勇者達が邪神の玩具にされる話   作:黒歴史ノート

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十六話 決戦

 古波蔵棗は勇者である。

 

 銀梅花の白い装束を纏い、沖縄を守る為にバーテックスと戦ってきた。

 その武器は近接に特化したヌンチャクであり、リーチは短い。

 しかし、それで一つの地域を守ってきた、棗の実力に偽りは無かった。

 

「なんだ、アレは・・・・・・」

 

 だが、そんな棗でありながら、今は非常に困惑していた。

 御嶽(うたき)の裏、夜闇に包まれた東海岸で繰り広げられる光景に。

 四国から来たという巫女の安芸真鈴は、御嶽(うたき)の東沖合に敵がいると言っていた。

 大型のバーテックスが複数、そこで謎の足踏みをしていると。

 

「ぐんちゃんの・・・・・・像?」

「あれは、乃亜ではないのか・・・・・・?」

「ないあ・・・・・・? なんだかすっごい光って飛び回ってるね・・・・・・」

「そうだな、しかし面妖な・・・・・・」

 

 だが、御嶽(うたき)の東へ駆けつけた棗が目にしたのは、バーテックスではなかった。

 謎の光る物体が不規則な軌道で空を飛び回り、我が物顔で振舞っていたのだ。

 棗は少しだけ理解した。

 バーテックスらは、あの面妖な物体を警戒して沖縄に近づいて来なかったらしいと。

 棗も実際、あまりの意味不明さに近づきたくない気持ちが湧いてくる。

 

「あ! なんか飛んできた!」

 

 友奈が声を上げた。

 バーテックスが攻撃を仕掛けてきたのかもしれない。

 しかし、面妖な物体は障壁を展開、攻撃を無効化した。

 

「何をやりたいんだ、アイツは・・・・・・」

「最近ぐんちゃんがバーテックスに怖がられてる理由がわかったかも・・・・・・」

 

 おそらくこの膠着が、バーテックス達の足踏みの理由だったのだ。

 しかし、そんな長い膠着も、ついに壊れる瞬間がやってきた。

 

「あっ・・・・・・獅子座・・・・・・」

 

 東の水平線に、ぼんやりとした炎のような光を纏った物が現れた。

 友奈はそれを獅子座と呼んだ。

 光に照らされて、沖合にいるバーテックス達の姿も浮かび上がる。

 棗の知らない個体ばかりだが、水平線との距離を考えると大きさがわかる。

 一体一体が、数十メートルの巨体を持つバーテックスだった。

 

「どれも私が知らない敵ばかりだが・・・・・・。光っている奴を知っているのか?」

「うん、四国で確認できてる、一番強いバーテックス・・・・・・」

 

 獅子座という個体は、小さく見ても全高百メートルは下らなかった。

 やがて、バーテックスらは一斉にそれと合流するように動き始めた。

 

「っ、よくわからないが、アレを合流させたら不味い事になりそうだ!」

「うん、行こう、棗ちゃん!」

 

 獅子座の足下にいる連中にすら、棗の力は及ばないかもしれない。

 一体一体が、棗がこれまで戦ったどんな敵より手強いのは間違いないのだ。

 だが、棗は沖合のバーテックス達を目指して海へ飛び込んだ。

 友奈も変身して、海面を走って棗についてくる。

 

「棗ちゃん、沖に出たら景色が変わると思うけど驚かないでね!」

「もう何が起きても驚くものか」

 

 そして、友奈が言うように、沖へ出たところでそれは起きた。

 最初に、波の動きが止まった。

 次に、海の底から淡い光を纏った植物の根が浮き上がって来た。

 棗も泳ぐのをやめて植物の根の上を走り出す。

 

「これは、四国の何かなのか?」

「うん、樹海化っていうの!」

 

 友奈が言うには、バーテックスを分断、一体ずつ戦う状況に持ち込めるらしい。

 

「それは助かる・・・・・・」

 

 棗が前方へ向き直ると、バーテックス達の数が確かに減っていた。

 無数にいたバーテックス達の中、まともに動いているのは一体だけだ。

 一体を除いた連中は灰色に染まり、足下には秒読み表示が見える。

 どうやら、秒読みが尽きるまでは行動を止められているらしい。

 

「最初の相手はお前か・・・・・・!」

 

 そして、棗が向き合ったのは水塊を携えたバーテックスだった。

 水塊の表面からは無数の水球が放たれ、接近を拒んでくる。

 

「水の流れを読むのは得意だ・・・・・・」

 

 しかし、棗は手近な水球をヌンチャクで叩き、その動きを見る。

 そして即座に、敵を捕らえる事が水球の役割だと察した。

 

「捕まえられるものなら、捕まえてみろ」

 

 棗は水球がまとわりつくヌンチャクを、そのまま他の水球にぶつける。

 そうすると、水球が合体して大きくなる。

 水球は棗を飲み込もうとするが、ヌンチャクを振って先端に留める。

 

「友奈、道は私が作る。一撃を頼む!」

「わかった、お願いするね、棗ちゃん!」

 

