俺は、持病を持っている。それはもうヤバイやつで動く事すらも許されない。それほど体を蝕んでいるんだ。
「
俺の担当を勤めてくれている看護師さんが俺の病室に入って来た。もう瞼が開けることも出来ないほど筋肉が衰退しているから姿も見えないし口も開けないから返事すら返せない。悲しいよ。
しかも食事というのは点滴の事で味気も糞もない。
《確認しました。ユニークスキル『
「明日にはご家族の方達も着てくれるはずですね。」
そう、俺には妻がいて、子供も二人いる。昔はゼネコンで仕事して妻達を養っていたが、今となっては全てを妻に任せっきり。本当に申し訳ないと思っている。
ああ、子供達は俺の手料理が大好きだったな、もう作ってやれないのが残念だ。
《確認しました。固有スキル『
さっきからなんだよ...スキル獲得って...あれか、とうとう幻聴でも聴くレベルに弱ってきたか、ああ、もっと俺が強い体で生まれれば...これじゃあ退院できそうにないじゃないか。
《確認しました。“強い体”のリクエストに答える為、権利者の種族は『竜種』に固定。さらにユニークスキル『超聴覚』、『
静かにしてくれ...あ、あれ...なんか...意識...が..................
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それから俺の体にはさまざまな事が起きた。なんと竜になっていたのだ。あの病持ちで体の弱かったこの俺が、だ。
そして見知らぬ森のど真ん中に突っ立っていた。しかもその森は俺の膝くらいの大きさだったから。一歩でも動けばこの森自体壊してしまいそうだったのでその場で留まる事にしたんだ。
ただ、めんどくさいことに俺の存在を感知した現地民...いや現地獣の方々がぞろぞろと俺の元にやってきたのだ。
ほとんどの奴は俺に攻撃を仕掛けてきたので俺も何かしてやろうと思ったら手からレーザービームが撃てたのでそれで迎撃してやった。
中には何度も俺に話をしに来た奴がいた。ちょうど今やってきたな。
『...また来たんだな、えーっと...確か名前は...』
「リムルだよ!!」
そうそう、リムルというスライムだ。この子は一度大軍を引き連れて俺を討伐しようとしに来たんだが全軍を例のレーザービームで蒸発させたらガチギレしてな、一度大喧嘩をして俺が勝ったから大人しく引き下がったんだ。以後何度か俺の下に来るんだがレーザーで追い返している。
......が、しつこいのでいい加減話を聴いてやろうと思ったのだ。
「まずはお前、よくもウチの部下をやってくれたな。」
『いや、先に手を出したのはお前の部下のベニマルとかいう鬼だ、非があるのはそちら側だと思うが。』
お互いがお互いを嫌っている為、話が進まない。
そうやって言い合っている内に二時間ほど経過した。折れたのはリムルの方だった
「あーもういいよいいよ、俺が悪かったから、とりあえず今日俺が言いにきたのは友達にならないかってことだ。」
『...は?』
いきなり何を言い出すんだコイツ、喧嘩したのに友達になれるわけがないだろう。
《告、『
『うおお!!』
「え?」
『ああすまん、こっちの話だ。』
久々にその無機質な声を聴いたからびっくりしただけだ。
それより何だよ
《了............解析完了しました。固体名リムル=テンペストは自分の重要な部下である固体名ソウエイを権利者に焼き払われた事を大変根に持っているようですが、今回は一旦それらを忘れて権利者と一度手を組み、彼等の国テンペストの利益にしたいようです。》
...何これメッチャ便利!俺の前で隠し事が出来ないってワケかよ。
それにしても私情を押さえてでも自分の国を優先するのか...いいやつだなコイツ。
『ソウエイ、か。殺したのは悪かった。』
「!!」
『お前、殺された自分の部下の為に俺に敵討ちしようと思ってたわけだな。仲間思いのいいやつじゃんかよ。...ちょっと待ってな。』
「え...?」
この世界に来て一番最初に使い方を理解したスキル『
スキルを発動した瞬間、俺達の周りが光り出す。そこに俺が焼き払った者たちの体が何もないところから生み出され、復元した魂が宿っていく。
「これは...リムル様...確か俺は...」
「ソウエイ!皆!!」
「「リムル様ァああ!!!」」
『...悪かったな』
俺が声を発すると俺が蘇らせた輩が一斉に俺を警戒しだす。ソウエイに至っては糸を出して俺の動きを拘束してきた。
「貴様...!」
「止めろソウエイ!!コイツがお前達を生き返らせてくれたんだぞ!」
「しかし......わかりました。」
主であるリムルにガツンと言われたソウエイは大人しく糸を解除してくれた。
『...何か、言い辛いんだけど、たった今から俺達は友達だ。それと罪の償いをさせて欲しい、だから俺を連れて行け。』
「......まあ、俺達も最初はお前を侵入者だと思って撃退しようとしたが...そうだな!俺達は...友達だ!!」
リムルがニカッと笑い、俺に手を向けた。俺も大きすぎる手の一指し指をリムルに差し出す。
この日から俺達は、友達になった。
俺の罪を償いたいと言う意思をリムルは快く承諾してくれた。が、困った事が一つ。
「お前、名前は?」
この質問である。人間の頃は神埼悠馬という名前を持っていたが、今は竜。名乗る名前が無いのである。
だから正直に言う事にした
『昔は神崎悠馬って言う名前を持っていたんだが...今は名乗る名前が無くてな。』
その言葉に全員が驚いた。彼等の部下は名前を持たないのに我等をを圧倒したのかと言っていたが、リムルだけは違った驚き方をしていた。
「..もしかして、ユーマ先輩...なんですか...!」
『ああ、なつかしいな!昔俺をよく慕ってくれた可愛い後輩が俺の事をユーマ先輩ユーマ先輩って呼んでくれていたな。ああ、あいつは今何をしてるんだろうか、俺が仕事を病気で止めてから数年立つから今は立派に先輩面靡かせて後輩にドヤッているかもしれないな。俺も彼の事は信頼していたよ』
名前は三上悟、よく働いてよく質問してきて、たまに失敗してあわあわしている時は可愛かったな。...待て。
『...何で、リムルがその呼び方を知ってるんだ。』
「......三上悟ですよ、俺。」
瞬間、俺の頭が軽くフリーズした。リムルが、悟だと!仕事の後輩のあの悟!?ああ、確かに諦めが悪かったな彼。だからあんなに俺に向かってきたのか。
...なら、こんな高い所から後輩を見下すのもなんか嫌だな。
俺の体が光を放つ。その光はどんどん小さくなっていき、やがて人並みの大きさになった。
思ったより小さかった後輩の頭を撫でる。
「久しぶりだな、悟。」
「はい...先輩!」
俺たちはそのまま、後輩の町へと向かっていった。