フレイヤファミリアの主神・フレイヤはベルが二つ名のミノタウロスを倒した瞬間、完全に悶絶していた。
「…ベル!」
先程の戦闘を魅入っていた一同だったが、ベルが倒れ込んだ瞬間に、アイズが動いていた。だが、動いた理由が本人にも分からない。
「酷い。ベートの時と同じ」
「何だと…?」
我に返ったリヴェリアがベルに駆け寄る。そして、例によって万能回復薬を四肢にかけてみるが、
「…回復しない…!?」
「リヴェリア。私に万能回復薬を」
唐突なアイズの要求に戸惑ったが、アイズのこれまでに無い剣幕に気圧され万能回復薬をアイズに手渡す。すると、アイズは万能回復薬を口に含んで、
『え?』
それをなんと、口移しでベルに飲ませていた。フィンとリヴェリアはその光景に固まり、レフィーヤは一瞬だけ気絶した。
「…ぐ…!?がぁぁぁぁ!?」
全部飲ませたのか、ベルが悲鳴をあげた。万能回復薬の回復の痛みが想像を絶するものなのだろう。ベルの四肢が戻ったのを確認すると、アイズがベルを背負ってダンジョンから脱出することにした。まだ謎の力が漂ってるのか、不思議なことにモンスターは1匹も出てこなかった。
ちなみに、アイズがさり気にベルにファーストキスをしていたことに気がついて柄にもなく慌てるのは先の話。
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「さて、レフィーヤ。何故ベルを一人でダンジョンに残した?」
ここはリヴェリアの私室。レフィーヤが正座でリヴェリアに説教されていた。
「私はお前にも教えたはずだよな?ダンジョンでは何が起こるか分からないと?」
「でも、あれだけ強いんですから、上層くらいなら大丈夫だと思って…」
「それで?その判断でベルが死んでたらどう責任を取るつもりだったんだ!?」
「ひっ…!そ、それは…」
レフィーヤが今にも泣きそうになったその時、
「ママ、その辺にしときい。ベルにも注意はさせるんやろ?」
「ロキ、ノックぐらいしたらどうだ…。あとママって呼ぶな」
勝手にロキが割って入った。レフィーヤがこの神を初めて天使と思った瞬間だった。
「レフィーヤ。確かにお前はダンジョンを甘く見てた。それで
現実はやはり非常だった。ファミリアを出ていかねばならないのかと絶望した。だが、
「ベルがそれを嫌がったんや」
「っ!?何故ですか!私は、一時的な嫉妬に呑まれて、ベルを…」
声を荒らげるレフィーヤを諭すようにロキは言う。
「理由は本人から直接聞いたらええ。何気に意識は取り戻してるからな。動くのはしばらく無理そう、いや上体は辛うじて動いとるんやが…、レフィーヤお前の処分な、フィンと相談してん。結果はベルが完治するまで謹慎処分や。リヴェリア、ちょっと来てくれへん?」
かくしてリヴェリアの説教は終わりを告げた。
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所変わって、会議室。
「さて、ガレスとベートがおらんけど、始めよか。フィン、あの時何があったんや?」
「ベルがお尋ね者のミノタウロスを倒した」
「おっ!すごーい!中々やるね、新人くん!」
フィンの話に食いついたティオナ。ところが、次の言葉を聞いて彼女の顔が青ざめることになる。
「ああ、そうだね。僕が視認すら出来ない連続攻撃で倒してるんだ。しかも貸しておいたファミリアの刀が砕け散る速度で」
「マジかいな。フィン具体的に説明できるか?」
取り敢えず、何が起きたのか洗いざらい話す。まず、彼らが見たのはミノタウロスと対峙するベル。彼から微量ではあるが、神の力に似た何かが漏れ出ていた。そして次の瞬間、ベルは姿を消していつの間にかミノタウロスの背後にいた。コンマ1秒ほど遅れて刀が砕け散ったとほぼ同時にミノタウロスに無数の切り傷があった。その後、倒しきれてないと判断したベルはまたも消え、稲妻の如き突き技でトドメを刺した。
「まあ、ベルから詳細は聞いとるがな。本人曰く、走馬灯を見た時に見えた舞を真似たそうや」
ベルが言うには、使った技の名はヒノカミ神楽・雷神・須佐之男剣舞。スサノオが八岐大蛇を倒した伝説になぞらえて8回剣を振るう舞、すなわち、フィンですら目で負えないほどの超光速で8回の斬撃を放っていたことになる。
その事実に幹部一同顔を青ざめていた。ちなみに最後の突き技をアイズが目で追えた理由は直感と最初の邂逅の時の経験らしい。
「それにしても、アイズたんが口移しなあ。今度ウチにもしてくれへん?」
「掘り返さないでロキ。斬るよ?」
デスぺレートを抜こうとしたアイズを宥めるティオネとティオナ。
「それにしても、ヒノカミ神楽かあ。今度神会の時にアマテラスに聞いとくわ」
「うん?アマテラス様は天界に帰られたのでは?」
「懸念事項があるからって下界におるで。今はタケミカヅチファミリアに居候してるらしいわ」
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ベルの部屋の前。レフィーヤはベルに自分を追い出さなかった理由を聞くためにこの場所に来た。ちなみにロキが場所を教えなかったので理由を聞くと、音でわかると言っていた。一瞬意味が分からなかったが、シィィィィ…と言う妙な音のする部屋があったのでその場所に来た。
「ベ、ベル?入るわよ?」
コンコンと4回ノックして入ると、雷の呼吸(リヴェリアから前もって聞いていた)をしながら眠っているベルの姿があった。眠っている姿を見ると、やっぱりダンジョンの時と別人であると痛感する。ギャップが激しい、というか、
(モフりたい…!)
