だったのだ!

 

「きゃっ!」

 

 小悪魔を襲ったスライムは……

 

「この世界では、人前に出てこないスライムだけが良いスライムよ」

 

 パチュリーの剣に斬り捨てられる。

 

「生かしておく理由なんて一つもない」

 

 スライムが動かなくなったことを確認。

 

「これで六つ」

 

 戦闘は終了。

 パチュリーはほっと息をつくと、

 

「戦闘中に回復を受ける羽目になるなんて、ね」

 

 とつぶやく。

 小悪魔も、それには同意する。

 

「本当にスライムは油断できませんね。パチュリー様が言われたとおりでした」

「それでもレベルは上がってくれたから、今後は楽になるわ」

 

 パチュリーはもっとも成長の早い商人なので、この1回の戦闘だけでレベルが上がっていた。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:2

 

ちから:13

すばやさ:6

たいりょく:22

かしこさ:8

うんのよさ:4

最大HP:44

最大MP:16

こうげき力:25

しゅび力:11

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 最大ヒットポイントが大幅に上昇。

 もう一度薬草を使うことでそれをフルに満たせば、この辺ではまず死ぬことはない。

 しかし、

 

「使うと痛みも疲れも忘れ元気になるハッパねぇ……」

 

 しげしげと薬草を見るパチュリーに、小悪魔は、

 

「そういう言い方をされると、もの凄くいかがわしいんですけど」

 

 と乾いた笑いを漏らす。

 ハッパやクサ、グラスなどといった言い方は、麻薬、大麻を示す隠語だったりするのだ。

 

「実はそういう説もあるらしいわ。ドラクエでは宿で一晩休めばヒットポイントは完全に回復するわよね」

「そうですね」

 

 不思議と言えば不思議だ。

 

「だからヒットポイントというのはスタミナのことで、ヒットポイントが減るのは傷を受けるわけではなく単に戦闘でスタミナが削られていくことだというもの。だから宿で一晩休むだけでフル回復する」

「なるほど」

 

 そう考えれば説明がつくのか。

 

「それで薬草なんだけど、作中のグラフィックや公式ガイドブックのイラストでは葉の上に赤や黄色の薬の粒か小さな果実のようなものが盛られた絵になっていて、つまり葉巻のように葉で巻いて火をつけて吸うという使い方が」

「んんん?」

 

 話が怪しくなってきた。

 

「つまり吸うと、痛みも疲れも感じなくなり元気になれるハッパ……」

「アウトですーっ!!」

「ただの栄養剤よ。みんなやってるわ」

「それ、麻薬を使わせるときの常套句!」

「1回だけなら平気」

「ダメ。ゼッタイ」

「……悪魔なのに変に良識的ね」

 

 不思議そうに言うパチュリー。

 中世の魔女が麻薬成分を持った植物を原料とした薬でトリップしていたと言われるように。

 魔法と薬物は割と密接につながっているもの。

 また悪魔とは概念的には悪徳の塊であり、人を堕落へと誘惑する者なのだが……

 しかし小悪魔は、

 

「悪魔だからです!」

 

 と言い放つ。

 

「好きな人には自分が与える快楽に、自分に溺れて欲しいじゃないですか! それがクスリなんて安易なものに侵され溺れられるなんて、寝取られじゃないですか! やだー!」

「……ほんっっっっとうに、ブレないわね、あなたって子は」

 

 呆れ果てるパチュリー。

 紅魔館大図書館へ不定期に本を盗みにやって来る窃盗常習犯の黒白、つまり霧雨魔理沙あたりなら、

 

「歪みねぇな」

 

 とでも評しただろうか。

 

 

 

 なお、薬草の使い方については食べる、煎じて飲む、傷口に当てるなどと諸説あるが『ドラゴンクエスト アイテム物語』では、

 

・どこででも栽培できる植物の葉を特殊な薬品に浸して乾燥させた後、ホイミの魔法が使える人間が呪文をかけて作る。

・葉の繊維の中に沁み込んだ薬品にホイミの呪文が反応して使ったときに体力が回復する。

 

 とされていた。

 要するに1回限りの使い切り、使い捨てのマジックアイテムであり、込められたホイミの効果を引き出して使うというもの。

 実際の魔法ではこういった呪物(フェティッシュ)や秘薬等、触媒を消費して行使されるものが多く、ある意味リアルであるとも言える。

 そういった代償無しに自在に魔法を行使できるのは、それこそパチュリーのような力の持ち主ぐらいのものなのだから。

 

 そしてつまり……

 小悪魔がパチュリーに対して行ったように経口で摂取させる必要は、必ずしも無かったりする。

 実際、その後のシリーズでは他のアイテムを使った時と同様のモーションで使用され、食べたりはされていないし。

 しかし、

 

(まぁ、面白いから黙っておこうかしら)

 

 真剣な表情で自分を心配し、口移しで薬草を与えてくれた小悪魔。

 その柔らかな唇の感触を思い出しながら、パチュリーは、

 

「それじゃあ、小悪魔。回復をお願い」

 

 と頼む。

 

「えっ、ああ……」

 

 手持ちの薬草はパチュリーに渡された非常用の一つを除いて、素早さが高く敵に先んじて治療を行える小悪魔が持っている。

 だから小悪魔の持つストック分から使うのかとパチュリーに差し出すが、彼女は無言で首を振り……

 悪戯っぽい、小悪魔の理性を根こそぎさらっていくような蠱惑的な仕草で自分の唇を指先でトントン、と触れる。

 つまり……

 

「苦いのは嫌いだから」

 

 喘息持ちのパチュリーは酷く苦い薬湯が欠かせず、いつも渋い顔をしながら飲んでいた。

 

「甘く…… してくれるんでしょう?」

 

 小首をかしげ、小悪魔の脳と理性をとろけさせるようなことを言うパチュリー。

 

(あああ、卑怯です! 卑怯すぎですパチュリー様!!)

