勇者達が邪神の玩具にされる話   作:黒歴史ノート

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十五話 合流

 安芸真鈴は四国を出航してから、冷や汗が止まらなかった。

 沖縄住民を救出に向かう計画、それは既に大きく狂っていた。

 そもそも沖縄遠征自体、真鈴と赤嶺が追加で大社の尻を蹴ったところ、大社の職員から真鈴に「いい加減にしろ」と注意が飛んできて何故バレたと慌てふためき、結果的にはアイデア自体は悪くないからと大社に認められて、大社なりのアレンジを加えたうえで実施に至ったのだが、真鈴だけ大社に叱られて、赤嶺は我関せずを貫き、真鈴だけ大社の首輪付きになるという散々な始まりだったのだ。

 

「何もかも私の思い通りといかないのは思い知ったけど・・・・・・」

 

 しかし、海上に大量の星屑が分布しているなど、大社すら想定外だった。

 北海道遠征と比べて、明らかにバーテックスの布陣が違う。

 おかげで星屑を集める手間は無くなったが、多過ぎるのも問題だ。

 

「(もう、獅子座がどうとか言ってる場合じゃ無いわね・・・・・・)」

 

 大型バーテックス出現の神託が、真鈴に矢継ぎ早に下りて来ていた。

 沖縄への海路が、大型バーテックスによって次々に封鎖されて行く。

 強引な突破もできるが、なるべく沖縄まで勇者達の体力は温存したい。

 それどころか采配を間違えれば護衛艦が沈められる可能性すらある。

 

「(艦長さん、このままの進路で、沖縄へ直行しましょう)」

「(獅子座は、まだ出現していませんが・・・・・・)」

「(・・・・・・今出たから)」

「(それは嘘では・・・・・・?)」

「(出たから。出てなくても、どうせ、もうすぐ来るから!)」

 

 真鈴は、大社に買収された艦長と秘密の相談をして、進路を決めた。

 神託の告げるバーテックスの少ない経路、奇しくも巫女らしい判断だった。

 だが、その後、獅子座が沖縄近海に出現した神託も下りてきた。

 真鈴が見切りで沖縄本島へ直行の指示を出した、四時間後であった。

 

「かろうじて潜り抜けたけど、帰りが怖いわね・・・・・・」

 

 真鈴は安堵すると同時に、こうなってはやるしか無いと腹を括った。

 

「大型バーテックスに対し、大社は秘策があると伺いましたが?」

「えぇ、まぁ。高嶋さんが一体や二体なら対処できるようになったと聞いて、こんな状況にもならなければ使わなくて良いと思っていたんですけど・・・・・・」

「それは、種ですか・・・・・・?」

 

 真鈴が取り出したのは、小さな羅摩の実だった。

 

「神樹様の中には、親友が体調を崩した際に海を跨いで霊泉を引いたなんて逸話を持つ神様がいるので、海を跨いで神樹様の力を引っ張る儀式を行って、バーテックスの力を削ぐのが大社の秘策その一です」

 

 種を植える都合、真鈴が上陸する必要があるので、これには危険が伴う。

 しかし、真鈴も沖縄遠征に同行した以上、危険は承知のうえだ。

 

「もう一つの秘策もあるけど・・・・・・まぁ、そっちは見てのお楽しみって事で」

「しかし、上陸ですか・・・・・・」

 

 護衛艦の艦長が唸るが、もっともな反応だ。

 大きな護衛艦では、沖縄本島に近づく事はできない。

 それぐらい沖縄近海に布陣している大型バーテックスの数が多いのだ。

 かといって、目立たないボートでは機動力があまりにも低すぎる。

 

「上陸の付き添いは、高嶋さんにお願いする予定です」

「では、ボートは――」

「えぇ――」

 

 だから、護衛艦の安全を保持できる上陸方法を、真鈴は伝えるのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 高嶋友奈は護衛艦の個室で、机にちょこんと座る小人を見ていた。

 新しい勇者システムで実装された機能、実体化した精霊である。

 青っぽい髪から二本の角を生やした小人は、手酌で何かを飲み続けている。

 これを若葉や千景に見せた時は、それは驚かれたものだった。

 

「ふふ・・・・・・"酒呑童子"って、ホントにお酒が好きなんだねー」

「コクコク」

 

 友奈も最初はトラウマから小人に怯えてしまったが、慣れたら可愛い物だ。

 ゆるキャラのような丸っこいデザインも友奈の安心を後押しした。

 この精霊の力を借りる奥の手も訓練で使ってみたが、反動は無かった。

 北海道のカムイが四国へ合流した事で得た、劇的な成果だった。

 

「高嶋さん、そろそろ沖縄が近いのでお願いします」

「あ、はーい!」

 

 しかし、友奈は作戦開始までのんびりし過ぎてしまった。

 巫女装束の真鈴が呼びに来て、慌てて友奈も甲板へ出る。

 

「それじゃあ、変身!」

 

 そして、スマホをタッチして、勇者装束を身に纏う。

 友奈の装束のモチーフは桜。

 友奈の故郷だった、奈良でも愛されていた花だ。

 

「さらに、奥の手発動!」

 

