「L・O・V・E!智絵理!エル……ハッ!?
───── 失礼。見苦しい姿をお見せしてしまいました。では、気を取り直して…。」
めでたく高校を卒業した、元普通の高校生『常磐ソウゴ』。彼には魔王にして時の王者、『オーマジオウ』となる未来が待っていた。
今回出会う少女は、レジェンドの力を持つ者ではありません。故に、本編では割愛させて頂きましたが…折角の我が魔王の勇姿、このまま御蔵入りというのも勿体無い。そこで今回、この様な形で皆様にお届けする事に致しました。
『緒方智絵理』。シンデレラプロジェクトという企画でアイドルにスカウトされ、芸能界デビューした彼女は、その愛くるしい容姿と仕草で大ブレイク。まるで天使の子守唄の様な、聴くものの心を癒す暖かな歌声は──── っと。またしても熱くなりましたね。余計な事を口走る前に、先へと進みましょう……。
◆
「「「お祭り?」」」
「そうそう!さっきおじさんから聞いたんだけど、今日近くでお祭りやるみたいなんだよ。ゲイツもツクヨミもウォズも、お祭り初めてでしょ?皆で行ってきたら、っておじさんが。」
王を目指す少年、常磐ソウゴ。
未来では『最低最悪の魔王』と称される彼だが、祭りのビラを手に目を輝かせるこの少年と『魔王』のイメージを結び付ける事は困難だろう。
「まぁ…確かに初めてだけど。」
「そんな余裕も無ければ、祝う様な出来事も無かったからな。それで、その祭りってのは何をするんだ?」
ツクヨミとゲイツ。未来から『魔王』と成りうるソウゴを倒しにやって来た彼等も、今ではすっかりこの時代の一員だ。二人も興味深そうに、ソウゴの手にしたビラを覗き込む。
「出店に御輿…ほう、花火大会に、アイドルのライブステージも有る。我が魔王、この地域の祭りは何時もこんなに力が入っているのかい?」
気温の上がり始めたこの時期でも全く服装を変える様子を見せない、ミステリアスな青年ウォズ。彼もゲイツ達と共に、興味深そうにビラを眺めている。
「さぁ?あ、でも確かにおじさんも、今年は平成最後で令和最初のお祭りだから気合い入ってる…って言ってたような…。」
「なんだ、去年までは行って無かったのか?」
ビラを見ながら何気無く尋ねるゲイツ。
「え?ああ、うん。だってほら、俺友達居なかったし。」
凄まじい地雷を踏み抜いたようだ。
一瞬にして表情の強張るゲイツ。ツクヨミもウォズも、何処かいたたまれない様子で二人から視線を逸らす。
「………その、なんだ…スマン。」
「え?いや良いよ?別に気にしてないし。」
本当に気にしていない様子で、不思議そうに首を傾げるソウゴ。然し彼のそんな姿に、寧ろゲイツは一層の罪悪感を抱く。
「と、とにかく!折角だし皆で行きましょうよ!ね、ウォズ?」
「あ、ああ!ツクヨミ君の言う通りだ!─── 祝え!今日は記念すべき、我が魔王が初めて友と祭りへ繰り出す日である!」
「ウォズ?ツクヨミ?なんでそんな慌ててるの?」
クジゴジ堂は、今日も騒がしい。
◆
「お祭りは夕方から…皆準備で忙しそうだね。」
「それに何時も以上に町に活気がある。矢張り、かなり気合いが入ってるようだ。」
「少し早く来過ぎたかしら…どうする?」
「まあ、こうして町をぶらつくのも悪く無いだろう。今日は特に予定も無ければ、幸いアナザーライダーも居ない。」
先程のやり取りから数時間後。町へと繰り出した一行は、他愛も無い話をしながら町を歩いていた。
ソウゴは勿論、ゲイツ達にもすっかりお馴染みとなったこの町の、普段と異なる様子に皆興味津々の様子。
暫く町を散策していると、大通りに普段は見ない仮設ステージが見えてくる。
「あ。あれが…さっきウォズの言ってた、アイドルのステージってやつかな?」
「ソウゴ。そもそもアイドル…って何?」
興味津々で眺めるソウゴに、ツクヨミが問い掛ける。
