「───────この本によれば。」
王を目指す少年、『常磐ソウゴ』。
彼には魔王にして時の王者、『オーマジオウ』と成る未来が待っていた。
アナザークローズをこの私、ウォズが。アナザーゲンムをゲイツが撃破し、残るアナザーライダーは後一人。
少女と我が魔王の交わした小さな約束の物語も、残るは僅か2ページ…最後までお付き合い頂ければ幸いです。
◆
「グ……グガァ……!」
木々はへし折られ、周囲には破壊された物が散乱している。
まるで事故でも起こったと言わんばかりの凄惨な状況の中心で、苦しそうに呻く異形の怪物。幸い人々は既にその場から避難を終え、辺りに犠牲者と成り得る者が居ない事は唯一の救いと言えるだろう。
「─────!」
不意に、アナザーギルスの聴覚が何者かの足音を捉える。
音の方へと顔を向ければ、一人の少年が臆する事無くアナザーギルスの方へと歩みを進めていた。
「……お待たせ。苦しいのは分かってる。無理矢理アナザーライダーにされて…しかも、ギルスの力は身体を蝕むってウォズから聞いたよ。」
唸るアナザーギルス。けれど少年は怯まない。
「─────けど、ごめん。今から俺はアンタを倒す。
倒して…アンタも、俺の民も……智絵理の夢も救ってみせる。」
『ジオウ!』
少年が手にした小さな時計の様な物を、腰に巻いたベルトへ装填するその姿に。
アナザーギルスは敵対の意を示す為、咆哮した。
「グゥ…オオオオォォォォォォ!!!!!」
「変身ッ!!」
アナザーギルスの叫びにも負けず、凛と響き渡る少年の声。
今まさに、魔王と怪物の戦は幕を開けた。
◆
「智絵理さん!」
「あっ…ツクヨミさん!皆さんも!」
いよいよ本番を目前にして、ステージ脇のテントで待機していた智絵理。
少し緊張気味に表情を強張らせていたが、見知った顔が現れ安堵の笑みを浮かべる。
「皆さんが来た…って事は…。」
「ああ、アナザーライダーは撃破した。残るはジオ…ソウゴだけだ。」
「であれば、問題は無いさ。私としてはゲイツ君がしくじらないか不安だったが…我が魔王に限って、その心配は必要有るまい。」
「奇遇だな。俺もお前が一番の懸念材料だった。随分手こずった様だがな?」
「おや?心遣い有難うゲイツ君。なに、君程では無いさ。」
「二人とも、智絵理さんの前で喧嘩するの止めて…恥ずかしいから。」
「「………ふん。」」
「はぁ…。」
睨み合うゲイツとウォズに呆れた様子で溜め息を溢すツクヨミ。
そんな様子に、くすくすと小さく笑みを溢す智絵理。
無論、ソウゴへの心配やステージの不安も有るだろうが…アナザーライダーが現れた直後と比べかなり落ち着いた姿に、ツクヨミもゲイツもウォズも安堵する。
人たらしと言うか、ソウゴの言葉は人の心に真っ直ぐに響き…時に熱く震わせ、時に穏やかに落ち着かせる。
智絵理の様子の変化は間違い無く彼への信頼からだろうと、その場の全員が感じ取っていた。
「──────失礼します。…貴方がたは…?」
背後へ、テントへと誰かが入って来る気配を感じたかと思えば。
そちらから不意に呼び掛けられ、ツクヨミ達は振り返る。
振り返り、その強面ぶりに固まった。
「……!?だ、だ、誰だ!?」
「……成程。この本によれば、この時代の日本の芸能プロダクションには…用心棒として裏の人間を雇う会社や、そもそも組織の運営母体に裏社会の組織が付いている所も有るらしい…。この男性も、きっとその手の…!」
「絶対そんな事書いてないでしょ!?何なの!?貴方の持ってるその本は、ゴシップネタ満載の週刊誌か何かなの!?というか失礼過ぎるわよウォズ!」
どれ程恐ろしい敵が相手でも勇敢なゲイツは、然し流石に予想外の展開を前に、実はビビりな姿を惜し気もなく披露する─────要約すると、強面に驚いて思わず尻餅を着いた。
ウォズは驚きつつも、冷静に目の前の人物を分析。
……している様で、実は結構動揺している彼に、普段通り突っ込みを入れるツクヨミ。この中で最もタフなメンタルを有しているのは間違い無く彼女だろう。
「……驚かせてしまって申し訳ありません。私はこういう者です。」
