勇者達が邪神の玩具にされる話   作:黒歴史ノート

12 / 21
十二話 鬼

 高嶋友奈は最近、自分の将来に強い不安を感じていた。

 丸亀を襲撃するバーテックスの数は、とても少ない。

 そんな中で、友奈のバーテックス相手の戦闘経験は豊富ではなかった。

 最初は、誰しもそういう物だと、友奈は自分を慰めていた。

 これから少しずつ経験を重ねて行けば良いと思っていた。

 大社の職員も、バーテックスの襲撃は徐々に激化するものだと話していた。

 

 しかし、そんな友奈の抱いていた、不謹慎とも言える期待は裏切られた。

 

 友奈が戦闘経験を積むようなチャンスはまるで巡って来なかった。

 バーテックスの襲撃自体は、小規模だが存在した。

 だが、我先にとバーテックスへ挑みかかる若葉と千景、そして歌野。

 千景など、最初はバーテックスに怯えていて、友奈が手を引いていた。

 それなのに気がつけば、千景は友奈がいなくても前へ前へと出て戦っている。

 三人に一歩遅れて戦う中、友奈はどうしてこうなったか、焦る頭で考えた。

 そして、自分が最初に奥の手を発動したせいだと思った。

 

 友奈は初戦闘時、バーテックスの融合体を相手に"一目連"の奥の手を発動した。

 

 暴風のような絶え間のない連撃で融合体を撃破、友奈は初戦闘のMVPになった。

 だが、大社は奥の手の反動を調べる為、友奈に検査入院を命じた。

 そんな検査入院をしている間に、友奈は全てを失ったのだ。

 病院から戻って来ると、友奈がいた筈の場所になぜか歌野がいた。

 若葉の隣で戦い、内気な千景と話をして、皆を笑わせていた。

 

 それからの数週間は、友奈にとって悪夢のような期間だった。

 

 ずっと一緒だったのに、千景の気をうまく引けない。

 友達の中にいるのに、居場所をうまく作れない。

 奥の手で心が弱っていたから、友奈の行動がぎこちなかったのかもしれない。

 だが、友奈は自分を省みるより、自分の居場所を奪った歌野の存在を疎ましく思った。

 だから、歌野が四国外へ行く話を聞いた時、友奈はホッとした。

 球子や杏が一緒に行くのに、ろくに心配すらしなかった。

 これで千景はまた友奈を見てくれる、そんな事ばかり考えていた。

 日進月歩の頑張り屋な千景は、気づけば友奈よりずっと先にいた。

 だから、急いで追いかけようと思った。

 まだ追いつける、千景なら待ってくれる、まだ隣に立てると思った。

 

 そんな、自分勝手な友奈に罰が当たったのだろう。

 

 歌野達が出発してすぐ、獅子座というバーテックスが発見された。

 四国のすぐ隣、淡路島にそれは居座っていると大社は言った。

 丸亀城の教室で見せられた、戦闘映像の緊張感に友奈は呼吸を忘れた。

 超遠距離から放たれる火の玉。止まらない着弾音。沸騰する海。

 歌野達が戦闘を回避したのも納得の敵だった。

 友奈は、それと戦って勝利を掴む自身の姿が想像できなかった。

 だが、大社の職員は戦闘映像を見せた後、友奈に声をかけた。

 

 友奈には大社から二つ目の奥の手、"酒呑童子"が渡された。

 

 その晩、友奈は恐怖で眠る事ができなかった。

 目を瞑ると、獅子座に焼かれる自身の姿が浮かんでしまったのだ。

 二つ目の奥の手を渡されたという事は、戦えという事である。

 若葉と千景には渡されなかった。

 歌野が代わりになるから、お前だけ要らないと言われた心地だった。

 嘘だと言ってほしかった。

 

 だが、友奈に味方してくれる人間など、一人しか思い浮かばなかった。

 

