勇者達が邪神の玩具にされる話   作:黒歴史ノート

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十七話 決着

 樹海の一角から、紫色の霧が広がっていく。

 それはバーテックスが、勇者達を近づけないよう噴出した物だった。

 霧の色はあからさまで、姿を隠す以上の意味があるのは間違いない。

 しかし、危険であっても遠くから見ているだけでは敵は倒せない。

 

「私が行くわ」

 

 そして、四国から応援に駆けつけた、郡千景が最初に前へ出た。

 千景の肩には、八本の尾を生やした和装の小人が佇んでいる。

 

「玉藻前」

 

 千景が大社から与えられた、新たな奥の手。

 それは身分の低い家に生まれながら権勢の頂点に至った女性への嫉妬から生まれた妖怪。権勢を取り戻そうとした貴族らが起こした大乱は多くの人命を奪ったが、貴族らはそれを女狐の妖怪が撒いた毒の仕業であるとして、現実で勝てなかった相手を物語の中で貶めて溜飲を下げた。

 曰く、その女は白面金毛の九尾である。

 曰く、その女は命を奪う無数の毒石となった。

 

「せいぜい"期待"に応えて頑張らせてもらいましょう」

 

 九尾の異形と化した千景は、武器の大鎌を構えて霧へ突貫した。

 バーテックスの霧に毒があったとしても、今の千景には通じない。

 毒霧による足止めができず、バーテックスは上空へと逃げた。

 

「逃がさないわ」

 

 しかし、九尾の大妖怪は流星のように空を飛んで各地を巡る。

 千景はバーテックスの更に上を取り、頭部とおぼしき箇所に大鎌を振り下ろす。

 バーテックスの舌のような器官が千切れ飛び、胴体にも深く鎌が食い込んだ。

 千景が更に力を込めると、胴体の一部も斬り飛ばされる。

 やがて、毒霧のバーテックスは首をはねられた動物のように崩れ落ちた。

 

「まずは一匹・・・・・・」

 

 毒霧が晴れたところで、千景は周囲の状況を確認する。

 すると、遠方で別のバーテックスと勇者が戦っているのが目に映った。

 

「なにあれ、天秤・・・・・・?」

 

 そのバーテックスは形状から、天秤座とでも言ったところだろうか。

 高速で回転して風を起こし、歌野の接近を拒んでいるようだった。

 

「・・・・・・お気の毒ね」

 

 しかし、千景は風を利用している時点であの敵は終わりだと思った。

 その証拠に、竜巻のような暴風の中を一筋の光が通り抜けた。

 

「まずは一つ!」

 

 その光の正体は、乃木若葉だった。

 若葉が手柄を数えると同時に、バーテックスの風は散っていく。

 竜巻の中から現れたバーテックスは既に身体の原形を失っていた。

 一瞬の交差のうちに、若葉にバラバラに切り刻まれたのだろう。

 若葉の新たな奥の手は"大天狗"の力。

 風や炎、神通力を操り、空を飛ぶ、言わずと知れた大妖怪だ。

 

「次は・・・・・・っ、獅子座か! 皆、気をつけろ!」

 

 そして、次に動き出したバーテックスに、若葉が警戒を呼びかける。

 樹海の中に散らばっていた勇者達、千景もすぐ歌野の元へ集まった。

 獅子座から連射される火球の速度は凄まじい。

 初弾の到達は、若葉が滑り込んでギリギリのタイミングだった。

 

「ちょぉぉぉっとヘヴィだから! 打ち漏らしがあったら各自対処して!」

 

 歌野が奥の手による読心を併用して、炸裂する火球を迎撃する鞭の結界を作るが、圧倒的な手数にじりじりと後退を強いられる。

 

「若葉ちゃん、もう散らばった方が・・・・・・っ!」

「ダメだ友奈! それでは各個撃破されるだけだ!」

「ううん! 誰かが辿り着けば、一撃を入れたら変わる筈!」

 

 そして、獅子座は火球を連射しながら、巨大な火の玉も作り始めた。

 もはや、勇者達で話し合う猶予は無い。

 