厳つい顔付きとは裏腹に、申し訳無さそうな様子で名刺を差し出してくる男性。その姿に警戒心の薄れた三人は、差し出された名刺を覗き込む。
「美城プロダクション…アイドル事業部…。」
「つまり、智絵理君のプロデューサー…失礼。私とした事が、とんだ早とちりをしていたようだ。」
「あれ…早とちり、で済むレベルなのかしら…。」
ジト目で自身を見詰めるツクヨミに気付かぬ振りをしつつ、コホンと咳払いするウォズ。
然しプロデューサーは苦笑しつつも、「慣れてますので」と特に気にした様子は無い。それが却ってウォズの罪悪感に触れたのか、彼は小さく目を逸らす。
「それはそうと…話が逸れてしまいましたが、貴方達は一体…?緒方さんの御友人でしょうか。」
「まあ…そんな所だ。一番の関係者は、今は席を外しているがな。」
漸く立ち直ったらしいゲイツがプロデューサーの問いに答える。
ゲイツの言葉に、プロデューサーは少し不思議そうな表情を浮かべた後、合点が行った様子で彼等へ微笑み掛けた。
「……成程。にわかには信じられませんが…貴方達が、緒方さんを襲った怪物を退けて下さったのですね。」
「む、その様子だと知っていたのか?」
「まあ、普通に考えれば一大事だ。増して…そんな状況でライブは予定通り開催。智絵理君が保護者に当たる彼へ報告していても、何ら可笑しくは無いだろうさ。」
ウォズの言葉に頷いたプロデューサーは、明らかに年下の筈の彼等へ深々と頭を下げる。
その姿に、彼等は驚き顔を見合わせた。
「ちょっ…ぷ、プロデューサーさん…ですよね。頭を上げて下さい!」
「いえ…これは当然の事です。寧ろ本来であれば、正式に御礼をしなければならない状況。生憎今すぐに何かをするという事は出来ませんが…それでも、僭越ながら美城プロダクションを代表して。
─────そして何より、緒方さんの夢を応援して来た一人の人間として、貴方がたへ心からの感謝を。」
──────彼女の夢を守って下さって…本当にありがとうございました。
強面で不器用ながらも、心からの感謝に満ちた微笑みを向けられ。
ツクヨミは照れくさそうに微笑み返し、ゲイツは照れ隠しの様に視線を逸らし、ウォズは何時も通りの不遜な…けれど何処か誇らしげに、満足気な笑みを返した。
「…俺達は、やるべき事をやったまでだ。それに、まだ気を抜くには早いだろう。」
「未だ我が魔王が戦っている─────尤も、心配する事は無い。
それよりも、君は智絵理君のプロデューサーなのだろう?であれば…ここからが本番という事だ。」
だろう?と問い掛ける様に、ウォズがプロデューサーへと視線を向ければ、彼もまた力強く首肯する。
そして智絵理へと視線を移せば。
彼女の目はやる気と期待に満ち溢れており、先程の不安に満ちた彼女とは最早別人のようだ。
この分だと、心配は要らないらしい。
さあ、我が魔王────是非一刻も早く帰還されよ。
君を慕う民の晴れ舞台は、もう間も無く開演だ。
彼にしては珍しく穏やかな気持ちで、誰の耳にも届かぬ程小さく独りごちた。
◆
『5、4、3、2、1…ゼロタイム!』
「う……おりゃぁぁあ!!!」
『ギリギリ斬り!!』
凄まじいエネルギーを纏った一閃。
アナザーギルスを斬り伏せんと振り下ろされる刃を、然しアナザーギルスは驚異的な反射で掴み取る。
「ガ……ッ!!」
その反応と技量は凄まじいものではあったが、当然その勢いを止め切れる筈も無く、彼の両手は無惨にも切り落とされる。
だが、数歩後退させられたもののアナザーギルスは怯む事無く。
たった今手を切り落とされたばかりの両腕をジオウ目掛けて突き出しながら、開いた距離を埋める様にジオウへと飛び掛かり───────。
「だろうね!アンタなら、
アナザーギルスならきっと獰猛な獣の様に、一切怯む事無く反撃に転じるだろう─────そう読んでいたジオウは、振り下ろしたジカンギレードを即座に銃モードへ変形させ、緑色のウォッチをスロットへ装填。
そのまま流れる様な動きで眼前へと迫ったアナザーギルスへ銃口を向け、トリガーを引く。
『フィニッシュタイム!ダブル!
