金色のガッシュ!!:追憶の章   作:青空野郎

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第1部
邂逅編01


目を開くと、まずは全員そろっているかを確認した。

 

「みんな、いる?」

 

「ええ」

 

「うん、問題ない」

 

「ここにいるよー」

 

「はい。だいじょうぶです」

 

よかった、みんな無事に辿り着けているみたい。

初めての体験で未だに足元がおぼつかない浮遊感みたいなものを覚えながら周りを見渡す。

今私たちがいるのは、まったく見覚えのない部屋の中。

まあ、ここがどこなのかはなんとなく予想はできるんだけど……。

 

「ここは、高嶺君の部屋みたいですね」

 

考えを巡らせていると、末っ子の五月ちゃんが確信を持った面持ちで呟いた。

その途端、どうして知っているのかと全員の鋭い視線が彼女を突き刺していた。

 

「い、いえ。以前、二乃と喧嘩して家出した時に、彼のお家でお世話になっていたので……」

 

「あんた、いつの間にそんな羨ま、羨まし……羨ましいことしてたのよ!?」

 

まさかの発言に次女の二乃が五月ちゃんに詰め寄っていく。

三女の三玖も、四女の四葉も不満の眼差しで睨めつけている。

あー、そう言えばそんなこともあったけ?

二乃の暴走機関車っぷりは相変わらずだけど、ここは長女である私が余裕をもって、

 

「五月ちゃん、いろいろと片付いた後で五つ子裁判だからね」

 

「「「異議なし」」」

 

「なぜ!?」

 

心外だ、とでも言うように驚愕を露わにするが、あいにく抜け駆けする子にかける慈悲はないんだよ。

とりあえず一週間おかわり禁止は求刑しよう。

……とまあ、半泣きになっている末っ子へのお仕置きについては今は置いておくとして。

彼女の言う通りなら、この部屋の主は……

 

『……朝か』

 

―――いた。

 

後ろを振り向けば、ベッドに寝そべる清麿君の姿があった。

 

『……今日は何しようか。……昨日は、何したっけ……?』

 

彼は私たちの存在に気にも留めることなく、天井を見つめたままひとり言をもらしている。

やっぱり、彼に私たちの姿は見えていないみたい。

当然と言えば当然だけど、改めて私たちは記憶の世界に立っていることを自覚する。

 

『……なんか最近、何してもつまんないな』

 

それはそうと、さっきからずっと清麿君の言ってることが気にかかる。

覇気がないというか、枯れているというか……とにかく、生きているように見えない、そんな印象を受けた。

 

『オレ、何のために生きてんだろな……』

 

あんなにも喜怒哀楽が激しい彼がこんな無気力な事を口にするなんて……。

私たちの知る彼からは想像できないほどの色褪せた様子に誰もが戸惑いを覚えていた。

 

『コラッ、清麿!あなた、今日も学校サボるつもりなの!?』

 

今度は、先ほどから扉を叩きながら呼び掛けてくる女性の声に反応する。

たぶん清麿君のお母さんかな?

 

『オレが今さら学校行って、何勉強するんだよ?』

 

『あんた、そんなこと言ってるからイジメにあうんでしょ!?くやしかったら友達の一人でも作ってみなさいよ!』

 

冷めきった返事に、一層切実に迫る清麿君のお母さん。

しかし清麿君が示したのは苛立ちを含めた舌打ちだった。

 

『やかましいっ!オレ様が、なんであんな低レベルな奴らと友達になんなきゃいけねーんだよ!』

 

ついには、明らかに他者を見下すその発言に私たちは言葉を失った。

そういえば、去年の林間学校で倉庫に閉じ込められた時に、昔ひねくれていた時期があったって話してくれたことを思い出す。

てっきり何かの冗談か皮肉の類の話だとばかり思ってたけど、これは……。

 

「これが……本当に清麿、なの?」

 

基本的に感情の起伏がおとなしめの三玖ですら大きく取り乱していた。

三玖だけじゃない。私も、ほかの妹たちも、いつだって誰かを思いやるやさしさを持ち合わせていた彼が友達を否定するような暴言を吐くことがどうして信じられようか。

一体、この頃の彼になにがあったというのだろうか……。

 

『コラ、貴様!母上に向かってやかましいとはなんだ!?』

 

そんな疑問を抱えていると、清麿君と清麿君のお母さんの口論に割って入る怒声が耳朶を打つ。

声のした方、部屋の窓の向こう側に目を向けると―――そこにはオオワシにぶら下がってブリを背負った素っ裸の男の子がいました。

 

『…………』

 

「「「「…………」」」」

 

「わー、だいたーん」

 

何を言っているのか分からないと思うけど、ありのままを言葉にした結果がこれなんだから仕方ないよね?