「あれ?知らない?えっとね…歌ったり踊ったり、あとはバラエティとか、俳優女優みたいにお芝居する人もいるね。分かりやすく言うと…色んな事やってる、皆の憧れだよ。ほら、テレビでさ。若くて格好良い人や、可愛い女の子がコンサートや映画の宣伝とかしてるでしょ?」
「私基本お笑いと将棋とニュースしか見ないから…。」
「いやお爺さんか。」
ソウゴ自身、特段アイドル好きというワケでも無いので、具体的に説明しようとするも上手く言葉に表せない。そんな彼に申し訳無さそうに顔を伏せるツクヨミと、言ってはいけないと思いつつも我慢出来ずに突っ込むゲイツ。
「皆の憧れ…つまり、いずれ我が魔王も…。」
「いやそんな魔王があるか。というか貴様はさっきの様子見るに、アイドルが何か知ってるだろう。」
畳み掛ける様なゲイツの突っ込み。今の彼は、ジカンザックスよりも切れ味が鋭い。
そんなやり取りの中で、ソウゴはステージの傍に居る少女に気付く。
「ん?あれって…?」
「どうやら、彼女が今日のステージの主役のようだね。ビラに載っている写真と同じだ。『緒方智絵理』…という、駆け出しだが中々人気のアイドルのようだ。」
「可愛い子ね…あれがアイドル。……ソウゴ?じっと見詰めちゃってどうしたの?」
「…いや…あの子どっかで見覚えが…。
─────── あーーーーー!!!」
突然叫び声をあげたかと思えば、彼女目掛けて走り出すソウゴ。突然の出来事に唖然としていた一同も、慌てて彼を追い掛ける。
「我が魔王、どうしたんだい!まさか彼女の大ファンだったのか!?」
「何!?いや然し、だからと言って『推しアイドルに突撃する迷惑な魔王』なんて洒落にならんぞ!止めなければ!」
「二人ともソウゴを何だと思ってるの!?」
そんなコントじみたやり取りを繰り広げながら、彼等もソウゴの元へと追い付く。
「…ッ! ゲイツ君…!既に我が魔王は彼女に話し掛けている!」
「遅かったか…!いや、警備員に取り押さえられる前にとっとと謝って連れ戻せば…!」
「だから二人とも、その信頼の無さは何なの!?」
ツクヨミの突っ込みも無視して、暴走する男達はソウゴの元へと詰め寄る。
「あれ?ゲイツもウォズもどしたの?」
「どしたの?じゃない!───── えっと、この度は御迷惑をお掛けしまして…どうか、今回は穏便に…。」
「我が魔王!確かに君は偉大なる魔王だ。君の覇道を邪魔出来る者等居る筈も無い!…だが、この様な形でスキャンダルを起こすなど、将来君の歩む道において必ずや障害と成り…」
「えっと…ソウゴ君の…お知り合い、ですか…?」
見知らぬ男達の興奮した様子に、怯えた様に後退る彼女。反射的に、彼女は
「「「………ソウゴ君…?」」 」
「…皆どうしたの?智絵理は俺の幼馴染みだよ?」
「「「えぇぇぇぇーーーーー!!!???」」」
未だ完成すらしていないステージに、三人の絶叫が響き渡った。
「───── つまり。ゲイツとウォズは、俺が智絵理の迷惑なファンか何かだと勘違いしたって事?俺の事何だと思ってるのさ!」
「……スマン。」
「……面目無い。」
「だから言ったのに…。」
憤慨するソウゴと呆れ顔のツクヨミ。彼等の足元では、ゲイツとウォズが正座させられていた。先程までは怯えていた様子の智絵理だったが、その姿に警戒心も薄れたらしく。楽しそうに微笑みを浮かべ、彼らのやり取りを見ていた。
ソウゴの話によれば。彼女はソウゴの二つ年下だが、幼い頃よく一緒に遊んだ仲だという。
だが。嘗てのバス事故でソウゴが両親を失い、叔父である順一朗に引き取られて以降、こうして会うのは数年振りらしい。
「それにしても、智絵理がアイドルかぁ…俺ビックリしたよ!昔から歌上手かったもんね!」
「む、昔の事は恥ずかしい…です。えっと…ソウゴ君は、まだ王様目指してるの…?」
「あったりまえじゃん!俺は最高最善の王様になる。王になって、世界を良くしたいんだ!」
「ふふっ…ソウゴ君、久し振りに会ったけど…変わらないね。」
