幹部会議があった翌日、リヴェリアはベルにダンジョンの基本構造からモンスターの分布までを叩き込んでいた。そして、抜き打ちのテストを行ったところ、なんと満点を叩き出していた。流石に偶然かと思ったリヴェリアは試しにもう一度抜き打ちのテスト、しかもまだ教えていない中層の範囲を織り交ぜて出した。
この結果も満点。リヴェリアがなぜこんなに覚えるのが早いのか、そもそも教えていない中層の事をどこで知ったのかをベルに問いただした。
「おじいちゃんの書斎にダンジョンの簡略テキストがあって、その本を熟読しました。確か、18階層までは覚えてます」
なるほど、ゼウスがただで天界に還るとは思ってなかったが、まさかダンジョンにまつわる書籍を残していたとは驚きを隠せなかった。リヴェリアがそれにざっと目を通すと、確かに18階層までの情報が簡潔に、解りやすく書いてあったため、少し落ち込んだ。
「でも、リヴェリアさんの説明でもっと細かにダンジョンの詳細が解りました。それでも充分ですよ」
この時、リヴェリアの何かが切れた。
「ベル、お前は自分の母を覚えてるか?」
「僕の両親は…僕が物心つく前に亡くなったとおじいちゃんから聞かされてます」
ベルが寂しそうな顔をして俯いた。そして、リヴェリアは
(何だろうな。この子は守ってあげたくなるような、そんな感じがする…)
物心つく前に両親を亡くし、唯一の肉親だった祖父も亡くしたベルには心安らぐ場所が無いのだろう。寂しげな白兎を見ている感覚に襲われたリヴェリアは初めて母性本能を擽られるという感覚に目覚めてしまった。
「あの、リヴェリアさん…?」
「ベル…。その小さな身体で、ここまでよく耐えたな。辛かったろう?私の胸を貸してやるから、存分に泣くといい」
エルフ族の女性は基本的に男に肌を触られることを良しとしない。エルフに不用意に触ろうものなら下手すれば殺されることすら有りうる。だからこそ、ハイエルフたるリヴェリアもこの行動に移った理由が分からなかった。気がつくとベルを抱き締めていた。だがそれは、恋人同士が行うそれではなく、母が子を抱き締めているそれに近かった。
ベルも突然抱き締められた事に戸惑いを隠せず慌てていたが、だんだんと自分の抑圧してきた感情が溢れ出てきた。
両親は物心つく前に亡くなった。
祖父も4年前に亡くした。
ベルに心の支えなど、有りはしなかった。そう、オラリオに、ロキファミリアに来るまでは。
「…お母さん…」
それはロキに感化されて出てきた言葉なのか、それとも無意識に出てきた言葉なのかは分からない。だが、ベル自身に決定的に足りなかった何かが満たされていった。
ロキファミリアに入団した2日目、ベルはリヴェリアの胸の中で泣きじゃくった。リヴェリアは自身の服が涙で濡れるのを厭わず、ただそっと、ベルの髪を撫でていた。
後に気配を完全に消したロキに一連の出来事を見られてた事が発覚し、以降彼女はベルの母親ポジションを確立したのは言うまでもなかった。
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翌日、ロキファミリアの訓練場。
「はあ!」
「甘い」
ダンジョンの基礎知識を2日で覚えたベルは戦闘訓練を行っていた。ちなみに相手はフィン。ハンデとしてフィンは槍を持ったまま定位置から動かない。リヴェリアが張っている結界の外にフィンを叩き出したら訓練は終わり、単純明解なルールであるが、これが結構難しい。
まず、フィンはロキファミリアの団長であり、「
それに加え、ベルの得物は大刀。雷の呼吸を使うには不向きな長さの武器だ。一応魔剣ではあるのだが、不壊属性と長さに合わない軽さを踏まえたそれは、抜刀術を重きに置いた雷の呼吸には不向きのものだった。攻め方を制限され、斬撃も槍でいなされる。痺れを切らしたベルは、
「我此処に、汝の力を解き放つ。起きろ、シルフィーネ!」
(来た。さて見せてもらおうか、君の魔剣の力を)
フィンはこの瞬間を待ち望んでいた。ヘファイストスに聞いた話だと大刀の属性は風。風属性を宿す魔剣は素早い攻撃をする為に武器そのものが軽くなる性質があると言う。だが、ヘファイストスが言うには本人しか分からない何かがそれに潜んでいる可能性があるとの事。なので、フィンは彼の実力、否、彼の魔剣の能力を見極める為にこの条件で訓練を行った。
ベルが何かを呟いたその時、彼の周りを風が包み込む。風は徐々に強くなり、彼を中心に嵐のような暴風が吹き荒れていた。そして、大刀だった魔剣は少しだけ刀身が短くなり、鍔に当たる場所が無くなっていた。一見すると全体が鳥の翼に見えなくもないそれは、翼と言うよりも「風」を具現化した様な美しい形をしていた。
「行きます、フィンさん!」
突然、ベルが虚空を一閃する。
「あのチビ、何考えてやがる?」
ベートが聞こえないように呟くと、突然フィンがそれに合わせるように槍を薙いだ。
カキン!