「高嶋さん、囮なら私がなるわ! 玉藻前には破片から分裂する力もあるから!」

「突破するならタマが楯になってやる!」

「では、球子と私が楯になろう! 友奈が一撃を入れろ!」

「わかった!」

 

 千景は分身を作り、囮になるよう分散させていく。

 それに続き、球子を楯ごと抱いた若葉と、友奈が獅子座へ向けて飛び出して行った。

 歌野は、千景の本体を守る為にその場で迎撃を続けた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 獅子座の攻撃は、目に見えて散らばるようになった。

 歌野は迎撃が楽になり、戦闘中にも関わらず安堵の息を吐いた。

 

「まさか、ビッグな火の玉まで千景さんの分身に行くなんてね」

「最近多いわね・・・・・・。そんな警戒される覚えは無いのだけれど・・・・・・」

 

 千景がぼやくように、獅子座の攻撃は大半が千景の分身狙いに変わった。

 そして、千景の分身が消えてしまう、なんて事は無い。

 九尾の大妖怪は神仙に倒されても、三体に数を増やし世界に散らばって災いを為す。

 千景の分身は倒される事に数を増やし、現在は1000体を超えていた。

 獅子座の攻撃の残りも、ほぼ歌野の足止めに向けられている。

 友奈達は驚くほど手薄な弾幕を凌ぎながら獅子座へ迫っていた。

 

「ま、ラッキーと言うべきよね」

「そうね・・・・・・。私としては極めて不本意だけど・・・・・・」

 

 獅子座はそんなに千景が恐ろしいのだろうか。

 歌野は"覚"(さとり)のおかげで獅子座の気持ちがわかってしまった。

 獅子座の気持ちは例えるなら、バーテックスを倒す事に一生懸命になるあまり、足下が見えなくなっていた若葉だった。あれを乗り越えてやる、あれを倒してやると夢中になるあまり、他に注意が行かなくなっている。

 

「ああなってしまえば、答えは決まっているわ・・・・・・」

「えぇ、足下を掬われてデッドエンド、間違い無しね」

「白鳥さん、乃木さんの親友の割に辛辣ね・・・・・・?」

「若葉はもう大丈夫だから、ノープロブレムよ」

 

 やがて、獅子座の身体の一部が弾け飛んだ。

 無警戒の状態で、友奈の拳を食らってしまったらしい。

 歌野達への攻撃の手も緩んだ。

 

「じゃあ、私達も行きましょうか」

「そうね、高嶋さんを怖がらせたぶん、仕返しをしてやらないと」

 

 殺到する千景の分身達に、歌野は獅子座の悲鳴が聞こえた気がした。

 しかし、歌野はそれを構わず空間を削り取り、獅子座へ急接近。

 パニックを起こしたように千景の分身達を振り払おうと火球を放っている獅子座の全身を丸ごと削り取り、始末を付けるのだった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 樹海化が解けたタイミングは、神託でわかる。

 安芸真鈴は、勇者達がうまくやったらしいと、安堵の息を漏らした。

 

「むー・・・・・・?」

「あぁ、ごめんごめん、古波蔵さん達がうまくやったみたいだから」

 

 真鈴は、古波蔵棗の元同級生と一緒に海岸に佇んでいた。

 勇者が負ければ何処に居ようと結果は同じだから隠れなかったのだ。

 元同級生は、猿轡を噛まされて手錠をかけられた何とも言えない格好だが、それも下手な事をされるよりマシだからと、そのままだった。

 

「このまま待っていれば護衛艦の人達が迎えに来るから、ちょっと話でもしていよっか? さっきは何も話を聞かず取り押さえて、ごめんね?」

「・・・・・・・・・」

 

 しかし、真鈴が猿轡を外しても、元同級生は何も言わなかった。

 

「まぁ、何も言うことが無いなら良いんだけどねー」

 

 真鈴はとりあえず、いつも弟にあげている飴をあげる事にした。

 話をしないにしても、沈黙する理由はあった方が良いだろうと。

 

「何味が好き?」

「・・・・・・シークァーサー」

「ごめん、柑橘系は蜜柑味しか無いや。私、愛媛県民だし」

「それでいい・・・・・・」

 

