魔王と歌姫   作:banjo-da

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ジオウロスタァーーイム!!(つらい)


2008:白馬の王様

クジゴジ堂を駆け出した後。行く宛も無く歩きながら、智絵理は泣いていた。

あの怖い男…ソウゴ達の言う『タイムジャッカー』の話では、確かにあの怪物達は自分を狙っているワケではない。

 

けれど。

あんな怪物が無秩序に暴れるかもしれない状況で、大勢の観客を危険に晒す恐れが有る。

そう思うと、智絵理にはどうしてもライブを開催する気にはなれない。

 

『私のせいで誰かが危ない目に逢ったら。』

『私のせいで、誰かが傷付いたら。』

『私のせいで……。』

 

智絵理の中に芽生えたネガティブな感情は、軈て思考を覆い尽くし、自身も気付かぬ内に己が原因だと責め立てる。

 

けれど──────そんな中でも、心の何処かでこのライブをやりたいと思っている自分がいる。

当然だろう。この日の為に、彼女がどれだけ努力してきたのかを知っている者達ならば、迷わず彼女の想いを尊重しただろう。

元々自分に自信がなく、人見知りで、他人を思い過ぎる程に優しく臆病な彼女が、漸く歩み始めた最初の一歩。

満員のホールでなくとも、そんな事は関係無い。

───自分の歌が人々を笑顔にする。彼女は、そんな小さな願いの為に、寝る間も惜しんで努力してきたのだから。

 

けれど、この場にそれを知る者は居ない。彼女の想いを肯定してあげる人間は居ない。

故に、彼女はそんな自分すら責め続けた。

 

「……駄目なのに…皆が傷付くのは嫌なのに…こんな…。私…なんて駄目な事考えてるんだろう…!」

 

涙が止まらない。彼女の抱いた小さな願いすら、今の彼女には自らへ刃の様に突き刺さる。

悲しくて、辛くて、いっそ消えてしまいたい。そんな想いで一杯になっていた時。

 

「……駄目な事考えてたの?俺はさ、別にライブやっても大丈夫だと思うんだけど。」

 

塞ぎ込んでいた彼女の耳に届く、優しい声。

思わずそちらを振り返れば。

 

「やっと見付けた~…こういう時は、白ウォズのノート欲しくなるよね。」

 

「ソウゴ…くん…?」

 

幼き日と変わらぬ笑顔で智絵理を見詰める、彼女のヒーローがそこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あったー!

つっかれたぁ…でも、あって良かった!」

 

幼き日。彼女のピンチに颯爽と現れた仲良しの少年は、何の躊躇いも無く彼女を助けてくれた。

そんなソウゴの姿が、智絵理には最近友達に勧められて読んだ本の王子様と重なって見えた。

 

「ソウゴくん…ありがとう…。ソウゴくんって…白馬の王子様…みたい。」

 

幼い少年がヒーローに憧れる様に、幼い少女の多くが夢見るであろう存在。悲劇のヒロインのピンチに颯爽と現れ、救ってくれる王子様。

まだ恋愛と友情の定義すら曖昧な、小さい子供ではあるけれど。智絵理も例に漏れず、何処かそんな憧れは抱いていた。

 

然し、ソウゴは意外にも渋い顔をする。

もしかしたら、自分に好意を抱かれるのは嫌なのでは…ソウゴのその顔に、智絵理は小さな不安を覚える。

 

───── けれど、彼から返ってきた言葉は意外なものだった。

 

「白馬の王子様…かぁ。俺、カッコいいとは思うけど、あんまり憧れないんだよね…。それなら俺は…白馬の王様が良いかな?」

 

「白馬の…王様…?」

 

聞いた事も無い単語に、智絵理は首を傾げる。

 

「白馬の王子様って、困ってる女の子のピンチを助けてあげるでしょ?でも俺は、世界を良くする王様になりたい。

 

誰かが困る前に助けてあげられるなら助ける。

困っちゃったのなら、やっぱり助ける。

困った事がなくなっても、今度はその人がもっと幸せになれるように力になる。

王子様じゃなくて王様なら、そのくらいやれないと。

───── だから俺は、王様になりたい。智絵理も、皆も、守ってあげられる王様が良い。」

 

馬関係無いけど。そう言いながら笑うソウゴの姿が、智絵理には堪らなく大きく見えた。

 

「ソウゴくん、凄いなぁ…。…………それじゃあ、その…。」

 

「ん?どしたの?」

 

「ソウゴくんは…私の、王様になってくれ…る…?」

 

我ながら何を言っているのだろう。

口走った自分の言葉に、思わず真っ赤になる智絵理。

けれど。

 