目を覆うことすら忘れてしまうほどの清々しさには、清麿君とそろって絶句してしまっていた。

唯一、私たちの中で反応してみせた四葉はさすがだと思う。

そうこうしている内に、男の子はオオワシごと窓を突き破り部屋の中に飛び込んできた。

ガラスが割れるけたたましい音、羽をはばたくたくましい音、そしてブリが身体を忙しなく動かす新鮮な音が無音だった空間を見事にぶち壊した。

そのせいで部屋に積まれてあった難しそうな本やプリントが舞い上がり、精神体である私たちの身体を透過していく。

そして、あっという間に悲惨な状態になった部屋の真ん中でその男の子が堂々と―――実に堂々と名乗りを上げた。

 

『我が名はガッシュ・ベル!!おまえ、高嶺清太郎の一子、高嶺清麿だな!?』

 

これが、清麿君と、彼が親友と呼ぶ男の子―――ガッシュ君の出会い。

まさか、こんな予想をはるか斜めに突き抜けた出会いがあるだなんて、さすがのお姉さんも恐れ入ったよ……。

 

「この子が、ガッシュ君……」

 

興味深そうに呟く四葉に倣って彼の顔をまじまじと見つめてみる。

この世界を構築した記憶の持ち主である男の子。

そして私たちをこの記憶の世界に送り込んでくれたゼオン君。

彼が幻想的な銀髪なのに対し、ガッシュ君の髪は太陽の光で柔らかく輝く金色だ。

ただ、それを差し引いても双子の兄を名乗るだけあって瓜ふたつの容姿には感慨深いものを覚える。

五つ子の私が言うのもなんだけど、本当にそっくりだ。

清麿君や他の人たちも、初めて私たちの顔を見比べた時はこんな気持ちだったのかな?なんて新鮮な想いに浸っていると、ガッシュ君はまず、清麿君のお父さんから預かったという手紙を差し出した。

それを受け取った清麿君は黙読を始めたため、代わりに五月ちゃんが彼の後ろに回り込んで中身を読み上げてくれた。

 

・仕事先であるイギリスの森の中で、重傷で倒れていたところを手当てした。

・そのお礼に恩返しをしたいということで、清麿君の腑抜けを鍛えなおしてもらうことをお願いした。

・ガッシュ君は自分の名前以外の記憶を失っている。

・唯一の手掛かりは彼の持つ赤い本だけで、どうか彼が故郷へ帰る手助けをしてあげてほしい。

 

要約すると、以上のことが書き留められていた。

初端からいろいろとツッコみどころの多い出会いに加えて、今度は記憶喪失ときたか……。

他にも気になることはあるんだけど、清麿君が手紙を読み耽っているその隣でガッシュ君はなにをしているのかと言うと

 

 

バクバクムシャムシャバリバリボリボリ

 

 

―――派手に暴れまわるブリに噛り付いていました。

 

……えっと、ちょっと待ってガッシュ君。それ、絶対血抜きとかしてないよね?新鮮にもほどがあると思うんだけど?

事務所の社長の娘さんと同年代くらいの男の子のブリの踊り食い。

しかしその背丈を超える大きさの魚の身があっという間に消えていく様子は圧巻の一言。

それどころか、頭から尾まで、骨ごと平らげていく光景は未だに素っ裸であることが霞んでしまうほどの衝撃だった。

その証拠に、二乃や三玖は吐き気を催したのか口元を抑えている。

 

「うっ……すごい食べっぷりね。五月みたい」

 

「いやいや、いくら私でもあそこまでメチャクチャな食べ方はしませんからね!?」

 

もっともな言い分だがとりあえず五月ちゃんの抗議はさて置いて、清麿君は読み終わった手紙から顔を上げて一冊の本を手に取っていた。

記憶を失くしているガッシュ君の唯一の持ち物。

辞書くらいの厚さがあり、ゼオン君が持っていた銀色の本と同じデザインの赤色の本だ。

 

『……なるほど、よくわかった。これは親父の字だし、夢でもなさそうだ。……だが!』

 

お父さんからの手紙で状況を把握したらしく、清麿君は相槌を打つ。

けれど、理解はしても納得するかはまた別の問題だったようだ。

 