 二人並んで、コロコロと口の中で飴を転がしながら海を見る。

 

「ひょーいえばひゃー(そーいえばさー)」

「んー・・・・・・?」

 

 しかし、真鈴は黙っているのがわりと苦手だった。

 飴を口に入れておきながら、ついつい喋ってしまった。

 

「あひゃみにぇっひぇひっひぇふ?(赤嶺って知ってる?)」

「ひひゃひゃい、どにょあひゃみにぇ・・・・・・?(知らない、どの赤嶺・・・・・・?)」

「あー、ひょっかー(あー、そっかー)」

 

 しかし、やはり喋りにくいので、真鈴は飴を舌で転がして早く溶かす。

 そして、元同級生は飴をガリガリ噛み砕いて口を空にしていた。

 

「それって、四国に避難した沖縄の人・・・・・・?」

「うん、こうして私達が来たのも、だいたい赤嶺のおかげかな」

 

 真鈴はなるべく自分達が沖縄の味方であるとアピールする。

 沖縄住民が、四国へ不信感を持っているのは知っているのだ。

 それなら四国の善意よりは、仲間の頑張りを強調した方が良いと思った。

 

「その人は船さえ寄越せば、なっちを救えると思っていたんだ・・・・・・」

「あー、貴女も赤嶺と同じ悩みにぶつかってたのね」

「どういう事・・・・・・?」

「海の結界を壊さないと、古波蔵さんは救えないって奴でしょ?」

 

 赤嶺が沖縄を脱出してから、何があったかを真鈴は知らない。

 しかし、赤嶺の証言と元同級生の行動から、元同級生の意図を予想した。

 元同級生は棗をなんとかして守ろうとしたのだろう。

 

「海の神は、四国の神樹と協力して、古波蔵さんを見守る事に同意してくれた。もう子供を守ろうと必死に抱きしめるあまり絞め殺しちゃうような母親は居ないから大丈夫よ」

「・・・・・・・・・」

 

 神様同士の説得がどのような物であったかは定かではない。

 しかし、直後に共闘できる程度には、うまく行ったのだろう。

 

「私の行動は、何もかも無意味だったんですね・・・・・・」

「それは・・・・・・」

 

 元同級生が棗を守ろうとした気持ちは正しいと、真鈴は思った。

 しかし、それに意味があったかと言えば、結果的には無くなってしまった。

 元同級生の残っているのは、何もしなくても助かったにも関わらず、棗に暴力を振るおうとした己への嫌悪感ばかりだろう。

 真鈴は元同級生をどう慰めるべきか、言葉を見つけられなかった。

 

「・・・・・・・・・」

 

 長い沈黙が、二人の間に分厚いカーテンのような距離を作っていく。

 何か一言でも伝えるべきと、真鈴が口を開こうとしたその時だった。

 

「まだだよ! まだ何も無意味と決まってなんかいない!」

 

 謎の褐色美少女が現れた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 完膚なきまでに、ボクの頑張りが無意味になった感触があった。

 バーテックスくん達を沖縄周辺へ追い込むのに、どれだけ苦労したか。

 ぐんちゃんブロンズ像のデコイを作るのに、どれだけ苦労したか。

 それらは全て、ボクが美少女の曇り顔を見たかったが為の頑張りだ。

 だから、元同級生ちゃんの言葉にボクは黙っていられなかった。

 

「この頑張りが無意味なものか! 予定通りにいかなくても、それなりの結果が得られたなら、それはそれでオッケーじゃないか! だって、生きてるんだから!」

 

 ボクの愛用する武器、どんな時でもポジティブハート。

 ピンチはチャンス、失敗は成功の元、生きてるだけで丸もうけ、云々。

 

「これからの人生は長いんだ! 土壇場まで諦めずに頑張り抜いた、その経験が何かに生かされる事だってきっとある筈さ! 百歩譲って一つの人生の中でずっとそれが無意味に見えたとしても、それがあらゆる視点から未来永劫に渡って無意味なんて事は絶対に無い! 世の中は移り変わる物、色即是空、風が吹けば桶屋が儲かる! エントロピーが拡散すれば何もかも無意味とか、そんな思考停止した人間の戯れ言をボクは信じないからね! 今の一瞬は未来に通じているし、今を懸命に生きた事には必ず意味があるんだ!」

