勇者達が邪神の玩具にされる話   作:黒歴史ノート

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十三話 南への船出前

 わぁい、ボクってば本州のバーテックスくん達に超避けられてる。

 

 やっぱり暴力で上下関係を叩き込むのは失敗だったかな。

 でもさ、淡路島の時ばかりは本当に仕方無かったんだよね。

 バーテックスくん達を教え諭すような時間なんて無かったわけだし。

 そもそも、バーテックスくん達とボクの間で言葉なんて通じないし。

 そうなったらもうさ、暴力に訴えるしか無いじゃん?

 

 人間も余裕の無い職場では仲間をうっかりイジメで潰しちゃうでしょ?

 

 やっぱりそうだよ、余裕の無い納期を設定する営業が悪いんだ。

 ベテランが逃げた穴を新人で埋めた気になる人事も悪い。

 ブラッドオーシャンと化した市場から撤退しない経営陣も悪い。

 企業のリストラが生温いから融資できないとか言う銀行も悪い。

 リストラされた求職者の再就職がむずかしい転職市場も悪い。

 賃金の安い労働力で他国の産業を破壊する新興国も悪い。

 新興国並の労働集約的な産業にしがみついてる自称先進国も悪い。

 

 そして、ボクは悪くないんだ。

 

 わかってよ、沖縄本島のバーテックスくん達もさ。

 そんな梅田地下街の住民みたいになっても、どうしようも無いよ。

 ボクに勝てないからって仲間に八つ当たりとか、カッコ悪いよ。

 もっと力を合わせて頑張ろうよ、どうせボクには勝てないけどさ。

 あ、百歩譲って、美少女型バーテックスちゃんになら負けるかも。

 でも、バーテックスくん達はずっと気づかないんだろうなぁ。

 

 こんなボクの気持ちにさ♪

 もう、鈍感系主人公なんていまどき流行らないゾ♪

 

 ・・・・・・あー、なんかもう、どうでもよくなってきたなー。

 ボクはバーテックスくんに好かれたいわけじゃないし。

 全部諦めて、棗の同級生に頭を下げて納期延ばしてもらおうかな。

 バーテックスくん達が落ち着くまで時間かかりそうだし。

 どう足掻いても残り数日でバーテックスくん達はまとまらないって。

 だけど、そうすると海の神はどうやって誤魔化そうかな。

 なんとなくだけど、嫌な予感がするんだよね。

 ボクが沖縄に再接近したら、海の神が焦って住民を飲み込みそうっていうか。

 

 過保護な母親とか、ホントに嫌いだ。

 

 うーん、広範囲で巻き狩りみたくバーテックスくん達を追い込もうか。

 まとまるかどうかは、バーテックスくん達次第で。

 とりあえず成果物は出しました、みたいなのでお茶を濁そうか。

 あー、嫌だなー、せっかく極上の曇り顔が見れそうなシチュエーションなのに。

 だいたい、これじゃあ上手く行ってもボクが棗の曇り顔を鑑賞できないじゃん。

 

 誰かに歌野みたく体の一部を植え付けようかな。監視カメラ代わりに。

 

 あー、誰か都合の良いタイミングで沖縄に行ってくれたりしないかなぁ。

 とりあえず期待はしないけど、大社の方を見に行ってみようかな。

 トチ狂って、沖縄住民の救出作戦を練ってたりするかもだし。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 郡千景は、大社の人事に腸が煮えくり返りそうだった。

 丸亀城天守の教室で、千景は大社の指示を伝えた上里ひなたに詰め寄った。

 

「高嶋さんは、昨日まで入院していたのよ!?」

「はい、ですが、精神的に問題無い事が確認されましたので・・・・・・」

「病み上がりに沖縄遠征なんて、非常識よ!」

 

 もう、大社は潰してしまうべきではと、千景は悩んだ。

 最近の大社は、本当にどうかしている判断が多かった。

 友奈に獅子座への対処を押しつけるように、二つ目の奥の手を与えたのが一つ。

 精神的に不安定な友奈を病院に隔離して、若葉の面会まで不可にしたのが一つ。

 そして、やっと友奈が退院できた事に喜んだ途端、この仕打ちだ。

 

「高嶋さん、嫌な事は嫌と言わないと。連中をつけ上がらせたらダメよ」

「ぐんちゃん、心配してくれてありがとう。でも、大丈夫!」

「大丈夫なわけ無いじゃない。あんなに酷い事をされて・・・・・・」

 