 棗は水球を次々にヌチャンクで絡め取って道を作っていく。

 水塊の大型バーテックスは棗の方をじっと見ているが、そのまま前進する。

 

「友奈、行け!」

 

 そして、人間ほどの大きさまで育った水球をヌンチャクごと投げた。

 棗の投げた水球を楯に、友奈が敵の側面へと回り込む。

 そして、棗自身はここで斜めに一歩引いた。

 棗の胸先を、大型バーテックスの放った高速の何かが通過していく。

 おそらく、圧縮した水でウォーターカッターのような攻撃を放ったのだろう。

 

「勇者ぁぁぁぁパァァァンチ!」

 

 そして、友奈の拳は大型バーテックスの体を捉えた。

 

「四国の勇者は凄いな・・・・・・」

 

 友奈の拳は、数十メートルの巨体を一撃で粉砕した。

 ビルの解体より豪快な攻撃に、棗は思わず感嘆の声が漏れた。

 痛手を与えるくらいかと思いきや、これほどの威力は棗も想定外だ。

 

「棗ちゃんも使うと良いよ、奥の手!」

「私の奥の手か・・・・・・これか?」

 

 うらやましいと思ったのだ。

 それでついつい、戦闘中にも関わらずスマホをいじってしまった。

 

「水虎」

 

 しかし、精霊と書かれたアイコンをタッチすると、何かが出てきた。

 鮫のような虎のような、よくわからない丸っこい緑色の生物。

 

「ニャー」

 

 よくわからないが、可愛い声からして奥の手ではなさそうだった。

 

「そうそう、精霊を出したら、後は気合い!」

「まさか、これで良かったのか・・・・・・?」

 

 しかし、友奈はそれで良いと言う。

 水虎といえば竜宮の眷属で、そこそこ位の高い妖怪だ。

 いや、そうなると、こんなゆるキャラのような姿で許されるのだろうか。

 

「じゃあ、せーのっ、奥の手発動!」

「奥の手、発動・・・・・・!」

 

 だが、それはさておき今は戦闘中だった。

 まもなく二体目のバーテックスの秒読みが尽きる。

 

「おぉ・・・・・・っ?」

 

 龍のような鱗を纏う二つ目の変身を行い、棗は次の戦いへ臨んだ。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

「へー、樹海化の外側って、こんな感じになっていたのね」

 

 白鳥歌野は、初めて見る光景に興味津々だった。

 沖縄近海に布陣していたバーテックスらは樹海に封じられた。

 真鈴の作戦がうまく行ったらしい。

 そうして出来た隙を突いて、護衛艦は沖縄本島へ接岸したのである。

 だが、歌野達が"動いている"ように、ここはまだ結界の外側である。

 

「時間がストップしているのは、結界に取り込まれた存在オンリーなのね」

「外から見ると樹海の時間が普通で、結界内で時間停止している勇者以外の人間が、樹海化が解けると過去からいきなり現れる浦島太郎になるんですね・・・・・・。せいぜい数十分の事ですが」

 

 杏もとても興味深そうに、結界内の様子を伺っていた。

 樹海化はバーテックスを倒す過程を勇者達に全て任せて、バーテックスを倒した結果だけを四国の人々に残すように出来ているのだろう。

 バーテックスを恐れる人々の精神安定を図るには最適の結界である。

 

「樹海と結界外の時間の流れが同じなら、援軍も送り込めますね」

「あたしはデカい連中とやり合うのに火力不足だし、バーテックスの増援があった時に護衛艦を守らないとだから外で待機してるけど、二人はどうする?」

 

 雪花は留守番をしていたいと言う。

 結界外の時間は動いているのだから、誰かが残るのは当然だろう。

 

「私は雪花さんと一緒に残りますね。私の武器も威力がある方ではないので」

「オッケー、じゃあ私だけ行ってくるわね」

 

 そして、友奈達の援軍として向かうのは歌野だけと決まった。

 

「しっかし、安芸さんは結界に飲まれて時間を止められちゃったみたいだけど、二つ目の秘策って何だったのかねー」

「二つ目のカードね。私はわかるわ。二人が外で待っていて、ノープロブレムだってね!」

 

 歌野は一人、護衛艦から結界内へと身を投じた。

 結界内では友奈と知らない勇者、おそらく沖縄の勇者が戦っていた。

 四国で目撃情報のある蠍座、蟹座、そして見慣れないバーテックスが相手だ。

 

ブレイブ、エントリー(勇者参上)!」

 

 そして初手、見慣れないバーテックスに歌野は狙いをつける。

 空中から狙撃で友奈らを攻め立てていた、射手座とでも言うべき相手。

 それに対して、歌野は空間の削り取りによる機動で接近。

 歌野は射手座(推定)が反応するより前に、背後から空間ごと削り取った。

 

「苦戦しているようだから助けに来たわ!」

 

 そして、友奈達に合流して状況を確認する。

 

「ごめん歌野ちゃん! 蟹座がすっごく固くて手間取っちゃって!」

 