 友奈は千景の部屋へ駆け込み、お願い助けてと懇願していた。

 この時の友奈は本当にどうかしていたのだ。

 千景なら、きっと自分を見捨てないでくれる筈だと縋りついていた。

 そして、千景は友奈を優しく抱きしめてくれた。

 大丈夫だと、命に代えても守ると、千景は友奈を撫でてくれた。

 

 友奈はとんでもない事を言ってしまったと、己を殺したくなった。

 

 友奈の脳裏には、自分の身代わりになって焼かれる千景の姿があった。

 友奈が笑っていれば、自分一人の犠牲で済んだかもしれないのに。

 友奈は何よりも大切な親友に、死地へ行けと命じてしまったのだ。

 

 そこからの友奈はどうしようもなかった。

 

 千景に、何でもするから聞かなかった事にしてほしいと懇願した。

 千景がそれを拒み、大丈夫、絶対に守ってあげると言えば、友奈は怒り狂った。

 千景に今からでも嫌われようと、気が狂ったように当たり散らした。

 千景がされて嫌がる事はわかっていたから、何だろうとやった。

 何度でも殴りつけたし、ハサミをちらつかせたし、服を破いて辱めた。

 常軌を逸しているが、千景が死ぬよりはマシと本気で思っていたのだ。

 だが、友奈がそれだけの事をしても、千景は友奈を嫌ってはくれなかった。

 そして、何でもするならばと、一つだけ願いがあると言うのだった。

 

 千景の瞳は涙に濡れていたが、友奈への怒りは欠片も浮かんでいなかった。

 

 そして千景は、暴力を振るうのを止めた友奈に願いを告げた。

 どうか、自分で自分を傷つけないでほしい、と。

 友奈に殴られて傷ついていたのは千景なのに。

 友奈は自分がどんな表情で千景を殴っていたか、わからなかった。

 

 そして、千景の部屋の壁にかかった写真に、ふと視線が行った。

 

 千景と友奈と、勇者の皆が、仲良く並んで笑っている写真だ。

 そして、金属の額縁に、誰かの顔が映っていた。

 青白く、牙を剥くように歯を剥き出し、目だけ異様に爛々としている。

 友奈が拳を握ったまま頬の汗を拭うと、額縁に映る顔に血がついた。

 友奈の拳は、千景を脅しつけるのに床を殴りつけ、血に塗れていた。

 だが、額縁に映るそれは、友奈の目には鬼の顔にしか見えなかった。

 しかし、鬼の目の端に、光る物が見えた気がした。

 

 そこから先の記憶は、友奈には無い。

 

 友奈自身は、気づけば病院にいた。

 両手には、指の骨が折れているからと、ギプスを填められていた。

 だが、友奈にはそれが歌野の腕にかつて填められていた拘束用手袋に見えた。

 今では、歌野はそれを填めていない。

 歌野の腕は、人間を殴るのに慣れていない、無害な存在だったからだ。

 友奈の両腕は、親友を傷つけた忌まわしい物だから、封じられたのだ。

 友奈の拳へ込められた土地神の呪詛は、天へと向けられた物だった筈だ。

 だが、人を呪わば穴二つ掘れという。

 恐怖で天から視線を逸らした結果、天への呪詛はこちらへ返ってきたのだろう。

 そうであってほしかった。

 

 不幸中の幸いだが、千景は入院するほどの怪我ではなかったらしい。

 

 友奈は無意識のうちに殴る場所を選んでいたのかもしれない。

 だが、当然だが入院している友奈の見舞いに、千景は来なかった。

 代わりに、友奈と千景を病院へかつぎ込んだ、若葉が来てくれた。

 自分がもっと早く友奈の異常に気づいていればと、若葉は悔やんだ。

 しかし、外面を整えるのだけは得意だった、友奈は何も言えなかった。

 そんな友奈に、千景の様子を教えてくれたのも若葉だった。

 

 千景が見舞いに来ないのも、若葉が言うには友奈への気遣いらしい。

 

