こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3) 作:勇樹のぞみ
顔を洗い、身支度を整えたパチュリーたちは宿のおかみさんが出してくれた朝食を取る。
スライスされた茶色のライ麦パンに、キイチゴのジャムを塗って食べるわけだが、
「普通の白パンがスカスカに思えるほど、ずっしりと重いパンですね。これこそ主食、一日の活力源といった感じですね、パチュリー様」
「ええ、かすかにスパイスが効かせてあるのがまた独特ね」
と、二人には好評だった。
そして裂いた鳥肉と、朝採りの新鮮野菜で作られたサラダ。
「うーん、このシャキシャキした歯ごたえ、瑞々しい風味。採れたての野菜って、こんなに美味しいんですね」
「それにこの鳥肉、香味豊かで深い味わいはスモーク仕立てね?」
パチュリーが気づいたとおり、昨日、大ガラスの肉を煙で燻し薫製にして日持ちするようにしていたものだ。
「この香り、オニグルミのチップで燻しているのかしら? 一晩置いたおかげで味が落ち着いて食べごろになってるわね」
「ううー、昨日の夕食もそうでしたが、こんなの食べちゃったらモンスターが襲ってきても、お肉が向こうからやって来るようにしか見れなくなっちゃいますよー」
と、小悪魔は落ちそうになるほっぺたを押さえながら嬉しい悲鳴を上げる。
そしてホワイトシチューだが、
「ホワイトソースで品を変えていますけど、昨日の骨団子のスープのリメイク品ですか?」
「でも昨日より野菜が更に溶け込んでいて、旨味が増しているわ」
「ああ、凝縮された野菜のエッセンスが身体に染み渡って行くようですね」
ということで、満足のいく仕上がりとなっていた。
食後の香草茶(ハーブティー)で口の中をすっきりとリセットし、おかみさんに礼を言って宿を出る。
村の中を捜索するが、前にパチュリーが話したとおり各家屋に棲み付いている
「本当に気付かれないんですね」
「
「あの人、壁に向かって足踏みしてますけど」
「
「ええ……」
小悪魔が家人に話しかけると、一瞬戸惑ったようだがスルーして普通に答えてくれる。
「盗賊のカギは手に入れましたか?」
「はい?」
「……そう、それは良かったですね」
もう一度、今度はパチュリーが話しかけると、
「盗賊のカギは手に入れましたか?」
再び繰り返される問い。
「いいえ」
「この村の南の森にも、ナジミの塔に通じる洞窟があるとか。噂では、その塔に住む老人が、その鍵を持っているらしいですよ」
反復される、しかし回答の違う会話。
それを聞いて小悪魔も、
「ああ、つまり混乱して夢うつつの状態だから何度話しかけても繰り返し同じことしか言わない。前の受け答えも覚えていない、ということでもあるんですね」
そう納得するが、
「ふぎゅっ!?」
歩いてきた住人にぶつかられ、驚く。
「ぶつかったのに気づいていない? これも
涙目の小悪魔にパチュリーは答える。
「これは
幻想郷で言うなら古明地こいしの『無意識を操る程度の能力』が近いか。
彼女は相手の無意識を操ることで、他人にまったく認識されずに行動することができる。
たとえこいしが目の前に立っていたとしても、その存在を認識することはできないという。
「凄い便利な力ですね」
感心する小悪魔だったが、パチュリーはゆるゆると首を振る。
「逆よ。これは妖精のいたずら、対象をからかうためのものだから」
「はい?」
「他者に気付かれないことでドアや門を閉められて挟まれる、突き飛ばされる、踏まれる、閉じ込められるなどの危険が降りかかってくるわ。さっき、ぶつかられたあなたのように」
「ああ!」
「それらを回避するには能力、もしくは運が必要となるわ」
一方的に便利なものではないということだ。
「そしてこの
「ないないの神様?」
探してるものがどうしても見つからない時は、あせらずに、
「ないないの神様、ないないの神様」
――と何回か唱えると、
”ないないの神様”が現れてそっと返しておいてくれるんだって、
今までさんざん探した場所に。
「ヤな存在ですね。神のくせに」
「精霊や妖精は幸運の運び手であると同時に不幸の撒き手でもあるということよ」
生粋の魔法使いであり精霊魔法の使い手であるパチュリーには、彼らの気まぐれのような力を御すのはたやすいことではあるが。
「妖精は自然現象その物であり、魔法では妖精を操る事もしばしばある。つまり奴隷」
湖上の氷精、チルノとの勝負に勝利した時にパチュリーが残した言葉だ。
つまりはそういうこと。
「そして
パチュリーは本棚から一冊の本を取り出した。
「つまりはこんな風に」
「あ、あれ? さっきまでこんな本無かったですよね?」
小悪魔が職業病で本棚を目にした瞬間にタイトルをチェックした中には見当たらなかった、はず。