金属がぶつかり合う音が響き渡り、訓練場に大きな傷跡が。
「初見でよく躱せましたね?」
「驚いたね…。その大刀の本性は見えない斬撃、いや、風の刃と言うべきかな?」
実際に戦っていたフィンはベルが刀を振るった時に親指が疼くのを感じた。しかも動ける範囲が限られてる以上、それは槍で弾くしかない。そして、恐るるべきはその特性を理解した上でフィンがいる直線上を斬ったベルの技量だ。
「でも、次は躱せませんよ?」
ベルがその場から消えた。恐らく全集中は使っていない。素のスピードでこれなのだろう。フィンは難なく目で追えたが、ベルの行動に度肝を抜かれる。
なんとベルは壁を蹴り、壁から壁に飛び移るように移動していたのだ。そして、その速度が段々と速くなり、6回目に壁を蹴ったベルはフィンに斬りかかった。その速さは確かにフィンが目で追える速さだった。フィンはそのまま槍を構えて返り討ちにする
ベルを覆っている暴風がその目論見を狂わせなければ。
「くっ!?」
フィンが珍しく防御の構えを取った。そして、
「エアリアル・バースト!」
ゴオォォォォォォ!!
「ぐう!?」
フィンが槍で魔剣から放たれた魔法に似た何かを防ごうとする。砂嵐が舞い、幹部一同が視界を奪われる。そして、
膝をついて肩で息をしているベル、無傷で槍を構えるフィンが現れた。
「はあ…!この…」
ベルは既に身体中がボロボロの状態であり、それでもなお大刀に戻った魔剣を構えようとする。その時、
「ベル。今日の訓練は終わりだ」
フィンが突然構えを解いた。ベルは戸惑いながらフィンの足元を見る。そう、フィンはさっきの技でリヴェリアの設定した結界の外に押し出されていた。
そしてその日の訓練の終わり、リヴェリアが(ハンデありではあるが)フィンに勝てたご褒美として豊饒の女主人で晩御飯をご馳走した。その物凄い食いっぷりを目の当たりにしたリヴェリアは「成長期なんだなあ」と思いながらベルの食べる姿を見ていた。ちなみにリヴェリアがそばに居たのでシルは迂闊に近づけないと内心悔しがっていたのは言うまでもなかった。
そして、訓練を終えたその日の内にベルのステイタスの更新が行われた。
ベル・クラネル 人間種族
Lv1
力:I0→I64
耐久:I0→I73
敏捷:X0→X620
魔力:I0→I76
器用:I0→I52
魔術
魔剣覚醒
・魔剣の秘められた能力の解放。
・使用条件は魔剣により異なる。
・起動詠唱:我此処に、汝の力を解き放つ。
・使用条件:風属性を
・固有能力:見えざる剣戟、嵐の鎧。
エアリアル・バースト
・使用条件:シルフィーネの覚醒。
・自らに吹き荒れる風を全て対象にぶつける広範囲魔術。それらの風は万物を切り裂く見えざる刃。
・分散可能。範囲を狭めることで威力上昇。
・詠唱なし。
「ロキ様!敏捷だけ凄い伸び方してます!」
「せ、せやな。元々ベルはスピード特化の戦闘スタイルやから敏捷が格段に上がるんや!」
内心で有り得ないと思いたいが、現実は非常である。ベルの敏捷は既にCに相当するステイタスになっていた。確かにあの「神速」と呼ばれるスキルはLv1で発現するには早すぎる。
それを抜きに他のステイタスを見ても1日で平均上昇値が60後半、フィンと実践訓練していたにしても伸び方がおかしい。ベルには成長期という事で話を合わせよう。
(神速に窮地英雄、厄介極まりないスキルやな…)
「でもシルフィーネのあの技って魔術だったのか…。知らなかったなあ」
「なんや?自分の得物の能力知らんかったなんて言わんよな?」
「実はフィンさんと戦ってた時に頭の中に誰かの記憶が流れ込んできて、咄嗟にそれを使った感じです」
ロキはそれだけ聞くとベルを自室から出して1人頭を抱えていた。
(魔術適性も厄介なスキルやで。何で魔法が消えて魔術なんて得体の知れん項目が出てくんねん…)
ロキはそのまま睡魔に任せて眠りについた。
そして、ベルがファミリアに入団した1週間後、彼のダンジョン探索の許可が正式にリヴェリアから下りた。
ベル視点のステイタス
ベル・クラネル 人間種族
Lv1
力:I0→I64
耐久:I0→I73
敏捷:I0→C620
魔力:I0→I76
器用:I0→I52
※この小説のステイタスのランクは以下のように設定します。
S:900〜
A:800〜899
B:700〜799
C:600〜699
D:500〜599
E:400〜499
F:300〜399
G:200〜299
H:100〜199
I:0〜99
今後の展開をどのルートにするべきか
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アイズルート
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レフィーヤルート
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リヴェリアルート
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リリルカルート
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ハーレムもしくは作者に任せる