「あったりまえじゃん!」

 

そんな彼女に、ソウゴは暖かな笑顔で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ…今思うと、別に白馬の王子様もその場限りじゃないよね。ちゃんと助けた後、ハッピーエンドになってるし。」

 

気恥ずかしそうに苦笑するソウゴ。彼のそんな姿は中々に珍しく、思わず智絵理も小さく笑みを溢す。

 

「でも、私は凄く嬉しかったよ…。ソウゴ君なら、どんな時だって助けてくれる…そう思えた。」

 

「そう?なら良かった!」

 

はにかんだソウゴが、智絵理を正面から見据えながら、態とらしくコホンと咳払いする。

 

「……それじゃあ、期待に応えないとね。

───── 智絵理さ、やっぱりライブやりたいでしょ。」

 

その瞬間、彼女の表情が曇る。これでもかと泣いた筈なのに、彼女の視界がまた涙で滲む。

 

「そんな事…わ、私も、危ないのは嫌だし…。」

 

「そう?でも智絵理、昔から嘘吐く時髪弄る癖あるよね。」

 

ソウゴの言葉に思わず自分の両手を見る智絵理。然し、彼女の手は髪に触れてすらいない。

けれど、その反応だけで充分だった。

 

「ごめん、嘘吐いたのは俺。でも、そうやって手を見たって事は…やっぱり、やりたいと思ってるんでしょ?」

 

「ひ、ひどいよ!……だって…今日まで、皆と頑張ってきて、かな子ちゃんにも、杏ちゃんにも見送ってもらって……一人でも、頑張ろうと思って…!」

 

胸の奥底へ押し留めていた感情が溢れ出す。

 

そうだ。自分は歌いたい。

 

自分に自信が持てなくて、それでも皆と頑張ってきて。そんな自分を認めてくれた仲間達や、自分の為に集まってくれた人達の為にも、勇気を出して一歩踏み出したい。

…けれど、そんな思いは叶わない。だって、今日のステージを頑張りたいのと同じ位、他の人達が傷付くのは嫌だから。

 

「……けど、どうしたら良いのか分かんなくて…。誰かが傷付くのは嫌で…頭も、心も、ぐしゃぐしゃして…。」

 

「一人じゃないよ。」

 

智絵理の言葉を遮る様に、ソウゴは力強く言う。

 

「え…?」

 

「前にさ。俺、ある人…ある神様?に言われたんだ。」

 

 

 

『全部一人で解決するのが、君の考える王様なのかい?』

『それじゃあ…君の周りに居る人達がいる意味がなくなる』

 

 

 

『信じてみると良い!』

 

 

「…ってさ。智絵理もそうだよ。

智絵理を送り出してくれた人達が居て、智絵理を待っていてくれる人達が居て。…今は俺も、ゲイツやツクヨミやウォズも居る。智絵理一人が背負い込む事は無いよ。」

 

幼き日の彼女に手を差し伸べた彼と、何ら変わらぬ暖かな言葉。けれど、今の彼女はその手を取る事は出来ない。

 

「……でも…そうしたら、ソウゴ君がまた危ない目に…。それに、幾らソウゴ君が強くても…。」

 

「えっと…うーん…。──── うん、ゴメン!俺が戦うのは避けられない。だって俺、皆を守る王様になりたいから。」

 

「じゃあ…ッ!」

 

「でもさ?それは俺が、そうしたいから戦うんだ。…智絵理が夢のために、自信の無い自分と戦ってるのと同じ。」

 

「同じ…?」

 

溢れ出す涙を拭いながら、智絵理はソウゴを見詰める。

そんな彼女の視線を真っ直ぐ見詰め返し、彼はゆっくりと頷いた。

 

「うん、同じ。体が傷付くか、心がしんどいかの違いだけ。

─── 俺は俺の夢の為に、俺の民を傷付ける奴等と戦う。

 

 

誰だって何かと戦って、傷付いて、それでも前に進んでる…どんな時だって時計の針が前に進むみたいに、俺達は皆、前に向かって進んでる。進まなくちゃいけないんだ。」

 

矢張り何処か不器用な手付きで、ソウゴは智絵理の頭を撫でる。

大丈夫…そう語り掛ける様な暖かな手の温もりに、智絵理の目からは拭った筈の涙が再び溢れてくる。

 

「…智絵理。もう一度聞くよ?智絵理は、どうしたい?」

 

「私は……歌いたい…!皆に、私のステージで、笑顔になってもらいたい…!皆と一緒に…キラキラ輝きたい…!」

 

苦しんで。苦しんで苦しんで苦しんで。

───── それでもなお捨てられぬ、彼女の想い。

 