「ないないの神様というのは
世界各地に形を変え、伝わっている話だった。
そしてパチュリーが見つけた、この家に棲み付いている
「『力の秘密』という本ね。「カラダを鍛えよ! キンニクを磨け! パワーこそすべてだっ……?」 読むと性格を『力自慢』に変える使い切りのマジックアイテムだけど、使ってみる?」
「怖っ! 洗脳じゃないですか、それ!」
「大丈夫、呪いはかかっていないわ」
「ぜんぜん大丈夫じゃありません! 呪いじゃないってことは、教会でも解呪できないってことじゃないですか!」
「教会に頼る悪魔……」
パチュリーは呆れながらも本を手に、怯える小悪魔に迫る。
「『セクシーギャル』なんて性格にしているから、いやらしいことばかり考えてしまうのよ。さぁ、この本で新しいあなたに生まれ変わらせてあげる」
「いやぁあ! やめてくださいー、人の心はそんなに単純じゃありません!」
「……悪魔でしょう、あなたは」
パチュリーも本気ではなかったのか、やれやれとばかりに首を振りながらも引き下がる。
「お店に持っていけば52ゴールドで売れるわね」
という具合に。
しかし探索を続けると……
「よいしょ、よいしょ。だめだ…… 重くて押してもビクともしないや」
野原で大きな岩を押そうとしている村人が居たため、
「小悪魔?」
「力仕事は苦手なんですが……」
手伝ってやる。
小悪魔が。
「やや、すごい! そのチカラがいつかきっと役に立ちましょう!」
そう話す村人をよそに、パチュリーは石の下に隠されていた小さなメダルを拾う。
「これが欲しかったのよ」
「うう、使い魔使いが荒過ぎですよー」
恨めしそうに言う小悪魔に、パチュリーは力の秘密を手に再び迫る。
「ならやっぱりこれを使う? そうすればあなたも身体を使う悦びに目覚めるでしょう?」
「それが必要なのは引きこもりなパチュリー様ですよ!」
「私はもうタフガイだし」
「そうでしたー!?」
迫るパチュリーに怯えすくみ、命乞いをする小悪魔だった……
二人は道具屋に向かうとスライムから得られた金属や半貴石、そして力の秘密を売却して換金。
「良かったです……」
小悪魔に束の間の平和がきた。
だが、この世界に性格を変える本があるかぎり油断はできないのだ。
そして消費した薬草の補充と、帰還アイテムであるキメラの翼を購入する。
「次はナジミの塔だけど」
「ええっ、大丈夫なんですか? いやらしい毒を身体に注ぎ込み泡の海に沈めようとするスライムに、妖しい夢幻の世界に引きずり込み離そうとしない蝶、そして男女の別なく『
「どうして一々いかがわしい言い回しをするの」
呆れるパチュリー。
小悪魔が言っているのはバブルスライムに人面蝶、フロッガーだ。
バブルスライムは毒攻撃をするし、人面蝶は幻を見せて攻撃を外させる魔法『マヌーサ』を使う。
マヌーサは戦闘中に解除する方法が無いので「妖しい夢幻の世界に引きずり込み離そうとしない」というのは間違いではないが……
フロッガーは前にもパチュリーが話したとおり、ファミコン版ドラクエ3の公式ガイドブックで後列攻撃をしてきやすいとの記述があったもの。
判断力が1以上のモンスターは隊列を認識して前列を優先的に狙うが、判断力が0のモンスターは隊列を認識できないため標的が完全にランダム。
それゆえに判断力が1以上のモンスターと比較して、後列を攻撃する可能性が高くなるというものだった。
「だから「男女の別なく『
「いやらしい意味って、どういうことですか?」
身を乗り出して食いついて来る小悪魔。
「は?」
「どんな想像をされたのか、私にも教えてください!」
「近い近い、顔が近い!」
真っ赤になってのけ反り、小悪魔から離れようとするパチュリー。
「っていうか、意味が分かっていて言ってるでしょう!」
「
「こっ、この使い魔は……」
「あれはいつのことだったでしょう。本棚を前に上側の書籍を見ようと後ずさりをして、何もないところでつまずき転びそうになったパチュリー様は、失敗を見られた羞恥に頬を桜色に染め、私にこう仰ったのです」
「私、バックに弱いから」
「――っ!」
「あのころのパチュリー様は純真でした。きょとんとしているパチュリー様に、自分が口にした言葉の意味を教えて差し上げる悦びを何と表現したら良いでしょう。孤高の、高い知性を持った、でも無垢な少女の心をいやらしい知識で染めていく快楽。初めて知る性の知識に凄まじい羞恥心を感じながら訳も分からず混乱するパチュリー様の放つ、恥辱にまみれた負の感情、そしてその内に見え隠れする性に目覚めたばかりの少年のような好奇心…… 大変おいしゅうございました」
これでも小悪魔は悪魔の端くれ、他者から漏れ出る欲望や負の感情を糧とすることが、味わうことができるのだ。