スレスレシューティング!』
直後、銃口からアナザーギルス目掛けて叩き込まれる強烈な風の弾丸。
竜巻の様に渦を描くそれは、空中で何の足場も持たないアナザーギルスを容易く弾き飛ばした。
「ガッ…ハ…!ウウッ……ァアアアア!!!」
高速で渦を巻く風の弾丸をモロに喰らい、地面へ叩き付けられてなお。一切戦意を衰えさせる事無く立ち上がり、咆哮するアナザーギルス。
見れば、先程切り落とされた手は既に再生しており、今の一撃で身体全体へと負った傷も目に見える程の早さで再生しつつあるのが分かる。
元よりジオウ自身、今ので倒せる等とは思っていない。
だが、予想はしていたが…この異常なまでの再生力は、ちょっとやそっとでは崩せない。
より大きな力で、再生させる間も無くウォッチを破壊する他無いだろう。
「行くよ!」
『ジオウ!Ⅱ!!』
取り出したのは、まるで中央にジオウウォッチが嵌め込まれたかの様な独特な形をしたウォッチ。
彼が側面のスプリットリューザーと呼ばれるダイヤルを操作すると、それは一つの大きなウォッチから、二つのライドウォッチへと分離する。
それらをジクウドライバーの両側スロットへセットすれば、彼の背後に二つの巨大な時計が現れる。
鏡映しの様に、互いに反転し合っている二つの時計の文字盤。
表と裏。過去と未来。最高最善と最低最悪。
それは全てを受け入れ、全てを司ると決意を固めた王の証。
ジオウがジクウドライバーを一回転させれば。
二つの時計に『ライダー』の文字が浮かび、弾け飛ぶ。
『『ライダータイム!!』』
『仮面ライダー!』『ライダー!』
『『ジオウ・ジオウ・ジオウ! Ⅱ!!』』
弾け飛んだ文字が舞い戻り、ジオウの顔へと収まった時。
その身は既に、先程までとは異なる姿へ変貌していた。
頭部に備わった時計の針も、身に纏った時計のベルトを思わせる装備も二つに増え。
──────その名もジオウⅡ。
全ライダーを凌駕し、時空を越え、過去と未来をしろしめす時の王者と称されし存在。
「ギ…!グ、ガアァァ!!!!」
その姿、王の威厳に、本能的に何かを感じ取ったのか。
アナザーギルスが一際大きく雄叫びをあげれば、彼もまたその姿を変化させる。
両手両足の爪はより鋭く。両腕と両足首には鋭い刃が、その背からは刃の様に鋭利な先端を備えた四本の触手が出現した。
「グルル…!」
「アンタも、本気みたいだね。……でも、俺は負けない。こんな所で、立ち止まってるワケにはいかないから。」
静かに、けれど強い意思を込めて呟くと、ジカンギレードを構え直すジオウⅡ。
そんな彼目掛けてアナザーギルスは飛び掛かり、一気に互いの距離が詰まる。
「ウオォォ!!」
「でぇぇい!!!」
ジオウⅡへと振り下ろされるアナザーギルスの腕の刃。
負けじと横薙ぎに振るわれるジカンギレードの一閃。
刃と刃が音を立ててぶつかり合い、火花を散らす。
その衝撃をものともせず、目の前の敵を貫こうと直ぐ様反対の手を突き出すアナザーギルス。槍の様に鋭く迫るその一撃を、ジオウⅡは咄嗟にバックステップで回避した。
だが、その程度ではアナザーギルスの勢いは止まらない。ジオウが後退して生まれた距離をまるで関係無いとばかりに詰め、容易くジオウⅡのボディ目掛けて振るわれるアナザーギルスの触手。ジオウⅡは紙一重でそれを捌いていくが、次第に追い詰められ始める。
拮抗した状況…というより、ジオウは防戦一方。当然そんな状況は長くは続かず、遂に一本の触手を捌き損ねてしまう。
「しまっ……!」
咄嗟に身を捩り深く突き刺さる事は無かったものの、その勢いに弾かれ身体は大きく仰け反った。
その隙を見逃す程アナザーギルスは甘い敵では無く。畳み掛けるかの如く、残る全ての触手をジオウⅡ目掛けて一斉に打ち出した。