それを聞いたソウゴは、胸を張って微笑んだ。

 

「任せて。なんたって俺は、智絵理の白馬の王様なんだから!」

 

 

 

 

 

それから暫くして、漸く落ち着きを取り戻した智絵理。

とはいえ、いざ冷静さを取り戻すと…正直互いに、ちょっと恥ずかしい。

智絵理は顔を真っ赤にして、ソウゴですら先程から「たはは…」と苦笑しながら、視線をあちらこちらへ泳がせていた。

 

とはいえ、このままでは埒が明かない。

互いに深呼吸し、一度視線を合わせ───── 結局照れて少し視線を逸らしながらも、やっとの思いでソウゴは言葉を絞り出す。

 

「えっと…と、取り敢えず、アナザーライダーは俺達に任せて?」

 

「う、うん…でも、本当に大丈夫…?」

 

意思を固めてもなお、矢張り少し不安の拭えない智絵理。けれどソウゴは自信満々にサムズアップで応える。

 

「大丈夫大丈夫!さっきも言ったでしょ?次は何かいける気がする!…ってさ。」

 

「こ、根拠は無いんだね…。」

 

根拠は無い筈なのに、思わず苦笑してしまう程の自信。

けれど、そんな彼の姿がとても懐かしい。彼が『いける気がする』という時は、何時だって何とかしてしまうのだ。それを知っている智絵理の胸中は、不思議な安心感に包まれる。

 

「まあ、大丈夫だよ。それに、全然根拠無いってワケでもないしね。」

 

「え?」

 

「言ったでしょ?俺だけじゃなくて…ゲイツ達も居る。俺には頼れる仲間が居るからさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…御協力に感謝する。これなら我々だけでアナザーライダーを探すより、遥かに効率が良い。」

 

「気にするな。君達には色々と世話になったからね。それに津上さんからもお願いされちゃ、断るワケにはいかないよ。」

 

ウォズと向かい合う一人の男。その服装から彼が警察官だということは一目瞭然。

彼の名は尾室隆弘。警察の特殊部隊『G3ユニット』を統括する指揮官であり、嘗てアナザーアギトの一件でソウゴ達と共に戦った男である。

 

「というかウォズ…そう言えばしれっと連絡先交換してたのよね…。」

 

「相変わらず抜け目無い奴だ。」

 

「これは心外だね…それに、現にこうして彼等の協力を得る事が出来た。」

 

スウォルツの話から、今回の敵はこれまでのアナザーライダー達と違い、特定の対象に固執しているワケでは無いと発覚した。となれば、今までの様に的を絞ってアナザーライダーを探す事は難しく、かといって闇雲に探していては被害の拡大は免れない。

 

「…となれば、我々だけで探すより効率的な手段を取るべきだ。」

 

「元々こういう大きな祭りには、安全のため警察も出動はするものだけどね…この前みたいな化物が出てくるなら、協力は惜しまない。」

 

尾室の尽力により、辺り一帯を警察が監視。アナザーライダーが出現次第、ウォズ達が連絡を受け急行する…という協力関係を結ぶ事が出来た。

無論、警察上層部にはそもそも祭りそのものを中止すべきという意見も少なくなかった。アナザーアギトの事件や、更に昔…アンノウンの事件を知る以上、市民を守るべき警察としては、その様な判断を下そうとするのは当然の事だろう。

けれど、尾室は何とかそれを押し切り、ここまでの状況を作り上げた。それがどれだけ大変な事なのかは、ゲイツ達にも想像に難くない。

 

「……本当に感謝する。お陰で、アナザーライダー達の被害を最小限に抑えられる。」

 

「祭りは夕方五時から…いや、人の集まりを考えれば、タイムリミットは四時といった所か。後一時間程しかない。」

 

「でも、やるしかないわ。」

 

強い意思の籠ったツクヨミの言葉に、その場の全員が同意する。

 

「そうだな…。フッ…今日は白馬の王様が、歌姫の為に全力を尽くすだろうしな。今日はアイツの顔を立ててやるとするか。」

 

「白馬の王様?」

 

「こっちの話だよ…。

さて、作戦開始といこうじゃないか。」

 

ウォズの言葉を合図に、彼等は駆け出した。

 

 

 

【タイムリミットまで、後一時間】




if:ゲイツルート

智絵理「……けど、どうしたら良いのか分かんなくて…。誰かが傷付くのは嫌で…頭も、心も、ぐしゃぐしゃして…。」
ゲイツ「落ち着け…まず今のお前に必要なものは、冷静さを取り戻す事だ。その為に…そうだな、仮眠でも取れ。

───── ラベンダーの香りだ。リラックスして快眠出来るぞ!」

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