 心配する千景に対し、友奈は以前のように笑って元気に振る舞う。

 しかし、千景は友奈のそれが本当か嘘か、わからなかった。

 笑顔の裏でまた友奈が一人で泣き叫んでいたら、千景は耐えられない。

 何としても大社の決断を曲げさせなくてはと、千景は思案するのだった。

 

「ぐんちゃん、ぎゅーっ!」

「も、もうっ、高嶋さん・・・・・・!」

「(大丈夫だよ、ぐんちゃん・・・・・・)」

「え・・・・・・」

 

 しかし、友奈はそんな千景をふざけた調子で抱きしめ、耳打ちした。

 

「(ぐんちゃんのおかげで、すぐ退院できて、一週間くらいは秘密の特訓をしてただけだから。心配要らないよ、ありがとうぐんちゃん・・・・・・)」

「・・・・・・・・・」

 

 だが、そんな話は寝耳に水で、千景は思わず呆けてしまった。

 

「ぐんちゃん、安心した?」

「・・・・・・えぇ。まだ少し混乱しているけど・・・・・・」

 

 千景は、よくわからないが無用な心配だったらしいと、反省した。

 そして、詳しい事情をろくに説明しなかった、ひなたを睨みつけた。

 

「上里さんは、"本気で"大丈夫と思っているの?」

「安芸さんから伺った限りですが、"仮病でもなければ"健康そのものだと」

 

 だが、ひなた自身もそれほど詳しい事情は知らなかったらしい。

 安芸とは、沖縄遠征のメンバーに入っている安芸真鈴という巫女か。

 

「そう・・・・・・。乃木さんはどうなの?」

 

 ついでに若葉にも確認を入れるが、これはほぼ千景の八つ当たりだ。

 

「私か? 私は、友奈のやりたいようにやれば良いと思っている」

「なにそれ、リーダーがそんな事で良いと思っているの?」

「それを言われると耳が痛いが、では、友奈が無事に帰ってきたら皆に私からうどんを奢ろう。友奈が帰って来なければ、私の首を千景にやろう」

「要らないわよ! やめてよ重苦しい!」

 

 だが、若葉は友奈を信じるだけのようだ。重すぎる覚悟で。

 若葉は時折こういう自棄のような思い切りを見せるから性質が悪い。

 しかし、かつてのそれは自分勝手な失敗に命で詫びる、独り善がりの姿勢だった。

 それが、他人に命を預けると言えるようになったのは成長かもしれない。

 むしろ、部下に命を預けられる将は、部下にとっては一つの理想だ。

 

「なに、うどんが要らないだと!?」

「そっちじゃないわよ! 相変わらずバカじゃないの!?」

 

 しかし、微妙にバカな部分は変わらないらしい。

 とはいうものの、これくらいのバカなら千景も愛せるバカだ。

 こういう死なせたくないバカなら、千景も守ってやる気になる。

 

「ハァ・・・・・・。じゃあ、高嶋さんの沖縄行きに反対してるのは私だけ?」

 

 念の為、千景は教室内にいる他の四人にも尋ねてみる。

 しかし、大きな声で反対する勇者や巫女は一人もいなかった。

 

「タマには、友奈が出発前より元気になったように見えるしな」

「あはは、タマちゃんにはわかっちゃった?」

「まぁ、タマはこれでも勘は鋭いからな」

 

 球子など、過去を遡っても友奈が一番の体調に見えると言った。

 歌野と杏は、自分達が最後に見た時と変わりが無いからと賛成。

 

「私はその・・・・・・久しぶりにあの声がしたから、沖縄遠征自体が心配だけど・・・・・・」

 

 水都は単に神託もどきが「沖縄遠征やったー!」と喜んだのが気になるらしい。

 また、同行する巫女が安芸真鈴というよく知らない少女なのも不安らしい。

 

「安芸先輩は、愛媛県で私達を導いてくれた巫女ですよ」

「だなー、タマがバーテックスを追って尾道の方へ行こうとしたら止められたり」

「戦えなくてもバーテックスに怯えず冷静な指示を出せる方です」

 

 だが、真鈴に関しては、杏と球子の話からすれば心配無用らしい。

 北海道遠征から続いての沖縄遠征で勇者のメンバーは、疲労の強い球子に代わって友奈が入る。球子の代役として杏にフォローを入れられる真鈴が、巫女として水都の代わりにメンバーに入るのは納得だ。

 ただし、これでは歌野の負担が北海道遠征より増えてしまう。

 

「白鳥さんの疲労は無視できないと思うのだけど・・・・・・?」

「私は大丈夫よ。ドンウォーリー」

「そうかしら・・・・・・」

 