『なんでお前みたいなガキに、鍛えられなきゃいけねーんだ!―――ふざけるな!!』

 

苛立つ感情の赴くままにガッシュ君に向けて拳を振り上げる清麿君。

同時に、無駄だと分かってても咄嗟に止めに入ろうとしたその瞬間

 

―――閃光、そして、轟音が響いた。

 

目の前が白一色に塗りつぶされる突然の出来事の最中でわかったことは、轟音とともに清麿君と私たちの悲鳴が飛び交っていたことだけ。

けれど、やがて晴れていく視界に映った光景に我が目を疑った。

 

「―――ッ!?うそ……なに、これ……?」

 

私たちの視界には、床、壁、家具、―――部屋のいたるところが黒く焦げ付いた跡が広がっていた。

 

『電、撃……?』

 

一瞬前までは好き放題に散らかっていた様相から一転した光景に、誰も冷静でいられるわけがなかった。

たった今、それだけの出来事が目の前で起こっていたのだ。

同じく黒コゲとなった清麿君の言う通り、まるで雷が落ちたかのような痕跡を前にして、ただ呆然と呟くことができただけでも奇跡だったのかもしれない。

 

『お、おおお……おまえ、何者だーー!?』

 

真正面から謎の現象の餌食となってしまった清麿君に至っては、腰を抜かしながらもガッシュ君の正体を問う。

 

『ガッシュ・ベルと言っておろう』

 

でも、彼からは名前を聞かれたから答えただけと言う当たり前な反応が返ってくるだけだった。

あの一瞬でなにが起こったのかは分からない。

けれどあの時、視界が眩むあの寸前……ガッシュ君の口元に光が集まっていたような気がした。

それが見間違いじゃなければ、ガッシュ君が口から電撃を出したように見えたんだけど……そんなことがあり得るわけ……まさか、ねえ……?

 

■■■■■

■■■

 

場面が切り替わる。

あの後、さらにひと悶着あったが清麿君は中学校の教室にいた。

ガッシュ君の世話をするか、学校に行くかを天秤にかけた末の渋々ながらの選択だったけれど。

ちなみに、カレンダーで日付を確認すると今から約4年前―――私たちが中学2年生だった頃の時間軸ということになる。

さて、ガッシュ君の記憶の世界で舞台が彼の学校に移ったのかと言うと、理由は至極簡単。

清麿君の席の横で、ボストンバッグに身を潜めるガッシュ君がいるからである。

その姿を端的に言うと……か、かわいい……!

バッグから出したあどけない顔立ちで清麿君を見上げるさまは、さながら小動物のよう。

中学の制服姿の清麿君といい、写真に収められないのが残念でならない!

そんな反則級の可愛さに心をときめかせながら、次に清麿君を見やる。

今は数学の時間。

けれど清麿君は教科書ではなく、ガッシュ君の持っていた赤い本と向かい合っていた。

ム……いつもは人に勉強しろと口うるさく言うくせに、自分は堂々と内職に没頭とはいい御身分ですな。

過去のこととはいえ、棚上げしている行いに不満が募るも、実は彼が読んでいる本への興味が勝っていたりする。

 

「うわ、なにこれ……」

 

しかし、好奇心が抑えられずに覗き込んでみたはいいものの、ページの中身を認めた瞬間にみんなは顔を顰めてしまっていた。

そこに記されていたのはお世辞にも文字と呼べるものではなかったからだ。

文字、と言うよりは何かしらの古代文字……もっとひどく例えるなら子どもの落書きと言った方がしっくりくる。

まあ、そもそもの話、考古学を専攻している清麿君のお父さんでさえ解読できない文字なんて、当然私たちにも読めるわけがないんだけどね。

と、私たちは簡単に開き直ることができたけど、清麿君は天才故のプライドのせいか珍しく頭を悩ませていた。

 

『高嶺!この数式を解いてみろ!』

 

そんな時、先生から指名が飛んできた。

集中していたところを邪魔されて不機嫌に眉根が寄るのを見逃さなかったけれど、素直に席を立ち、黒板に目を向けること数秒。

 

『……a=4、b=8、c=0.3』

 

おお、さすが清麿君だ。

中学の問題とはいえ、方程式の問題を暗算で解いてみせた天才ぶりはこの頃から健在のようだ。

 

『……く、正解だ……』

 

けれど、感心する私たちに対して、先生は苦虫を噛み潰したような表情で睨めを利かせていた。

そんな先生の態度に違和感を覚えた時だった。

 

『ちっ、なんだよ、あいつ……』

 

―――え?