すると、気がついたらベルの頭を撫でている自分がいた。何故だ?普通なら男に触られるだけでもぶん殴ってるのに、この子はそんな感じがしない。むしろ、ずっと撫でていたいと思ってしまう。だが、
(私に、そんな資格あるのだろうか?それとも…この子は…)
一瞬嫌な想像をしてしまう。もしこの子がそんな目的で私をファミリアに残しておくのだとしたら…。一抹の不安に立たされたその時、
「あの、レフィーヤさん?なんで僕の頭を撫でてるんですか?」
「え?あ、いや、これはその…」
当の本人が起きていた。全集中で上体を起こしたベルに驚きつつも、
「…どうして私を引き止めたの?」
レフィーヤは質問を投げかける。ファミリアから追い出されなかった以上、この少年に何を言われても文句は言えない。もう、全てを受け入れよう。
「えっと、笑いませんか?」
「笑わないわよ…」
もし、想像した答えだったらこっちが笑えない。覚悟を決めよう。
「背中を安心して預けられるかなぁって思ったからです。兄弟はいなかったけど、お姉ちゃんがいるならこんな感じなのかなぁって…」
その答えは、レフィーヤの予想を大きく外れたものだった。
「どうして?なんで私が?あなたの実力なら、リヴェリア様くらいの実力があった方が…」
「違いますよ。僕、ダンジョンに潜って分かったことがあるんです。まず、ダンジョンは地上と勝手が違うこと。まあ敵の強さを除けば本当に新鮮な体験でした。あのミノタウロス以外ですけど。でも、これで僕が傭兵時代に足りなかった不足していたものを見つけることが出来ました」
それが、背中を預けられる仲間です、と。
レフィーヤはベルの壮絶な過去を教えられる。両親の顔を知らず、唯一の肉親を亡くし、小さな傭兵として生きてきた過去を。そして、何度も二つ名のモンスターと戦い、その度に自らの四肢を壊していたことを。
レフィーヤがベルの肉体に触れる(ベルの顔が真っ赤になっていたが気にはしなかった)。その筋肉は引き締まっており、無駄が無かった。そして、
グウゥゥゥ
「わ!?いや、これはですね?その…」
ベルが顔を真っ赤にして慌てふためく。
「…クスッ」
「わ、笑わなくてもいいじゃないですか…」
「ごめんなさい、可愛かったからつい…」
「それはそうとレフィーヤさん、罰則の方は?」
「あなたが快復するまで謹慎処分よ」
「なら、次のダンジョン攻略もお供して貰っていいですか?」
「…そうね、ソロで上層を探索できるまでお供してあげる///それと、私のことは二人きりの時はレフィお姉ちゃんでいいわよ…」
「分かりました、レフィお姉ちゃん!」
初心なレフィーヤにはこうかはばつぐんだ!
レフィーヤは逃げるようにベルの部屋を後にした。
ちなみに、その後豊饒の女主人から出前(通称ベルスペシャル。10人前の料理を詰め込んだ重箱。お値段なんと8000ヴァリス)が来て未だに腕が動かないベルに誰が食べさせるかでリヴェリアとアイズの間で争いが起きようとして、その隙にティオナがベルに料理を食べさせているのを見て二人が何とも言えない表情になっていたのは別の話である(シルも参加しようとしたが、同僚のエルフのリュー・リオンに店に強制送還されたのは言うまでもない)。
「ロキ、多分いや、絶対にベルはレベルアップしてると思う」
「奇遇やなフィン。ウチも同じこと考えとった。だって…」
ーーー既にオラリオの救世主って噂が持ちきりやからな…。
今後の展開をどのルートにするべきか
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アイズルート
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レフィーヤルート
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リヴェリアルート
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リリルカルート
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ハーレムもしくは作者に任せる