 友奈は樹海に敵の足止め機能がついたと、歌野に説明した。

 だが、友奈はうっかり時間切れで、敵の合流を許してしまったらしい。

 

「あの蟹には衝撃を跳ね返す力があるらしい。友奈の右拳が砕けてしまった・・・・・・」

「オーケー、固い奴は私に任せて! スコーピオンは任せたわ!」

 

 だが、沖縄の勇者の説明で、おおよそ何があったかは理解した。

 攻撃力の高い友奈にとって、相性が最悪に近い相手だったらしい。

 歌野は救援が遅れたきまりの悪さを、敵にぶつけに行くのだった。

 

「おっと、流石に素直に近づかせてはくれないわね」

 

 だが、五角形の反射板らしき物を、蟹座は歌野めがけて飛ばしてきた。

 歌野に接近されてはいけないという認識は持っているらしい。

 

「でも、その警戒"心"を利用させてもらうわ!」

 

 そして、歌野は奥の手を切った。

 歌野が奥の手で使う精霊は"(さとり)"と言う。

 その名が示すように、相手の心を読んでしまう妖怪だ。

 

「貴方の攻撃、見え見えよ!」

 

 反射板を削り、避け、歌野は敵へとみるみる接近する。

 歌野の腕の間合いに入れば、もはや敵にできる事など何もない。

 

「これでフィニッシュ!」

 

 どれだけ固い装甲だろうと、空間ごと削る攻撃の前には無意味だった。

 蟹座バーテックスは一撃で身体の大半を失い、崩れ落ちた。

 

「さーて、友奈達の方は・・・・・・」

「勇者ぁぁぁパーンチ!」

 

 そして蠍座の方も、どうやら友奈が仕留めたようだった。

 蠍座は友奈の足下で、車に踏まれたザリガニのようになっていた。

 

「鱗が無ければ危なかった・・・・・・」

「うわっ、棗ちゃんの腕がめちゃくちゃ腫れてる!?」

「たぶん毒だ・・・・・・すごく痛い」

「あわわわ、どうしよう・・・・・・っ!?」

 

 だが、蠍座を倒すのに無傷とは行かなかったようだ。 

 勇者に通じる毒などそうそう無いのだが、相手はバーテックスだ。

 これで友奈は片腕、棗は毒によってリタイヤ。

 万全な状態なのは、歌野一人だけになってしまった。

 

「なんだかんだでハードになってきたわね・・・・・・」

 

 だが、不安を感じる歌野に対しても、声がかけられた。

 

「大丈夫。負傷者が無理に戦う必要は無いわ」

「友奈と古波蔵さん・・・だったか、二人は休んでいてくれ」

 

 それは沖縄にいる筈の無い、二人の勇者の声だった。

 

「わぁっ! ぐんちゃん! 若葉ちゃん!」

「えっと、タマもいるぞー」

「タマっち、千景も若葉も良い所に来てくれたわ!」

 

 やはりと言うべきか、大社の第二の秘策が切られたようだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 沖縄近海に護衛艦が到着した連絡を大社は受け取っていた。

 そんな中で上里ひなたは、神樹の根本で神託を待っていた。

 そして、待ちに待った、神樹から降ってきたイメージを噛みしめた。

 暗いトンネルを出て、暖かい海に出た。喜びの感情。

 大社神官と藤森水都と相談して、ひなたは間違いないと確信した。

 そして、大社があらかじめ予定していた行動を開始したのだった。

 

「若葉ちゃん、千景さん、球子さん」

 

 ひなたが向かった先は、丸亀城天守の教室だ。

 もう夜でありながら、三人の勇者はずっと教室で待機していた。

 そんな彼女らに、ひなたは大社の指示を伝えるのだった。

 

「戦いの準備をしてください」

 

 神樹は"自分の領域"では奇跡的な力を発揮できる。

 そして、沖縄の一角が神樹の領域になり、四国と繋がった。

 それは即ち、沖縄に勇者を転送する準備が整った事を意味していた。

 

「よーし、数日しっかり休んで、タマも元気一杯だ!」

「千景・・・・・・。・・・・・・訓練の疲れは残っていないか?」

「えぇ、怪我も治って、何も問題無いわ。乃木さん、言葉の迷いが露骨過ぎよ」

「うぐっ」

「でも・・・・・・ありがとう。乃木さんは、訓練疲れしていない?」

「・・・・・・! あぁっ、大丈夫だ!」

 

 四国に残っていた勇者達の状態も、万全に近い。

 護衛艦の出航後、「当初予定していたより敵の数が多い」と連絡を受けた大社は念のため用意しておいた、沖縄への転送による勇者派遣計画をひなた達に公開し、負傷者を四国の医療機関に転送する手順の説明や、現地における樹海化アップデートの見込みを伝える等の準備を進めていた。

 友奈だけ密かに渡されていた新しい勇者システムも、体調が万全でなかった球子を除いて、短期間での習熟訓練が行われていた。

 

「では、行こう。いざ出陣だ!」

 

 そして、三人の勇者は大社の儀式で沖縄へと送り出されたのだった。

 

 

 

(つづく)

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