 

『久々に来たと思ったら、また嫌味なことやりやがってよ……』

 

『勉強する必要がないなら帰れよ……』

 

『テストの問題難しくなったらどーすんのよ……』

 

『頭いいのはわかったから、ほかの学校行けよ。うっとうしい』

 

『頭悪いオレ達を見下して、優越感にそんなにひたりてーのかよ……』

 

ヒソヒソとささやくような、けれど隠す素振りのない陰口だった。

その矛先は、言わずもがな。

 

「なによ、これ……」

 

剥き出しの悪意に二乃が嫌悪感を露わにして周囲を見渡す。

出会った当初の二乃でも、邪険にすることはあってもここまでの悪質さはなかった。

しかし、教室に渦巻く悪意は留まるどころか、教師ですら見て見ぬふりを決め込んでいることでさらにその悪質さを増長させていた。

 

「ひどい……」

 

あくまで傍から見ている立場ではあるが、五月ちゃんと同意見だ。

もしかしたら清麿君にもなにかしらの原因があったのかもしれない。

でも、いくらなんでもこれは度が過ぎている。

中学と言う多感な感情を持て余す時期にこんな悪意に曝されれば、それこそ性格のひとつくらい歪んでしまうのも無理はないのかもしれない。

 

「清麿君……」

 

まざまざと見せつけられる当時の清麿君を取り巻いていた環境、その陰湿さに歯噛みする。

それ以上に、教室の片隅で沈んだように顔を伏せる姿に心が締め付けられた。

 

■■■■■

■■■

 

場面は放課後に移る。

清麿君は授業の終わりを知らせるチャイムが鳴るなり、さっさと支度を済ませて早退を決め込もうとしていたが、ガッシュ君の存在が発覚して騒ぎが起きて先送りになっていた。

そんな時、ガッシュ君は当初の目的でもある清麿君の腑抜けを直すという名目で『友達作り作戦』なるものを実行しようと言い出したのだ。

内容としては主に

 

・不良にからまれる生徒を助け出して正義の味方をアピールすること

・ガッシュ君が清麿君の友達になってくれるようクラスメイトに土下座して回る

 

という2通り。

いやはや……学校に潜り込んだことと言い、無邪気から成せることなのか彼の行動力には舌を巻いてしまう。

そんないろんな意味でハードルが高い作戦に難色を示していた清麿君だったが、何かを思いついてガッシュ君に指示を出していた。

なんでもこの学校には金山君という不良生徒がいて、毎日のように屋上でカツアゲをしているとのこと。

その現場に乗り込んで2人でやっつけよう、という内容だ。

清麿君は先に用事を済ませて合流する手筈でガッシュ君をひとり屋上に向かわせたのだが……その作戦を聞いた時は正直、嫌な予感しかしなかった。

そして―――それは目の前で形を成していた。

 

『私は平気だ……。それより、もうすぐ清麿が助けに来てくれる。そしたら安心だ……。二人一緒に戦うから、こいつもすぐに倒せる!』

 

『ハッ、さっきからそればっかり言ってやがるな……。バカが!いい加減気づきやがれ、お前は高嶺に騙されたんだよ!』

 

擦り傷やアザだらけになりながらも、クラスの中で唯一清麿君を嫌っていなかった女の子、水野さんをかばうガッシュ君を、件の金山君は容赦なく蹴り倒した。

 

『あいつは自分以外の存在がすべてうっとうしいんだ!自分が常に一番、自分以外は全部クズだと思ってんだよ!』

 

清麿君への暴言とともに金山君は思うままにガッシュ君を痛めつける。

けれど、必ず清麿は来る―――その一点張りで彼は立ち上がる。

さっきからずっとこれの繰り返しだ。

 

『おまえもしょせん、下等動物のやっかいもののブタにしか見えてねえんだよ!』

 

違う、彼はそんな薄情な人じゃない!

だが、そんな思いとは裏腹に扉の向こうから彼が現れる気配がない。

依然としてガッシュ君は暴力に耐えているが……まさか清麿君、本当に彼をだまして……?