「というわけで、その意味を教えたのは私ですし、だからパチュリー様も分かっていますよね」
無駄にいい笑顔を浮かべる小悪魔。
そしてパチュリーは……
「殺ス……」
とても冷たい目で小悪魔を見ていた。
「えーと、パチュリー様?」
「そんなことを他人に言いふらされたら、公開処刑もいいところだわ」
普段なら、
「取るに足りないはずの使い魔の手で、性的に処刑されてしまうパチュリー様!? 想像しただけで……」
などとふざけたことを言いかねない小悪魔だったが、さすがに目がマジなパチュリー相手には無理だった。
「だから社会的に殺される前に殺ス」
「ひぅっ!」
そもそも存在としての格が違うので、本気になられたら逆らえないし、指先一つで塵とされてしまうのだから。
「……ヒドイ目に遭いました」
どったんばったん大騒ぎの末、何とか命をつないだ小悪魔。
「誰のせいよ、誰の」
ジトっとした半眼でにらみつけるパチュリーはまだ機嫌が悪そうだ。
「そ、そうです、お話を戻して……」
「まだ続ける気?」
「ひぃ!」
ぎろりと睨まれ、悲鳴を上げる小悪魔。
ふるふると首を振って、こう答える。
「そうじゃなくて、ナジミの塔に行くなら状態異常攻撃をしてくるモンスターを相手にしなければならないってことです!」
「ああ……」
そう言えば、とパチュリーは『ふくろ』、勇者一行が持つ莫大な収納力を持つ魔法の袋、ゲーム的にはインベントリに該当するものからラックの種を取り出す。
「これを使っておかないといけないわね」
ドラゴンクエスト3においては、運の良さは毒やマヒなどといった状態異常に陥る確率を下げるという効果を持つ。
「それじゃあ、あなたに」
というわけで小悪魔に渡されるカシューナッツに似た種。
なお、実際にイベント等で出されるメニュー『ふしぎなきのみの盛り合わせ』では、
・ラックのたね(カシューナッツ)
・すばやさのたね(柿の種)
・ふしぎなきのみ(マカデミアナッツ)
・きようさのたね(ピスタチオ)
・スタミナのたね(アーモンド)
となっていたりする。
しかし、
「はい? パチュリー様が使うんじゃ?」
「それも考えたのだけれど、どうも私の場合、このままだと成長下限値に引っかかりそうなのよ」
ドラクエ3のキャラクターは職業とレベルに応じた成長上限値と下限値があってレベルアップではその間でしか成長しない。
上限に引っかかった場合、それ以上は上がらないか、上がっても1ポイントしか上がらない。
一方で、下限に引っかかった場合は、最低でも下限値まで引き上げられる。
「現在の私の運の良さは4。商人の低レベル帯での運の良さの上昇率はそれほど高くない上、私の性格が『タフガイ』だから、その成長に30パーセントの大幅なマイナス補正が加わるわ」
つまり下限値に引っかかる可能性があり、そこで引き上げられるなら種によるドーピングは無駄となる。
「一方で、小人数プレイにおける状態異常で何が一番困ると言えば、延々と眠らされ続け何もできずに死亡する、マヒを受ける、即死呪文を受けるなどをしての全滅ね」
全滅は所持金が半分になるのできついのだ。
「でも私かあなた、どちらか一方が無事ならキメラの翼を使って緊急脱出、逃げるなどの選択ができる」
つまり現状で運が高く『セクシーギャル』の性格により運の良さの上昇補正が大きい小悪魔に集中投与した方がいいだろうという判断だ。
しかし、
「私、パチュリー様に借金がありましたよね」
顔を引きつらせる小悪魔。
「それじゃあ、清算してみましょうか」
前回の清算時の計算が、
小悪魔:-87G
パチュリー:10G(+未払い分87G=97G)
「現時点での宿代や薬などの消耗品の代金を支払った残金が40ゴールド。つまり、30ゴールドの収入があったので、一人当たり15ゴールドの配当ね」
そしてさらに、
「ラックの種の売却価格は40ゴールド。これは二人に所有権があるものだから、半額の20ゴールドを私に払えば自分のものにできる」
つまり、
「最終的にはこうなるわ」
小悪魔:-92G
パチュリー:40G(+未払い分92G=132G)
「借金が…… 借金が増えてる」
「まぁ、そうなるわね」
そういうことになった。
分かりづらいとご指摘のあった
(元の部分も加筆修正していましたが)
あと1話に1回は必ずセクハラを働かないといけない様子の小悪魔は相変わらずで。
なお、
>「私、バックに弱いから」
は、現実に私の友人女性が口にしてしまったネタだったり。
今回はレーベの村の探索だけで終わってしまいましたが、次はナジミの塔への道行の予定です。
そして塔の宿でベッドを共にするパチュリー様と小悪魔……
みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
今後の展開の参考にさせていただきますので。