 そして、千景は見舞いの代わりに友奈へ手紙を書いてくれていた。

 手紙には、友奈への想いの言葉が綴られているらしいと若葉は言った。

 千景にしては珍しく、封筒の表書きは"友奈へ"と呼び捨てだった。

 

 ~~~~~~~~

 

 拝啓 高嶋友奈 様

 

 これまで、丸亀で出会った時から、私は友奈に助けられてばかりでした。

 私が友奈の温かい手に励まされた事は数え切れません。

 だから、私は友奈がどれだけ優しい子か、誰よりも知っているつもりです。

 だから、こんな一度きりの事で、友奈を嫌いになんてなれません。

 ごめんなさい。

 友奈はきっと、私に好かれるなんて嫌なのだと思います。

 友奈の手からは、嫌いになれ嫌いになれと気持ちが伝わってきました。

 だけど、ごめんなさい。

 私はやっぱり、友奈が好きなんです。

 私の仕返しと思ってくれても構いません。

 私は友奈が大好きです。

 百回殴られたので、百回大好きと書く事にします。

 大好き大好き大好き・・・・・・

 

 ~~~~~~~~

 

 友奈は唖然とした。

 この手紙を、あの内気な千景が書いたのかと。

 両手が使えない友奈の代わりに手紙を広げた、若葉も唖然としていた。

 まるでラブレター、いや、完全にラブレターだ。羅漢像ではない。

 千景だから、これを書くのに顔を真っ赤にしていたのは想像に難くない。

 友奈はこれほど重たい手紙を受け取った事はなく、ただ焦った。

 

 若葉に視線を向けても、首をブンブンと振られるばかりだった。

 

 友奈はとりあえず若葉に頼んで、手紙を額縁に入れてもらう事にした。

 四六時中眺めていれば、良い対応が思い浮かぶかもと思ったのだ。

 大社の職員がやって来て、精神的に安定するまでスマホを没収すると言っていたが、こう言っては悪いがあまり興味が湧かなかった。

 

 それから数日、千景のラブレターをじっと眺めて、友奈は将来を考えた。

 

 千景は将来、どんな家庭を作りたいのだろうか。

 友奈は将来、どんな家庭を作りたいだろうか。

 千景は将来、どんな仕事に就きたいのだろうか。

 友奈は将来、どんな仕事に就きたいだろうか。

 

 理想の将来を目指すのに、どんな課題があるのかも友奈は考えた。

 

 千景への謝罪を最初にしておくのは言うまでもない。

 次に、バーテックスもどうにかしないといけない。

 目先の課題、獅子座もどうにかしなくては二人の将来など無い。

 獅子座の炎がどれくらい熱いのか、情報が必要だと思った。

 力ずくで突破するには、どれくらい力が必要なのかも知りたくなった。

 スマホを没収されても、バーテックスの情報は教えてくれるだろう。

 

 その日、友奈は大社の職員を呼び、バーテックス関連の情報を求めた。

 

 すると、友奈の入院中にバーテックスの襲撃があった話を聞かされた。

 千体規模の襲撃で、未確認の大型バーテックスが二体もいたという。

 四国に残っていた戦力は若葉と、怪我をした千景だけだ。

 四国滅亡の危機だった筈だが、これはすぐ撃退に成功したらしい。

 なんでも、千景が戦場に現れただけで撤退を始めたのだという。

 千景のガッツポーズで大型バーテックスも逃げたらしい。

 冷静になると意味不明だが、当時の友奈はどうかしていた。

 

 友奈はうっとりと、流石は千景だと思うのだった。

 

 千景の出現でバーテックスが動揺した理由は大社も調査中らしい。

 ちなみに戦闘に入らなかった為、大型バーテックスの能力は不明だ。

 ただ、外見から暫定的に"蠍座"および"蟹座"と呼称されたそうである。

 そして、大社の職員は今後の戦いについて語る前に、友奈に頭を下げた。

 