 

『この学校であいつの肩を持つ奴なんざ一人もいねえ!』

 

言い知れない不安を抱くも、金山君の暴言はさらに拍車がかかっていく。

 

『あいつなんか、永遠に学校なんか来なくていいんだよ!来てほしいと思ってる奴なんか誰もいねえんだよ!!』

 

そして、嬉々として好き放題言ってくれる彼にとうとう二乃がキレた。

 

「ちょっ……二乃!ダメです、落ち着いてください!」

 

「離して五月!キー君のこと何にも知らないくせに、あのデカブツ……!一発ひっぱたいてやるんだから!」

 

二乃だって無駄だということはわかっているはず。

それでも、激情に駆られる気持ちは痛いほどわかる。

できることなら私だって……!

でも私が思ってることは、所詮たらればの話だ。

そのうえで、過去の映像と理解してても、何もできない自分が心底イヤになってくる。

その時だった。

 

『黙れ!!おまえに清麿の何がわかる!?』

 

響く咆哮。

身体中ボロボロになりながらも、毅然と立ち上がるガッシュ君の姿があった。

 

『清麿は悪くない!だから私は清麿を助けに来たんだ!!』

 

「ガッシュ君……」

 

確固たる意志を宿した曇りのない眼差しに私たちは魅せられていた。

 

『清麿の父上が言ってたぞ!小学校までは普通に友達と遊んでたって!中学になって、だんだん友達が清麿の頭の良さをねたみ始めたって!清麿が変わったんじゃない!清麿を見る友達の目が変わったんだ!』

 

自分が誰なのかもわからないはずなのに、信じたものを貫こうとする小さな背中がとても大きく見えた。

 

『清麿が実際何をした!?今日、学校に来た清麿が何をした!?おまえのように誰かを傷つけたか!?おまえみたいに弱い者から金を奪ったか!?』

 

体裁も理屈も度外視して誰かのために全力になれるその姿に強く惹き込まれた。

今まで自分のためにウソつきを演じてきた私なんかとは違って、どんな相手を前にしてもまっすぐ立ち向かう魂の叫びに心から震えた。

 

『学校に来なくていいのはおまえの方だ、でくの坊!これ以上私の友達を侮辱してみろ!!おまえのその口、切りさいてくれるぞ!!』

 

ようやく彼の強さ、その一端に触れられた気がした。

何も知らないから、わかり合おうと全力で向き合うその在り方が、どんな時でも私たちの手を離さずに繋ぎとめてくれた彼の姿と重なる。

そっか……清麿君も、私たちと同じだったんだ……。

……うん、そうだよね。

途端に、少しでも彼を疑った自分が恥ずかしくなってくる。

 

「なんか……すごいね、ガッシュ君って」

 

湧き上がる感情を込めた割には短い言葉だったけど、妹たちは頷いてくれた。

 

『清麿が今来ないのは、ウンコをしているからだ!そう……アナコンダよりも太く、金魚のフンよりもキレが悪い最悪のヤツだ!』

 

さらに、せっかくの雰囲気をあっさりと流してしまうガッシュ君だった。

悪意がないのはわかるけどいろいろと台無しだよガッシュ君……。

思わずずっこけそうになり、苦笑いが浮かんでしまったそんな折の事―――

 

『いい加減にしろ!誰がそんなウンコするか!?』

 

突如として開かれた扉。

そこから屋上に踏み込む彼の姿を見た瞬間、心が高鳴った。

この日の朝に見た生気のない顔とは違って、迷いを振り切った力強い“生きている”彼の顔がそこにあった。

そして、現れたタイミングもそうだけど、その頬に残る涙の跡を確かに見た。

 

「なんだ、やっぱり来てたんじゃないですか。高嶺さんのバカ……」

 

四葉の言う通り、どんなに卑屈になっていたとしても、清麿君は清麿君だった。

何より、私たちが、そしてガッシュ君が信じたものは間違っていなかったことを彼自身が証明してくれたことがたまらなくうれしかった。

 

『ほら来たぞ!ウソつきはおまえだ、でくの坊!バーカ!バーカ!!バーカ!!』

 

『そうだぜ!オレ様が来たからにゃおまえなんてイチコロ―――ダボォオウ!!』

 

ついでに、勢いだけではどうにもならないということも証明されてしまうのだった……。

悪いと思いつつも、その見事な返り討ちっぷりに吹き出しそうになったのは許してほしい。

いやいや、のんきに笑ってる場合じゃない。

せっかく元気を取り戻した清麿君だけど、そもそもの問題は解決していない。

彼はどうやってこの場を切り抜けるのだろうか。

そんなことを考えていると、水野さんがしびれを切らせてお金を金山君に差し出そうとしていた。

 