普通に考えれば、そこから反応する事など出来る筈も無い。如何に時の王と言えど、全身を貫かれてはひとたまりもないだろう。
だが、アナザーギルスは知る筈も無かった。
─────
「っとぉ!!」
「!?ガ……」
仰け反った勢いに逆らわず、ジオウⅡは踵で強く大地を蹴り、そのまま自ら後方へと勢い良く飛び退く。
標的を失った触手は空振り、アナザーギルスに大きな隙が生まれた。
「騙してゴメン。それは既に、
『フィニッシュタイム!ウィザード!』
盛大に地面へと叩き付けられながらも即座に半身を起こすと、彼は先程の様にジカンギレードを銃モードへ変形。ゲイツから預かったウィザードウォッチをセットし、素早くアナザーギルスへ照準を定める。
『スレスレシューティング!』
砲身から射出されるは、巨大な銀の弾丸。
凄まじい勢いで迫り来るそれを、然し二度同じ手は食わんとばかりにアナザーギルスは跳躍して回避する。
「だよね!
瞬間。銀の弾丸が突如軌道を変え、空中のアナザーギルス目掛けて宙を舞う。
「…!?ガッ…!」
再び弾丸が目前へと迫ったかと思えば。彼の前でそれは突如強烈な閃光を放ち、アナザーギルスの視界を白く塗り潰す。
咄嗟に腕で顔を覆うと同時に、何かに全身を絡め取られ、そのまま強く縛り付けられる。
自身の身に起こった異変に驚く間も無く、空中で自由を失った彼の肉体は、そのまま無惨にも地べたへ追突した。
「グォオ…!?ギィ…!」
混乱の中アナザーギルスが視界を動かせば、自身が無数の鎖で縛られている事に気付く。
漸くアナザーギルスは理解した。
触手を食らったのも、必殺技の銃撃をジャンプで躱されたのも。目の前の敵にとっては全て想定内の出来事だったという事に。
彼は地へ這いつくばりながらも必死に鎖を引き千切ろうとするが、
「俺とアンタのショータイムは、これでフィナーレ!
ここからは、智絵理と皆のステージだ!!」
脱出を図り藻掻くアナザーギルスは、自身へ向けられた声の方向へと顔を向け。
ジオウの顔を模した装飾の施された、時計の針の様な形状の剣と。銃モードから剣モードへと戻したジカンギレードとを合体させ、一つの巨大な剣へと変化させるジオウⅡの姿を見た。
ジカンギレードと、サイキョーギレード。時の王者の有する二振りの剣は、組合わさる事で彼の持ちうる最強の武器…サイキョージカンギレードへと姿を変える。
『サイキョーフィニッシュタイム!!』
サイキョージカンギレードから響き渡るそれは、魔王の下す処刑宣告。
元より大きな刀身へ光が集まり、軈てそれは巨大な光の刃を形作る。
「これで…!」
『キング!ギリギリスラッシュ!!』
「終わりだーッ!!!」
アナザーギルスへと振り下ろされる『ジオウサイキョウ』と描かれた巨大な光の刀身。
その圧倒的な力の塊は、アナザーギルスの全身を呑み込む。
「グァ…ガッ…アアァァァ!!!!」
王の一撃は、しぶとく足掻こうとする彼の再生力を容易く凌駕し、それでもなお収まらぬエネルギーが巨大な爆発を巻き起こす。
「……間に合った…かな?」
ふっと安堵の息を漏らしながら、ギルスの力から解放され横たわる男性の元へと歩み寄るのだった。
無理くりダブルウォッチ入れたのは「少女の涙を拭う二色のハンカチ」的な事をやりたかったけど尺が無くて見送った名残。町の涙も、智絵理の涙も、ついでに肝試しでビビりまくるゲイツの涙も拭ってやるぜ。
ついでにウィザードはやりたい放題。一発に曲がる弾丸もライトもバインドもぶちこんだのは多目に見て下さい。
次でラストとなります。お待たせして申し訳ありませんでした。
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