 それは、おおよそ以下のような謝罪と頼みだった。

 

 バーテックスとの戦闘はこれから間違いなく激化していく。

 そんな中、準備不足のしわ寄せを友奈に押しつけて済まなかった。

 これまでのスマホは、もう友奈には渡せない。

 友奈には退院後、新しい勇者システムの訓練を受けてほしい。

 

 新しい勇者システムについて友奈が尋ねると、大社の職員はおおまかな経緯と仕様だけ、以下のように説明してくれた。

 

 北海道へ出発した護衛艦から、既存の勇者システムでは大型バーテックスにダメージが十分に通らないという情報が入った。

 北海道のカムイが合流した神樹から、自律行動する精霊の補助を受けられる新しい勇者システム案が神託で提示された。

 精霊が憑依するのではなく体表を覆う形の、奥の手の改良版と呼べる反動が無い強化システムの、プロトタイプが退院前までに出来上がる予定だ。

 大社の想定では、酒呑童子の性能も以前より遙かに向上する予定だ。

 

 友奈は酒呑童子を使えなかったので、どう性能が向上するのかわからなかった。

 

 ただ、大社側が使わずともわかる欠陥を隠していたのは友奈も理解した。

 それもまた、準備不足のしわ寄せなのだろう。

 どうせ過ぎた事なので、友奈は一つしか詳しくは聞かなかった。

 聞いたのはもちろん、千景の部屋で見た友奈自身の姿だ。

 そして、大社の職員は正直に答えてくれた。

 勇者システムで、神の加護を制御しきれなかった影響だろうと。

 感情のタガが外れるだけでなく、鬼の形相が出てきたのは精霊の強さ故だと。

 

 友奈は、ギプスを破壊して大社の職員を殴り飛ばした。

 

 友奈の両拳はとうの昔に治っていた。

 近接型の勇者の治癒能力からすれば指の骨折など一日で治る。

 大社が友奈の拳を封印しておきたかったようなので、大人しくしていただけだ。

 だが、友奈が千景を襲った原因が大社の隠し事なら、黙ってはいられない。

 

 しかし、大社の職員も殴られるのは覚悟の上だったのだろう、謝罪は無かった。

 

 ただ、友奈が一発きりで追撃をしてこないのを、じっと見ていた。

 そして友奈に、指が治ったなら、入院する必要はもう無いかと尋ねた。

 友奈が無いと答えると、その日のうちに退院の手続きは進められた。

 友奈が勇者システムがいつ出来上がるか尋ねると、もう出来ていると言われた。

 ただし、大社の情報管理は杜撰な為、秘密の訓練場へ案内するとも言われた。

 友奈は大社の職員なら情報管理くらいと言いたかったが、ずっと日の目を見ない組織だったから国の注目を浴びるようになった事で上層部が浮かれて、市民に親しみやすい大社がどうのこうのと見学会やら何やらで現場のセキュリティレベルを下げたがるらしい。

 おかげで怪しい挙動の巫女に情報をわざと流そうとした矢先に勝手にあらゆる情報が流出して巫女の背後を探る計画がパァになるわ、苦し紛れのついでに計画していた上層部のケツ蹴りにしか使えなくなるわ、上層部は家に戸締まりをしない田舎老人のような連中ばかりなのに、神樹に関するノウハウは脳内に大切に貯め込んでこちらの提案を却下するときに"だけ"小出しするわ、地味にそれが重要な情報だったりするから始末に負えないわ、神々との連携プロトコルに一行書き足すだけで解決する問題に電波が脳にどうのと言い出す痴呆老害が妙なガッツを出して毎回足踏みさせられるわ、十年の付き合いの大社の上層部より巫女の通訳を挟んだカムイの精霊の方がよほど話が通じるわと、愚痴を嵐のように浴びせられて、友奈は何も言えなくなってしまった。

 

 友奈はその後、入院中と偽って人目を忍び、訓練を受ける事となった。

 

 

 

(つづく)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。