 そして、二つ目の変身で"酒呑童子"の力を体に重ねて"纏う"。

 かつての勇者システムではろくに制御できなかった力だが、今は違う。

 友奈の心は乱れる事なく、落ち着いたまま維持されていた。

 

「おまたせ、すずちゃん!」

「それじゃあ、お願いね、高嶋さん」

 

 真鈴を抱き、俗に言うお姫様だっこの姿勢で、友奈は甲板を飛び降りる。

 護衛艦がいるのは、沖縄本島から数十キロも離れた沖合である。

 普通に飛び降りて、足が着くような水深ではない。

 

「よっと」

 

 しかし、友奈は地に下りるより軽やかに、海面へと降り立ってみせた。

 これも酒呑童子の力だ。

 酒呑童子は、またの名を伊吹童子。龍神の子とも言われる。

 水によって行動を阻まれる事など、今の友奈には無いのだった。

 

「それじゃあ、走るね」

 

 海上を走り始めた友奈の腕の中、真鈴は護衛艦の方を見ていた。

 護衛艦が作戦通りに動き出したか、見ていたのかもしれない。

 

「高嶋さん、もうちょっと左の進路を取ったら、島陰に入れると思うわ」

「はーい、秘密の作戦だもんね」

 

 真鈴の指示に従い、友奈は沖縄本島の東に位置する島へ上陸した。

 沖縄近海に布陣しているという巨大バーテックスとの遭遇も無し。

 完璧に計画通りだった。

 

「それじゃあ、私はちょっと儀式をするから、高嶋さんは警戒をお願い」

 

 真鈴は羅摩から一粒の種を取り出すと、地面に落として祝詞を唱える。

 

「地津主神、夫れ甲子とは、木の栄える根を云。根待ちは普く地を祭事ぞ。地は則ち妻なれば、是を祭るを寝交待と云。然り心善く・・・・・・」

 

 真鈴らしくない厳かな声が響くと、地面に落ちた種が割れる。

 種から顔を出した緑の芽は伸び上がり、その根本から次々に新たな芽も現れる。

 波紋が広がるように地面を覆っていく芽に、友奈も思わず感嘆の声が漏れた。

 

「わぁ、綺麗・・・・・・」

「これで、神樹様がこちらの土地神を説得する場ができたわ・・・・・・」

「うまく説得できたら、どうなるの?」

 

 友奈の疑問に対して、真鈴は大社の想定を説明した。

 

「対バーテックスの結界、"樹海"がバージョンアップするわ。古い神話において太陽は、母なる山から生まれ、母なる山へと帰り、母なる海から生まれ、母なる海へと帰る、数ある母神の恵みの一つに過ぎなかった。農耕の発達で太陽神の政治的権威が強まる以前は、毎朝の太陽が生まれるタイミングも山と海の機嫌次第、山と海が世界の時間を支配していたわけね。そんな理屈で作られたのが時間を止める"樹海"という結界なんだけど、四国の土地神には生憎と母神と呼べる類がいないみたいで、かなり強引に樹海を作っているから、沖縄の母の性質が強い海神を取り込めたら、樹海はその持続時間の延長はもちろん、バーテックス達が現れるタイミングすら制御、敵を分断してこちらの都合の良いタイミングで各個撃破するパターンに持ち込める、完全な物になると大社は考えているわ」

「おー! なんだかすごいんだね!」

 

 友奈に神話の理屈は難しかったが、敵を分断できる事はわかった。

 四国の土地神の集合体、神樹は丸亀へ攻めてきたバーテックスを"樹海"に隔離して、それと勇者を戦わせている。

 しかし、今の樹海は内部に取り込んだ敵の行動はまるで制御できない。

 おまけに樹海のダメージが災害という形で現実にフィードバックされてしまう。

 人々の守りとしては、かなり心許ない状態なのだった。

 

「高嶋さん達も、一体の大型バーテックスになら負けないでしょ?」

「もちろん!」

 

 単体であれば大型バーテックスにも対抗できる。

 今の友奈には、そのくらいの自信が漲っていた。

 

「樹海のリスクが無くなるわけじゃないから、内部の敵はちゃっちゃと片づけてもらわないと困るけど、注意点と言えるのはそこくらいね」

「倒しきれないとどうなるの?」

「それも、これまでの樹海と同様。神樹の霊力が尽きて、神樹の恵みで生産されているうどんも鰹も昆布も無くなって、世界は終わるわ」

「なんて重大な!?」

 

 香川で暮らす人間にとって、うどんは世界である。

 とにかく、樹海のリスクが変わらないのは友奈も理解した。

 

「さてと、じゃあ次は沖縄の勇者にコレを渡しに行きましょ」

「あ、スマホだね」

「大社製のこれが無いと樹海に入り込めないから」

 

 神同士の連携基盤ができても、秘密の作戦は続く。

 神同士の連携ができたなら、次は人間同士で連携するのだ。

 

「棗ちゃんって、どんな子なのかなー?」

 

 友奈は新しい仲間が増える事を楽しみに、真鈴を再び抱き上げた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 古波蔵棗は、言葉の意味を掴みあぐねた。

 