 

 小悪魔の理性は一瞬で蒸発させられ、

 

「よ、喜んで!」

 

 顔を真っ赤にのぼせ上らせながらうなずく。

 そして、小悪魔はクスクスとおかしそうに笑うパチュリーの瑞々しい唇を、己の唇で塞ぐのだった。

 

 

 

 なお…… 実際、小悪魔の体液は、唾液も、汗も、涙も、血液もすべてがクラクラするほどに甘い。

 何故なら種族特有の媚毒、相手を性的に魅惑し、堕落させるための催淫成分が含まれているからだ。

 

 ただし『生粋の魔法使い』であるパチュリーは生まれつきそういったものに高い耐性を持っている上、喘息を抑える強い薬湯の常飲、魔法薬の作成、試飲を行っているため薬物には強い耐性ができている。

 薬は刺激に弱い者ほど効くし、慣れている者には効きにくい。

 コーヒー中毒の者が、カフェインに耐性を持っているように。

 だからこそ、パチュリーには小悪魔の催淫成分が含まれた体液も、ちょっと刺激的なエッセンスで済んでいる……

 完全に効かないわけでも無いのだが、だからこそ、それがかえって良いスパイスになっている。

 

 そういうことだった。

 

 

 

「それはそれとして……」

 

 ヒットポイントをフルに満たし終わったパチュリーは、スライムの残骸が散らばる周囲を見渡して言う。

 

「お金、つまりゴールドが手に入らないんだけど」

 

 ドラゴンクエスト3では戦闘終了後、自動的にゴールドが手に入った。

 

 書籍『ドラゴンクエスト アイテム物語』では、ゴールドは魔族の通貨であるとされ、これが全世界で普遍的に通用している理由だと説明されていた。

 だからモンスターたちも、ゴールドを持っているのだと。

 

 アニメ『ドラゴンクエスト~勇者アベル伝説~』ではモンスターは宝石から作られており、倒すと元の宝石に戻るということになっていた。

 その関係かゲーム本編でも『ドラゴンクエスト8』以降はモンスターはそんな消え方をするようになった。

 

 それでこの世界。

 読者に物語を仮想体験させる魔導書に、小悪魔の司書権限による改編で用意されたドラクエ3世界ではどうなっているのかというと……

 

「あっ!」

 

 と小悪魔が声を上げたように、何らかの問題が発生しているらしい。

 

「えーと、怒らないで聞いて下さいね、パチュリー様」

「それはもちろん、聞いた話の内容によるわね」

「その……」

 

 冷や汗をかく小悪魔。

 

「そもそもドラクエシリーズは全年齢対象なので残酷な表現などは一切入ってません。モンスターを倒すと死体を残さず消え、ゴールドが手に入るというのもそういう大人の事情があるからで……」

「残酷描写の規制ってやつね」

「ええ、でもそれじゃあ大人の女性なパチュリー様には物足りないですよね? だから倫理コードを解除したんですけど、これをすると同時にゴールド・ドロップが無効になって、代わりに収入はリアルな剥ぎ取り、つまりモンスターを解体して得られる素材や所持品をゴールドに換金しなくちゃならないっていう……」

 

 ハンティングアクション、いわゆる狩りゲーの『モンスターハンター』みたいな感じである。

 

「はぁ……」

 

 呆れるパチュリー。

 実は小悪魔が倫理コードを解除したのは残酷描写の解除のためではなく、エッチ関係の制限を解除するためだったのは彼女だけの秘密だ。

 

「パチュリー様にセクハラするために倫理コードを解除したら、同時に残酷描写の制限も解除されてモンスターの解体をしなくちゃならない羽目になりました」

 

 とはさすがに言えない。

 

「で、スライムからは何が取れるの?」

「スライムだと身体に取り込んだ金属類や水晶などの半貴石ですね」

「なるほど」

 

 そして二人は青銅の剣の切っ先を使って半透明なスライムの身体を切り裂き、中に見えていたそれを取り出していく。

 パチュリーは小悪魔が価値が無いと見て捨てた小石をふと見て、

 

「これ、メノウじゃない」

 

 と拾い直す。

 その小石には縞のような模様が入っており、

 

「磨くと宝石としての価値が出るものよ」

 

 というものだ。

 まぁ、磨くのが大変なので原石にはそれほどの価値は無いが。

 

「それが見分けられるのはパチュリー様の職業、商人くらいじゃないですか?」

 

 そう小悪魔に言われ……

 

「ああ、商人の能力として戦闘終了後に通常のゴールドに加えて、1/4の確率で約1/8のゴールドを追加で見つけることがあるのって、このため?」

 

 なお期待値は3%程度の収入増となる。

 

「パチュリー様、例の公平配分ですけど、商人のお金を拾う能力は……」

「戦闘しないと得られないものだし、別計算するのは面倒だから、共通の収入でいいでしょ」

「いいんですか?」

「そうね…… その代わりというわけじゃないけどこの先覚える『あなほり』で得られるお金やアイテムの方は私個人の収入にするってことで」

「それは当然ですよ。私、『あなほり』なんて手伝えませんから」

 

 そういうことになった。




 ようやく初戦闘。
 剥ぎ取り、解体もあるよ、小悪魔のせいで、という。

 薬草の使い方については諸説ありまして。
 しかし飲むとか食べるとか、自分に使う場合はいいけど、仲間に使う場合どうするの、という問題が。
 幸い、このお話だと女の子同士ですからいいんですけどね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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