『待て、水野、金を渡すな!こいつは倒せる!』

 

けれど、それを止める清麿君。

その手にはガッシュ君の赤い本を持っていた。

 

『オレは今日の朝、この本をもって偶然この呪文を唱えてたんだ!』

 

そう言って、彼自身が見たこともないと言っていたはずなのに、とあるページを開いて立ち上がる。

えっと、清麿君は一体になにを言って―――

 

『ふざける(・・・)な!そう、第1の術―――ザケル!!』

 

清麿君が叫ぶと同時に、本から光が溢れ出る。

すると、赤く照らされる輝きに呼応するかのように、ガッシュ君の口元にも光が集まっていく。

そこまで認識が至った時―――今朝以上の轟音が耳の奥を劈く。

瞬間、ガッシュ君の口から放たれた電撃が屋上の一角を粉々に吹っ飛ばしてしまうのだった。

今回は目を覆う暇すらなかった。

運よく金山君への直撃は免れたけれど、もしもを考えてしまうとゾッとしてしまう。

それこそ、朝の時とはケタ違いの威力を目の当たりにしてしまったことで、今度こそ見間違いや気のせいで誤魔化すことはできなくなってしまった。

目の前で起きたあり得ない光景に、開いた口がふさがらなかったり、へたり込んだりと妹たちの反応も様々だったが、みんなの思うことはひとつ。

立ち尽くす清麿君の隣で、呆然とガッシュ君を見る。

ガッシュ君って、いったい何者なの……?




まずは、みなさま先日のアンケートにおけるたくさんのご応募ありがとうございました。
今回のアンケートの応募総数は、計37通でした。
作者個人のわがままではありましたが、これだけの方たちが自分の作品を楽しみにしてくださっていると実感できただけでも感謝の一言に尽きます。
同時に、作品を書き上げるモチベーションにもつながりました。
さて、今回のアンケートの結果ですが、投票数第1位を獲得したのは、本編を読んでいただいた通り、11票を集めた『五等分の花嫁:邂逅編』でした!
そして惜しくも1票差で『ラブライブ!:ファウード編』が第2位という形に収まりました。
下に、日ログインユーザー用に設けたアンケート欄の結果の画像を張っておきます。


【挿絵表示】


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あらためて、今回はたくさんのご応募、本当にありがとうございました!


……と、いう訳で始まりました。
清磨の過去(邂逅編)回想第1話。
トップバッターは一花です。
いろんな意味で探り探りではありましたが、いかがだったでしょうか?
なんせ、本筋がない状態での作品です。
『五等分の花嫁』に関しましては手を付けるのは本当に初めてどころか、見切り発車以前
での挑戦ですからね。
もしかしたら読んでいくうちに何かしらの違和感を覚えた方は、ぜひ今後の改善のために意見などいただければ嬉しく思います。

とりあえず、回想編においての設定に加え、五等分ルートでの設定を追加しておきます。
・清麿、五つ子は高校3年生で卒業間近
・全員清麿への好感度はMAX
・五つ子の清麿の呼び方
 一花:清麿君
 二乃:キー君
 三玖:清麿
 四葉:高嶺さん(回想時は清麿君)
 五月:高嶺君

一花と三玖の清麿の名前表記に関してですが、風太郎の場合は発音の関係でカタカナ表記になっていると解釈しているので、この作品では普通に漢字表記で進めていきます。

あと、作中にもありましたが、五等分本編との差異点も加えていこうかなと思っています。
今回は、
・林間学校で一花と倉庫に閉じ込められた時、退屈しのぎで清麿の過去について聞く
・清麿は「聞いて面白いもんじゃない。ただ、頭がいいことに胡坐をかいていたクソガキがいただけだ」と、本当に障りの部分だけ話して切り上げる
という流れです。

こんな風に、この場面では清麿だったらこうするだろうなと妄想しながら作品を書くのは結構楽しかったりします。
自分は四葉推しなんですが、例えば勤労感謝の日のエピソードで
・用事があるため一花と三玖の誘いを断る
・道中で四葉と出くわし、流れで一緒に植物園へ
・にょきまろの植え替えを手伝い、つくしからガッシュの存在を教えてもら
みたいなのを妄想してました(笑)

話がそれましたが、ご覧の通り、かなり穴だらけな作品となるかもしれませんが今後とも、不肖、青空野郎の作品を楽しんでいただければと思います!

次回は二乃のターンです。それではノシノシ

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