クスッ、と楽しそうに笑う智絵理。『王になる』という破天荒な夢物語への嘲笑ではなく、何時までも変わらない彼の姿に懐かしさを覚えたのだろう。
「ジオ…ソウゴは、やっぱり昔から王様を目指してたのか?」
「はい。周りの皆は笑ってたけど、ソウゴ君はすっごく真剣で…。」
「昔のソウゴ…どんな感じだったの?」
ちょっと~、と照れくさそうなソウゴを他所に、ツクヨミとゲイツは身を乗り出して智絵理へ問い掛ける。
「凄く…優しかったですよ。私は昔から恥ずかしがり屋の引っ込み思案で、皆と上手く話せなかったり、男の子にはからかわれたりもして。…でも、ソウゴ君は何時も私を助けてくれたんです。
それに、皆にからかわれても『王様になる』って意見を曲げないで…そんなソウゴ君が羨ましかったりもしました。」
◆
「ひっく…うう…。無いよぉ…。」
涙に頬を濡らしながら、教室のロッカーを漁る少女。小学生の無邪気な残酷さが引き起こした、意地悪の標的に智絵理が選ばれたのだ。
「あれ?智絵理、どうしたの?」
「ソウゴ君…。」
これからまさに帰宅する所だったのだろう。ランドセルを背負い、教室の外から彼女へ声を掛けたのは、仲良しの二個上の男の子。
「私の筆箱、どこかに隠されちゃって…。」
「それで泣いてたんだ。嫌な事するヤツもいるなぁ…。」
そう言いながら、当たり前の様にランドセルを下ろし、智絵理の隣へ並ぶソウゴ。
「で、俺は何処から探せば良い?俺は上級生だから、何処にあるのか心当たりとか全然分かんないんだよね。」
「え…?い、良いよ…ソウゴ君に、迷惑掛けちゃう…。」
「何で?民が困ってたら助けるのが王様でしょ?迷惑なんて無いよ。一緒に見付けて、さっさと帰ろう!」
にっこりと微笑み掛けるソウゴ。
「おじさんもおばさんも忙しいだろ?今日、うちにおいでよ!久々に叔父さんが遊びに来てるんだ。叔父さんのカレー、美味しいんだよ~!」
良い王様ってのがどんな物なのか、幼い智絵理には分からなかったけど。───── 智絵理にとって、ソウゴは間違いなくヒーローだった。
◆
「ソウゴ…やるじゃん!」
「我が魔王も、中々隅に置けないね。然し当時の悪戯小僧も、まさか智絵理君がアイドルになるとは思いもよらなかっただろう。」
「な、なんかもう…照れるから。だって、俺は王様として正しいと思った事をしただけだよ!」
「そこがお前らしい、という事だ。良い話じゃないか。」
智絵理の話を聞き、三人とも暖かい視線を向けてくる。ソウゴとしては何だか酷く気恥ずかしくて堪らない。
と、
「緒方さん、リハーサルの準備をお願いします。」
ステージの方から、スタッフらしき人物が智絵理に呼び掛ける。どうやら随分と話し込んでいたらしい。
「は、はい!…皆さん、有難うございました。楽しかったです…!えっと…是非、ステージも見に来て下さい。私、頑張りますから!」
少し気恥ずかしそうにそう告げると、彼女はステージへと向かい駆け出し──────
「……!?智絵理!!!」
「…?はい?えっと、ソウゴ君…?」
咄嗟に呼び掛けたソウゴの声に、足を止め不思議そうに振り向く彼女。
次の瞬間、彼女の背後で爆発が巻き起こる。
ソウゴが呼び止めなければ、間違いなく彼女も巻き込まれていただろう。
「きゃあ!?な、何…!?」
「馬鹿な…コイツは…!」
立ち上る煙の中から現れたのは、異形の怪物達。
【ギルスゥ…】
【ゲンムゥ…】
「アナザー…ライダー…!」
禍々しい姿の怪人が、ソウゴ達の前に立ち塞がった。
その頃の叔父さん
「おお!もう使えないと思ってたコンロが直った!流石町一番の修理屋さん!」
「すみません、今度はこっちの音響もお願いして良いですか!?」
「はいはい、分かりましたー!……僕、時計屋なんだけどなー…。」
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