 しかし、歌野はそれを気にしていない様子だった。

 千景はそう言われると逆に心配になるのだが、神経質過ぎるだろうか。

 

「船のメンツが不安なら、あたしも行こっか?」

 

 しかし、そこに大社から指示を受けていない勇者が追加人員として立候補した。

 秋原雪花は、まだ大社でも扱いが定まっていない、自由な立場だった。

 

「しかし、雪花さんはまだ四国についたばかりで・・・・・・」

「良いって良いって、護衛艦の中って案外快適だったしね」

 

 若葉がつい口を挟むが、雪花は軽く流す。

 むしろ、大社から支給された勇者システムを早く実戦で使ってみたい、その為にも沖縄行きのメンバーに混ざりたいと言うのだった。

 

「万が一、あたしのパワーが戦力外レベルだったとしても、四国で評判っぽい諏訪の勇者様が後ろにいるなら安心して任せられるしねー。実験的に戦うなら死んでも後に引けない四国より、こっちの方があたしはやりやすいよ」

 

 できれば千景が友奈に同行したかったのだが、話の流れは変わりそうもない。

 おまけに千景は近接型の勇者だが、雪花は槍を投げる遠距離型らしい。

 戦闘の形からも、船に乗る意味があるのは雪花の方だった。

 

「それなら秋原さんに、高嶋さんのフォローもお願いするわ・・・・・・」

「ほいほい、了解。ただ、友奈さんの戦闘スタイルをよく知らないから、一回きちんと手合わせしてもらって良いかな?」

「うん! よろしくね、せっちゃん!」

「せ、せっちゃん・・・・・・。まぁ、いいけどさ・・・・・・」

 

 友奈がよく知らない相手と仲良くなるのは寂しいが、千景も我慢のしどころだ。

 ふと、千景が友奈を見ると、視線が合った。

 友奈がウィンクをしたので、千景も「がんばって」と口パクで応援する。

 しかし、友奈が沖縄勇者と仲良くなって帰ってきたらどうしたものか。

 千景はついつい心配になってしまうのだった。

 

「なぁ、あの二人妙に仲良くなってないか・・・・・・?」

「千景さんと友奈さんの関係についに進展が・・・・・・?」

 

 球子と杏が何か言った気もしたが、関心の外だったので聞こえなかった。

 慣れない心配ゆえに友奈ばかり目で追ってしまう、そんな千景なのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 やった、やった! 首の皮一枚繋がった!

 

 大社もやればできるじゃないか、このっこのっ!

 ボクが困っている時にサラッと仕事をするあたりポイント高いぞ。

 ボクが追い込んだバーテックスくん達を、勇者達がイジメるコンボだ。

 これならバーテックスくん達もしっかりやる気を出してくれる筈。

 ボクだって美少女相手とバーテックスくん相手だと気分が違うしね。

 うんうん、適度に育ったところで沖縄に追い込んでフィニッシュだ。

 海の結界が元気っぽい玉で粉砕された後なら、ボクも沖縄に近づける。

 これならボクが肉眼で棗とその同級生の曇り顔を見に行け――

 

 ・・・・・・あれ、バーテックスくん達、ボクのお願いで元気っぽい玉を出してくれた事あったっけ?

 

 結界の中心をバーテックスくんが攻撃しないと話にならないよね。

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・いやいやいや、待て待てボク。

 大丈夫、きっとなんとかなる。

 バーテックスくんを自在に操る手段がどこかにある筈だ。

 頑張れボクの灰色の脳細胞、今こそ妙案をひらめく時だ。

 

 ・・・・・・はい、ひらめいた!

 

 そうだ、結界の中心に何か壊したくなる物があれば良いんだよ。

 だけど、バーテックスくんが壊したい物って何だろうな。

 人間なら間違いないけど、喜んで壊れてくれる人間なんていないよね。

 マネキンじゃダメかな。

 ボクの依代になってるぐんちゃんのブロンズ像とか、いけないかな。

 いや、ボクの抑えられない美少女オーラが無くなれば、ブロンズ像も囮になれる筈。

 海の神もブロンズ像が投げ込まれるくらいは目溢ししてくれる筈。

 たぶん。メイビー。

 よし、完璧だ。これならいける。

 特に根拠は無いけどボクならやれる。ボクは完璧な美少女だから。

 覚悟を決めろボク。棗達の曇り顔を見に行くんだ。ベストを尽くせ。

 

 さぁ、いよいよ大勝負だぞー。はい、深呼吸ー・・・・・・。

 

 

 

(つづく)

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