 

 ボクの頑張りも、いつか美少女の曇り顔という形で結実する筈なのだ。

 

「えぇっと、誰・・・・・・?」

「あっ、そっか、依代を捨てて生の姿を見せたのはこれが最初だっけ?」

 

 おっといけない、元同級生ちゃんを混乱させてしまった。

 ボクの生身とぐんちゃんブロンズ像の共通点なんてほとんど無いしね。

 けど、元同級生ちゃんの隣にいるのは誰だろう。

 格好からして、大社の巫女なのはわかる。

 なかなかの美少女だから調べておこう。

 調べるついでに、元同級生ちゃんへの説明も平行して進行。

 

「ほら、ボクだよボク。乃亜だよ」

「あぁ、やっぱり人間じゃなかったんだ・・・・・・」

「えっ、えっ・・・・・・?」

 

 あぁ、混乱している大社の巫女ちゃんが可愛い。

 大社のサーバからぶっこ抜いた記録からすると、安芸真鈴ちゃんかな。

 

「キミは、安芸真鈴ちゃんで合ってる?」

「あ、はい・・・・・・」

「いやー、見事にボクの計画をぐっちゃぐちゃにしてくれたねー」

 

 計画と言えるほど計画性なんて無かった、なんて心の声はシャットアウト。

 ボクに迫られて顔を青褪めている真鈴ちゃん可愛い。

 うんうん、歌野にあげちゃった腕を触手で補ってる外見は恐いよね。

 ボクもこれは好きじゃないけど、依代は捨てちゃったから仕方ない。

 

「何か償いの一つでもしてくれないとさ、気が収まらないんだよねー」

「あ、あの・・・・・・あの・・・・・・」

 

 あー、やっぱり巫女いじめって楽しいかも。

 問題は、やっぱりボクの触手を怖がっているあたりだけど。

 いや、ボクのメインは触手じゃないんだよね。

 こっちの可愛い褐色美少女ボディを見てほしいんだよ。

 だけど、真鈴ちゃんってば、ぜんぜんこっち向いてくれないなー。

 もう、邪魔くさいな触手。

 パージしちゃおう。

 隻腕美少女なんてニッチだけど、触手よりはマシだよね。

 

「えっ、どうして・・・・・・」

「これで普通に話ができるかな?」

「あ、ごめんなさい・・・・・・」

 

 よしよし、真鈴ちゃんの顔がこっちに向いた。

 

「真鈴ちゃん、新しい依代とか無い?」

「え、依代ですか・・・・・・?」

「ぐんちゃんブロンズ像くらいのクオリティでいいから」

「あの、手元には、その・・・・・・」

「あー、いいよ、別に急ぎじゃないから。一年後に取りに行くから」

 

 ボクの依代を強請る形になったし、それで真鈴ちゃんの償いは良しとしてやろう。

 普通の中学生がブロンズ像なんて高級品を用意する、苦労が目に浮かぶよ。

 さて、棗の元同級生はどうしたものかな。

 

「あの、乃亜さん・・・・・・」

「ま、せいぜい残り数十年、人生の辛さを噛みしめて生きなよ」

 

 こっちは、とりあえず将来の曇りをほのめかすくらいで勘弁してやろう。

 一応、最後までボクと一緒に頑張ってくれた唯一の戦友でもあるし。

 

「・・・・・・っ! はいっ!」

 

 なのに、どうしてキミはそんな良い笑顔になるのかな。

 ボクはキミの将来の不幸を願ったんだけど、そこらへんわかってる?

 

「あー、やだやだ。笑顔なんて見てもつまんないし、また辛くなったら呼んでよ」

「はい、辛くても頑張って長生きしますね」

 

 ボクが何を言っても通じない。

 どうしてこうなっちゃったかなぁ・・・・・・。

 

 

 

(つづく)

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