「すまない、もう一度言ってくれるだろうか」

「なっち、今日でもう沖縄は終わりだよ」

 

 沖縄住民をまとめてきた、老婆の葬式は終わった。

 火葬から納骨まで、あっという間に終わってしまった。

 そして、満月の見える大潮の浜で、棗と元同級生だけが海へ還る魂を見送った。

 そんな時だった、棗と共に浜へ下りていた元同級生がそれを言ったのは。

 

「どういう事だ・・・・・・」

「なっちと一緒に来た、乃亜さんにお願いしたの。海の結界を壊してほしいって」

「わからない。お前は私と一緒に生きようとしていた筈だろう?」

「なっちが、海なんかに囚われているからだよ・・・・・・」

 

 棗はまだ勇者に変身できるか、咄嗟に確認していた。

 

「・・・・・・・・・っ!?」

 

 だが、海の神に呼びかけても応答は無かった。

 いくら呼んでも、まるで繋がりが切れてしまったかのように手応えが無い。

 何が起きているのか、棗は混乱してしまった。

 

「なっち、防空壕に一緒に隠れよう?」

 

 どこから取り出したのか、手錠と警棒を手に迫る元同級生にも困惑した。

 

「ま、待て・・・・・・」

「大丈夫、なっちの事は、私がちゃんとお世話してあげるから・・・・・・」

 

 何が起きているのかわからないまま、棗はただ恐怖した。

 目の前にいるのは棗の敵なのか、それとも味方なのか。

 本当に沖縄は終わってしまうのか。

 こんな形で、三年も守り抜いた棗の故郷は滅んでしまうのかと。

 わけのわからない存在を、棗が四国から連れ帰ったせいで滅びるのかと。

 

「い、嫌だ! こんな終わりは・・・・・・っ!」

「なっち・・・・・・」

「そうだ、皆も防空壕に連れて行こう。まだ皆を助けられる・・・・・・!」

「ごめんね、なっちーー」

 

 元同級生が、困惑する棗に警棒を振りかぶる。

 

「ストォォォォップ!!!!」

 

 だが、元同級生の腕を誰かが止めた。

 桜のような色の装束を纏った少女だった。

 

「何、誰っ!? 離してっ!」

「それだけは絶対ダメ! 好きな人に暴力を振るうなんて!」

 

 少女と元同級生はしばらく揉み合いになり、やがて少女が足払いから元同級生を投げ飛ばして押さえ込み、謝りながら元同級生の持っていた手錠で拘束するのだった。

 

「な、何が起きているんだ・・・・・・?」

 

 棗は次から次へと起きる出来事に、頭がついて行かなかった。

 元同級生がいきなり沖縄を守る結界を破壊したと言い出し、勇者に変身できなくなり、元同級生が棗を拘束してどこかへ連れ去ろうとして、それを顔も知らない少女が止めに入るなど、どこから考えれば良いのかすらわからなかった。

 

「えっと・・・・・・私は高嶋友奈、十四歳です!」

「そうか・・・・・・。古波蔵棗、十五歳だ」

 

 とりあえず、少女が自己紹介してくれたので、そこから考える事にした。

 

「知らない顔だが・・・・・・」

「あ、はい! 四国から来ました!」

「乃亜の同類か・・・・・・」

「ないあ・・・・・・? えぇっと、大社の船で来ました!」

「大社・・・・・・? そうか、おばあの言っていた四国の船か!」

 

 そして、友奈だけでなく、巫女のような姿の少女が浜を走って来るのが見えた。

 

「ゼェ・・・・・・ハァ・・・・・・。高嶋さん、いきなり走り出さないで・・・・・・」

 

 そして、巫女の方が詳しい話を知っていると友奈は言う。

 そのため棗は、友奈が言うには安芸真鈴というらしい、巫女の少女が息を整えるまで待つ事になった。

 だが、いざ話を聞いてみると、状況は棗が想像したほど深刻ではなかった。

 

「きっと、勇者システムに海の神が乗り換えたせいで連携が取れなくなったのね・・・・・・。海の神の説得が上手く行きすぎた結果なら何よりだけど・・・・・・」

「緊急のOSアップデートで、アプリが動かなくなったみたいな?」

「なんて人騒がせな・・・・・・」

 

 真鈴からは、勇者システムを利用するならと、棗にスマホが渡された。

 そして、スマホを手に取った瞬間、棗の中に何かが入った気がした。

 海の神の加護が戻ってきた、その手応えがあった。

 

「む・・・・・・沖縄近海に大量のバーテックスがいる、だと・・・・・・?」

 

 そして、海の声が聞こえた。

 もはや、沖縄だけではバーテックスと戦い続ける事はできない。

 三年間、沖縄に引き留めてすまなかったと。

 

「そうか・・・・・・もう無理なのか・・・・・・」

 

 そして、棗は海から感じていた、引力がぷつりと途絶えた気がした。

 冷静な気持ちで考えれば、答えなど決まりきっていたのだ。

 

「・・・・・・なら、せめて母には、頼もしい背中を見せて旅立つとしよう」

 

 棗は渡されたばかりのスマホをタッチした。

 

 

 

(つづく)

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